ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
メジロ家のお屋敷は非常に大きい。
私もそこそこ大きい家に住んでいるが、メジロ家のそれは規模が違う。若干宮殿じみた広さの家である。
どうやらここに、メジロの冠を持つウマ娘が何人も住んでいるらしい。
とはいえこうやって同じ家のウマ娘が同じところに住むというのは珍しくない話だ。
なんせトレーニング施設を用意するには土地とお金がかかる。それを一人で独占するなんてしていたら、土地もお金もいくらあっても足りない。だからこそ、家というコミュニティを作り、皆で共有してトレーニングをするのだ。
私の家にあるトレーニング施設も元々はクリ家のトレーニング施設であり、あの家はトレーニング施設のための管理所であったという話は聞いている。
現在ではクリ家は鳴かず飛ばずなのであまり使う人がおらず、もっぱらマルゼンスキーさんや私が使っているが、時々クリ家の子らが使いに来ることはあるのだ。
まああまり使われていないからこそ、勝手に坂路作ったりと私のやりたい放題なんだけれども。
閑話休題、そんなメジロ家のマックちゃんのところに今日はお邪魔しに来たのだ。
「お二人とも、いらっしゃいませ」
「お邪魔します~」
「お邪魔します」
マックちゃんが迎えてくれたのは、庭に置かれたテーブルのところであった。
ティーポットなどが置いてあり、お茶会ができそうな雰囲気だ。
マックちゃんのお嬢様然とした雰囲気とよく合っているが、私たちの恰好が正直あまり合っていない。
私の方はいつもの緩く着れるワンピースだ。白いからパッと見若干上品に見えるがよく見れば着古しているのでよれよれで、裾なんかはほつれている、ぼろい服である。
ブルボンさんなんか、いつものロングのレギンスにシャツ、上にパーカーを羽織っているだけである。すぐにも走れます、という雰囲気だがお茶をする格好にはとても見えない。
とはいえ誰かに見られているわけでもない。
マックちゃんに招かれるまま、私たちも椅子に座る。
すぐにメイドさんがお茶を注いだカップを出してくれる。そう、メイドさんである。
メジロ家にはメイドさんがいるようだ。うちにはいないのに。
出迎えの時は執事さんも居たし、さすが今飛ぶ鳥を落とす勢いのメジロ家であった。
「お二人とも、紅茶はダージリンでよろしいかしら?」
「ダージリンとそうじゃない奴の区別なんてライスつかないよ」
「私も違いなんてわかりません」
ダージリンだ何だと言われても、紅茶の味など私にはわからない。ブルボンさんにもわからないようだ。まあ何となく出てきた紅茶の香りがいいな、という程度である。
「何となく高そうな味がする……」
「香りも何か高そうです」
「二人とも、そんな感想なのね」
マックちゃんが私たちの感想を聞いてくすくすと笑っていた。
紅茶を飲んで、お菓子を食べて一息ついたところで、話題をどうしようかと悩み始める。
普段なら走り方とか、何を食べると体がいいとか、お互いに体つきとか、そんなレースに関する話ばかりしているが、さすがにお茶会には不向きな気がしていて少し悩んでしまう。
「お茶会ってどんな話すればいいんだろう?」
「わかりません」
「流行りのファッションとかは定番ですわね」
「ファッション……」
確かにマックちゃんの私服はおしゃれだし、いろいろ種類もあるのでファッションもよく知ってそうだ。
「マックちゃんの今日のスカートかわいいよね、なんていうのそれ、オーバーホール? だっけ?」
「それを言うならオーバーオールですね。サロペットスカートっていうんですよ」
「ほへー」
「私も、可愛いと思います」
そして話題が途切れる。
ファッションなんて私たちにはムリゲ―である。なんせ私は年がら年中同じワンピースを使いまわしている似非お嬢様で、ブルボンさんはいつも運動着のわんぱく系クール素直美少女だ。サロペットスカートなんて言う単語さえ初めて聞いた二人にはハードルが高すぎた。
「あとはファッション関係ということでケア用品のお話をすることもありますわ」
「ケア用品…… ライスはいつもマルゼンスキーさんからもらったの使ってるだけだし……」
化粧とかはまだ早いにしても、ケア用品はレースをするウマ娘ならこだわって選ぶ子も多い。ただ、私の場合はマルゼンさんがもらってくる試供品の中から、マルゼンさんやトレーナーさんに選んでもらったのを粛々と使っているだけだ。尻尾触り、髪触りが気になるときなどはさすがに言うが、マルゼンさんのところに送られてくるのは一級品ばかりなので、そうそう外れなど存在しない。
「私も父に選んでもらったのを使っています」
「……」
ブルボンさんがいつも使っているのは定番らしいケア用品だ。
ブルボンさんのお父さんも元トレーナーと聞いているし、きっとケア用品の知識もあるのだろう。自分で選ぶよりも専門の人に選んでもらった方が確実、とブルボンさんも考えているのだろう。
マックちゃんが何となく、お茶会で女子トークをしたいのだろうことは伝わってくるのだが、女子力が死んでる二人とそれは無理があるのではなかろうか。もうちょっと現実というか、現状の私とブルボンさんの恰好を見てほしい。お茶会でキャッキャする女子の恰好ではないよ。
とはいえマックちゃんにお誘いいただいて全く希望に添えないのもそれはそれで悪い気がしてくる。
しかしファッションは難しいし、食べ物関連も厳しい気がする。私もブルボンさんも食べるのは好きだが、こういうお茶会で話題に上がるような紅茶やらお菓子やらはまるでわからない。
そうすると……
「こういう時の定番と言ったら恋バナ?」
「うぇっ!?」
「!? げほっ、げほっ!?」
私の提案にマックちゃんは変な声を上げて、ブルボンさんはむせた。
確かに三人でこういう話をしたことはないけど、いつもと違うシチュエーションなのでたまには面白いのではないか。
とはいえ提案してみたはいいけれど無理に話させるのも悪い気がしてくる。
ここは私から行くべきだろうか、それとも提案者だから〆をやるべきだろうか。
「そ、それなら、まずはライスちゃんの話から聞きたいですわっ」
「ライスから? わかったよ。そうだね、ライスの初恋はマルゼンスキーさんだったねぇ」
「ああ、あの人美人ですからね」
美人だし優しいし速いし、ウマ娘の理想を詰め込んだような人である。
実際おちゃめで可愛らしいところもあるが、それもまた良いところだ。
「とはいえ今度トレーナーさんとの結婚式もあるし、めでたくライスは振られてしまったのでした」
「あの方、結婚されるんですか?」
「もう籍は入れているらしいよ?」
私としてはやっと、という感じである。同棲を始めて結局4,5年かかったのではなかろうか。これもトレーナーさんが朴念仁なのと、マルゼンさんが予想以上に乙女で消極的だったのが原因だ。押し倒してれば同棲1年目でおそらく結婚だったのに。
残念ながら私が振られたのは同棲始める前でしたけどね! 初恋は悲しく終わる物なのです……
「結婚式ですか…… いいですわねぇ……」
マックちゃんが乙女の顔をしながら何かを想像している。マルゼンさんの花嫁姿か、それとも自分の花嫁姿か。
ブルボンさんもぽけーっとしているが何かを想像しているのか、何も考えていないのかはこちらからではわからない。
「マックちゃんも結婚式参加してみる? トレーナーさんやマルゼンスキーさんと知り合いだし大丈夫だと思うけど」
「そうですわね。日程が合えば参加したいですわ」
「ブルボンさんもどう?」
「私も参加してみたいです」
現状招待客名簿に入っているかはわからないが、二人ともトレーナーさんに時々教えてもらっているし、マルゼンさんとも知らない仲ではないからお願いすれば招待してくれるだろう。
「それで、ライスちゃん今は誰が好きなんですの?」
「今? うーん、今は走ることが恋人かなぁ」
あの頃は引きこもって本ばかり読んでたけど、今は走る練習を結構やってるから恋愛どうこうを考えることもなくなった気がする。つまり走ることが恋人っていうことだろう。
あのドバドバ脳内麻薬出るのは恋愛ごとよりもよほど楽しいし気持ちいいのだ。
正直に答えたのだが二人はちょっと残念そうにしていた。
「何か問題でも?」
「いえ、ライスちゃんはライスちゃんだなと思いまして」
「そうですね、ライスさんはライスさんでした」
何かを二人で納得しているが、私には何もわからなかった。
「そういう二人はどうなの。好きな人いないの?」
「私はいなくもないですよ。私より速い人です」
「ふむふむ」
マックちゃんは好きな人がいるらしい。
マックちゃんより速い人って誰だろうな。ひとまずウマ娘は確定だろう。
メジロ家にはそういう人は何人もいるだろうから、その中の誰かなのだろう。
「私も居ますよ。私の好きな人も私より速い人です」
「ほへー」
速ければ憧れて好きになるってウマ娘、スピード狂か。一瞬そう思ったが私の初恋のマルゼンさんも自分より速かったので何となく納得した。多分ウマ娘の本能に速い人に惚れるというのがあるのだろう。
しかしブルボンさんより速い人か。こっちは思いつかないな。レースでは私に負けた時以外無敗を誇ってるし、ブルボンさんの所属するブルボンさんのお父さんのチームでもトップで速いと聞いているし。
まあ私以外の付き合いのところでそういう人がいるのだろう。私は雑にそう納得した。
考え事をしていたら二人が私をじーっと見つめていた。理由はわからないが、ひとまず満面の笑顔で返す。ライスちゃんの笑顔、可愛かろう?
そう思ったのだが二人ともため息をついた。なんだ、何が問題だったのか何もわからなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お茶会後はメジロ家の中を軽く散策である。
メジロのトレーニング施設で練習するかと思っていたのだが、どうやら結構混んでいて飛び入り参加は難しいらしい。
最近はトレーニングばかりだったし、たまの休みも悪くないか、そう思いながら探索気分で大きなお屋敷をマックちゃんの案内で歩いていた。
そして、トレーニングコースの近くに行ったところ
「マックイーン、お客様かしら?」
コース横で絵を描いていた、妖艶な雰囲気のウマ娘の女性に声をかけられた。
振り向いてアルカイックスマイルを浮かべる女性の顔にどこか見覚えがある、と考えてすぐに思い出した。メジロラモーヌじゃないか、と。
メジロラモーヌ、前世では史上初の牝馬三冠を達成したメジロの代表的な馬の一頭であり、こちらでも牝馬という概念がない代わりに存在するティアラ三冠と呼ばれるレースを史上初めて制覇したウマ娘である。
実力もさることながら、その美しすぎる外見と妖艶な雰囲気からついた異名の一つが魔性の黒鹿毛、であった。
前世でもカッコイイ馬で、好きな馬の一頭だった。
実際会ってみると、確かに同じウマ娘かと思うぐらい色っぽい。同じ黒鹿毛としてはどうしてこんなに差があるのだろうかと考えてしまう。色気だろうか。
「こちら、私の友人のライスシャワーさんとミホノブルボンさんです」
「こんにちは」
「あっ、こ、こんにちは」
「はい、こんにちは。それでそちらのお嬢さんはなんでそんな顔をしているのかしら」
「同じ黒鹿毛として少しでも色気が出せないかと頑張っているところです」
気合を入れてオーラを出せば何か色気が出るのではないかと頑張ってみているが、マックちゃんとブルボンさんは残念なものを見る目で私を見ていた。
一方ラモーヌさんはコロコロと笑う。
「面白い子ね」
「光栄です」
うんうん言って頑張って気合を入れてみているが、少しはラモーヌさんの色気に近づけているだろうか。
「そういえばあなたたちは走らないのかしら?」
「走りたいところですが、コースが混んでいるみたいなので」
「そう……」
走る準備は私もブルボンさんもしてきている。というかブルボンさんなんかはパーカーを脱げば今すぐでも走れる恰好である。
とはいえ別にメジロ家の和を乱したいわけではないので、無理をしたいわけでもないが、ラモーヌさんは、コースを見て、マックちゃんを見て、ため息をついた。
「今から私も少し走るのだけど、一緒にいかがかしら」
「是非!」
ヒャッハー、ラモーヌさんの併走だぜ!!
間髪入れずに返事した私にラモーヌさんは苦笑した。
「では30分後、芝のコースで」
そういってラモーヌさんは画材を片付け始めた。
私たちはマックちゃんに更衣室へと連れて行ってもらうことになった。
さて、ラモーヌさんとの併走だが、3人そろってけちょんけちょんされた。
現役最強レベルのウマ娘と、まだ入学もしていないウマ娘の間には身体能力、技術共に天と地の差があるが、今回は技術だけでコテンパンにされた形だ。
目線やオーラ、もしくは体使いで圧力をかけたり、牽制したり、焦らせたり、そういった技法によって私たちはゴールの手前でもうヘロヘロにされてしまった。明らかに手を抜いているラモーヌさんの走り方にも全く追いつけない状況だ。
私も普段のレースで多少の駆け引きなどはするが、超一流レベルだとこんなことまでしてくるのか、と思うぐらい一瞬のうちに多彩な駆け引きをねじ込んでくる。大人げないやり方だったが、非常にためになった。
体力を使い切って仰向けに倒れる私を、ラモーヌさんがのぞき込んできた。
「いかがだったかしら」
「非常に参考になりました。でも悔しいですね」
「そう、なら頑張りなさい」
「は~い」
実力差はわかっているがここまで手玉に取られてやはり悔しくないわけではない。
いつかは、ラモーヌさんも、マルゼンさんも追い抜けるぐらいのウマ娘になってみたいものだ。
そう思って立ち上がろうとしたが、疲労困憊だった私の体は言うことを聞いてくれずにまた地面に逆戻りするのであった。
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