パズル&ドラゴンズ ~Sundara Alabēlā Lā'iṭa Pānī lilī ~ 作:ネイキッド無駄八
本当はこんなん書いてる場合じゃないんですがね。でも書かずにはいられない。
というわけで第五話です。
ところで、やっぱりお色気成分がないと読者って着かないもんなんですかね?
『あおーい空 ひろーい海・・・・・・ こんなにいい気分にひたっている私をじゃまするのは・・・だれだーーー!!』
突然何のモノローグが始まったのかと驚いた奴もいるかもしれないから説明しておくと、今のセリフは俺が愛してやまないゲームである『FIN○L FANTA○Y』シリーズの五作目に出てくる魔物武人、ギルガメッシュが三回目に主人公たちの前へ登場した時に放つ一言である。
ちなみにこのシーン、彼はこんなに呑気なセリフを吐いて登場するのだが、この時彼の友人であり、彼に随伴して共に主人公たちの乗船している船へ襲撃を掛けた魔物エンキドウは、『暁の四戦士』という最強人類四人衆の一人と熾烈な戦闘を繰り広げることになる。その途中、戦友であるギルガメッシュが主人公たちの攻撃によりピンチに陥ると、エンキドウは彼の加勢に自らの勝負を捨て、助太刀にやってくるのである。
景色がうんぬんかんぬん宣っておきながら敵に負けそうになっているオマヌケな親友の元へ助太刀に走ったエンキドウの胸に去来した感情とは、いったいどんなものであったのだろうか。
閑話休題。
彼についてのみならず、FFについてはいろいろと語りたいことが山ほどあるが、その話は今はいいだろう。
なぜこのセリフが思い浮かんだのか、そっちの方が重要だ。
失敬、別に重要でもなかった。所詮は戯言だ。
空が、綺麗だ。
地面に背を預け仰向けに寝転がった俺の目には、のびのびと広がる青空が視界いっぱいに飛び込んでくる。雲一つない青空なんて、久々に見た。オールブルーが目に痛いほどだ。
そう、空が綺麗。
「どうしたの? 私の顔、何かついてるかしら?」
そして澄み渡る青空をカンバスに、小首を傾げる美しき女神がひとり。
ああ、良きかな。たいそうイイ。
できることなら、このまましばらくこうやって寝そべって眺めていたい。
そんな気持ちにさせられるような、有り体に言えば『絵になる』ワンショットだ。
「ねぇ、ちょっと。黙ってないで何か言ったらどう?」
黙して語らない俺にしびれを切らしたのか、彼女――カーリーは詰め寄るように身体を接近させてきた。
彼女の美しい顔が、距離が狭まることで更に視界に大写しになる。
近い、近いぞ。うっかりすると鼻面がぶつかりかねない距離だ。
そして、俺の胸上のあたり。こっちも近い。
何がとは言わんが、触れ合うか触れ合わないか微妙な距離で、近い。
「もう、どうしちゃったの? ねぇ、聞いてる? 感じ悪いわよ?」
どうやら、俺が若干不埒な視線を巡らせていたことには気づかなかった様子だ。
彼女は変わらずだんまりを続ける俺に対し、そろそろイライラし始めているようだ。
もうこのくらいでいいだろう。
「……ふたつ、言いたいことがある」
「あ、やっと喋った。急に黙り込むから、ナニゴトかと思ったじゃない。で、なにかしら?」
ようやく沈黙を破った俺に対し、安堵するかのように顔をほころばせながら、カーリーは応えた。
「ひとつ、あまりにも綺麗だったもんで、つい言葉を無くして見入っちまったよ。青空が目に眩しい。綺麗な空だ」
「なによそれ。そんな理由で貝になってたの? 空模様に見とれる前に、もっと他に讃えるべき美が目の前にあるんじゃなくて?」
「ははは、そりゃ確かにそうかもしれないな」
ふむ、ストレートに褒めるべきだったか。相変わらず、女というのは難しい。
「では失礼ついでに、ふたつめ。よろしいか?」
「聞いてあげましょう。言いなさい」
促すように、彼女が目を細めた。
俺はひとつ息を吸い込み、答えを発した。
「とりあえず、まずはこの恥ずかしい体勢をどうにかしたほうがいいと思うんだ、俺は」
「……あら、ごめんあそばせ」
指摘されてから気づいたのか、カーリーは俯瞰気味に上体を起こした後、気まずげな様子で目を逸らした。
簡単に状況を説明しよう。
俺は今、仰向けで地面に寝そべっているのだが、その上には彼女、カーリーが俺を地面とサンドイッチするようにのしかかる形になっている。
その上さらに、彼女が間合いを詰めてきたせいでふたりの距離はより縮まり、とりあえず、なんだ、いろいろ近い。
一言で言うならあれだ、俗に言う『床ドン』だ。
ついでに言うと、彼女のマウントポジションが、なんというかその、腹の辺りではない。
より正確に言うなら、彼女は俺の下腹部下方、丹田のさらに下らへんに腰を下ろしている。
うん、傍から見たら、非常に正常位な感じに見えているはずだ。
青空の下で身体を重ね四肢を絡ませる男女。うーん、問題しかないな。
この世界に警察があるのかどうかは知らないが、異世界に来ていきなり犯罪を、それも性犯罪をやらかすのは、さすがに節操が無さすぎるというものだろう。
ハーレム上等のラノベ主人公ならいざ知らず、モテた経験皆無の俺のような根暗には、このエロハプニングな状況は辛すぎる。嫌な汗と嫌な動悸が止まらないだけで興奮など欠片も湧いてこない。やんぬるかな。
ひとまず、俺は俺の俺が俺を抑えられなくなる前に手を打つことができ、安心したものだった。
「むぅん。私、あまり魅力無いのかしら。あなたのあなた、まるで平常心だったわ。これはもっと修行する必要があるわね」
「節操が無さ過ぎるのはお前かよ」
――――――――――――――
再び、閑話休題。
「さて、改めまして……」
はじまりの塔、その屋上。おだやかな陽光が心地よい、抜けるような青空の下。
居住まいを正し咳払いをひとつした後、神戸は切り出した。
「まさかいきなりフェス限の、それもだいぶ強力な神を引き当てることになるとは思わなかった。大変嬉しいよ。歓迎しよう、カーリー」
「ええ。戦いの女神たるこの私を召喚できたこと、光栄に思いなさい。今この瞬間より、全ての戦の勝利はあなたのものよ、カンベ」
神戸の歓待の言葉に、得意げな様子で女神は応じた。
「さすがはインド神話における戦いの女神、血と殺戮のカーリー・マー(黒い母)。戦いにおいてあなたに敵う者はいますまい。その闘志、凄絶の一言に尽きますな」
「あら、私は光の女神よ。血と殺戮だなんて、そんな野蛮なものは私の領分じゃないわ。私が望むのは華麗なる勝利、それだけよ。この私を召喚せしめたあなたの力、単なるクジ運だけではなかったと、そう期待してもいいのかしら?」
「ははは、せいぜい善処させていただきますよ。美人の前で張り切るのは、男の性ですからな」
「お上手。力だけでなく美しさも讃えられたとあっては、私も張り切らざるを得ないわね」
はははは、ほほほほ、と青空の下でしばし笑声が響く。
「……さて、茶番はこのくらいにして」
ひとしきり笑いあった後、神戸は先のおどけた口調を戻し、話題を切り替えた。
「二、三、質問がある。ずっと誰かに尋ねたくて仕方がなかったんだが、生憎と機会に恵まれなくてな。ようやく話ができる相手と巡り会えたんだ、答えてくれるよな?」
「断る理由もないわ。言ってみなさい」
神戸の言を受けたカーリーは、腕組みしつつ続きを促した。
「ありがとよ。じゃあまずはひとつ、これが一番気になってたんだが……」
周囲に視線を、とりわけ空に巡らせて神戸は問いを投げかけた。
「ここは、というより、この世界はなんなんだ?」
はじまりの塔の前で目を覚ました時から今に至るまで、彼の頭を悩ませ続けていた疑問の最たるものがそれだった。
自分が今見上げている空は、今座り込んでいる石畳は、今まで出会った『モンスター』たちは、そしてこの世界は、いったいなんだというのか。
彼をここに送り込んだ、とある人物によれば、ここは『ゲーム』の世界であるという。
この世界の正体。抱えた数多の疑問を解決するには、それを解明することこそ最善だと神戸は判断した。
答えを待つ神戸に対し、カーリーは唇に微笑を乗せつつ応じた。
「ある程度、察しは付いているんでしょう? 概ね、あなたの予想している通りの世界よ。ここは」
「へぇ… 俺は今、かーなり突飛なこと考えてるんだけどな。それが、当たっていると?」
「あなたは一度、死んでいるんでしょう? なら、今こうして私と会話できて存在している以上、もう何が起こっても不思議ではない、とは思えないかしら」
「それはそうなんだが、俺も一応いい歳を過ぎた男としては、にわかに認めがたいもんで… マジで、そうなのか?」
頭痛をこらえるようにこめかみを抑え、神戸は反駁した。
「じゃあここはマジで、『パズル&ドラゴンズ』の世界ってことなのか…?」
「ティーケ (そのとおり)」
カーリーは笑顔で首肯した。
「マイ、ガー……」
辟易したかのように空を見上げ、盛大に息を吐き出す神戸。
「とんだファンタジーもあったもんだな。一度死んだと思ったらカミサマに呼ばれて転生、そんで生き返った先はゲームの世界、加えてロケーションはソーシャルゲームと来たもんだ。俺の命はそんなに軽いってのか?」
「いいじゃない。生き返ってまでつまらない資本主義学歴社会に戻りたいの? 転生した先は魔法と冒険の世界、そこで男は勇者となる。夢があって素敵だと思うわよ」
「小市民根性が抜けないもんでね、おとぎ話の大冒険は俺にはちっと荷が重い。とっとと懐かしき資本主義学歴社会に帰りたいんだよ。……で?」
「で?」
「………」
「………?」
「…いや、もっと他に無いのか?」
「他にって?」
不思議そうに首を傾げるカーリーに、神戸は頭を振って質問を続ける。
「この世界についてだよ。もっと説明してくれ」
「説明、ねぇ。例えば?」
「えーっと、まずは世界観だな。この世界では様々な神々が覇権を賭けて争っているだとか、伝説の大地には龍王が君臨していたりだとか。そういうの」
「知らないわ」
一刀両断だった。
「いや、知らないってお前…」
「知らないものは知らないわ。仕方ないじゃない」
「…じゃあ、もっと根本的な話だ。この世界、作ったのはいったい誰なんだ。やっぱりあの『カミサマ』か? だとしたら、いったい何のために?」
「知らないわ」
「……この世界がパズドラ準拠だとして、俺みたいな人間族は存在してるのか? やっぱりモンスターしか居ない感じか?」
「知らないわ」
「………いったい、俺はこの世界で何をしたらいい? どうすれば、元の世界に帰してくれる?」
「知らないわよ。それはあなたの事情じゃない」
「じゃあお前はいったい何なら知ってるんだ!!」
痺れを切らし、神戸は思わず声を荒らげて怒鳴り散らした。
やれやれ、と言いたげな様子で肩を竦め、カーリーは落ち着けと手で神戸を制した。
「考えてもみなさい。私は、なにかしら?」
「あぁ? なにって…… 戦いの、女神?」
「そうね。戦いの女神、カーリーよ。この私にとって、戦いこそが全て。俗世の有象無象なんて、戦神である私の歯牙にもかからない瑣末なこと、ってワケ。決して私が無知だからとかではないわ。わかったかしら?」
「一瞬納得しかけたけど、かなり無茶苦茶なこと言ってるなお前」
エッヘンとばかりに胸を張りあくまでも自信満々な様子のカーリーに、こいつ本当に大丈夫なんだろうか、と神戸は胸中に疑念が渦巻くのを禁じえなかった。
「お前さっき言ってただろ、ここはパズドラの世界って。じゃあ何かしらあるだろ、モンスターの生息地、ダンジョンの場所、ゴッドフェス、エトセトラ… なんでもいい、情報があるならなんでもいいんだ」
「確かに、ここはパズドラの世界とは言ったわ。だけど、私が持ってるのは『パズル&ドラゴンズ』ゲーム本編の知識、その程度よ。私は、あなたに召喚されて
カーリーの応えに、神戸はこれまでで一番の驚愕を覚えた。信じられない、といった面持ちで続ける。
「嘘だろ…… てことはお前、本当の本当にカーリー・マー、マジモンの神様だってことなのか?」
「最初からそう言ってるじゃない。戦いの女神との拝謁の誉、光栄に思いなさい、って」
口を尖らせて抗議の表情を見せる目前の女神の姿に、しかし神戸はただただ頭を掻くしかなかった。
「そうは言ってもなぁ… いきなり私が神様ですなんて言われて、それをハイそうですかと受け入れられるほど、俺はオメデタイ思考は持ってないんだが」
「くどいようだけど、あなたは一度死んで、『カミサマ』によってここに跳ばされてきたんでしょう? あなたはもう、一人目の神に出会って、その御業に触れているじゃない。その『カミサマ』は信じられても、私のことは信じられないの?」
尖らせた口に、プラスして頬も膨らませてカーリーは不満を露わにする。
神戸は頭を掻いたまま、困惑した表情でそっぽを向いてぼやく。
「俺はそもそも、あのヒゲにしろお前にしろ、どちらも信じちゃいないんだがね… 今も、さっさと夢から醒めないかと期待して待ってる真っ最中だ」
「往生際が悪いわよ、受け入れなさい。それとも、受け入れたくないのかしら?」
「正直な。ゲームの世界だなんて、もっと他にましな場所がいくらでも……」
「己の死は、受け入れられない?」
「………………」
カーリーの反駁を受け、神戸は押し黙った。表情は変わらなかったが、そっぽは向いたまま眼差しは細められている。
場にしばし沈黙が流れる。
神戸はカーリーの言に否定こそ示さなかったが、その沈黙が全てを物語っていた。
カーリーもそれ以上追及することなく、ただ彼が口を開くのを黙して待った。
しばらくし、何事もなかったかのような調子で神戸は再び口火を切った。
「まぁ、あのヒゲは露骨に胡散臭かったけど、お前が神様だってことはなんだか信じてもいい気がするな。それより、この世界については知らないのに、俺がこの世界に転生したっつう事情の方はご存知みたいだな。それはどういうことなんだ?」
話を逸らそうという神戸の意図は見えたが、敢えてそれには触れることなくカーリーはクスリと笑って答える。
「私はあなたに喚ばれたのよ。あなたに関してなら、多少はね。もっとも、あなたをここへと跳ばした『カミサマ』の方はさっぱりよ。少なくとも、インドの神ではないわね」
「そして、パズドラの神タイプモンスターでもない?」
「そのとおり」
やれやれ、と嘆息しながら神戸は立ち上がり、尻を払った。
カーリーも風を巻いて、その場で浮き上がった。
「結局、収穫はなし。裸一貫でこの世界に挑むことになったわけだ。いよいよ、気合入れて掛からなきゃな。改めて、よろしく頼むカーリー」
「はいな。合点承知、よ。カンベ」
ニヤリと笑みを浮かべる神戸に、カーリーもまたニコリと笑みで返す。
うーん、と伸びをし、神戸は塔の屋上から眼下を見下ろした。
「さて、ひとまずここを降りるとして、その後だな。どこを目指そうか。とりあえず、森を出なきゃ始まらないか。で、とりあえず落ち着ける場所を………あ」
「ん? どうかした?」
突然何かを思いついたかのように呟きを洩らした神戸に、カーリーが反応した。
「そういえばカーリー、お前は知らないって言ったが、この世界に人間が居るのかどうかはまだなんとも言えない段階なんだよな。ひょっとしたら、街みたいなのが存在して、人間も居るかもしれないじゃないか」
「なるほど。まずは人間を探して、情報および助けを仰ごう。そういうことね」
「おうよ。最初の目標が見えたな。よっし、そうと決まれば!」
「おっと。そうはいかねぇなぁ、
「なっ……!?」
突如として、神戸のものでもカーリーのものでも無い、第三者の声が場に響き渡った。
声のした方角へと目を向けた神戸は、瞠目して一歩を下がった。
声の主は、上空に存在していた。
その位置は奇しくも先ほどまでカーリーが現れた睡蓮の咲いていた場所、塔の頂上中心部だったが、そんなことは瑣末な問題だ。
そこに居たのは、まさに今神戸が探そうとしていた、紛う事なき
距離が開いているせいで、表情などの細かな識別はできないが、少し小柄な体格だというのはわかった。そう、極めて普通の、人間のシルエットだ。
しかし、その人影は空中に浮遊していた。
そしてその足元を支えるのは、燃え盛る炎の渦だった。
「お、お前… 足が大変なことになってるぞ?」
「問題はそこじゃないと思うわ、カンベ」
至極真っ当なコメントをした神戸を庇うように、カーリーは前へと進み出た。
その口元は相変わらず笑ったままだが、眼差しは凛とした厳しさをもって細められている。
「普通の人間は支えも無しに宙に浮かんだりしないわ。ここがファンタジーな世界だってことで、それはまぁ良しとするとしましょう。だけど、あの炎、あれには心なしか見覚えがあるわ」
「なに? 炎? じゃあお前の知り合いなのか? あいつ」
カーリーの様子から何かを察したのか、神戸も態度には出さなかったが、心の中で警戒の構えを取った。
それらを睥睨して、上空の人影は大仰に手を広げた。
「おうおう、なんだか構えちゃってるな。そんなに気張るなよ。こちとら、何もとって食おうって来たワケじゃねぇんだぜ?」
「そうだったのか。なら、そうと言ってくれれば良かったのに。いきなり上から声を掛けられたから、驚いちまったじゃないか」
人影の言葉に、神戸は警戒をやや緩めて応じた。
故に、話の通じそうな相手で良かった、ひとまず友好的に、と心中でこの後の算段を立て始めていた神戸は、続けられた言葉に対し反応が遅れた。
「ただ単に、テメェらを燃やしてやりに来ただけ………ってこった」
「………は?」
反駁しようとした神戸は、しかしそのセリフを終わりまで口にすることは叶わなかった。
ただ爆炎が視界を染め、身体が宙に吹き飛ばされるのを感じるのみだった。
劫、と凄まじい音を上げ、はじまりの塔の頂上は火の海に包まれた。
はい、第五話でした。
最近、他の方の投稿作品を見るようになったのですが、みなさんそれぞれに味があっていいですね。自分も見れる作品を書けるように精進したいもんです。
さて、突然の襲撃者。その正体は………!?
ってところでまた次回。セイ、ピース!