機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
ネタバレが嫌な方は見ないことをお勧めします。
身支度を整えたソニファーはソドとシースが待つ会議室に足を運ぶ。
十数人は入れる部屋に三人だけ。その広さが今のブルーコスモスの寂しさを際立たせていた。
「現状把握や次の方針を決める前に、まずはっきりさせなければならないことがある」
出入り口から最も遠い席に座ったソニファーが二人を
「今回の敗因は……全て私にある」
「「……ッ!?」」
ソドとシースは固まった。
「ソニファー。いくらなんでも『全て』は言いすぎだろう?」
「そうですよ! 誰がやっても同じ結果でした!」
二人が慌てて否定するが、ソニファーは静かに首を振る。
「いや。察する機会はあった」
そう言ってソニファーは一つ一つその理由を説明する。
「まずスパイが得た『ファウンデーションの食料・エネルギー問題』。私はそれを利用し、ファウンデーションが国際協力を求めると踏んだ。
だが、とソニファーは拳を握る。
「結果はどうだ? ミケール大佐を始め、多くの将兵を失った。これが失策でなくて何だ?」
ソニファーの言葉に二人は押し黙る。
「し、しかし……」
シースが口を開く。
「ファウンデーションが各国の支援を受けることで自国の食料・エネルギー問題を解決したい。そのためにはファウンデーションが多大な国際貢献をしたという分かりやすい成果が欲しいと考える。その成果をエサに我々が有利になる場所に邪魔なコンパスを誘き寄せ殲滅する。
その結果がミケール大佐を始めとするブルーコスモスの大半が戦死する結果になるとは誰が想像できるのです?」
「まだある……」
そう言ってソニファーは続ける。
「戦場全体に及んだ電波障害。あれはラクス・クラインがユーラシア軍を攻撃したキラ・ヤマトがこれ以上の異常行動を起こさせないために撃墜を容認した
「……」
「もちろん当時の私は知りようがない。だが……あの時点で第三勢力の介入を疑い、撤退することはできた。少なくとも奇襲部隊を下げることはできた」
「……」
「その後、右翼のグレーニ、左翼のジャンヌはファウンデーションに殺された」
「待って下さい!」
シースが声を上げる。
「そもそも原因はキラ・ヤマトの協定違反です! あれがなければファウンデーションが進軍することはなかったはずです!」
「あぁ、その点に関しては私も同意見だ」
だが、とソニファーは続ける。
「ファウンデーションの進軍をコンパスの救援と誤認した
その言葉にシースは息を
「つまりファウンデーションの目的は『キラ・ヤマトの撃墜』ではない。
「……」
ソニファーから語れるファウンデーションの目的にシースは何も言えず口を開くしかない。
「そうなると突然の通信障害も説明がつく。キラ・ヤマトのユーラシアへの攻撃がキラ・ヤマト本人の意思か機体のコントロールを奪われてからの行動かはわからないが。なぜ攻撃したかの真相を口外させないため。そして通信を遮断することで連携を妨げ各個撃破して殲滅しやすくするために」
「し、しかし!」
シースが反論する。
「そうなると核ミサイルはどう説明するのです!? ファウンデーションは核ミサイルによって国と10万以上の国民が犠牲になっているのですよ!?」
「……あぁ。その通りだ」
この時、ソニファーは初めて押し黙る。
「それは私も思った。名君にしろ暴君にしろ、自ら国と国民を焼く選択をする者はいない。名君はもちろん、暴君は富を搾り取る民とその富から生み出した建築物などを破壊する者などいないからな。もちろん虐殺に虐殺を重ねる暗愚も長い歴史を見れば存在するが……核を使って自国を焼くというのは前代未聞だ」
例外があるなら、とソニファーは続ける。
「敵軍に利用されないように自国領土内の施設、食料、燃料、インフラを徹底的に焼き払い破壊する焦土作戦。それか国際的同情とユーラシアを攻撃するための大義名分……」
もっとも、とソニファーは苦笑する。
「ファウンデーションはユーラシアに攻められているわけではないから焦土作戦は有り得ないし、大義名分を得るにはあまりにも失ったものが大きすぎるわけだが」
だが、とソニファーは続ける。
「もしかしたらファウンデーションには国土を灰にし、国民を失ってでも欲しいものがあったのかもしれないな。そのためにユーラシアが核を撃ったように見せかけた」
「ちょっと待って下さい!」
自分でもあり得ないと思いつつも説明するソニファーに、シースが待ったをかける。
「核を撃ったのはユーラシアです! ユーラシアの上層部が事前の協定を破ったキラ・ヤマトに激怒しラクス・クラインがいるファウンデーションの首都イシュタリアとコンパスのいるエルドアを攻撃をした。その可能性はあるのでは!?」
ファウンデーションが黒幕だと決めつけるのは早計と考えるイーサは語尾を強くする。
「確かにその可能性も考えられる」
頷いた後、ソニファーは続ける。
「自国がどんな国際非難を受けるか考えられず上層部が核ミサイル発射を指示、もしくは現場の人間が独断で発射。その可能性も否定できない」
だが、とソニファーはシースを見つめる。
「ファウンデーションがアークエンジェルやシン・アスカが乗るジャスティスを攻撃したことをどう説明する?」
「……」
「私の推測はこうだ。ファウンデーションはキラ・ヤマトと裏で何かしらの取引をしているなり機体をジャックするなどしてユーラシアに攻撃するように仕向けた。その後ラクス・クラインからキラ・ヤマト撃墜の許可を得たファウンデーションはキラ・ヤマトだけでなくコンパスも殲滅するために通信障害を起こした。その後何らかの方法を使い、核を利用した。ユーラシア連邦への攻撃の大義名分を得るためとコンパスの殲滅を確実にするために。少なくともこの二つは確実と言っていいだろう」
「……」
「実際ファウンデーション王国の女王アウラ・マハ・ハイバルや宰相のオルフェ・ラム・タオなどの死亡は確認されていない。もちろんファウンデーションが黒幕だから事前に逃走を準備していたと断言することは出来ないが」
「……」
「話が脱線してしまったな」
そう言ってソニファーは軽く息を吐く。
「今回の敗因はブルーコスモスが何らかの目的でファウンデーションに利用されたと気がつかなかったこと。それを気づかなければならなかった私に全責任が──ッ!?」
ソニファーの台詞が強制的に打ち切られる。ソドの強烈な右フックがソニファーを
とっさに防御したソニファーだったが岩をも粉砕するのでは? というソドの拳を止められず後ろの壁に激しくぶつかる。ぶつかった衝撃で顔の上半分を隠す黒い炎を模した仮面が地面に転がる。
「さっきから責任、責任ってうるさいんだよ」
静かに、しかし瞳には怒りの炎を燃やしながらソドは立ち上がれずにいるソニファーを見下ろす。
「……何だと?」
自分を見下ろすソドをソニファーは睨みつける。
「私がファウンデーションの目論見に気づいていれば多くの将兵が死ぬことはなかった。それはまぎれもない事実! それを私の責任と感じることに何の間違いがある!?」
「だったらお前は先を見通せたり不可能を可能に出来る神か? シースも言っていたがファウンデーションが裏で糸を引いていたなんて事前にわかるなんて『事前に心が読めるスパイがファウンデーションのお偉いさんの心を読んで情報を入手する』とかそんなミラクルがない限り不可能なんだよ!」
「ッ!?」
「それにヒートやフォイア、グレーニ、ジャンヌ……兵士に至るまでエルドアで散った者はお前を信じて戦った。……エルドアだけじゃねぇ。ドマ、エーロン、ライハ、オルドリン……そしてカイドリアで死んだモント達もお前を信じて戦ったはずだ!」
「ッ!?」
ソニファーの脳裏に浮かび上がる。ミケール捕縛に利用し、エルドアでは単独でアークエンジェルを撃墜するために隊を離れた自分に代わり奇襲部隊を任したヒート。
指揮官として自分が持てる知識を教え込んだフォイア、グレーニ、ジャンヌ。
ブルーコスモスに所属する兵士。
そして幼少の頃から自分に仕え、ブルーコスモスに寝返った自分を追ってブルーコスモスに鞍替えした腹心ガッシュ・モント。
彼らの顔を思い浮かべ消沈するソニファーにソドは言い放つ。
「だったらお前はあいつらにこう言うつもりか? 『私が見抜けなかったためにお前らは無駄死にでした』と?」
「違うッ!!」
立ち上がると同時に、ソニファーは叫んでいた。立ち上がった身体はまだ怒りと悲しみで震えている。
そんなソニファーにソドは言う。
「お前が背負ってるのは『責任』じゃねぇ……『罪』だ。あいつらはそんなもん背負わせるために死んだんじゃねぇよ」
「……」
「モントも、ヒートも、フォイアも、グレーニも、ジャンヌも……兵士達だってそうだ。あいつらは
ソニファーが息を呑む。
「お前が『全部の責任を背負う』って言ってるのは、
「ソニファーさん……」
シースは優しく諭す。
「貴女は確かに判断を誤ったかもしれない。でも、それは
「……」
「貴女が背負うべきは『罪』ではなく
「ソド……シース……」
ソニファーは拳を握りしめる。
死んだ仲間たちの顔が脳裏に浮かぶ。
モント……ヒート……フォイア……グレーニ……ジャンヌ……兵士……。
そして
ソニファーの中で責任が決意に変わる。
「ソド、シース。お前らには迷惑をかけてしまった」
ソニファーは落ちた仮面を拾い付け直した後に二人に一礼すると席に再び座る。
「では状況を整理しよう。我々は
MSを始めとする兵器の修復、負傷兵の介護を優先するとなると、打つ手は無いに等しい」
「……」
「……」
二人は黙ってソニファーの言葉を待つ。再び立つことを決めたソニファーが「降参」を口にする事はないと信じていたからだ。
その二人の信頼に応えるように、ソニファーは予想外の言葉を放つ。
「そこで、だ。私は単身オーブに潜入しようと思う」
「何だと!?」
ソドは勢いよく立ち上がり声を上げた。
「お前は現状を理解しているのか!? ミケール亡き今、ブルーコスモスの次の盟主はお前だと言っても過言ではない! そんなお前がブルーコスモスを敵としているオーブに一人で潜入!? 腹空かせた猛獣の前に何も持たずに全裸で行くようなものだぞ!」
再び殴りかかろうとする勢いで詰め寄るソドをシースが「落ち着いて下さい!」となだめる。
ソドが落ち着いたのを見計らってシースはソニファーを見て尋ねる。
「潜入……リーブラン少佐が、ですか?」
その問いにはソニファーじゃなくても別の者に任せたらいいのでは? という疑問が滲んでいた。
そんなシースに、ソニファーは順序立てて説明する。
「ファウンデーションは必ず何かを仕掛けてくる。それも世界規模で。そしてファウンデーションに敵対する可能性が高く、かつ対抗できる勢力はオーブだ。
ブルーコスモスは戦力を失い、ユーラシア連邦はファウンデーションショックの影響で国力が低下し、ファウンデーションとエルドアに落とした核で国際非難を浴びている。ファウンデーションの対応に後手に回る可能性が高い」
「……」
「プラントも対抗するとは思うが。私一人が今から潜入した所で効果は見込めない。そして──
その言葉の裏にはキラたちがオーブにいたらファウンデーションに対抗するため何らかのアクションを起こすはずだという期待のような確信があった。
「もしファウンデーションが何かを起こしたならば。必ずオーブが反撃の起点となる! そして大西洋連邦に戻らず、オーブに寄港したガルガリン。あの
「……」
シースは「なぜガルガリンが『必ず反ファウンデーションの戦力に加わる』と言えるのですか?」とは聞かなかった。今まで100%言い切れないことには断定しなかったソニファーが何の迷いもなく言い切ったからだ。
「反撃の起点になるオーブ。そこで何が出来るかはわからない。しかし私だからこそ出来ることがあるはず。だから二人には負傷兵の介護と兵器の修復。そして何か起きればすぐに動かせるように戦力を整えつつ私が留守の間、この基地を守っていてほしい」
「おい、待てよ!」
ソドが声を張り上げた。
「それなら俺も行く。ブルーコスモスを指揮する人間が護衛もなしなんて話にならないだろ?」
「……」
真剣な目で自分を見るソドに、
「……わかった。戦友のお前に背中を任せるぞ」
こうしてシースに後のことを任せ、ソニファーは何故か「戦友……」とガックリと肩を落とすソドを従えオーブへと向かった。
書いた後に思ったこと。
エルドア攻防戦前に起きた出来事、スサがアルテミス要塞を落とす話を先に投稿すればよかった(-_-;)