ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話   作:雅媛

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7 マルゼンスキーさんの結婚式

 マルゼンスキーさんとトレーナーさんの結婚までの道のりは長かった。

 

 二人が知り合ったのは私が生まれる前のはずだ。そこからトレーナーとして契約して、トゥインクルシリーズを駆け抜けて、ドリームトロフィーシリーズに移籍してもずっと一緒に頑張っていたのは知っている。

 とはいえここまでたどり着くのはちょっと長すぎたのではないかと思う。

 私の知る限りでも卒業してからどころか、同棲を始めてからも結婚まで5年を超えている。

 こうなってしまった理由は二つ。トレーナーさんが朴念仁でヘタレていたことと、マルゼンさんがそれ以上に乙女でヘタれていたことがあるだろう。

 

 トレーナーさんの方は、まだわからないでもない。

 担当に在学中に手を出すと追放からの駆け落ち確定なので、トレーナーさんは皆鋼の意志を持っていると聞く。それを乗り越えて卒業したからさあうまぴょいだと切り替えることができるものではないだろう。あと、マルゼンさんの場合、トレーナーさんの年齢が15も上なことは結構気にしていたので、そのあたりも考えればギリギリ無罪と言ってもいいような気がする。まあヘタレだが。

 問題はマルゼンさんの方だ。いつもの積極性が鳴りを潜め、わかりにくいアプローチに終始していたから伝わるわけがない。気づいてほしいという妙な乙女心を出してしまって全然トレーナーさんに伝わってなかった。トレーナーさん以外には比較的あけすけに言うから全部伝わっていたが。

 

 最終的にマルゼンさんが発情期に押し倒したことで結婚まで至ったが、それなら最初から押し倒していればよかったのではないかと思ってしまうのは私だけではないはずだ。

 とはいえ二人とも結婚というステージまでどうにかたどり着いたのだから、盛大に祝うべきだろう。

 

 そして結婚式に参加するとなって問題になったのは、何を着ていくか、ということであった。

 

 

「服がない……」

 

「ないです……」

 

 

 涼しい顔をしてるマックちゃんは置いておいて、私とブルボンさんはこういう公の場に来ていく服がなかった。

 私の服なんて、日ごろ楽に着られるダボダボよれよれのワンピースか、走るためのランニングウェアしかない。

 ブルボンさんなどもっとひどくて、スカートの服すら持ってなさそうである。普段レギンスとシャツだもんなぁ…… ブルボンさん。機能的ではあるが、それで結婚式には出られないだろう。

 

 マックちゃんは社交とかで着るものあるだろうから一人だけ余裕そうだ。

 

 

「私が良くいくお店に連れて行きましょうか」

 

「いやそれはちょっと……」

 

「どうしてですの? 良いお店ですわ」

 

「予算が厳しい」

 

 

 そりゃ物の良さならマックちゃんおすすめの店は絶対いいだろうが絶対お高い高級店だ。庶民のブルボンさんが買うのは難しいだろうし貧乏性の私も多分躊躇する。

 しかし、宛があるかといわれると全くなかったりする。本当ならマルゼンさんに頼りたいのだが結婚式の準備で忙しそうだし、頼るのは難しい。

 

「私の貸してもいいですが……」

 

「ライスは身長足りないし、ブルボンさんは胸とかお尻が入らないでしょう」

 

「そうでしょうね」

 

 

 マックちゃんの胸がないわけではなく、ブルボンさんが超ド級なだけなことはマックちゃんの名誉のために補足しておく。

 

 

「ブルボンさん、普段はどこで服を買ってるの?」

 

「し○むらですかね?」

 

「し○むら?」

 

「服のお店だね」

 

 

 マックちゃんは知らなかったようだ。まあ私も前世知識で知っているだけで今の暮らしには全く縁がないし、こっちの世界にもし○むらがあることに驚きを覚えたが。

 

 

「いろんな服があるから、一度見に行こうか」

 

「新しいお店ですか、楽しみですわ」

 

「マックちゃんが気に入るような服があるかはわからないけど……」

 

 

 ひとまず三人でし○むらへと向かう。

 そして、し○むらの広い店内に大量に置かれた服を見たマックちゃんは大興奮である。

 

 

「いっぱいありますわ!」

 

「マックちゃん、元気だね」

 

「そうですね」

 

 

 そして私とブルボンさんは宇宙ネコ状態だった。張り切るマックちゃんの背中を見送るしかできない。

 ものの10分ぐらいで両手いっぱいに服を持ったマックちゃんが戻ってきた。

 

 

「この辺り、試着してみましょう!!!」

 

「あ、はい……」

 

 

 私もブルボンさんも、マックちゃんに着せ替え人形にされてしまう。

 というか、し○むらってドレスっぽいものもあるんだというのを初めて知った。

 

 ああでもない、こうでもないというマックちゃんが言う。違いは分かるが、どれがいいかなんて私にもブルボンさんにも全くわからない。

 最終的にはリボン付きのふわふわなドレスが選ばれた。3人とも同じ型で色が私のは黒、ブルボンさんのはピンク、マックちゃんのは白だ。

 

 値段もお手ごろであった。

 

 

「三人でお揃いでうれしいですわ」

 

 

 マックちゃんが笑顔でそういうから、私もブルボンさんもそれ以上何も言えなかった。

 まあそれっぽい服が手に入ったからいいか、と家に帰ってお手伝いさんに見せたら

 

 

「あら、他にもドレスありますのに、お買いになったんですね」

 

 

 といわれた。

 クローゼットの奥を漁ったらドレスが何着か置いてあった。どうやらお手伝いさんか誰かが手配してくれていたものらしい。

 

 意外といくつかドレスを持っていることを初めて知った夜であった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 

 

 

 

 そんなこんなで結婚式当日。

 うちの両親も参加予定だが、空港から式場に直行するとのことで私はマックちゃんとブルボンさんと一緒に式場まで来た。

 早速受付をしようと思ったのだが……

 

 

「これは……」

 

「すごい受付係ですね……」

 

 

 結婚式の受付に受付の人として並んでいるのがシンボリルドルフとミスターシービーの二人である。

 いったい何がどうなってこうなったのだろうか。

 しかも勝負服。確かに勝負服はこの世界では正装として扱われているのでどのような状況でも着ていて失礼には当たらないらしいが、本人だって疑いようがなくなってしまう。

 あまり大々的にやらないと聞いていたのだが、もう受付から圧が強い。とはいえマルゼンさんの交友関係なんてよく知らないし、もしかしたら仲の良い後輩なのかもしれないのだけれども。せめて違う正装にならなかったのだろうか。

 一緒に来たマックちゃんもブルボンさんも絶句しているし、他の人たちも若干受付を遠巻きにしていて謎の緊張感が漂っていた。

 

 このままだとしばらく状況が動かない可能性が高い。誰かが行く必要があるが…… しかたない。私が最初に行こう。

 

 

「こんにちは~」

 

「こんにちは。お名前伺ってもよろしいかな」

 

「ライスシャワーです!!」

 

 

 対応してくれたシンボリルドルフさんに子供らしく元気にお返事をする。こういう時は子供らしさを全開にした方がいいだろう。

 

 

「ああ、マルゼンスキーから将来有望な子と聞いているよ。いつか共に走れるのを楽しみにしている」

 

 

 ご祝儀を渡し、名簿に自分の名前を書くと、席次表をもらった。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 私が先陣を切ると、徐々に人の流れができ始める。

 一度こうなれば問題はないだろう。

 

 

「ああいうとき、よく最初に行けますね」

 

「取って食われはしないでしょ」

 

 

 マックちゃんが呆れたように言うが、こんな時は子供らしさを前面に出した方がいろいろお得なことが多いのだ。

 

 

「ライスさんの子供っぽいしゃべり方、ちょっと胡散臭かったです」

 

「ぐふっ」

 

 

 ブルボンさんの容赦ない指摘が私の心に刺さった。

 自分でも無理している自覚があるのだから、もう少し容赦してほしい。

 

 

 

 少し待っていると両親も式場に到着した。

 かれこれ半年ぐらいあっていないと思う。

 

 

「おかえりなさい、パパ、ママ」

 

 

 両親のことをどう思っているかといわれると、ちょっと複雑な気持ちになる。

 私は生まれてこの方ずっとライスシャワーだが、不純物として前世の記憶が入っているという後ろめたい感覚がどうしてもある。また、あまり頻繁に会わない以上、両親というのが実感ではなく記号でとらえてしまっている部分があった。

 

 とはいえ養ってもらっているのもあるし、仲良くすることに越したことないと思うのでできるだけ両親との交流は楽しむようにしている。

 

 両親をパパママと呼ぶと、なぜかマックちゃんやブルボンさんは生暖かい目をしていた。

 

 

「ただいま~ ライスちゃん!」

 

 

 母はそういって私を抱きしめる。マルゼンさんの親戚だからか、非常に豊満である。ギュっとされるといい匂いもする。私も母ぐらい身長が欲しいが、残念ながらもう成長が止まってしまっているのでそこまでいかなそうだ。

 

 

「ただいま、ライス」

 

 

 イケオジなナイスミドルの父が続いて私を抱きしめる。

 うーん、何度見てもイケオジである。ギューッと抱きしめ返すと頭を撫でられ、思わず顔がふにゃっとなる。

 

 

「マックイーンさんもブルボンさんもお久しぶりです。ライスと仲良くしてくれてありがとう」

 

「いえ、こちらこそいつもお世話になっております」

 

「私も、父ともどもそちらにはお世話になっております」

 

 

 母が二人に挨拶をしているが、父のぎゅーが終わるとまた母が抱きしめてくる。

 こんな感じでループが始まるとなかなか開放してもらえないのだ。

 

 結局式が始まる直前まで、両親に抱きしめられ続けるのであった。

 

 

 

 

「ライスちゃんのところは仲が良いですよね」

 

「そうかな」

 

「あんなに楽しそうに抱き着いてたのに疑問に思いますか」

 

 

 式直前、お手洗いに席を外した時にマックちゃんに話しかけられた。

 

 まあ、仲が悪いわけではないし、愛されているのは疑いようもない。

 ただ、やはり単純な交流頻度が少ないのもあるし、それは私自身が大人の感性を持ってしまっているためというのが大きいだろう。

 

 普通に考えたら不登校の娘なんて手がかかるはずなのに、多少マルゼンさんのトレーナーさんの手を借りるだけで普通以上に勉強ができる子、なんて普通ではない。

 放任主義気味だが、ちゃんと友だちもいるし勉強もできるから、と不登校を認める親もなかなか肝が据わっていると思うが…… これ以上心配をかけたくないし、中学からはちゃんとトレセン学園に行く予定だ。

 そして会えばちゃんと話を聞いてくれるし、私のために時間をとってくれる。走るのを見せたり、模擬テストの成果を見せたり、自分が成長してるところも見せている。

 噛み合っているし、問題はないのだが、自分に子供らしさがないな、と感じることは少なくない。パパ、ママと呼ぶようにしているのは精一杯の子供らしさアピールだ。

 

 

「ほとんど会ってないし」

 

「名家の子供など皆そのようなものではないでしょうか? 私も月に1回ぐらいですよ、両親と会うのは。トレセン学園に入ればもっと頻度は少なくなるでしょうし」

 

「そっか」

 

 

 そんなものといわれるとそんなものなのかもしれない。

 前世の記憶や、ブルボンさんちの交流と比較しすぎなのだろう。

 確かに名家の親なんて仕事が忙しく、ベビーシッターなどにお任せする人がほとんどと聞くし、そう珍しい話でもないのかもしれない。

 会う頻度の割には仲が良いと言われればまあそうだ。

 

 

「やっぱりご両親と仲が良いと思いますわ。ライスちゃんがそんなに悩むの初めて見ますもの」

 

「そう? そうかも」

 

「それだけ大事ってことですよね」

 

「そうかも」

 

 

 よそでもこんなものか、と思うと多少気持ちも楽になる。

 少しすっきりした気持ちになって、私は結婚式へと向かうのであった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 

 

 

 

 さて、マルゼンスキーさんの花嫁衣装だが、素晴らしかった。

 もう、本当に、すごくすごくよかったです(語彙力死亡)。

 

 指輪交換やら、誓いのキスやら、その後の披露宴でのケーキカットやら、とにかく全部父から借りた高そうな写真機で写真撮影しまくってしまった。

 あまり綺麗すぎて感極まって、最終的に私は謎に号泣していた。もう何がしたいのか自分でもわからないぐらい舞い上がっていたと思う。

 

 

「ライスちゃん、うちの両親より泣いててびっくりしたわ」

 

 

 あとでマルゼンさんが笑いながらそんなことを言っていた。

 それくらい感極まって大騒ぎしていたと思う。

 

 

「ライスちゃんも花嫁さんに憧れるんですのね」

 

 

 あまりに感極まっている私に、マックちゃんがそんなことを言った。

 実際どうだろうか。自分が誰かと結婚するというイメージは確かにあまりわかないが。

 ただ、ウェディングドレスは綺麗だなと思うし、今の私は背は低いが美少女だから、着たら綺麗だろうな、とは思う。そういう意味では憧れがあるかもしれない。

 

 

「花嫁衣装に興味はあるけど、相手が居ないね」

 

 

 結局まとめるとこういうことだ。相手のイメージが思い浮かばないし、男と結婚するとか無理無理カタツムリである。

 まあウマ娘同士とかもないわけではないと聞くが…… 気が合うウマ娘なんてマックちゃんとブルボンさんぐらいだ。気心は知れているが、マックちゃんは名家で美人で引く手あまただろうし、ブルボンさんも美人でクラブでの人気者だしやはりこちらも引く手あまただろう。引きこもりウマ娘の私には過ぎた相手だろう。

 そんなことを考えているとブルボンさんとマックちゃんが私を見つめている。

 だが、その理由もわからず笑顔を返すと、二人はため息をついたのであった。




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