ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話   作:雅媛

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5 有馬記念

 さて、菊花賞だが、結果だけ言うと私は3着だった。

 ブルボンさんの気迫の逃げに一回は追いついたのだがその後差し返され、さらに後ろから来たマチカネタンホイザさんにもぎりぎりでかわされてしまった。

 

 京都の長距離なら負けないと思っていたのだが、そんなことは全くなかった。やはり私は淀に愛されたステイヤーではないのだろう。まあ普通にマイル勝っているし……

 おかしな空気になったり、私がヒール扱いされることもなく、私たちのクラシック路線は終了した。

 

 

 夏合宿から確信していたことだが、私はやはり馬のライスシャワーとは違う存在のようだ。

 馬がどうなったかといったことは気にする必要はあまりないだろう。まあ、レースで怪我をして死亡事故はやりたくないので健康には人一倍気にするけど……

 

 

「私はトレーナーを目指すために引退するつもりです」

 

「そっかー……」

 

 

 そしてブルボンさんは、菊花賞の勝利を最後に引退をすることを決めたという。

 もともと黒沼トレーナーの健康問題もあり、また、自分も父親みたいなトレーナーになりたいと考えていたブルボンさんにとって、クラシックレースの終わりはちょうどいい機会だったらしい。

 

 

 ちょっとしょんぼりしてしまった私にはっぱをかけるのはマックちゃんだ。

 

 

「私と決着がつく前にしょんぼりされても困りますわ! 少なくとも私に2回ぐらいは負けてからしょんぼりしてください!」

 

「2回も負けないといけないの!?」

 

 

 ブルボンさんには確かに2回負けたけどさぁ……

 

 

「不満ですか?」

 

「だってマックちゃんに負けるイメージが思いつかないし」

 

「このぉ」

 

「ギブギブ!!」

 

 

 煽ったらアイアンクローをされた。暴力はんたーい!

 

 

「そうだよライス先輩はボクとの決着もついてないし」

 

「テイオーちゃん無敗の三冠ウマ娘なんだからもういいでしょう」

 

「よくないよ!!」

 

 

 まあ二人とも今年はあまり調子がよくない。

 骨折までしてしまったマックちゃんは春は全休で秋も復帰は有馬でぎりぎり、海外挑戦したテイオーちゃんはいまいちな成績で帰ってきたところだ。

 二人とも秋こそはと調子を整え直しているところだろう。とはいえ片や七冠ウマ娘、片や無敗の三冠ウマ娘なのだから本気を出されたらかなりきつい相手なのだが……

 二人とぶつかるのはそれこそ年末の有馬記念の予定だけれども。菊花賞の後ジャパンカップは少しローテーションとして厳しいし。

 

 

「有馬記念は私も出ますよ」

 

「イクノさん」

 

「負けるつもりはありませんからね」

 

 

 安定的にいい勝負をし続けているイクノさんがこのレースでいきなり勝つ、ということだってあり得なくはないだろう。

 安定的というのはいつもそれなりのスペックを出せるということだ。

 波乱が起きればこういうウマ娘が強いというのは確かなのだ。

 

 今回の有馬記念はメジロパーマーさんとダイタクヘリオスさんも出るはずで、大逃げ二人がペースを乱せばどうなるかわからない。

 

 

「さてどうやって勝負するかなぁ……」

 

 

 悩む態度を見せながら、私はしかし取る手をすでに考えていた。

 

 

 

 そうして迎えた有馬記念。

 

 

『3枠5番 トウカイテイオー 一番人気です』

 

『いつもの軽快なステップを見せます。期待できそうですよ』

 

 

 いつものテイオーステップを見せるテイオーちゃん。

 とはいえ少し顔色が悪そうにも見える。

 

 先日のジャパンカップでは快勝したのだが…… どうかしたのだろうか。

 

 

『5枠9番 メジロマックイーン 二番人気です』

 

『1年ぶりの復帰戦になりますが雰囲気はいいですね。レースに期待しましょう』

 

 

 マックちゃんは2番人気である。現役G1最多勝の期待もあるのだろう。

 レースを出なかったスパンは長いが、調子はよさそうである。

 

 

『8枠17番 ライスシャワー 三番人気です』

 

『距離が少し長いかもしれませんが、好走を期待したいところです』

 

 

 そして私は3番人気である。

 まあこの豪華な二人に比べれば人気が劣るのはしょうがない。

 

 ほかにも宝塚記念を勝っているパーマーさんにマイルCS連覇のダイタクヘリオスさんなどなど、豪華なメンバーがそろった有馬記念である。

 

 特に問題もなくパドックもゲートインも終わり、レースは問題なくスタートした。

 

 ■ パーフェクトブート   

 ■ クロックアップ     

 

 

 大外からのスタートだが、それを気にせずにスタートから加速して一気に前に出る。

 スキルはブルボンさんのモノを借りた。引退するならということで付きっ切りで教えてもらったスキルだ。

 

 一気に加速して、先頭争いをするメジロパーマーさんやダイタクヘリオスさんの前に出る。

 さて、ここからついてこれるかな? 私はさらに加速する。

 

 ヘリオスさんは速いと言えマイラーだ。かなりスタミナを温存する逃げをするはずだ。

 パーマーさんはそれに合わせて幻惑逃げでスタミナを温存するつもりだっただろう。

 

 だが私が先陣を切ったせいで二人の作戦はきっと無茶苦茶である。さらに私の逃げは温存なんて考えない、スタミナとパワーで全員すりつぶすためのラップ逃げである。

 有馬の芝、中山の年末の芝が悪いのは去年のホープフルステークスで経験済みだ。

 

 このペースについてくればスタミナですりつぶし、温存すればパワーの問題で逃げ切れるだろうという算段である。

 もっともそういった戦いに強いマックちゃんがライバルにいるから悩みどころでもあるが……

 

 1ハロン12.0を刻み続ける逃げに、パーマーさんもヘリオスさんもついてこずに様子見に入る。この二人はこういった逃げから先行への切り替えができるのが強みではあるが、それでも私の作るハイペースでスタミナを維持できるのだろうか。

 こういった戦法を取ったのはペースを作る以外にも理由がある。

 普段の先行策だと、マックちゃんやテイオーちゃんとポジション争いをする必要がある。海外にまで行って経験を積んできた私では正直真っ向勝負のポジション争いをして勝てる自信がなかったのだ。

 逃げてしまえばそういった不安もなくなるし、ブルボンさんの真似はライバルで恋人の私にはそう難しい方法ではなかった。本人相手では練度の違いで負けるだろうが、そうでなければ有効な戦法である。

 

 ■ 完璧なエラー対処術   

 

 スタンド正面の直線を快調に走り抜ける。

 後ろとの距離は2番手からでも3,4バ身ぐらいにはなっている。

 詰めてこないならこのままセーフティリードを狙い、詰めてくるならスタミナ勝負である。

 さてほかの皆がどう動くか。

 

 様子を見つつペースは維持して第一コーナーを曲がる。

 後ろとは徐々にリードが広がっていく。これを暴走とみて控えてもらえればセーフティを取るのだが…… そうは甘くは見てくれないようだ。

 第二コーナーを抜けて向こう正面に出たあたりで、マックちゃんが二番手に躍り出るのを感じる。逃げ2人を抜いて明らかに追走してきている。垂れないと読まれたか、離れすぎない程度の位置をキープされてしまっていた。

 テイオーちゃんはまだ見えないが、どこから来るかはわからない。

 

 とはいえ私の走りは変わらないのだが……

 じりじりと詰めてくるマックちゃん。それならこのままならバレてスパート勝負をするだけである。ピッチ走行の利点は効率であり、ここで焦ってペースを変えるのはよろしくない。

 最後に向けてじりじりとした駆け引きは続いていた。

 

 第三コーナーを抜けて第四コーナーに差し掛かる。後ろがスパートを掛けているのを感じるがそこからでは届かないと読んだ私はマックちゃんと同時にスパートを掛ける。

 

  逃亡者          

 ■ Drain for blue rose(奇跡の青薔薇は人の生気を求む)   

 

 後ろから迫るマックちゃんの頭を押さえるように領域を展開する。

 いくつかのパターンのうち一番使い慣れている最初から持っている領域だ。

 

 ■ 最強の名を懸けて     

 

 同時にマックちゃんも領域を展開する。

 すさまじい勢いで私の領域を突破しようとスピードを上げてくる。

 それを必死に抑えつつ、マックちゃんの勢いも利用して私は加速する。

 

 こうなれば後はスタミナと意地の勝負である。

 テイオーちゃんは完全に後方に沈んだ。ほかのメンバーも迫ってくる気配はない。

 1対1の勝負の中、お互い抜きつ抜かれつのデッドヒートである。

 

 中山の坂を上り切り、最後ゴール板に飛び込む。

 ほぼ並んでのゴールであった。

 

 私のレース、大体こんな感じのギリギリなのばっかりだな……

 

 

 

 結果はハナ差で私の勝利だった。

 道中の有利がうまく働いたか、運がよかったか、とにかく勝ちは勝ちである。

 

 

「くやしいですわー!!!」

 

「ふふーん」

 

 

 マックちゃんにどや顔をするとマックちゃんは悔しそうに地団太を踏んでいた。

 

 

「そういえばテイオーちゃんはどうしたの?」

 

「ちょっと体調が悪くて……」

 

「無理しちゃだめだよ」

 

 

 テイオーちゃんの方は11位惨敗である。

 あまり体調がよくなかったようだ。怪我をしなかったのはいいことだが気を付けてほしい。

 

 

「二人には追い付けませんでした」

 

「イクノさんもお疲れ様」

 

 

 7位になったイクノさんも集まってきた。

 私は観客席にいたブルボンさんに手を振る。

 ブルボンさんも私に手を振り返してくれた。

 

 

 

 

 有馬記念が終わり、その後の年末年始のイベントというと年度代表ウマ娘の決定である。

 今年の年度代表ウマ娘は私とブルボンさんで割れたが、有馬記念に勝ったということでどうにか私になった。

 これで新しい勝負服がもらえるぞひゃっほい!

 

 今度こそスピードを追求したブルボンさんみたいなカッコいい系の勝負服にするんだ。

 そんなことをたくらんでデザインして発注したら見事にハイレグレオタード勝負服ができて、露出が多すぎるとお姉様とお兄様に使用禁止にされてしまった。

 URAが作ったんだからセーフだと思うのに、解せぬ……

 ブルボンさんに着せて見せたらかっこいいと言ってくれたのに……

 でもトレーナーには逆らえないのである。

 

 シニア級はテイオーさんとパーマーさんが候補となり、パーマーさんが選ばれた。

 ジュニア級はビワハヤヒデさんが朝日杯に勝利し選ばれていた。そうか、一つ下の年代はBNWか。来年の年末もライバルが増えるなぁ……

 

 

 

 そんなことを考えながら私はブルボンさんと初詣デートをしていた。

 マックちゃんたちは別に行くと言っていたので二人きりである。

 

 

「ライスさん」

 

「? 何ブルボンさん」

 

「今年もよろしくお願いしますね」

 

「ライスの方こそよろしくね」

 

 

 ブルボンさんはトレーナーの勉強をしながらうちのチームで見習いトレーナーをやるとのことである。

 私としては賛成だが心配なこともある。大好きなブルボンさんと一緒だとイチャイチャしてトレーニングに身が入らないのではないかという問題である。

 そんな心配をしながら、今はブルボンさんに引っ付いたりしながらデートを楽しむのであった。

 

 まあ、ブルボンさんのストイックさの前では全くの杞憂だったけどね……

 トレーニングは三倍ぐらい厳しくなって、二人きりの時は…… これ以上はここでは語らないことにする。




いったんこの辺りで一度終わりにします。
今までどうもありがとうございました。

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