ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話   作:雅媛

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2 メイクデビュー

 装鞍所に少し早くついてしまい、一番乗りの格好になってしまった。

 ここでまず、レース前の確認が行われる。

 

 確認はまず審査官に服のチェックをしてもらうところから始まる。全身おさわりである。

 レース用の体操着など、基本体にフィットしているから何か隠すこともできないと思うが、儀式のようなものである。勝負服になるとやれ剣やら銃やら(もちろん模造品であるが)といったものがデフォルトで仕込まれるものがあるのでGⅠならばそういった確認も行われるということである。

 なお、出場ウマ娘側からのセクハラ防止のため、基本審査官はみなウマ娘である。

 審査の時イケメン男子からのおさわりを空想していたクラスメイトもいたが、そんなことは漫画の中でしか起きないのである。

 また、同性愛者のクラスメイトは審査でのおさわりから恋に落ちるのを空想していたが、それもまた妄想でしかない。どう見てもベテランの50代ぐらいのおばちゃんしかいない。URAもそのあたりはしっかりしている。いくらウマ娘がデフォルトで外見麗しいといっても年齢には勝てないのだ。

 同性愛者で枯れ専のクラスメイトも一人いたが、彼女の一人勝ちということだ。業が深すぎる。

 

 何にしろ全身余すところなく確認されて、靴の確認までされる。蹄鉄がちゃんと固定されているかといったことも確認されるが、これでもレース前やレース中に落鉄が起きるのだから不思議なものだ。

 

 確認が終われば、次は体重測定である。当日行われるのは体重測定だけだが、身長やスリーサイズなども事前に学園で測定されてウマ娘レース用の新聞などで公表される。なかなか業が深い制度だ。私なんかは若干恥ずかしい気持ちになるが、基本この感情を共有できたことはない。自分のボディメイクも自慢気に語るのがウマ娘競技者の常識のようだ。

 

 一人ずつ確認と測定が行われるので、全員やるとなるとそれなりに時間がかかる。

 一番乗りしてしまった私は確認が終わった後かなり時間を持て余したのでほかの参加者の様子をボケーっと眺める。

 

 まず気になったのは、アイネストキオさんと、アイネスブレーブさんだ。アイネス冠ということはアイネスフウジンさんと同じだ。とはいえアイネスフウジンさん、ダービーでマックちゃんに負けたからダービーウマ娘じゃないんだよなぁ……

 こちらの世界と元の世界の競馬は必ずしもリンクしているわけではないので、いろいろ齟齬が出るのだ。その方が面白いからいいのだけれども。結果の見えている勝負事ほどつまらないものはないし。

 二人とも前に行く逃げ系のレースを得意としているらしいので注意する必要がある。アイネスフウジンさんと同じスタイルらしい。

 

 あとは、ホコタスマイルさんか。私以外にブルマを穿いているのは彼女だけだ。

 短パンより動きやすいと思うのだが、あまり評判はよろしくないのだ。脚を見せるのが恥ずかしいという人もいるが、スリーサイズまで公開されていて脚を見せるのは恥ずかしいという感覚がよくわからなかった。

 なお、ホコタスマイルさんの脚はすらっと系の美脚だった。私はブルボンさんみたいなムチムチパワー系の脚のほうが好きなのであまり性癖には来なかった。

 

 眺めていると全体的に体格が小さめなウマ娘が多い。体が出来上がっていないのか、もともと小柄なのか。まあ私もトップクラスにチビなので、人のことは言えないが。いくら食べて運動しても横にしか伸びなかったよ……

 今回のレースの参加人数は10人立てなので、そこまで待たされずにレースは終わった。

 

 

 

 よく考えたらどうでもいい分析してるな、と思いつつ、気づいたらもうパドックの時間である。

 そしてパドックアピールについて何も考えていないことにいまさらながらに気づいた。

 幸い7枠8番とかなり後の順番なのでまだ時間はあるが…… 何も思いつかない。

 

 身近な人をモデルに考えると、例えばマルゼンお姉様は投げキッスが有名だ。あれにやられる人は後を絶たないが、とはいえあれは色気があるお姉様だから有効なわけで、チビな私がやっても効果は薄い。

 マックちゃんなんかは身振り手振りを少しだけして上品さを出すとかいう高度なテクニックを行う。所作は上品なのに、耳がピコピコしたり、尻尾がゆらゆらしたり、かわいらしさも同時に兼ね備えるという素晴らしいパフォーマンスだ。同じ上流階級の娘とはいえ、格が違いすぎる。メジロすげーややっぱり。

 イクノさんは眼鏡を使ったポーズをとり、あれはあれで似合っているのだが、眼鏡力が高いイクノさんしかできないし、テイオーちゃんは有名なテイオーステップがあるが、あれだって真似ができる気がしない。

 

 つまり誰も参考にならないということだ。

 もういいや、普通に立っているだけで終わりにしよう。

 別にアピールしないといけないわけではないし。

 少なくとも今、緊張しすぎて急に歌い始めてしまったセノエオリオンさんよりはましだろう。

 確か三番人気ぐらいだったはずだが、あれではとても勝負にならないと思う。

 

 

「ライスシャワーさん。お願いします」

 

 

 ぼんやりとセノエオリオンさんの歌声を聞いていたら、私の番が回ってきてしまった。

 歌自体はそこそこ上手かった。きっと今日のライブに向けて練習をしていたのだろう。

 まあ、センターを渡すつもりは全くないけれどね。そう思いながら私はパドックに姿を現した。

 

 パドックの周りを見渡す。

 メイクデビューということであまり観客は多くない。

 とはいえ、近所の人だろうか。幼いウマ娘の姉妹が、こちらに向かって手を振っていた。とてもかわいいので思わず手を振り返すと、楽しそうにその子らは笑いながら両手をぶんぶんしてくれる。

 ほっこりしながら手を振っていたら、私の持ち時間は終わってしまった。

 アピールとしてはよくわからなかったが、楽しかったので良しとしよう。

 

 そのあとは、私が手を振り返しているのに気づいたらしい子供が手を振ってくれるので振り返したり、おそらくマニアだろうメイクデビューを見に来ている男性も手を振るから手を振り返したりしていたら、パドックの時間は終わってしまった。

 

 

「ライスシャワーさん、そろそろ行きますよ」

「はーい」

 

 

 誘導のウマ娘の方に声をかけられて、最後に頑張れーと応援してくれたウマ娘姉妹に手を振って、私は地下道へ向かった。

 

 

 

 

 地下道を黙々と歩く。ひんやりしたコンクリートの壁に、遠くから聞こえる観客のざわめきが小さく反響してる。さっきパドックで手を振ってくれたウマ娘の姉妹の笑顔が、頭にちらつく。あの子たち、きっとレースが大好きだろうな。いつか後輩になったりするんだろうか。

 そんなことを考えていると急に視界が開け、芝のコースが眼前に現れた。

 

 夏の日差しを浴びてピカピカに輝くコースである。

 今まで子供向けのレースはよく参加していたが、そういう時に走るコースとは芝の手入れ度合いが全く違うのが、近くで見て感じたことだ。そりゃよく考えたら一週間に土日の二日だけしか使わない芝と、毎日使っている芝ではそもそも負担が違うし、手入れにかける手間だって段違いだろう。

 すごい芝だぁと感心していたら、みんな返しウマに走り出してしまった。

 出遅れたなぁと思いつつ、一回深呼吸する。慌ててもいいことはない。誘導ウマのお姉さんと目が合ったので会釈を返しつつ、私は一歩踏み出した。

 

 

 芝の感触を確かめながらゲートに到着する。

 既にみなゲートの後ろに準備していた。出遅れただけ、私が一番最後のようだ。

 ゲートが隣のセノエオリオンさんはまだ緊張しているようで、耳がぴくぴくしている。

 逆の隣になるダイイチリユモンさんは自信満々そうである。髪をかき上げる姿がかっこいい。

 ブルマ仲間のホコタスマイルさんは、ブルマの裾を直しながら深呼吸してる。彼女の脚、ほんとすらっと綺麗だな。自分の脚を見下ろすとぶっといなと思う。いや、太いほうがしっかりしてて速いんだからいいんだよたぶん。

 

 少し手足を振ったりしながら待っているとゲートインが始まった。係員のウマ娘がそれぞれのゲートへと誘導していく。私の枠は7枠8番、10人でのレースなのでかなり外枠だが、直線コースでは当然ながら外だから不利といったことはない。

 ゲートの中はそんなに狭い感じはしない。とはいえ四方を金属製の物体で囲まれるのだから圧迫感はある。

 すぐにスタートは始まるはずだ。精神集中しないと。一度手を合わせてレースへの感謝の気持ちを抱いて、スタートの態勢をとる。

 集中が高まるにつれ聞こえるスタンドからのざわめき、そして周りのゲートからは息づかいやちょっとした物音。

 

 

 カシャンッ!

 金属音と同時にゲートが開いた。

 その瞬間、私の体は反射的に動き出す。足が、ゲートが開いたとほぼ同時に地面を蹴る。

 

 まずはポジション争いである。

 真正面にまっすぐ走ることを意識しつつ、周りの気配を探る。

 

 真っ先に先陣を切りに来たのは予想通りアイネストキオさんとアイネスブレーブさん。並ぶようにして前を争う。隣のゲートにいた9番のダイイチリユモンさんも先頭争いに加わり始める。私はすこし内ラチ方向によって来るダイイチリユモンさんの後ろにもぐりこんだ。

 

 ■ スリップストリーム   

 

 いい感じにスリップストリームを得たら、全体に圧力をかけるオーラを全開にして牽制をかける。

 

 ■ 逃げけん制       

 ■ 先行けん制       

 ■ 差しけん制       

 ■ 追込みけん制      

 

 1000mのレースなど60秒で終わってしまうのだ。出し惜しみしている余裕などない。

 圧力に屈したのかレースの雰囲気がよどむ。快晴の晴天といった日差しがじりじりとした灼熱に代わるような錯覚を覚える。

 しかし、そんなこんなをしているうちにもう400m程度は進んでしまったのでさらに追い打ちである。

 

 ■ 悩殺術         

 

 これでもビューティードリームカップで美しいと評価され、あのセクシーなマルゼンスキーお姉様をトレーナーに持つウマ娘である。オーラのイメージをブルボンさんとのイチャイチャな雰囲気を思い出すようにして切り替えたら、今までの圧力との格差もあり、周りの動揺が広がった。

 前を進むアイネストキオさんとアイネスブレーブさん、そしてダイイチリユモンさんはそれぞれ余裕がなくなったのだろう。明らかに左右にヨレ始めた。

 

 ここまでは完璧に予定通りである。

 今回1000mという私の適性から行ったらかなり短い、しかも直線コースのレースに出たのは、展開を作る力を磨くためだ。

 私の得意分野で言うならできるだけ長く、コーナーも小さいレースのほうがかけひきが大量にできるので得意だが、あえて苦手な状況で自分の戦法を万全に発揮するように自分を追い込むためだった。

 その目的はおおむね達成できた。ここから油断しなければ負けることはないだろう。

 

 だが、ここで一つさらに止めのスキル(技術)を出すつもりだ。

 ただのスキル(技術)ではない。領域と言われる特殊スキル(技術)だ。

 

 マルゼンお姉様曰く、領域とは、ウマ娘がそれぞれ持つ、そのウマ娘だけのスキル(技術)ということだ。まだ全容が明らかになっていないというか、個人個人で違うものなので全容が明らかになることはないとかいうカッコよさげな必殺技である。

 「時代を作るウマ娘が至る、当人も知らない剛脚」「限界の先の先」とか言う説明もあるらしいが、マルゼンお姉様曰く、結構使うウマ娘はいるらしいので、そこまですごいものじゃないとかなんとか。

 

 まあ私もそれを聞いて使ってみたくなったのだ。今まで練習はしてきたし、マルゼンお姉様の真似もしてきたのだが、たぶんマルゼンお姉様とは方向性が全然違いそうだということぐらいしかわからなかった。

 なんせマルゼンお姉様の領域は、逃げている状況から、スパートに入りさらに加速するという、逃げて差すを地で行く化け物スキル(技術)だ。完全に自己強化の方向にその効果を振っているが、基本的には展開と駆け引きで勝負する私とは方向性が真逆である。

 だから、まったくかすりもせずに参考にならない、という範囲でしか参考にならなかった。

 

 だがつまり、私のものは周りに対し影響を与えるものだろうということは想像がついた。

 意識を広げ、周囲の空間を自分で埋め尽くすイメージを広げる。

 そして空間が歪むような感覚を覚える。領域が、発動する……っ

 

 

 広がるのは満月の夜。

 その月の光に照らされるのは一面の青薔薇。

 

 不可能とも奇跡ともいわれるその美しき青を育てるのは……

 

 

 ■ Drain for blue rose(奇跡の青薔薇は人の生気を求む)  

 

 

 

 長距離レースで私がよく使う「スタミナグリード」と似たような方向性だが、その効果は圧倒的だった。

 周りから気みたいなのを無理やりかき集め、自分の推進力に変えるのだから、もう周りは無茶苦茶である。

 スタミナが切れてよれる、明らかに失速する、そんな状態の中、一人だけ元気百倍になった私はスパートをかける。あまり無理をしない程度のスパートでも余裕で一位でゴール版の前を駆け抜けたのであった。

 

 

 

 このあと、ウィニングライブがあったのだがほかのレース参加者から私は遠巻きにされた。

 あんなえげつない技をメイクデビュー戦で使ったのは悪かったけど、そこまでハブにしなくても……

 そう思ったが、残念ながら、怖がられ続けるだけで仲を修復することはできなかった。

 




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主人公ライスシャワーの勝負服は?

  • 1 ローゼスドリーム(デフォルト)
  • 2 あこがれの景色(ウェディング)
  • 3 ブルボンを見習ってハイレグレオタード
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