ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
スプリングステークスはブルボンさんが無事勝利し、シニア級はマックちゃんがテイオーちゃんに大阪杯で勝利したことでテイオーちゃんの無敗伝説が終了して早春のトゥインクルシリーズ戦線は終わった。
そして春のクラシック級のレースが桜花賞から始まる。
弥生賞になぜか出ていたサンエイサンキューさんは、やはり疲れがたまっていたのか成績はいまいち振るわず、ニシノフラワーさんが勝利していた。
とはいえここまでは所詮他人事。
私も参加するクラシック三冠初戦、皐月賞が始まった。
『1枠1番 スタントマン 3番人気です』
『中山芝2000mでは好走を続けていますし、今度こそ勝利を勝ち取りたいでしょうね』
始まったパドックの実況と、それを何倍も上回る観客の声援が、裏の待機場所まで響いてくる。
待機している参加者の中に、当然ブルボンさんの姿も見つけた。
……やっぱり、あのブルボンさんの勝負服、ちょっと過激すぎないか? 豊満な胸部にぴったり張り付くレオタードに、ギリギリ隠れる程度の超ミニスカート。
腰あたりまで大胆に露出した深いハイレグカットとかなんて、これは……誘われている?
いや、何にだよっていう話だけど。
自分の勝負服として、あれよりも過激な勝負服を提案してた過去がある私が言えた義理じゃないかもしれないが。
そんな馬鹿なことを考えている間に、ブルボンさんは静かにパドックへと向かっていった。
『2枠4番 ミホノブルボン 2番人気です』
『無敗のGⅠウマ娘の一人です。今日で雌雄を決することになるでしょうね』
『ブルボンが逃げ切るか、ライスが差すか、それともほかのウマ娘の番狂わせがあるのか。非常に楽しみです』
ブルボンさんの登場で、パドックの声援がひときわ大きくなる。
そう、私も今のところ無敗だ。無敗対決……か。
雑念を捨てて気を引き締める。
「続いてサクラバクシンオーさん」
「ハイ! バクシンな模範的パドックへ向かいましょう!!!」
ピンク色の勝負服が特徴的なウマ娘が元気よくパドックに向かう。
『3枠5番 サクラバクシンオー 8番人気です』
『短距離適性が高いと言われる彼女ですが、今日の走りはどうでしょうか?』
『スピードだけならこのメンバーでもトップクラスです。スタミナがどこまで持つかが鍵になりそうですね』
そして、予想外の出走者――サクラバクシンオー。
前世知識では、名前を聞けばすぐわかるレベルの超有名馬の名前を引き継いだウマ娘だ。
その実力は「短距離最強」。
短距離で負けたのは、ニシノフラワーとのスプリンターズステークス一度だけ。
同期のマイルの女王ノースフライトと並び、数十年経っても最強談義に名が挙がる存在だった。
そんな彼女には2000mはやはり長い気がするが……短距離適性の高かったブルボンさんですら、努力で適性を広げてきたのだから油断はできない。
現に、スプリングステークスでは中団に控える冷静な走りから、見事3着に食い込んでいた。 普段は能天気に見えるけど……もしかして、相当な策士なんじゃないだろうか。
「や、元気してる?」
「トライさん、調子はどう?」
「あはは、悪くはないけど、ライスさんと違って私は勝負服欲しさの記念参加だからねぇ」
待機時間中に声をかけてきたのは、クリトライさん。
同じクリ家のウマ娘で、うちのコースにもよく来ていたので、多少の交流がある。
実力は悪くないが、正直言って今の状態では少し力不足感がある。
たしかこの前、プレオープンレースに勝って皐月賞の出走権を抽選で勝ち取ったんだったか。
とはいえ、ここで出ておけば勝負服も手に入るし、挑戦してみる価値はあるだろう。
「ライスシャワーさん、次です」
「はーい」
多少雑談をしているうちに呼ばれたのでパドックに出る。
『5枠9番 ライスシャワー 1番人気です』
『無敗のGⅠウマ娘の一人。ミホノブルボンとの決着、今日でつくでしょう』
『いつものように、かわいらしくファンへ手を振っていますね。落ち着いている様子です』
いつものように観客席へ、手をフリフリ。
さすがクラシック三冠の初戦だけあって、観客の数も今までとは比べ物にならない。
大歓声の中、手を振りながらパドックのお立ち台を降りた。
『7枠15番 マチカネタンホイザ 7番人気です』
『人気こそ中位ですが、その末脚は鋭い。距離延長での好走が期待できそうですね』
タンホイザさんも出走してる。パドックでわちゃわちゃしているが、野良レースのあの走りは油断できる相手でないのは重々承知している。
『以上、8枠18人のウマ娘が熱戦を繰り広げる中山レース場。天候はあいにくの雨ですが、バ場状態は良。発走は30分後です』
全員のパドック周回が終わり、私たちは地下道を通って本バ場へと向かう。
スタンドからの声援が、地下道まで聞こえてくるが、私の気持ちは不思議と落ち着いていた。
「では、ゲートインお願いします」
ファンファーレが空に鳴り響く中、誘導係の人たちの声に促され、ひとり、またひとりとゲートへ向かう。
雨で適度に湿った芝の上を、蹄が軽やかに叩く音が響く。
まず先にスタントマンさんがすっとゲートへ収まる。
続いてミホノブルボンさん。真っ直ぐ、まるで機械のような正確さで歩き、ゲートの中に静かに立った。
「ばくしーん!!」
少し間を置いて、サクラバクシンオーさんも飛び跳ねるような勢いでゲートに向かっていく。
うるさいが、さっと収まるあたり、やっぱりレース慣れしている。
私も、呼ばれた。
雨で少し湿った空気を吸い込みながら、すっとゲートに入る。
ゲートの鉄枠が視界いっぱいに迫る。
声援が遠くから聞こえる。
周りのウマ娘の息づかいが聞こえる。
ゲートの中で、いつものように手を合わせて祈る。
ささやかな祈りがみんなに届くように、無事にレースが終わるように祈る。
最後のウマ娘がゲートに収まった。
そして――
カッ!
ゲートが一斉に開いた。
開いた瞬間、ゲートから飛び出す。
気配から察するに、周りも特に出遅れもなくスタートしたようだ。
先頭をとるのは、ブルボンさん…… ではなくバクシンオーさんが飛び出していく。
「バクシンバクシンバクシーン!!」
すさまじい勢いと迫力で先頭を奪い、レースを支配するつもりのようだ。
ブルボンさんも先頭を狙ったが、その瞬間、バクシンオーさんから絶対に譲らないという強烈な圧力を受けた。
私は自分でペースを作る展開も、周囲のペースを利用する展開も苦手ではない。
だが、いつも自らペースを刻んできたブルボンさんは、果たしてどう動くか。
――スッ。
ブルボンさんは自然な流れでバクシンオーさんの後ろについた。
スリップストリームを取ったのだ。
ペースを乱された場合のプランもしっかり持っていたらしい。
「お先に!」
7枠14番のクリトライさんが、2枠3番のリワードガルソンさんとともにその後ろに続く。
私はさらにその後ろ、5~6番手に位置取った。
ブルボンさんと競ることを想定していたバクシンオーさんは拍子抜けした様子だが、それでも順調に先頭を維持している。
後方勢もそれぞれの位置取りを選び、自然と隊列は定まっていった。
「おっと」
後ろから飛んできたスキルを気合ではじく。
ブルボンさんにばかり意識が向きがちだが、一番人気は私だ。牽制を受けるのも当然だろう。
本音を言えば、二人の先頭争いに気を取られてこちらを忘れていてくれれば助かったのだが、そう甘くはなかった。
とはいえ、全体的に注目は分散している気がする。
多少の駆け引きがありながら第一コーナーに入ると後ろが大きく乱れた。
タンホイザさんあたりが何かやったのだろうか。
後続集団もバ群がばらけつつもコーナーを抜けていく。
先頭はバクシンオーさん。その後ろにぴったりとブルボンさん。
バクシンオーさんはずいぶん走りにくそうな一方、ブルボンさんはスリップストリームから出ないように動きを読みながら小刻みに移動している。
その後ろに続くクリトライさんとリワードガルソンさんは、前の二人に振り回されてかなり苦戦しているようだ。
全体的にバタつく中、前と後ろのちょうど隙間に入った私は静かに進んでいく。
向こう正面に入って、後ろは後ろで、前は前で駆け引きをしている。
私とさっきから横にいるセキテイリュウオーさんはひっそりとしながらレースを進んでいく。
ちょこちょこ私に向けて意識は飛んでくるが前はバクシンオーさんとブルボンさんの駆け引きに乱され、後ろはタンホイザさんが大暴れしているのでこちらにかまっている余裕はないだろう。
後は仕掛けるタイミングだ。
第三コーナーに入り、第四コーナーに移る前。残り600mの時点になった時点で少し早いが仕掛けることにした。
後ろを突き放しつつ、一気に加速する。
セキテイリュウオーさんを置き去りにして、外からクリトライさんとリワードガルソンさんを抜き、遠心力を使って外に出つつ一気に先頭の二人に並ぶ。
そのまま一気に抜こうとしたところで、ブルボンさんもスパートをし始めた。
バクシンオーさんはずるずると後退していく。クリトライさんとリワードガルソンさんもスパートしようとしているが、スタミナを使い切ってずるずると落ちていく。
後続は私たちの早仕掛けについてこられず、私たちが失速しない限り追いつける状況ではないだろう。
後はブルボンさんを競り落とすのみ。
勢いよくコーナーを回って、状況の良い芝を駆け抜けながら領域を展開する。
少しだけ前に出た瞬間、ブルボンさんの頭を押さえつつ自分は加速し始める。
スタミナはまだ十分。
状況はわずかながら有利。
このまま競り勝つべく全力を振り絞って直線を走り抜ける。
ブルボンさんが並びかけてくる。
こちらが押さえつける圧力もものともしない力強い走りに、気おされかけながらも、再度突き放そうとするが離れてくれない。
ぎりぎりの鍔迫り合いの中、まだ残っている手札を切っていく。
坂を一気に登りきる力強い走りに切り替え、これでどうにか引き離せないかと試みるが、ブルボンさんの走りも見事なもので、むしろ私が競り負け始める。
坂を上り切れば残り100m。もう後は気合と根性と執念ぐらいしか残っていない。
どうにか並びながら私たちはゴール板の前を駆け抜けた。
レース後、止まりながら電光掲示板を見上げる。
一着のところに表示された数字は……4。
ブルボンさんの数字だ。
ハナ差で私はブルボンさんに敗れたのであった。
評価・お気に入り・感想お待ちしております
雑談フリースペース
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=325158&uid=349081
またしばらく更新がとまります。
せっかくだから人気投票 好きな登場人物は?
-
ライスシャワー
-
マルゼンスキーお姉様
-
メジロマックイーン
-
ミホノブルボン
-
お兄様(マルゼンスキーT)
-
イクノディクタス
-
トウカイテイオー
-
サンデーサイレンス
-
カレンチャン
-
その他抜けている子への愛はフリースペース