機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
修理と補給のため大西洋連邦に戻らず、ガルガリンはミレニアムと共にオーブに寄港した。
乗組員たちは慌ただしく甲板を駆け回り、整備班は昼夜を問わず作業に追われていた。
しかし、その中心にいるはずの整備主任──ウズメの姿だけが、どこにも見当たらなかった。
彼女がどこへ消えたのか、誰も知らない。
ただ、彼女の机の上に置かれた一枚のメモだけが、静かにその不在を告げていた。
『出かけてくる。心配しないで(笑)』。
その軽い筆跡とは裏腹に、ウズメが向かった先は
薄暗い部屋。
外の喧騒とは無縁の静けさが漂うその場所で、ウズメはとある人物と出会っていた。
「まったく……。『出かけてくる。心配しないで(笑)』という書置きを置いて突然姿を消したかと思ったら大西洋連邦に行っていたなんて。しかも久しぶりの再会だっていうのに開口一番が『アレを寄こせ』って……。呆れるしかないわ」
女──エリカ・シモンズは額に手を当て、深いため息をついた。
「大西洋連邦に行ったのはマジでごめんって! その代わり私が今まで集めてきた軍事データを提供するんだからイーブンでしょ?」
ウズメは悪びれもせず笑ってみせる。
その能天気さに、エリカは思わず苦笑した。
「アンタって女は……ほんと、昔から変わらないわね」
エリカはウズメの実力を知っている。
そして彼女が持ち込んだデータが、どれも興味深く価値のあるものだということも理解していた。
それでも言わずにはいられない。
「しかしね……もしこのことがバレたら、アンタはクビどころじゃ済まない。軍法会議にかけられて……最悪命を落とすことになるのよ」
その言葉に、ウズメの笑顔がふっと陰る。
「……わかってるわよ」
いつもの軽さが消え、ウズメの声は低く沈んだ。
「私はもう、死んで当然のことをしてるのよ。自分の技術不足で……親友の恋人を殺したんだよ。あの時、私がもっと不測の事態も考えて整備していれば……」
ウズメは拳を握りしめ、唇を噛む。
「そしてその親友……ミレイユは、今も火力不足の機体で綱渡りみたいな戦いをしてる。いつ墜ちてもおかしくない状況で……それでも必死に生きてる。そんな彼女の生存率が、たった1%でも上がるなら……私は危ない橋なんていくらでも渡る」
その言葉は、冗談でも虚勢でもなかった。
ウズメの瞳には、深い後悔と、それを超える強い決意が宿っていた。
エリカはしばらく黙って彼女を見つめ、そして小さく息を吐いた。
「まったく……自分勝手な女ね、アンタは」
呆れたように言いながらも、その口元には優しい微笑が浮かんでいた。