機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第1章-5 祈り

 ガルガリン 甲板

 太陽の方角で、ミレイユは手を握り、目を閉じていた。

 いつ頃からやり始めたかは定かではない。物心ついてから行っていた瞬間だ。それが身体に沁み込んだからか。どんなに疲れていても、日の出には目が覚めてしまう。

 そして祈るのは世界平和、死んだ者たちへの鎮魂。誰もが手を取り合い笑い合える世界。

「少佐」

 振り返るとそこにはヒューズとハボックがいた。

「あぁ、お前たちか。昨日は大変だったな。よく眠れたか?」

「えぇ」

「はい」

 部下の返答にミレイユはわずかに頬を綻ばす。

「……」

「……」

「……」

 三人の間に静かな時間が流れる。

 二人は知っている。ミレイユが朝日に向かって人々の幸せ、そして仲間の冥福を祈っていることを。

「少佐、俺たちが死んだら……悲しみますか?」

「まず死なないで欲しいけど……悲しむわね」

 ヒューズの真面目な顔に、ミレイユは少し悲しげな表情で答える。

「じゃあ死んだら祈ってくれますか? 飲み過ぎて熟睡している少佐の枕元に水溶き片栗粉入りのコンドームを置いた俺でも」

「その前に死なないで。あと祈るかどうかは考えさせて」

「……」

 そんなやりとりをハボックどんな表情をすればいいか分からず立ち尽くした。

 

 

 ガルガリン ブリッチ

「……ハァ!」

 副官のサムソン・プレスコットの重い溜息を、ガルガリン艦長、エリオス・テイラーは表情には出さないものの同じような気持ちで聞いていた。

 捕虜にしたシクソンから得た情報を元に、潜伏していると推測されるイルザを中心にミケール捜索に着手したガルガリン。しかしその日を境に各地でテロや麻薬組織が活発化したのだ。

 まるでガルガリンが災厄を持ち込んだと言わんばかりに。

 調査の末、『イルザにミケールがいるというのはフェイク』というのを確信したテイラーだったがコンパスが人命救助も担う組織ということで活発化する犯罪に介入しないわけにはいかず、ミケール捕縛という観点から無駄な時間を過ごすことになった。

 

 

 ガルガリン 格納庫

「主任……例の件ですが」

「う~ん、痛い問題だねぇ~」

 重苦しい表情の部下からの報告に茶髪のショートボブの女性、ウズメ・アマノは重い溜息をつきながら頭をかいた。

 技術士官でありながら「0から作った我が子の姿を見届けたいから」という理由で整備主任も務める変わり者。なおミレイユの恋人であるリムバス・シュタイナーがサンライズガンダムの試験運用で不慮の事故で亡くなった際。ミレイユがショックで自室に引きこもった時には部屋の前でストリップを始めてミレイユを部屋から自主的に出させたことのある人物である。

「ウズメ」

「? ……おおぉ、これはミレイユ少佐。また差し入れありがとうございます」

 手に袋を持ったミレイユを確認したウズメはパァーと明るい顔で奪うように袋を受け取ると部下たちに向かって「ミレイユ少佐から差し入れを頂いたぞ!」と叫ぶ。

「おいおい……」

 そう言いながらもミレイユの顔には笑みがこぼれた。

「いやぁ、毎度毎度差し入れ感謝しますよ!」

「いや、感謝するのはこちらの方だ。我々が戦場に向かえるのも些細な損傷も見逃さず最善の状態に機体を修理する整備班あってのものだ。整備班には本当に頭が上がらない」

「相変わらず謙虚ですねぇ~。自惚れている勘違いパイロットどもに聞かせてあげたいお言葉ですわ! あ、ガルガリンのパイロットにはそんなヤツはいませんが」

 ギャハハハッ、と豪快に笑うウズメに反して、ミレイユの顔が少し暗く沈む。

「ところで前言っていた件だが……」

 言っていた件。その言葉を聞いた瞬間、笑っていたウズメが困り果てた顔をする。

「サンライズの強化、ですか……」

 う~ん、頭を掻いたウズメが重い溜息をついてから続ける。

「相も変わらず壊れたレコーダーですよ。『過剰な武装は平和維持を掲げるコンパスの理念に反する』の繰り返しですよ。あと……」

 ウズメが俯きながら口を開く。

「『サンライズの試験のことを考えれば危なすぎて許可することは出来ない』……と」

 

 サンライズの試験のことを考えれば危なすぎて許可することは出来ない

 

 その言葉を聞いた瞬間、ミレイユの顔が暗く沈んだ。

 宇宙や地球圏での広範囲の移動での運用を目的に新型可変モビルスーツの開発、サンライズ計画が実行された。

 オーブ、プラントの技術協力もあり必要最低限の武装に留めたサンライズガンダム試作初号機が完成した。その後より武装を強化した二号機を制作、試験運用した。

 そして運命の日。地球降下試験中、機体はモビルスーツからMAに完全に移行することが出来ず空気抵抗などの問題によって機体は空中分解。中に乗っていたパイロット、ガルガリンモビルスーツ部隊総隊長でありミレイユの恋人、リムバス・シュタイナーも二号機と運命を共にした。

 二号機の事故もあり、上層部は『サンライズガンダムはすでにコンパスの理念の元で運用できるだけの性能は有しておりこれ以上の実験は不要』と結論付けた結果。未だ増産されていないもののミレイユが乗るサンライズガンダム試作初号機が『サンライズガンダム』として正式採用機となった。

「上が許可を出さず、それによって開発資金も実験する場所もない。少佐のお気持ちは痛いほど分かりますが……今の段階では少佐の腕でごまかしてもらうしかない、という状態ですね」

「サンライズはいい機体なんだがな……」

 サンライズは運用距離、宇宙と地球で問題なく運用できるかに注目して作られた結果、バッテリー機の中では抜群の機動性と航続距離を持つ名機になった。しかし軽量化のため必要最低限の武装に留めた結果、攻撃性に一抹の不安を持つ部分を持ち合わせてしまった。

「……高性能機に乗ったエースパイロットと出会わないことを祈るしかないわね」

「……」

 ミレイユが自虐混じりに言った言葉に、ウズメは反応することは出来なかった。

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