ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
ホープフルステークスが行われるのは一番最後のレース開催期日である。
今年のレースもいろいろあった。
ブルボンさんは無事朝日杯に勝利し、GⅠウマ娘になっていた。しかも無敗である。
昔は私のほうが強かった自信があるが、今だったらマイルだったら確実に勝てないし、2000mぐらいの短めの中距離でもちょっと怪しい気がしてくる。かなり気を引き締めないと皐月賞では勝負にならないだろう。
一方シニア路線のほうは波乱だらけだった。
まず、テイオーちゃんが無敗の三冠を達成した。
前世の競馬では骨折で菊花賞に出れなかった記憶だが、こちらでは特に怪我もせずに圧勝をしている。
一方アメリカとヨーロッパのトップレースであるブリーダーズカップクラシックと凱旋門賞を勝って帰国したマックちゃんはというと、秋は全滅であった。
日程の都合もあり安定の天皇賞秋を回避したマックちゃんだったが、ジャパンカップと有馬記念は出走したのだ。
だが、ジャパンカップではリベンジに来たサンデーサイレンスさんにぶち抜かれ、有馬記念ではテイオーちゃんに競り負けていた。
というかサンデーさん、アメリカではダートしかレースしたことないとか言っていたけど、日本の芝に完璧に対応してたのは素直にすごいと思った。さすが前世の名馬である。
これのせいで年度代表ウマ娘を決めるのが大荒れにあれているらしい。
まあ春GⅠ2勝し、海外の超有名レースを勝ったマックちゃんと、無敗三冠からの有馬記念制覇したテイオーちゃんだからそりゃ割れるに決まっている。
まあ、私は私でレースに集中しないといけない。
レース出走者一覧を見たが、前世知識と照らし合わせてもあまりピンとくるウマ娘はいない。
ノーザンコンダクトさんぐらいか…… 戦績は思い出せないけど。
とはいえ、モブだーみたいな根拠ない舐めプをすると痛い目に合うのは当然だ。
この世界のウマ娘と前世の競走馬は無関係とは言わないが、かなり乖離した存在だ。
じゃなきゃマックちゃんが天皇賞を意地でもボイコットし続けたり、テイオーちゃんが無敗の三冠をとったりできるはずがない。
現に、学園でも前世知識では名前を知らないが実力があるウマ娘というのもちょこちょこいる。私の前世さんの知識が欠けているのか、前世の知識さんなんて役に立たないのかはわからないが。
なんにしろ何がどうなるかなんてわからないのだ。
そもそもライスシャワーの時代にホープフルステークスがある時点で別物と考えたほうがいいだろう。
「どう? かわいい?」
「おねえちゃんかわいいー!!」
レース準備の一環として届いた勝負服を試着して、マルゼンお姉様やカレンチャンに見せたところ、カレンチャンが絶賛してくれた。
「おひめさまみたい~!」
「ふふんっ」
この路線で正解だったようだ。
少なくとも私の考えたスピード重視の勝負服ではこの感想をカレンチャンからもらえたとは思えない。
「着た感じ問題はないかしら?」
「ちょっといろいろ繊細そうな部分が多くて怖い以外は特にないよ」
マルゼンお姉様たちが考えてくれたデザインはラフだったから、細かいところまで決まっていなかったが、実際に出来上がった勝負服は細部まで作りこまれている。
胸元やスカートのすそには黒いレースがあしらわれているし、つけ袖の袖口も繊細な刺繍が施されている。
尻尾のところも制服よりも圧倒的に大きい黒いリボンがついてるし。
すごくおしゃれなのだが、そのうちびりっとやりそうで怖い。
とはいえ着心地はよく、体にぴったりだしとても動きやすい。
補正下着までばっちり仕込まれているので、走っても揺れないし。
スカートの下はドロワーズなのでチラ見え対策もばっちりだ。
靴もストライブ付きのパンプスみたいな外見だが、しっかり足に固定できるので走りやすそうだ。
全体的にとてもいい仕上がりと言えるだろう。
汚したりしないように脱いで、いつもの制服に着替える。
これで準備は万端である。
初めての晴れ舞台。非常に楽しみである。
レース当日は快晴。
冬の乾いた風が吹きすさぶ中山レース場で行われるホープフルステークス。
「1枠1番。ライスシャワー、一番人気です」
アナウンスとともにパドックに現れて手を振る。
結局素晴らしいパフォーマンスなんて何も思いつかなかったのでお手てフリフリをすることでごまかすことにしたのだが、これが結構評判がいいのだ。
中身はこんなでも見た目だけなら儚げ美少女なので、静かに手を振るのがかなり様になっているらしい。ちゃんと指をそろえて小さく振るのがポイントだ。
あっちから「らいすちゃーん」と呼ばれれば振りむいて手を振り、こっちから「かわいいー」と言われれば振りむいて手を振り、ちょっとはにかむ様に微笑むのもポイントである。
マックちゃんからは「詐欺みたいですわね」と言われたアピールだが、見に来てくれた人に楽しんでもらいたいし特にやめるつもりはなかった。
外聞を繕うぐらいは私だってできるのだ。
幸い今回は一番人気である。2戦2勝、無敗の重賞ウマ娘は伊達ではないのだ。
一番最初に出てきて、ずっとお手々フリフリしてるだけで褒められるので、私の気分はどんどん上がっていく。
「やあライスシャワー君、今日は頑張ろうね」
「……あ、マロンデュークさんお久しぶり」
「君、私のこと忘れてただろ」
「そんなこと……」
にっこり笑ってごまかす。
マロンデュークさんは同じクリ家の人だが、付き合いは当然ほとんどない。
もともと引きこもりの私が悪いんだけど。とはいえ今日はライバルだし、油断はできない相手だ。
デュークさんの勝負服は男爵の名前にふさわしく前世で言う乗馬服、黒ジャケットと白シャツ、白いぴっちりしたパンツという、カッコいい服装だ。
ボーイッシュ雰囲気なデュークさんには似合っている。
「まったく」
「おっと」
急に私の手を取ったデュークさんがステップを踏み出す。
慌てて合わせながら一歩引くと、腰に手を回され、そのままスピンターンをさせられる。
くるくると回り、スカートがふんわりと持ち上がる。
「これくらいで勘弁してあげるよ」
「お手柔らかに」
これでもお嬢さまの端くれなのでどうにか対応できたし、周りから拍手が降ってくる。
悪くはないが、応援に来ていたブルボンさんの視線が背中に突き刺さる。
浮気じゃないよ。私悪くないよ。でも怖いからそっちに顔を向けることができなかった。
多少のハプニングもあったが無事ゲートまでたどり着きゲートインをする。
ゲートの中で一度手を合わせてレースへの感謝の気持ちを抱いて、スタートの態勢をとる。これ、メイクデビューの時からやっているが、一部でかわいいと結構評判がいいのだ。レースの時の私はあざといライスちゃん仕様なので、かわいいと評判が立つものは片っ端からやる所存である。
一回深呼吸して、一瞬の静寂の後、レースがスタートした。
中山芝2000mのコースはなかなかハードなコースである。スタート直後とゴール前、2回中山の有名な坂を上らないといけないし、内回りなのでコーナーも小さめである。
駆け引きできるタイミングも多い、私好みのコースだ。
最内スタートだが、あまり焦らずに中団前目のポジションをとる。
前に行くナリタヒーローさんやトキオレジェンドさん、ハヤノキックさんはみなかなり外の枠なので、囲まれることもなくいいポジションをとるのにそう苦労はしない。
おっと、早いタイミングで早速誰かがスキルを仕掛けてきたので、気合で跳ね返す。
今回有力ウマ娘は私やノーザンコンダクトさん、スタントマンさんだが、ノーザンコンダクトさん以外は脚質が先行だ。ノーザンコンダクトさんが後ろから仕掛けてきたか?
そんなことを考えていたら後ろからガンガンスキルが飛んでくる。
これは一人でやってないな。有力ウマ娘が多いから何人か仕掛けてきてるのだろう。
大きな影響はないが正直うっとうしい。
とはいえさすがジュニアクラスとはいえGⅠのレースだ。
おそらく後ろに向けて対抗してスキルを打っている子もいるだろう。
私も一つ交ざっておくか。
焦った子からスタミナを吸収しつつスピードを上げる。
私のスキル、こんなのばっかりだが、こういうのばかり得意なのだからしょうがない。
何人かが明らかにテンポを崩して、後方が少しごちゃつく。
その隙にさっさと先頭集団の後方に私は潜り込む。
私に有利な展開を作りつつ、第一コーナーを曲がり始めた。
集団後方と先行集団はスタートからずいぶんバチバチやっていたが、先頭集団は我関せずで進んでいく。このまま気持ちよく逃げさせて調子に乗らせるのもやっかいなので一度水を差す。
先頭集団がコーナーに入った直後に圧力をかける。
先頭を走るナリタヒーローさんが動揺しヨれた。後ろを続く二人はそれに連鎖して動揺して外に膨らむ。
この瞬間追い抜くつもりはないが、三人とも態勢を立て直すのに苦労している。
計画通りである。
バタつき始めた先頭集団の真ん中で、体力の消耗を押さえつつ私は進んでいく。
一方後ろの方は態勢を立て直してコーナーに続々と入ってくる気配がある。
コーナー中ほどでさらにダメ押しを後ろにしておけば、後続集団はさらに動揺してグダグダになり始めた。
これで完全にレース展開は握っただろう。
なんとなくざわつく雰囲気になりながらレースは進行し、向こう正面から第三コーナーに入った。
余裕があった私は、第三コーナー終わりからスパートをかけ始めて、先頭に躍り出る。
先頭集団の三人はもうボロボロになっており、あっけなく後ろに下がっていった。
これなら勝てるな、と思った瞬間、後ろで圧力が膨れ上がる。
すごい圧力と勢いで迫ってくるこれは、ノーザンコンダクトさんか?
マルゼンお姉様と同じ系統の、自身に速度を上げる領域っぽい。
慌ててこちらも領域を使い、ノーザンコンダクトさんの頭を押さえにかかる。
圧力がすごくて、ある種私への追い風にすらなっているぐらいだが、少しでも油断するとその極星の光に貫かれてぶち抜かれそうだ。
だが、今までの展開による優位から行って、このままなら逃げ切れる、そう思っていたのだが。
内側から別の圧力が私にかかる。いや、正確には圧力ではない。なんというか、私の領域を無効にしている、というか吸収してくる、というかそういう感じのいやな感じだ。
思わず振り向くといつの間にか詰めてきていたスタントマンさんが少し後ろにいた。バ群が無茶苦茶になっている中、冷静に内ラチ際をすり抜けてきたのだろう。
外側の左からはノーザンコンダクトさんの圧力が、内側の右からはスタントマンさんの吸引力が働く。このまま圧力に負けて右にヨレたらスタントマンさんの前に飛び出ることになり、斜行になって負けになってしまう。
じゃあ圧力が強いノーザンコンダクトさんのいる左のほうに力強く出ればいいかというとそういうわけではない。
おそらくそれを察したスタントマンさんが領域の力を弱めてくる。そうなると今度は左にヨレかねない。そうなればノーザンコンダクトさんの前へ飛び出す羽目になり、斜行になって負けてしまう。
つまり、まっすぐ走り切れば私の勝ちで、横の二人は相手のほうに私を斜行させれば勝ちというとんでもない駆け引きに巻き込まれてしまった。
というか誰だよ、領域は「時代を作るウマ娘が至る、当人も知らない剛脚」とか言ってたやつ。
そんなやばいのがGⅠとはいえ同世代に二人も三人もいてたまるか。
しかも今いる三人中二人は剛脚じゃなくてデバフ系なんですけど!?
というかこれ私の知る限り少なくともブルボンさんと阪神ジュベナイルフィリーズ勝ったニシノフラワーさんも使っていたように見えたし、同世代に数人でとどまらないでしょう。
何にしろ第一次領域大戦である。お互いの領域ががぶつかり合い、混ざり、ゴールまでの直線の空間が歪んで見えた。
必死に駆け引きをして多少ふらつきながらも、まっすぐ走り切った私がどうにかゴール板前を1番で駆け抜けた。
無事GⅠ勝利である。
精魂尽き果てた私はよろよろと蹲る。
その隣にはノーザンコンダクトさんとスタントマンさんもよろよろと蹲った。
あの領域大戦、二人ともやっぱりつらかったらしい。
「うう、二人の圧力でライスおせんべいになるかと思ったよ……」
「あんなえげつない駆け引きしておきながら今さらカワイ子ぶっても無駄でしょ……」
私のつぶやきにノーザンコンダクトさんが悪態をつく。
まあそうだよね。えげつない戦法だよね。
「とっておきだったんだけどなぁこれ。誰だよ、これを「時代を作るウマ娘が至る境地」とか言ったの。そんなの一世代に二人も三人もいてたまるかよ」
「シンボリルドルフさんらしいですね、それ言ったの」
「皇帝の筆にも誤りってか」
スタントマンさんも私と同じことを思っていたようだ。
そのボヤキにノーザンコンダクトさんが答える。
私はこのあとライブもあるんだよなぁ…… つらいなぁ…… とぼんやり空を眺めていた。
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