機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第0章-2 セレーナとミケール

 ブルーコスモスが秘匿(ひとく)としている基地で、一人の男がとある部屋の前に立っていた。

「……た、大佐。ご用件があって伺いました。入室よろしいでしょうか?」

「……ヒートか。入れ」

 部下の緊張した言葉に部屋の主、前大戦で亡くなったロード・ジブリールに代わりブルーコスモスの指導者になったミケールは一瞬考えた後、腹心の入室を許可する。

「し、失礼します──」

 扉を開けて部屋に入ろうとした男は突然意識を失いその場に崩れ落ちる。そしてミケールに銃の先を向ける女性。

 男の欲情を誘う娼婦のように豊満な胸元や引き締まった腰回り、少し屈めば下着が見えそうなほど短いスカートから伸びる長く艶やかな脚の女性に、ミケールは思い当たる節があった。

「直接会うのは初めてだな、セレーナ・ハーベスト大佐」

「おや、一応これでも変装したつもりでしたが……」

 有名人という自覚はあれど見破られたことに、セレーナは一瞬意外という顔をする。

「方面軍司令官をされたショドー・ハーベスト中将を始め多くの軍人を排出している名家、ハーベスト家。そのハーベスト家でも一、二位を争うともあれば、記憶しないのもおかしな話だろう?」

「なるほど。自分の才能と美貌(びぼう)娼婦(しょうふ)の恰好程度では隠しきれない、という訳ですか」

 苦笑しつつもその目はミケールをしっかりと捉える銃口と同じく恐ろしく冷たい。

「で、そのハーベスト大佐がこの私に何の用かな?」

「わかりきったことを……」

 苦笑しながら引き金に指をかけたままセレーナは続ける。

「私の任務はパルチザン(武装抵抗集団)と化したブルーコスモスの新しき指導者、ミケールの捕縛もしくは殺害。というわけで」

 セレーナの顔から笑みが消える。

「死ね、ミケール」

「……いいのか、ここで私を殺して?」

 今まさに殺されそうとしているにも関わらず冷静なミケールに、引き金を引こうとしていたセレーナが止まる。もしここで引き金を引いていればミケールは死亡し世界の歴史は大きく変わっていただろう。そしてセレーナの運命も。

「それでいいのか、お前は?」

「それは私がお前を殺して銃声を聞きつけた部下に殺されるという意味で? ご心配なく、脱出経路は確保しつつ私の部下が適切に私を救出する手はずになっていますので」

「いや、お前の身の安全のことではない」

「では何を?」

「お前の運命だ」

「は! 運命?」

 セレーナは鼻で笑う。

「殺される恐怖で思考が巡らなくなったのか? それとも私を混乱させるための虚言? どっちにしろ私を止める言葉としては──」

「お前が大佐まで上り詰め、生まれ持った美貌と才能に胡坐(あぐら)をかくことなく昇華させ単独でここに潜入して私を殺す直前まできた。それだけの地位や能力を手に入れるまでどれだけの努力と時間をつぎ込んできたか? それは私の口からでは言い表せないほど簡単ではなかっただろう。苦労もしたことだろう」

「……」

「だが奴ら……コーディネイターはどうだ? ただ才能があるだけで人々の努力を簡単に超えていく。それが許されていいのか? お前のような者ですらも才能だけで超えていく存在を!」

「……!」

 その言葉にセレーナは目を見開く。ミケールの言葉、それはセレーナ自身が気づかないほど心の中に隠していたコーディネイターに対する恐怖だったからだ。

 30代半ばで大佐という地位に上り詰めたのは家柄もあるがそれ以上に彼女の『才能』だけで片付けられない努力があったからだ。

 他人が遊びなのに時間を費やす中、彼女は鍛錬に身を捧げた。その結果指揮官としてだけでなくモビルスーツパイロット、暗殺者としても一流の実力を身に着けることが出来た。

(私が今の私になるまでの才能と努力の結晶を、容易く乗り越える……)

 その恐怖を感じた瞬間、先ほどまでの冷徹な表情が一変、恐怖で青白くなる。

「大佐、いやセレーナ。お前に尋ねる。今ここで私を殺し、才能だけで死ぬ思いで努力をしてきた者を超えるコーディネイターとの共存などという妄想と生きていくか。それともコーディネイターという悪しき存在を消滅させ、正しき世界へと世界を導くか! 才能だけで全てを奪う存在から未来を(にな)う者達のために!」

「あ、あ、ああ……」

 身体を小刻みに震わせ葛藤すること数十秒、セレーナは銃を下ろしミケールの前まで歩むと膝をつき頭を下げて、言った。

「ミケール、いえミケール大佐。セレーナ・ハーベスト、大佐にこの命……お預けします」




セレーネー(セレーナの由来)→ギリシャ神話の月の女神。
ディアナ→ローマ神話の月の女神。

異名としてどうなんだろう、という疑問が(^_^;)
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