機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
カイドリア沖 ガルガリン上
「カイドリアの攻撃は陽動で、本命はガルガリン……ということか」
ヒイラー隊隊長、ドラント・ヒイラーは軽い溜息を吐きながら敵機を狙い落とした。
カイドリア沖にはガルガリンが空と海から攻撃を受けていた。ガルガリン艦長、エリオス・テイラーの命令で二機のジムヴィグロリーは対水中戦装備で迎撃。海中のモビルスーツは旧式ということもあり迎撃しているが空中から攻めるモビルスーツに母艦の留守を任されたドラント・ヒイラーは苦戦を強いられた。
ガルガリンの火器とガルガリンモビルスーツ部隊の迎撃によって襲撃部隊の攻撃は勢いを失ったもののこのままいけば押し込まれるのは時間の問題だった。
「全員、命を惜しむな! ガルガリンを落とすことが我らの悲願につながるのだ!」
襲撃部隊の指揮官で元大西洋連邦軍人、ガッシュ・モントはかつて共に戦った者達を相手にする悲しさを打ち払うかのように部下達に命じる。
(そうだ! あの方のために!)
一生仕えると誓った女性の顔を思い浮かべ、モントは奮い立たせる。
「……クッ!」
ガルガリンの死角を突こうと迂回する自機の右腕が吹き飛ぶ。避けることを想定して時間差で放たれたランチャー装備のジムヴィグロリー。その自分の動きを予想した的確な攻撃に、モントは特長のないのが特徴の男を思い浮かべる。
「相変わらず射撃の腕は一級品だな。……敵に回すとこうも恐ろしいとは、ドラント・ヒイラー」
かつてセレーナ・ハーベストの腹心としてセレーナの部隊に所属していたモントは、ヒイラーが所属していたリムバス率いるシュナイダー隊と何度か協同で作戦に参加していた。だからヒイラーのパイロットとしての技量は知っていた。
(……だが!)
それでもモントは被弾を恐れず前へと進む。
「それでも私は退くわけにはいかんのだ!」
友軍がヒイラーを攻撃し反撃で逆に撃ち落とされた間に、モントはガルガリンの真上に位置取るとビームライフルを始めとする武器を乱射。ガルガリンのイーゲルシュタインを始めとする火器、ヒイラー機のビームライフルを破壊する。
しかし一カ所に留まり続けた代償は大きかった。ヒイラーが放ったミサイルが右翼部に直撃。バランスと浮力を失った自機は高度を維持できずゆっくりと落下する。海に落下すれば引き上げることが出来ず、死ぬか捕虜になる。
(このモント、捕まるわけにはいかん! ……どうせ死ぬなら!)
モントは覚悟を決めるとバーニアを一気に点火させる。目指すはガルガリン。それに気づいたヒイラーがモントを近づけまいと撃ち続ける。腕や足、機体のあちこちが吹き飛びコクピットにも破片が飛び散り肉体をえぐる。それでもモントは止まらなかった。
ふとモントは回線をある周波数に合わせた。何故だか自分にもわからなかった。次に自分が言おうとすることがその人物を不利にする可能性はあれど有利になることは微塵もないというのに。
それでもモントは止めなかった。
モントは腹の底から叫んだ。
「セレーナ様に栄光あれぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
あと数秒でガルガリンに衝突し四散する。そう覚悟を決めた直後。高速で突きぬけた何かによってモントは愛機と共にガルガリンにぶつかることなく四散した。
なぜ回線をある敵に聞こえるようにしたのか、その理由が分からぬまま。
「……セレーナ様に……栄光あれ?」
耳に入ってきたかつての仲間の絶叫に、ガルガリンに特攻をしようとしたモントをトップスピードのモビルアーマー形態で貫いたミレイユは言葉を失った。
サンライズがMA形態での体当たりでモントを撃破した頃。
「くっ!」
三機のモビルスーツに囲まれたジムのパイロット、ステア・スノーは苦しげな表情を一層濃くした。
ミレイユ率いるパットン隊がカイドリアの救援に向かった隙を狙っていたかのように突如ブルーコスモスと思われる部隊に空と海から襲撃された。
残ったヒイラー隊は二手に分けて迎撃。海中を担当したヒューズ・レインとハボック・サニーは敵が少数だったこともあり辛うじて撃退に成功した。
「少佐たちがいないからってガルガリンを撃墜できると思わないでよね!」
自身に向けて乱射するダガーLにステアは被弾を覚悟で間合いを強引に詰めるとコクピットを貫く。
仲間を倒されたことに怒った敵機がステアに向けて発砲する。それを貫いた敵機を盾にして銃弾を防ぐ。
貫いた敵を盾に攻撃を防ぐと急いで貫いた敵から離れる。爆風も加わって適度な距離を稼ぐことが出来たステアは味方を撃ったことに動揺する左右の二機にビームライフルを向ける。
右にいた敵機はコクピットを貫かれ海に落下。海中で爆発し水柱を上げた。
左にいた敵機は動揺しつつも仲間がステアに攻撃されたことで瞬時に正気を取戻し半身ずらす。右肩を被弾しビームライフルを持っていた右腕が海へと落下する。
覚悟を決めたパイロットが左の盾をステアに投げるとビームサーベルを抜いて頭部バルカンを乱射しながら突っ込む。
(ビームの間合いじゃない!)
ステアはビームライフルを突っ込む敵機めがけて投げ捨てる。払うように切り捨てる敵機。盾を構えながら体当たりするステア。ビームライフルを切り捨てた敵機は対応しきれず間合いを詰められる。脇腹を刺すようにビーム刃がコクピットに伸びた。
「やった! ……え?」
最後の敵を倒したことにホッとしたステアに、悪あがきとばかりに敵機のビームサーベルがジムの翼部を焼いた。
バランスが崩れたのを制御しようとした結果、ギリギリだったエネルギー残量が飛行を維持出来ず海へと落下し始める。
「ま、まずい!」
海に落ちることを覚悟し衝撃に備えたステア。ふと宙に浮かぶ感覚を覚える。
「え?」
確認するとそこにはミレイユと共にカイドリアに向かったクレアのジムが自機を支えていた。
〈大丈夫、スーちゃん?〉
「……た、助かったわ。クーちゃん」
海に落下しそうになった自機をキャッチしてくれた友人に、ステアは感謝を述べた。
「あ、あぁ……」
ガルガリンを攻撃したモント隊最年少、シクソンは恐怖で顔を
「ば、馬鹿な……こっちは水中用モビルスーツ4機にジェットストライカーパック装備のモビルスーツが自分含めて8機あったんだぞ? なのに……」
ガルガリンを撃墜できると信じて出撃したシクソン。しかし現実は自分を残しモント以下全員戦死。
「あ、ああ、あああ……アアアアアアァァァァァァアアアアアアァァァァァァッッッ!!」
勝てると思われた戦いが敗北という絶望と死の恐怖に、シクソンは悲鳴をあげるとガルガリンに背を向け一気にバーニアを噴出させた。
ブルーコスモスの理念もガルガリンを撃墜しなければブルーコスモスの新盟主、ミケールが危うくなるなどの考えは彼の中にはなかった。
生きたい! 一分一秒でも長く!
生への
そんなシクソンは機体を静止させる。モビルアーマー形態で追い抜いたミレイユのサンライズがモビルスーツ形態に変形するとビームライフルを抜いて自機に標準を合わせていたからだ。
〈降伏しろ。そうすれば生命の保障は確約する〉
ミレイユの言葉に、シクソンは生きられる安堵で涙を流した。