機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第2章-1 エルドア攻防戦前夜

「よし。策はまとまった」

 これから始まる一戦を前に、ソニファーは会議室へと向かっていた。この日のために情報収集に努め、これからエルドアで起こる激戦を劣勢のブルーコスモスを一気に吹き返すターニングポイントにするため地下通路を巡らすなど水面下で準備を重ねてきた。

「皆、これから起こる戦いのために尽力した。その尽力を無駄にしないため、何十何百とあらゆるシミュレーションをした」

 戦いに絶対はない。しかしその中で一番可能性の高い策を考え抜いた。それを実行に移すだけ。

 そう自信に満ちた顔で会議室へと向かう。その直後だった。

「ハァ、ハァ……リーブラン少佐。急ぎお伝えしなければいけないことが!」

 息を切らせた諜報員がソニファーに耳打ちをする。

「……! よく知らせてくれた。再び任務に戻ってくれ」

 敬礼をすると部下は足早にソニファーの前から姿を消した。

「まずいことになった……」

 ソニファーは親指の爪を噛む。諜報員が伝えた情報、それは『ガルガリンがファウンデーションに向かってアルダまで来ている』というものだった。

(アルダとなると……)

 すぐさま脳内地図でガルガリンがいる位置とファウンデーションを確認する。

「ギリギリではあるが……ミケール大佐を捕縛するための共同作戦の決行時間に間に合う。あと一日……いや数時間遅れてくれれば!」

(いや、現実に目を背ける時間が無駄だ! すぐに策の修正を!)

 これから始まる作戦会議に向かいながら、ソニファーは戦力の配置と捻出に思考をフル回転させた。

 

 

 

 岩山の砦跡 会議室。

 コンパス、ファウンデーション、ユーラシアの合同作戦が今まさに決行される前夜。ミケールを始めとするブルーコスモスの主要人物達が作戦会議を行っていた。

「それでは作戦を説明する」

 ミケールの腹心で『ブルーコスモスの軍師』と呼ばれる黒い炎を模した仮面をつけた女性、ソニファー・リーブランが机に色分けした駒を動かしながら説明する。

「明日。コンパス、ファウンデーション、ユーラシアによるミケール大佐の捕縛を目的とした合同作戦が行われる。しかし実際に動くのはコンパスのみでファウンデーションとユーラシアは国境付近で待機。この連携の隙をつく」

「……」

 ミケールを始めとする幹部達はソニファーの次の言葉を待つ。

「まずミレニアム。これはラクス・クラインとファウンデーションの防衛のためファウンデーション王国に留まると予想される。そしてミレニアムの防衛としてルナマリア・ホークかアグネス・ギーベンラートのどちらかを残すはず。もっとも情報によるとアグネス・ギーベンラートは自己主張の激しい好戦的な性格とか。なので残るのはルナマリア・ホーク」

 そう言ってソニファーは王宮を示す場所にラクス・クラインを表すクイーンとミレニアムを表す白のルーク、ルナマリアを表す白のビジョップを置く。

「我々が意図的に流した情報通り、キラ・ヤマトを始めとするモビルスーツ部隊がこの砦を攻めるために侵攻。そして前線で指揮するのはアークエンジェル」

 ソニファーはキラを表す白のキング、アークエンジェルを表す白のルーク、シンやアグネス、ムウ、ヒルダなどを表す複数のナイトやビジョップ、ムラサメ隊を表すポーンの駒を砦の方へと動かす。

「そして我々が外に出ないための封じ込めと避難民の保護のためにファウンデーションとユーラシアがこのように展開するはずです」

そう言って軍事境界線にファウンデーションを表す黒い駒とユーラシアを表す緑の駒を並べる。

「そして先ほどガルガリンがファウンデーションの首都イシュタリアに到着予定という報告を受けました。おそらくは度重なる連戦と長距離からの移動に休みはほぼ無しのガルガリンはアークエンジェルの予備戦力として出撃するでしょう」

「少佐、ガルガリンがイシュテリアに残るという可能性は?」

「あいつの性格を考えてそれはない。必ずガルガリンは前に出る」

「……わかりました」

あいつとはガルガリン艦長、エリオス・テイラーの事だろう。そう考えた顔に大きなアザが特徴的な幹部、グレーニはそれ以上の質問をやめた。

 ソニファーはアークエンジェルの後方にガルガリンを表すルーク、ガルガリンモビルスーツ部隊を表すナイト、ビショップ、ポーンを置く。

「ガルガリンが来るのは予想外でしたが、それでも数では我々の上。しかし度々の作戦によって整備などが十分に行き届いておらず苦しい状況。さらにキラ・ヤマトだけでなくシン・アスカやムウ・ラ・フラガ、ヒルダ・ハーケンなどの歴戦の猛者も参戦するとなると……敗北は濃厚と言わざる得ない」

 

 敗北。

 

 その言葉に会議室に重苦しい雰囲気が漂う。

「……それでは我々は座して敗北を待つ、そう言いたいんだな。ソニファー?」

 否定的な言動を口にするミケール。しかしその口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

「まさか!」

 上司の笑みにソニファーは微笑を浮かべる。

「それは策を用いず正面から戦った場合の話です。もちろんその未来を打ち崩し我らが勝利出来るかもしれない策は用意しております」

「勝利できるかもしれない、か……」

(本当に楽観的思考がない女だな)

 自分しか聞こえない声で呟いたミケールは部下の言葉を待つ。

「ではその作戦を説明する。まず大佐にはこの砦で指揮をお願いします。そして迎撃には中央にフォイア、右翼にグレーニ、左翼をジャンヌに担当してもらう。大佐の護衛兼キラ・ヤマト達コンパスを引きつける囮として」

「……囮、ですか?」

「あぁ」

 呼ばれた三人の中で一番歳が多いフォイアの言葉に、ソニファーは砦に置いていた赤のクイーンと何個かの駒を、アークエンジェルを現した白のルークの後ろに置く。

「このエルドアには地下通路が幾重にも巡らしている。それを使って私とヒートを始めとする少数精鋭のモビルスーツ部隊で奴らの後方に回り手薄になったアークエンジェルを奇襲し撃墜。その後態勢が整う前に後方のガルガリンを襲撃。これを一気に撃沈させる、もしくは大ダメージを与えた後で地下通路を使い撤退」

「お待ちください!」

 金髪で年相応の女性、ジャンヌが立ち上がり声を上げる。

「モビルスーツしか取り柄のないスケベ野郎のヒートはともかく、少佐は我がブルーコスモスの頭脳とも言える重要人物。タイミングを誤れば最悪アークエンジェルとガルガリンの挟撃を受けます。少佐が奇襲部隊の隊長をする必要はないかと思います!」

 向かい側で「誰が『モビルスーツしか取り柄のないスケベ野郎』だ!」と激高するヒートを隣に座るグレーニがなだめる。ヒートが落ち着くのを待ってからソニファーは口を開く。

「この作戦は適切な攻撃とタイミングが重要だ。それを見極められる適性が最もあるのは私を置いて他にいるまい」

 一見すれば傲慢に見える発言。しかしそれが事実であるのを心からわかっている幹部達は静かに頷く。

「それに今回の奇襲には私の愛機が最も適切だ。適切な場所に適切な人材を配置する。これは戦場だけでなくあらゆることへの鉄則だ」

「……わかりました」

 心では納得してないものの、ソニファーの説明は正しいとジャンヌは席に座る。

「ジャンヌ。心配してくれる気持ち、ありがとう」

 自身に感謝する言葉に子どものようにパァと明るい笑顔を浮かべるジャンヌに少しだけソニファーは苦笑した。

「少しいいか」

「ハッ」

ミケールの言葉にソニファーが振り返る。

「先ほどからお前はアークエンジェルを撃墜と言っているが。撃墜ではなく拿捕ではダメなのか?その方がキラ・ヤマトや他のコンパスの奴らが動揺するだろう」

ミケールの言葉に各々が「撃墜よりも拿捕の方が効果があるか?」と口々に話し出す。

その意見は次のソニファーの言葉に完全に消え失せる。

「確かにその方が効果的と思います。……ガルガリンがいなければ!」

ソニファーは思い浮かべる。ガマガエルを擬人化させた厳格な義兄、エリオス・テイラーの姿を。

「ガルガリン艦長、エリオス・テイラーはコーディネイターと共存できるという夢物語を信じる行き過ぎた理想主義者 ではありますが、軍人として見るならば必要ならば味方をも攻撃する命令を下せる合理的な面も持ち合わせています。もし我々に拿捕され『アークエンジェルは足手まといだ』と判断すれば容赦なく攻撃命令を下すでしょう 。また……」

そう言って一度区切る。

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスもエリオス・テイラー同様に多くの戦いを生き残った歴戦の猛者。自分が足手まといになるならガルガリンにアークエンジェルを撃沈するように頼むことでしょう。そうなれば士気を下げるどころか仇を討つために我々に対し闘志を燃やす可能性も出てきます。それは撃墜よりも難しい拿捕を行う対効果に反して見返りがないばかりか仇になる可能性がある。なので私は拿捕には反対です」

「……なるほど。よくわかった」

納得した様子のミケールを見ると、ソニファーは盤上に視線を移す。

「話を戻します。アークエンジェルを撃沈させ、返す刀でガルガリンを堕とす!」

 ソニファーは振り上げたナイフでアークエンジェルとガルガリンのルークに突き立てる。ルークは粉々に砕け散った。

「アークエンジェルを撃墜させればモビルスーツ部隊に動揺が走る。それは間違いなくキラ・ヤマトも。そこを!」

 ソニファーはキラを現したキングの前に二つの赤い駒を置く。

「今まで息を潜ませたシースのバスターでキラ・ヤマトが乗るフリーダムを狙撃、やつの翼を打ち砕き飛行能力を奪う! もちろんコクピットを撃ち抜けるのが最善ではあるが……」

 それはキラ・ヤマトならギリギリで回避するだろう、という沈黙を挟みソニファーは腕組みをしている男を見る。

「ソド、お前は他の敵に目もくれず地上に落ちたキラ・ヤマトに一気に間合いを詰めて襲い掛かれ。そして一秒でも早くキラ・ヤマトを殺せ!」

「……はぁ、俺はそんな回りくどいことせずに真正面からやり合いたいんだがな……」

 ソドと呼ばれた男は大きくため息をつく。

「しかしソニファーがそう言うのではしょうがない! よし。このソド、ソニファーにキラ・ヤマトの首を差し出してやるわ!」

「……あ、いや。私としてはキラ・ヤマトの死亡が確認できればいいだけで首を差し出されても困るわけだが……」

 困惑するソニファーに「そ、そういう意味じゃ……」と落胆するソド。そんなソドに「ドンマイです……」とシースと呼ばれた男がポン、と肩を叩く。

「キラ・ヤマトの死亡が伝わればわが軍の士気は上昇し敵軍の動揺は致命的なものになる。その隙を見逃さず全反撃でこれを倒す!」

 ソニファーは砦を攻めるように置かれた白の駒を一つ残らずナイフで破壊していく。地図の上にはブルーコスモスの赤い駒、ファウンデーション本国に置かれたラクスのクイーンとミレニアムのルーク、ルナマリアのビジョップ、ファウンデーション軍を表す黒い駒、ユーラシア軍を表す緑の駒だけが残った。

「一つ質問する」

 ミケールが口を開く。

「作戦に関しては口を出すつもりはない。だがファウンデーションとユーラシアはどうする? 奴らが動かないという保証はどこにもないぞ」

「大佐の心配はもっともです」

 ただ、とソニファーは続ける。

「今回のファウンデーションの目的はあくまで『ミケール捕縛に貢献した』という実績を引っ提げて国際社会に認められること。ユーラシアからすればオーブ、プラント、大西洋連邦の尖兵とも言えるコンパスとユーラシアを抜けたファウンデーションの警戒。どちらも参戦には消極的です。我らかコンパス、どちらかが国境を超えて攻撃するというバカげたことがない限りは参戦することはないでしょう。もちろん念のために……」

 ナイフを扇子に持ち替え、ソニファーは国境線に並べなられた赤い駒の前を叩く。

「エルドアで我々と協同軍が戦闘を行うことでここには避難民が殺到します。その避難民にまぎれて爆弾を爆発させます。コンパスに火中の栗を拾わせ『ミケール捕縛に貢献した』と国際社会に喧伝する果実のみ欲しいファウンデーション軍は『国民の安全』を口実に守りを固める。つまり参戦せずコンパスを見殺しにする、ということです。コンパス、ファウンデーションを良く思っていないユーラシアは静観するでしょう」

「なるほど、納得した」

 ミケールは「他に質問、または異議がある者はいるか?」とソニファー以外の部下達の顔を見る。部下達は全員小さく首を横に振った。

「よし、これより我らの崇高な理想を理解しないばかりか阻もうとする愚鈍な奴らを排除する聖戦を開始する。全員持ち場に着け!」

 全員が作戦に向けて移動する中、ソニファーは心の中で呟いた。

(不安要素といえば。ファウンデーション王国の調査に来たアスラン・ザラがファウンデーションに潜入してから所在がわからないこと。私は諜報部隊に『キラ・ヤマト。ラクス・クライン。シン・アスカ。マリュー・ラミアス。ムウ・ラ・フラガ。アレクセイ・コノエ。エリオス・テイラー。ミレイユ・パットン……そしてアスラン・ザラの所在は24時間いつでもわかるようにしろ』と厳命しており諜報部隊は忠実に実行していた。それがアスラン・ザラだけファウンデーション王国に潜入してからわからなくなったということは──)

「少佐?」

 心配そうに声をかけるヒートにソニファーは「何でもない」と首を横に振る。

(アスラン・ザラ。あの男はキラ・ヤマトやシン・アスカと同じように戦場をひっくり返しかねない状況を作ることが出来る男。あの男が動く前に全てを終わらせる。それしかない!)

 

 あらゆる情報から敵戦力を最小化させ自軍を最大化させる策を考え抜いた自分を信じるだけ。

 

 これが正解なはずだと一抹の不安を振り払い、ソニファーは歩き出した。

 

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