ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
「ということで無人島に来ました」
「わけわかんないよー!?」
ダービー後、私はブルボンさんに拉致され二人きりのドキドキ無人島生活に島流しされた。
何を言っているかわからないと思うが私のほうが説明が欲しい。
トレセン学園にはいくつものプロジェクトがある。
有名なものもあれば忘れ去られたようなプロジェクトもあるのだ。
今回ブルボンさんが持ってきたのは無人島プロジェクトという胡散臭いものだった。
トレセン学園が所有している太平洋の無人島を開拓してトレーニング施設を作るというそのプロジェクトは参加者が集まらずに頓挫して放置されてるものの一つだった。
それを利用した私とブルボンさんは二人きりで島流しになったのだ。
訳が分からなすぎる。
ダービーを私が勝ったので若干気まずい空気が流れていたところを取り持ってくれるという周りの気遣いは感じるが、それなら一月も無人島に島流ししなくてもいいじゃないか……
しかも補給もないので自給自足が必須である。
一応上陸時にある程度食料は置いていってもらっているが、米ぐらいしか持ちそうなものがないので、1月には足りないし……
電波は届いているのでヤバくなれば携帯で救助は求められるが……
「ひとまず島の探検をしようか」
「そうですね」
ブルボンさんと二人、島のなかを探検することになった。
「なんで追いかけられてるのおおおお!!」
「わかりませんんんん!!!!」
そうしてダチョウに襲われた。
ダチョウである。
それが十頭以上現れて追いかけてきたのだ。
ウマ娘の身体能力が高いと言っても数の暴力にはかなわない。
なぜ日本の無人島にダチョウがいるのか。
なぜダチョウがウマ娘を襲うのか。
何一つわからない。
「むぺっ!?」
「ライスさん!?」
そうして全力疾走をしているときに顔面に何かが張り付いた。
ふわふわのモフモフの生ぬるい生き物だ。
視界が真っ暗になり、思わず速度を緩めてしまうと……
「ひゃああああ!!!」
「ライスさーん!!」
そのままダチョウたちに囲まれて、私はさらわれてしまうのであった。
どういうことだか何もわからないと思うが私も何もわからなった。
そうしてダチョウに、顔に飛びついたタヌキごと攫われた私は、なぜか島の洞窟に連れていかれた。
ダチョウに囲まれた私と、追い付いてきたブルボンさんと、あといきなり飛びついてきたタヌキが一堂に集う。
ダチョウがどうして私をここに連れてきたのか、それはたぶん誰も分からない。ダチョウはたぶん理由を忘れてる顔をしている。自分たちで連れてきたのになんだこいつみたいな顔をしている。
「さて、どうしましょうね……」
「もう帰ってもいい気がするけど……」
おそらく大した意味などなさそうだ。
このまま帰ったらまた追いかけられる可能性もあるが……
そこはダチョウちゃんたちの気分にかけるしかないし。
洞窟から出るとダチョウちゃんたちのうちの何頭かが私たちについてきた。
多分意味もない。
途中の樹に生っていた果物を、登って捥いであげたらくえー、と嬉しそうな鳴き声をあげた。
適当に歩いていると、島の中には結構多彩な果物が生っている。おそらくプロジェクトの最初のころに植えたのだろう。
このあたりで甘味はひとまずたりそうだ。
後はタンパク質だが……
「そういえばダチョウ肉はタンパク質が多くて体にいいとか」
「くえ?」
「いや、捕まえられないし捌けないよ……」
もしかしたら食料としてこの子たちはこの島に連れてこられたのだろうか。そしてプロジェクトが凍結状態になってここで繁殖しているとか……
普通にありそうな話である。
とはいえ私やブルボンさんが捌くのは無理だ。
純粋なキラキラおめめで私たちを見てくるこの子たちを食べる度胸もない。
「そうすると魚ですかね?」
「頑張って釣ってみようか」
ダチョウ数頭にタヌキというメンバーが増えた私たち一行はそのまま海岸へと向かうのであった。
島の中央部にある入江には、ダイビングスポットらしき場所が整備されていた。
かなり放置されていてあちこちガタがきているが、それでも立派な設備だ。
よほど力を入れて行われていたプロジェクトなのだろう。
そんな入江のど真ん中にクソデカマグロが泳いでいた。
背びれで波を切りながら時速100kmで泳ぐ姿はまさに恐怖そのものである。
「ライスさんはマグロ捌けますか」
「むりだよぉ」
「私も無理です」
そもそもウマ娘の走行速度より速く泳ぐ生き物を捕まえられる気がしない。
仕方がないので、海岸に落ちていた貝を集めて今日の夕食のおかずにすることにするのであった。
そんなこんなで大騒ぎしつつ夜になった。
なんだかんだで食べものはそれなりに見つかるので、どうにかなる…… かなぁ。
果物はいくらでも見つかるし、砂浜でもいろいろ見つかるが、タンパク質になるものが少ない。
隣ですやすや眠っているダチョウちゃんたちやタヌキちゃんを捌くのも気が引けるし、それらは追加で持ってきてもらったほうがいいだろう。
ひとまず今日の夕飯は、焼いた貝と、大盛のご飯と、缶詰である。
それを焚火を囲みながら二人で食べる。
空は一面の星に覆われており、ロマンチックな雰囲気と言えば雰囲気である。
「ライスさん」
そんな中、ブルボンさんがおもむろに口を開いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ライスさんは昔からよくわからない人でした。
私にいきなり友達になってくれ、なんて積極的なところを見せたと思ったら不登校になったり、と思ったら父のクラブに自宅の練習場を貸し出したり。
やることなすこと一貫性がなくいつも振り回されていた気がします。
誰よりも速くて、誰よりも賢くて、誰よりも臆病で、誰よりも優しくて。
そんな彼女を好きになっていたのは一体いつからでしょうか。自分でもよくわかりませんでした。
マックイーンさんもライスさんが好きでしたが、私とマックイーンさんのしたことは違いました。
私はライスさんの隣にいることを望みました。
マックイーンさんはライスさんを遠くから見ていることを望みました。
三人の行末が異なった瞬間でした。
とはいえ生き方はそれぞれです。
マックイーンさんはハーレムを築き、右往左往しながらも楽しそうにしてますし、それはそれでいいのでしょう。
一方のライスさんはこの前のダービーで余計わからなくなりました。
今までとはまるで違う走り。ライスさんが走り方をコロコロ変えるのはいつものことですが、ダービーの時の徹底マークはそれが本当の自分の走りだといわんばかりにライスさんに合った走りでした。
いつもわがままに走るライスさんが、誰かについていく、なんていうことは今まで見たことがないのに。
気持ち悪いぐらいライスさんに合った、ライスさんらしからぬ走り。
それが私の胸に妙にくすぶっていました。
一方でライスさんはライスさんで別のことを気にしているでしょう。
私の夢はクラシック三冠を獲得することでした。
ですがライスさんにダービーで敗れ、その夢はかないませんでした。
そのことをずっと気にしているのを言外に理解しています。
ほかの人がそんなことを考えていたら、私が譲ってもらわないとクラシック三冠を取れない情けないウマ娘だと舐めているのかと怒っていたでしょう。
ライスさんが考えていえるのはもっと幼い感情です。自分の行いや目的が誰かの夢を奪うことにやっと気づいてしまったのでしょう。そんな普通に戸惑っているだけのライスさんには、わからせないといけません。
どちらもライスさんの本質に触れることです。おそらくマルゼンスキーさんあたりに任せれば簡単に解決してくれそうですが、恋人としてそれは癪なので、今回無人島に二人きりという状況を作ってもらいました。
楽しい二人きりの1か月ですが…… 我慢できずにやりすぎてしまうことがないかだけは心配です。
なにせ私は、ライスさんのことがとっても大好きなので。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「わっ」
隣に座ったブルボンさんに抱きしめられた。
水着越しに感じるブルボンさんの豊満な胸部からブルボンさんの匂いがする。
二人きりでこんなことをされてしまうとドキドキしてしまう。
「ブルボンさん?」
「ライスさんにわからせようと思って」
「……なにを?」
「私がどれだけライスさんが好きかということを」
「……やさしく、してね」
ブルボンさんが何かをたくらんでいるのは察していたけど、いちゃいちゃしたいというのは間違いないだろう。
ヘタレで経験がない私はただただ流されることしかできないのが情けないが、流されるぐらいはしようと思う。
そのままブルボンさんに抱き上げられた私とブルボンさんの夜に何があったかは…… 秘密である。
そんな感じでドロリ濃厚はちみー硬め濃いめ多めみたいな生活が始まった。
ダチョウちゃんとタヌキちゃんを引き連れつつ、残ったトレーニング施設を時に修理し、時に利用し、余った時間でいちゃつく日々だ。
飽き症で気が変わりやすいところがある私は、ブルボンさんに飽きてしまうのではないかという心配を自分ではしていたのだが、案外そんなこともなくずっとイチャイチャイチャイチャしている。
私としては満足なのだが、ブルボンさんはまだ気になるところがあるようで……
「ライスさん、ダービーの時のあの走り、一体何なんですか?」
「あー」
確かにブルボンさんから見たら、あの話は『私』らしくないと思うだろう。
全体を俯瞰してやりたい放題するのが『私』の走りであり、一人だけ追いかけるというのは『ライスシャワー』の走り方である。
観客ならまた違う走り方をした、と思う程度だろうが、さすが幼馴染にはその違和感はごまかしきれなかったのだろう。
「ライス、前世の記憶があるっていう話をしたことあったっけ?」
「いいえ、ありません」
「前世はウマ娘がいない代わりに馬という生き物がいる世界で、ライスの名前もブルボンさんの名前もその馬の名前だったんだ」
「ウマですか……」
「あの走りは私の走りじゃなくて、前世の記憶にあったライスシャワーの走りかたなんだ」
運命のせいか、名前のせいか、なんなのかわからないが徹底マーク戦法はひどくこの体と相性が良かった。
「でももうやらないと思うな」
「どうしてですか?」
「私は私であって馬のライスシャワーじゃないからね」
ここまで来てしまえば結局そういうことだ。
私は馬のライスシャワーではない。
運命だってまるで変ってしまったこの世界で、前世の記憶にすがってもしょうがないし、私は私らしく生きたい。結局そんな陳腐なところに落ち着いてしまった。
あと単純に、戦術として使えるタイミングが多くないという問題がある。
あれは自分より格上と認めた相手にしか効果がないだろうという直感がある。
菊花賞ではたぶん私が一番人気になるからブルボンさん相手でもたぶん有効ではないし、そういったケースは今後増えていくだろう。
そういったことも考えるとあまり頼りたい戦法ではなかった。
ぎゅっとブルボンさんが私を抱きしめる腕に力が入る。
「ライスさん」
「なあに?」
「大好きですよ」
「ライスもブルボンさんのこと、大好きだよ」
前世のことをブルボンさんに話したことで気がずいぶん楽になった。
二人して抱き合いながら、夏の夜は更けていくのであった。
1月の無人島生活は大体イチャイチャして終わった気がする。
いやちゃんとトレーニングとかもしてたけど…… 空き時間に予想以上にいちゃいちゃしてたからどうしてもそっちの方の印象が強い。
とはいえ、島から帰れば菊花賞という難関が立ちふさがる。
一生懸命走ることを心に、私たちはトレセン学園に戻るのであった。
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