ウマ娘を知らない競馬ファンがライスシャワーに転生した話 作:雅媛
1 トレセン学園入学
私もマックちゃんもブルボンさんも、トレセン学園には無事合格し、入学することができた。
入学の時の首席はマックちゃんがなり、入学式は新入生代表であいさつをしていたのが印象的だったぐらいで終わった。
「ライスさんが主席ではないのですね」
「筆記試験だけならライスの方が上だったかもしれないけど…… 内申とかその辺でライスはダメだったと思うな」
試験対策をブルボンさんとマックちゃんに教えていたため、私の方ができたのではとブルボンさんは思ったようだが、こういう時の首席は通常、各種行事で新入生代表を務めるので、総合的に判断されるものだ。
そして、私はれっきとした不登校引きこもり娘なのだから、新入生代表を務めさせるのは心配になる気持ちはよくわかる。だから内申点なども考慮してマックちゃんの方を主席にしたのだろう。私でも同じ判断をする。
「それにしても制服って何となく落ち着かないね」
「そうですね」
リボンのついた可愛らしいスカートの制服は何となくすぐには慣れなかった。
ブルボンさんなんかは普段スカートをはいているのを見たことないし、余計慣れない感覚があるだろう。
とはいえ、この制服スカートの中が下着ではなくスパッツになっており、めくれあがって中をみられても大丈夫なようになっているから楽だけれども…… 普通のスカートだと走ると中が見えてしまうから走り方も気をつけないといけない。
マックちゃんなんかはミニスカートでも鉄壁を維持したまま走る技術を持っているが、あれはかなりの特殊技能であり、私がやればすぐにパンツ丸出しになるだろう。
何となく二人でもぞもぞしていたら、入学式は無事終わった。
マックちゃんと合流して、3人で続いて向かうは寮である。これから6年間、基本的には寮生活だが、そのルームメイトが発表されるのだ。
途中交代はありうるとは聞いているが、とはいえどんな人になるかで快適な生活ができるかはかわるだろう。
「どんな人になるかな」
「気が合う人がいいですわ」
「そうですね」
そんな話をしながら、寮までたどり着き、部屋の名簿を確認する。
「わ、ライスはブルボンさんと同じ部屋だ」
「本当ですね。マックイーンさんは?」
「私は同級生のイクノディクタスさんという方と同じ部屋のようです」
先輩と組ませて生活の指導をさせたりするのかと思いきや、3人とも同級生同士の部屋になった。とはいえ、ブルボンさんと一緒なら生活はそう困りはしないだろう。時々うちに泊まっていたし、お互いのことをよくわかっている。
マックちゃんの方はイクノディクタスか。馬としてはそれなりに有名だ。前世の記憶を引っ張り出すと、気性難で有名な牝馬で、そこからついたのが当時有名だったサッチャー首相になぞらえて鉄の女である。
マックちゃん、おっとりしてるところあるしいじめられないかだけが少し心配になった。とはいえメジロマックイーンはイクノディクタスが好きだったという騎手の逸話もあるので、案外相性がいいのかもしれないけど……
まああまり心配しすぎてもしょうがないか。
ひとまずマックちゃんと別れて、私とブルボンさんは私たちの新しい部屋へと向かうことにした。
さて、部屋の片づけだが荷物の少ない私たちはすぐに終わってしまったので、運動できる格好に早速着替えてマックちゃんの部屋へと様子を見に行く。
体操着も試着以外では初めて着る。まあ画一的なので特筆するべき部分があるわけではない。ただ、短パンかブルマか選択ができて、私は慣れているのと少しでも軽くて邪魔にならなそうという理由でブルマを選んで、ブルボンさんは短パンを選んでいたぐらいだ。
そういえばマックちゃんも短パンを選んでいた。ブルマの方が速く走れそうだしいいと思うのだが…… 二人の趣味はよくわからなかった。
マックちゃんのことだからおそらく大荷物だろうし、場合によっては手伝うことを考えての着替えと訪問だ。
「マックちゃん、遊びに来たよ~」
ノックをすると、部屋の中からどんがらがっしゃーん! という大きな物音が聞こえた。
慌てて扉を開けてブルボンさんと中に飛び込んだのだが……
「あ」
「え?」
「?」
「え、えっと……」
マックちゃんが眼鏡の女の子をベッドに押し倒していた。
まずいタイミングで飛び込んでしまったようだ。
「あの、ごゆっくり」
「ライスちゃん!? なにをおもったのですか!?」
「私は何も見てません」
「両手で顔を覆っても指の隙間から見てるのバレバレですからね! ブルボンさん!!」
「あのマックイーンさん、私は別に構わないですが」
「イクノさん!? 何を言ってるんですか!?」
「……」
「ライスちゃん! 無言で立ち去らないでください!!」
「……」
「ブルボンさんは無言で見てるの止めてください! 指の隙間から見てるのバレてますって!!」
「もしかして私とは遊びだったのですか?」
「イクノさん!?」
大騒ぎするマックちゃんをからかうのは楽しいがそろそろやめておくか。
一つ分かったのはイクノディクタスさんはとても楽しい人だということだ。
「まあ揶揄うのはこの辺にしておいて…… マックちゃんの手伝いに来たんだけど、どこから手をつければいいかな?」
予想通りマックちゃんの荷物は多かった。動けるスペースが少ないせいで、外で私たちが呼んだときにマックちゃんが体勢を崩してイクノさんを押し倒したのだろう。
ひとまず片づけは手伝った方が良さそうだ。
「服をクローゼットにしまってもらえると助かります」
そういわれたので箱を開けてクローゼットに詰め込む服は詰め込み始める。
手を動かしながら、そういえばイクノさんに自己紹介してないな、と思って話し始める。
「そういえば自己紹介まだだったね。ライスはライスシャワーって言います。マックちゃんの幼馴染だよ」
「ミホノブルボンです。マックイーンさんとの幼馴染です」
「イクノディクタスと言います。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるイクノさん。真面目そうな人だな、という印象だった。
とはいえ即興でマックちゃんをからかうのだから、真面目一辺倒ではなく愉快なところもある人だろう。
イクノさんの方の荷物の片づけはすでに終わっているらしく、残っている段ボールはほぼマックちゃんのものだった。マックちゃんの荷物が多いのは、マックちゃん自身の服が多いのもあったが、それ以外にも理由があった。
「尻尾ブラシ6本に髪のブラシ6本…… ブラシ、こんなにいる?」
「それぞれ2本ずつはライスちゃんとブルボンさんのものですわ!」
「尻尾ケア用のオイルと髪ケア用のオイルも10本あるんだけど」
「それも三分の二はライスちゃんとブルボンさんのものですわ!!」
何でマックちゃんが私たちのものを、という話になるが、3人でいるときは大体手入れはマックちゃんがしてくれていたので、手入れグッズの管理はマックちゃんがしていたのだ。
入学前に返してもらえばよかったのだが、私もブルボンさんもマックちゃんに預けるのが当然すぎて、すっかりそのことを忘れていた。そりゃ3人分のケア用品各種が入ってればこんな荷物になるわ……
「お三方とも仲が良いのですね」
「いつもマックちゃんに頼りきりで…… でもマックちゃんの尻尾ケアとかお肌ケアは本当に気持ちいいんだよ!」
「私も自分の髪や尻尾の管理が苦手なので、マックイーンさんにお願いしようかしら」
「イクノさんの!? ちょ、ちょっと気持ちの覚悟をする準備をください!!」
私たちは当然のようにお互いの髪や尻尾を触るが、通常これらは恋人レベルがやることという認識が一般的だ。そんなことを初日からぶっこんで来るなんてイクノさんもなかなかぶっ飛んでいる。
マックちゃんもそれをうまく受け流せずにいるのがちょっと面白い。
イクノさんをよく見る。ウマ娘だから美人なのは当然だが、私やブルボンさんと違いスレンダーで中性的な雰囲気が強く、ズボンなんか履かせたらカッコよさそうな感じだ。
マックちゃんはこういうタイプが好みだったか。幼馴染の見知らぬ一面を知った。
結局私用のケア用品とブルボンさん用のケア用品を置くスペースはマックちゃんの部屋にはなかったので自分たちで管理するようになった。
今まで散々使ってきたから、おそらく自分たちでもできるだろう。
マックちゃんはたぶんイクノさんにしばらくつきっきりになりそうだし、邪魔しないようにしないとな、とブルボンさんと目で確認しあった。
部屋の片づけが終わった後、4人で体操着に着替えて寮内のフリースペースに移動した。皆片付けやらなんやらで寮内が全体的に騒がしいが、フリースペースにはほとんど人がいなかった。
さすがに入学式初日から走ったり本格的なトレーニングをする余裕はなさそうだが、ストレッチなどの軽い運動をするためである。
体操着だが、イクノさんはブルマ派だった。
短パン派とブルマ派が2対2になったので戦力が拮抗している。
「ブルマの方が動きやすいよね?」
「はい、空気抵抗、股関節の可動域、重量、すべてにおいてブルマの方が勝っています。こちらを選ぶのは当然です」
眼鏡をくいっとしながらイクノさんが言う。すごい、秀才系データキャラに見える。
ちなみにイクノさん自身座学は苦手とさっき言っていたので完全なキャラづくりのようだ。みた目は中性的でクール系なのだが、中身はかなり愉快な人だ。
「だって脚の付け根まで見えるのエッチじゃないですか」
「そうです、ライスさんはいつもエッチです」
「エッチなのは見る方じゃないかな!?」
それに対する反論でひどい中傷をうけた。いや別に大事な何かが見えてるわけじゃないし、エッチではないでしょう。エッチと思う方がエッチなんです。
そんな反論をしようと思ったがイクノさんの方が一枚上手だった。
すすすっとマックちゃんに近づくと、マックちゃんの手を取り、自分の太ももを触らせた。
「ぴっ!?」
「マックイーンさんは、私の太ももに魅了されているのですね」
「ぴぃ!!」
慌てて飛びのくマックちゃん。うっすら笑うイクノさん。イクノさん、もともと表情が薄そうだけど、内心は爆笑レベルなのではないだろうか。
同じことを私もブルボンさんにしてみるが……
「……」
「無言で太もも揉むなぁ!!」
「いくらでもお触り可なのかと思いまして」
そのまま両手で太ももをつかまれて揉みしだかれた。
よく触ってるし、慣れているブルボンさんにやったのが失敗だった。全く色仕掛けになっていない。というかマックちゃんに同じことやっても同じように返されて初々しい反応はしてくれなさそうだ。イクノさんと自分の関係性の違いを計算に入れなかった私の敗北であった。
そのままいつものように念入りなストレッチを行う。
イクノさんはいろいろ驚いていたし、マックちゃんは補助でイクノさんの太ももを触るたびにビクビクしていた。
「みなさん、柔らかいですね」
「昔から練習してるからね」
三人とも開脚前屈で胸が正面の地面につくレベルだ。
昔は顔までついたが、私とブルボンさんは胸部装甲が邪魔で顔がつかなくなってしまったが。
一方でイクノさんの方は結構固い。これを柔らかくするには時間がかかりそうだ。
のんびりストレッチをしながら、適当に雑談をするのはいつものことだ。
「そういえば明日からの練習どうする?」
「坂路使ってみたいです」
坂路族のブルボンさんが早速意見を言った。
トレセン学園の坂路は素晴らしいぞという噂はマルゼンさんのトレーナーさんから聞いている。ブルボンさんは特に楽しみにしていたのでその気持ちはわかる。
ただ、結構混むとも聞いているのでいつ行くかが問題だ。
「えっと、門限は朝何時までだっけ?」
「5時半ですわ」
「じゃあ準備運動と着替え済ませて5時半に寮前集合して行ってみる? 朝一なら空いてるでしょ」
「わかりました」
「イクノさんはどうする?」
「よくわかりませんが、私もご一緒させてください」
まあせっかく仲良くなったし、一緒に行きたいよね。イクノさんもやる気のようなので明日は4人で行動になりそうだ。
「二月後には最初の選抜レースがありますしね。ちゃんとトレーニングは積みませんと」
「マックちゃんは出るの?」
「本格化してるかはわかりませんが、ひとまず出てみる予定ですわ。ブルボンさんは?」
「私も一度出てみようと思います」
「ライスには聞いてくれないの?」
「ライスちゃんがレースに出ないわけがないと思いまして。出るんでしょう?」
「でるよ!」
選抜レースは年4回あり、トレーナーへのアピールの場でもあるらいし。
私はレースに出たいから出てみるが、全員が必ずしも出るわけではない。
本格化、と呼ばれる成長段階に入ってからでないとなかなかスカウトなども集まらず、また本当の実力も発揮できないためだ。そのため、選抜レースの出走は本格化が始まってから出るのが勧められる。とはいえ本格化がいつからかは自分しか分からないので、出場は最終的には生徒の任意に任されているが。
マックちゃんやブルボンさんは、自分の本格化の度合いを確かめるために、私は単にレースに出たいから初回から参加する予定である。
「イクノさんは?」
「出た方がいいのでしょうか? あまり自信がないのですが」
「どうなんだろう?」
「メジロ家では初回には参加することがほぼ必須ですわね。本気でレースをしないと本格化しているかはわかりにくいと言われていますし」
「元トレーナーの父からも、初回は参加した方がいいと言っていました。実力が発揮できなければそれはそれで今後の糧になると」
「ライスは何もわかりません!!」
マックちゃんもブルボンさんもいろいろ考えているようだが、私はそんな分析などなにもしていないので一人だけアドバイスできることはなかった。
イクノさんには二人の情報だけで十分だったようだ。
「なるほど…… それでは参加してみます」
「じゃあ4人で頑張ろうね。えいえいおー」
こうして、当面の目標として、私たちは選抜レースを目指してトレーニングを重ねることになったのであった。