ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
メイクデビュー戦、そして新潟ジュニアステークス。
私は、そのどちらも快勝した。
気づけば、「重賞ウマ娘」という肩書きを手に入れていた。
響きだけ聞けば、いかにもすごそうだ。
実際、世間的な評価も上々らしい。クリ家の皆さんも、たいそう喜んでくれたとか。
……らしい、なんて。他人事みたいだけど、実際そんな距離感なのだ。
彼らとは日常的な関わりがほとんどない。大人たちは仕事の都合で付き合いはそれなりに多いと聞くが、トレセン学園のウマ娘同士のつながりはかなり弱い。みんなで練習したり、パーティを開いたりみたいなメジロ家みたいなこと全然してないからね。
「血のつながりがある」というだけで、「家族」かといえば……それはまた別の話だ。
ちなみに、面倒ごとになりそうなパーティ関係は、全部マルゼンお姉様とお兄様がうまく調整してくれていた。
本当に、頼れる人だ。マルゼンお姉様とお兄様は。
もちろん、私の両親は心の底から喜んでくれた。
帰省したときは、なんと都心の超高層ホテル、その最上階にあるレストランに招待された。
マルゼンお姉様やお兄様たち、そしてカレンチャンも一緒に。
レストランは貸し切りだった。特別な夜の、特別な席であった。
「カレンチャーン」
「おねえちゃん♪」
最近しゃべるようになったカレンチャンに仕込んで、私はお姉ちゃんと呼んでもらうようにした。
マルゼンお姉様がたびたび学園に連れてくるので、かなり馴染んでいる。
カレンチャンと遊んだり、両親とお話したり、お姉様お兄様とお話ししたり、楽しい夜を過ごせたのだった。
とはいえ、順調でないことも出てきた。
勝ち上がり、オープンクラスへと進んだ私は、ある大きな問題に直面することになる。
クラシック路線。
どの道を選ぶかという選択だった。
クラシック三冠。
皐月賞、ダービー、菊花賞。
ウマ娘たちが目指す、夢の舞台。王道の中の王道。歴史と栄光に彩られた、その三冠。
中長距離が得意な私にとって、それはまさに「適性通りの道」だった。
誰が見ても、そこを目指すべきだと思うだろう。私自身も、そう思っていた。
けれど、その道には、ミホノブルボンさんがいる。
彼女の夢は、クラシック三冠の制覇。
それは、小さいころから何度も、何度も語っていた夢だ。
どんな困難があっても、あの人はその夢を諦めなかった。ブルボンさんの適性は短距離からマイル、中距離もいけなくはないぐらいだ。
だが、その適性の問題を黒沼さんと二人、努力で克服しようとしている。
その姿はどこまでも真っ直ぐで、誇り高くて、まるで機械みたいに自分を律しながら、その夢に向かって突き進んできた。
……そんな夢を、私は知っている。
その重みも、眩しさも、ずっと隣で見てきた。
だからこそ、迷ってしまったのだ。
もし、私が本気でクラシック三冠を目指すなら。
私たちは、正面からぶつかることになる。
勝ち負けに怖さはない。レースを走るのは、むしろ楽しみだ。
だけど……
恋人の夢。
その人が、ずっと思い描いてきた未来。
それを、もし自分が奪ってしまうことになったら……
そう考えた瞬間から、胸の奥がきゅっと痛くなって、前へ進む足が止まりそうになった。
「ライスちゃん、変なところで繊細ですよね」
凱旋門から帰ってきたマックちゃんと一緒にくつろいでいた時、胸の中を見透かしたような一言が私に突き刺さった。
私は苦笑して、肩をすくめる。
「だってさぁ……なやむよぉ……」
当然マックちゃんもブルボンさんの夢を知っているからこそ私の悩みも予想がつくのだろう。
私の口から情けない声が漏れる。でも、それが今の私の、正直な気持ちだった。
クラシック以外の道だって、もちろんある。
桜花賞から始まるティアラ三冠。あるいは桜花賞からNHKマイルカップを目指すマイル路線。
だけど、それらは総じて距離が短い。今の私には、どうにも適性が合わない。
それにどこかひっかかる。
前世では「牝馬三冠」と呼ばれていたこの路線が、今の世界ではウマ娘であれば誰でも出られる、という事実。
全員が女の子だから、当然といえば当然なのだろうけど……なんというか、妙な違和感がつきまとうのだ。
でも、そんな理屈よりも今の私を迷わせているのは、やっぱり「想い」なのだと思う。
ブルボンさんの夢。
私の進むべき道。
そして、二人の関係。
それらが少しずつ、絡み合って、やがて私の進路を曇らせていく。
この想いに、どう答えればいいのか。
それを決められずにいる自分が、今、ここにいた。
「ブルボンさんとちゃんと話したほうがいいと思いますわ」
「その正論はマックちゃんに返すよ」
「何のことかわかりませんわ」
マックちゃんが私と一緒に二人きりでいるのは、いろんな人から逃げて隠れているからだ。
マックちゃんのハーレムカップルだが、最近新しいメンバーが増えたのだ。
サンデーサイレンス、かの有名な馬の名前を引き継いだウマ娘だ。
マックちゃんはアメリカ遠征で、ブリーダーズカップを制し、彼女を打ち破ったという。
しかもダートで。いやほんと、あの環境でよく勝ったよね……
その前には凱旋門賞も制してるから、もう世界最強と呼んでも差し支えない。
ただ、帯同していたイクノさんはまだしも、クラシックで頑張っていたテイオーちゃんには事前に相談がなかったらしい。
結果、マックちゃんはテイオーちゃんの逆鱗に触れ、今、盛大に追い回されている。
テイオーちゃんとちゃんと話したほうがいいと思うんだけなぁ……
というか、テイオーちゃんとサンデーさんが併走しているところとか見かけるし、あの二人も普通に仲がよさそうなんだけどなぁ。
それはそれこれはこれなんだろうけど。
「マックイーン、今日はちゃんとお話ししようね」
「ライスちゃんもがんばってくださいまし!!」
トレーナー室の扉が開きテイオーちゃんが現れた瞬間、マックちゃんは窓から外に飛び出していった。
あの二人の関係はなかなか落ち着きそうにはなかった。
私の方も悩んでも答えは出ないまま、グラウンドの隅でストレッチをしていた。
紅葉が始まった葉が陽を透かしてきらきら揺れている。頬を撫でる風はすこし冷たいのに、額には汗がにじんでいた。
空は透き通るように青く高い。走るにはちょうどいい、絶好のトレーニング日和のはずだ。
なのに、私の足は重く、心はそれ以上に鈍く沈んでいた。
――クラシック三冠。
その響きは、かつて画面越しに見ていた憧れそのもの。
皐月賞、ダービー、菊花賞。名を刻むのは、歴史に名を残すウマ娘たち。
私だって、本来ならそこに憧れて当然だった。
でも、今までどこかで他人事のように見ていたのだと思う。
自分がその舞台に立つことを考えることを、無意識に避けていた。
ブルボンさんと、真正面からぶつかることを。
でも、私はもう「その舞台に立つかもしれない」ウマ娘だ。
実際、重賞を勝った。オープンクラスにも上がった。
もう「挑戦する資格」がある立場になってしまった。
……いや、「しまった」なんて言い方、失礼だ。
自分でもわかってる。でも、どうしても心のどこかがざわざわして落ち着かない。
だから、誰に聞かれるでもないのに、ぽつりと呟いていた。
「……やっぱり、言ったほうがいいのかな」
その声は、秋風にさらわれて、聞き届ける者なんていないはずだった。
「ライスさん。今日は、少し顔色が悪いですね」
思いもよらないタイミングで声がかかり、私は肩を跳ねさせた。
顔を上げると、そこにはブルボンさんがいた。
無表情とも言える整った顔立ち。
だけど、じっとこちらを見つめるその瞳には、かすかに気遣う色が浮かんでいる。
どうして、こんな時に限って見つかるのかな。
いや、ブルボンさんだから、なのかも。
「おかえりブルボンさん。中京はどうだった?」
「遠征は少し大変ですね。でも今後も増えますから慣れておかないと」
私はごまかすように笑う。
ブルボンさんが私の隣に腰を下ろした。
グラウンドの端、誰も来ないような木陰。
周囲は静かで、木々の間から聞こえる小鳥のさえずりだけが、どこか遠くで響いていた。
「……ねえ、ブルボンさん。ちょっと、聞いてもいい?」
「はい。なんなりと」
その返事に背中を押されるようにして、私は自分の胸の内をそっと差し出すように言葉を選んだ。
「ライスはクラシック三冠……狙っても、いいのかなって」
ブルボンは瞬きをひとつしただけで、特に驚く様子もなく、静かに頷いた。
「当然の選択肢かと。ライスさんの適性、実力を考えたらそれ以外ないかと」
「……でも、そうしたら、ブルボンさんの夢と……」
そこから先の言葉が、喉に引っかかった。唇を噛む。視線は地面の砂に落としたまま。
小石をつま先で転がすふりをして、目を合わせないようにしていた。
だけど次の瞬間、何かがそっと私の手のひらに触れた。
温かくて、やわらかいブルボンさんの手だった。
「ライスさん」
「ブルボンさん……」
「つべこべ言わずに走りなさい!!」
「は、はいいいいい!?」
甘い空気なのかと思いきや、唐突の激励に私は面食らった。
対応に寒暖差がありすぎて私風邪ひいちゃうよ。
戸惑う私をしり目にブルボンさんは話を続ける。
「夢は、誰かに譲られるものではなく、自分で勝ち取るものだと、私は思っています」
そりゃそうだ。私が逃げて譲られてもブルボンさんはうれしくないだろう。
それだって私はわかっている。とはいえ悩むことは止められないのだ。
どうしても心のどこかで、「譲ってあげたい」って思ってしまう。
ブルボンさんの夢を、私が壊してしまうくらいなら。
自分は少し、道を外れてもいいんじゃないか。
そんなふうに思ってしまう自分が、心の奥にいる。
それがどれだけ傲慢な話なのかも分かっている。
ああ、そうか、わたしは……
「ブルボンさんに嫌われるのが怖いんだ」
口に出したら単純なことだった。
よほど私はブルボンさんに惚れこんでいるらしい。
「嫌いませんよ」
「本当? ライスがクラシック三冠全部とっても?」
「そしたら……ちょっと嫌いになるかも……?」
「ええ~」
「冗談ですよ」
軽口をたたくブルボンさんに拗ねてみせると、ブルボンさんは私の唇に唇を落としてきた。
「私はライスさんと競えないほうが嫌です」
「わかったよ」
これ以上は覚悟を決めるべきだろう。
私はクラシック三冠路線を目指すことにした。
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