ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
1 激闘の年を迎えて
新年が明けて、サンデーサイレンスさんを加えたいつものメンバーで初詣に出かけていた。
「ふっふっふ、見ていなさい。今年こそ“超大吉”を引いて、勝利の女神になりますわよ!」
マフラーをふわりと巻いたマックちゃんが、やたらと気合いを入れている。
……大吉に“超”はつかないと思う。謎のテンションだ。
隣ではテイオーちゃんが、手袋をはめたままピョンピョン跳ねながら、
「じゃあボクは“神吉”引くね! 神級! SSR演出つき!」
などと言い出す。二人とも、妙にハイテンションだな……。
年末、よほど大変だったんだろう。
一方は史上初の海外GⅠ制覇、もう一方は無敗の三冠ウマ娘。どちらも引っ張りだこだったはずだ。
「神とか超とか、どちらが格上なんだ?」
「一番強いのは凶ですよ」
「KYOU?」
「“強い”と書いて“きょう”と読む。それと同じ音の“凶”が最強なんです」
「なるほど。ならば余は凶を目指すとしよう」
イクノさんが、サンデーさんに堂々と嘘を教え始めた。
サンデーさんの妙にズレた日本知識の出所が、今まさに明らかになっている。
このカオスをどう止めるべきか、一瞬悩んだが──やめた。
ブルボンさんは相変わらず無言で眺めてるだけだし、まあ……いつものことだ。
「よし、神社に到着〜っ!」
「テンション高いなぁ……」
先日、学園の森の中で偶然見つけた神社は、三が日にもかかわらず静けさに包まれていた。
鳥居の前で並んでお辞儀し、手水舎で手を清める。
さすがは良家のお嬢様たち、こうした作法は完璧だ。
何も知らないサンデーさんは、皆の動きをじっと見て真似していた。
賽銭を入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。
どうか、みんなが怪我なく走れますように──そう祈った。
「今のセレモニーだが、どんな意味があるんだ?」
サンデーさんが素朴な疑問を口にする。
私も詳しくは知らないが、テイオーちゃんが得意げに説明を始めた。
「まず、あの赤いのが“鳥居”。つまり、入り口。Gateだね。で、日本では入るときにお辞儀するんだ」
「なるほど」
「それから、手を洗ったところは“手水舎”っていってね──」
テイオーちゃんはそのまま流れるように解説を続けていく。
普段の言動に反して、本当に博識だよね、この子。
こういうところ、サンデーさんとの相性の良さに繋がってる気がする。
「あっ、あそこにおみくじあるよ! 三女神くじだって!」
「わーい、早速おみくじバトルしよー!」
「おみくじバトル!?」
……感心していたのも束の間、すぐにおみくじに気を取られたテイオーちゃんが、謎の企画を立ち上げた。
「みんな、ひとつずつ引いて!」
「わかりました。負けませんよ」
「私が勝ちますわ!」
「Battleなら、負けられないな」
皆ノリノリで、おみくじを引いていく。
私も、ひとつ手に取った。
「ででん! 大吉ぃぃぃ!!」
「私は中吉。まあ、無難ですわ」
「凶。これこそ最強の証……」
「私は末吉ですね」
「私は小吉です。ライスさんは?」
「……大凶……」
「なにっ!? 私の凶を上回るとでもいうのか!」
まだ誤解が解けていないらしく、サンデーさんが妙に絡んでくる。
だが実際、これは完全なる“負け”である。
新年のおみくじに凶はない、なんて話は嘘だったらしい。
「お、落ち着いて中身を見ましょう!? 内容が実はいいかもしれませんし!!」
「いや、まずマックイーンが落ち着きなよ……」
どんよりした空気を察して慌てるマックちゃんを、テイオーちゃんがなだめる。
そうだな、とりあえず中身を見てみよう。
「えっと……『悪しき運命に屈せず、心静かに歩めば、春には光が差す』?」
「ふむふむ。つまり“落ち着いて頑張れ”ってことだね!」
「To fly high, you have to crouch as low as possible.」
「おっ、サンデーさん、いいこと言うじゃない」
春までに、何かあるのかもしれない。
気にしすぎるのもよくないけれど──
ほんの少し、胸の奥に留めておこうと思った。
新学期が始まる少し前。
吐く息が白く凍る早朝、私はトレセン学園のトラックを軽く流していた。
「うーん……」
なんだか最近、調子が上がらない。
別に体調が悪いわけじゃない。でも、走っても走っても手応えが薄い。
スピードもキレも、自分の中の伸びしろがどこかで止まってしまったみたいだった。
ざっ、ざっ、と霜を踏む音が冷えた空気に響く。
正直、焦っていた。
確かにホープフルステークスは私が勝った。でも、あのときの“私”のままでは、次は通用しないだろう。
ブルボンさんにおいていかれる。
ノーザンコンダクターさんやスタントマンさんだって、きっとすぐ追い抜いてくる。
クラシックシーズンは、成長する時間でもある。立ち止まっている暇なんてない。
練習量が足りないのかも――
よし、今日は久々に坂路を死ぬほど走り込んでやろう。何か掴めるかもしれない。
「おはようございます。お早いですね」
「おはよう……えっと、タンホイザさん?」
不意にかけられた声に振り返ると、マチカネタンホイザさんが立っていた。
この時間に誰かと出会うとは思わなかった。
南坂トレーナー担当のウマ娘で、イクノさんのチームメイトらしい。
直接話すのはこれが初めてだけど
(マチカネタンホイザ。ノーザンテーストの最高傑作。前世の記憶によると、GⅠには手が届かなかったけど、実力は確かだった……)
前世の知識さんは全く役に立たないわけではないけれど、この世界では、その戦績がまるごと変わることだってある。
特に実力者なら油断なんて、できるわけがない。
「ライスさん、おはようございます」
「イクノさんもおはよう。二人で朝練?」
「はい。今年は、本気を出す予定ですから」
そう言って、トラックの向こうからイクノさんが姿を現した。
二人で一緒に自主トレ中だったようだ。
「……なにか、ありましたか?」
「え?」
「少し、雰囲気が張りつめていたので」
「そ、そうかな?」
まさか睨んだりしてたわけじゃない……よね?
けれど、イクノさんに見抜かれるくらいには気が張っていたらしい。
――まあ、相手がイクノさんなら。
ちょっとくらい弱音を吐いてもいいかもしれない。
「最近、ちょっと伸び悩んでてさ。坂路を死ぬほど走り込めば、少しは感覚戻るかなって」
「なるほど。それなら、いい方法を教えましょう」
「えっ、なになに?」
「タンホイザさん。ライスさんと野良レースをしてみてください」
「なんで!?」
「なんで!?」
私とタンホイザさんの声が、ぴったり重なった。
ということで、イクノさんの思いつきで、タンホイザさんと野良レースをやる羽目になった。
当然、トレーナーに許可なんて取っていないので、後で怒られるかもしれない。とはいえ、ライバル候補の一人の実力は見ておきたい。
レースは芝2000メートル。トラックを一周ちょっとする距離で、皐月賞と同じだ。
イクノさんの合図でスタートし、私はまず先手を取った。
ある程度有利な位置を取って、展開を有利に進めないと。
そう思った瞬間。
「うそでしょ!?」
すさまじい量のデバフスキルが、スタート直後から飛んでくる。
タンホイザさんの様子が演技でない限り、このレースはあくまでイクノさんの思いつき。準備の時間なんて、ほとんどなかったはずだ。
それでも、私が先行で行くことを読んで、短時間でスキルを使う準備をしていたのだろう。
「ぐふっ……」
あまりの圧力と予想外のタイミングのけん制に、思わずよろめく。
よろよろした走り方になった私を尻目に、タンホイザさんは慎重にレースを進めていく。
とはいえ、何もせずにこのまま引き下がるのも癪だ。
第一コーナーに入ったところで、こちらも仕掛ける。
「うげっ」
「えっ」
だが、タンホイザさんもタイミングを見計らっていたようで、同じタイミングで仕掛けてきた。
コーナーの入りをつぶされ、二人して外に膨らむ。最初の駆け引きで負けている分、完全に並ばれてしまう。
先行側として、これはあまりよい展開ではない。引き離そうとするが――
「ライスさん、かわいいですね」
「ぐふっ……」
加速体勢に入ろうとしたその瞬間、さらにスキルを差し込まれて大きくよろける。
この人、どれだけスキルの使い方がうまいんだ。
先行のアドバンテージをまったく稼げないまま、向こう正面へ。
一度イニシアチブを取り返さないと、かなりまずい。少し前に出つつ、こちらからも仕掛けにかかる。
けん制を入れつつ再度加速しようとしたその瞬間、タンホイザさんもスキルを重ねて潰しに来た。
様子を見ようと振り向いたのがまずかったか。スキルのタイミングを見切られてしまったようだ。
完全に相手のペースに乗せられている。一度状況を落ち着けないと――
一息入れてどうにか立て直すが、もうコーナーを回って、あとは直線。
余裕が残っているタンホイザさんに対し、こちらはボロボロだ。
立て直したタイミングが、すでに遅すぎた。
ここから領域を使えば差し返せるか……? いや、さすがにそこまで奥の手は見せたくない。
おそらく、タンホイザさんも同じように考えているだろう。
必死に追いすがったが、結局私は追いつけずに負けてしまうのであった。
「お疲れさまでした、お二人とも」
「もうむりぃ……」
「キツイよぉ……」
ヘロヘロになって芝に横たわると、冷たい空気にさらされて湯気がもわもわと立ち上る。
地面の芝の冷たさが、逆に気持ちよかった。
「さて、お二人の課題が見えたと思うのですが」
「むーん」
「まあ、なんとなくね」
タンホイザさんに負けたのは、駆け引きの差だ。
マックちゃんやテイオーちゃん、サンデーさんやブルボンさんが私の立場なら、おそらく負けていない。
レーススタイルが違うからだ。
彼女たちは、みな自分の実力を最大限に高めて押しつぶしていくスタイルだ。
多少の対抗策では崩せない相手だ。
一方、私はというと、小手先の技が得意。今までは能力差で押し切ってきたが、これからはそうもいかない。
スキルの精度と使用タイミングを上げていく必要がある。
逆に言えば、純粋な能力で他人を引き離せる段階は、もう過ぎたということ。
そりゃ、闇雲に頑張っても頭打ち感が出るわけである。
練習内容を変えないといけないな。あと――タンホイザさん、無茶苦茶強いな。
これは本当に油断できない相手だ。
タンホイザさんのほうは、むんむんと唸っている。
いまいち何が何だかわかっていない感じだ。
「ライスさん。タンホイザさんの課題は何だと思いますか?」
イクノさんが尋ねてくる。敵に塩を送るようなことになるが、私の問題点をビシッと指摘してくれたイクノさんの顔を立てて、答えることにする。
「自信のなさ、だね。ライスと勝負になるのは、さらに言えば勝つのは、同期でも上澄みだけだよ。でもタンホイザさん、自分のことを“普通”って、よく言ってるでしょ」
「むーん」
「謙虚も行き過ぎるとマイナスなんだよ。自分の実力をちゃんと把握して、今必要な技術を伸ばさないと」
「むーん……」
謎言語で返事をするタンホイザさん。
自分の実力を、まだ理解しきれていないんだろうな、というのは感じる。
正直タンホイザさんも私と同じ段階、つまり闇雲に能力を伸ばそうとする段階ではなくレース技術を磨く段階に思える。能力を伸ばす状況じゃないのに無理すると、怪我するだけだ。
まあ、私も同じ方向に暴走しかけてたけど……
おみくじにも言われたし、今は心を静めて一歩一歩進む時期なのだろう。
ネイチャ直伝デバフの嵐
お米はせんべいになる。
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