機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
ガルガリン艦長室。
この日。ミレイユはエリオスに呼び出されていた。
「艦長。私が何かしましたか?」
緊張した面持ちで尋ねる部下に、エリオスは緊張を
「そう身構えることはない」
そう言って事前に淹れていたコーヒーをソファーの机に置いて着席するように
「頑張る部下への労いの言葉をかける。これも上司の立派な務めだよ」
そう言ってミレイユを席に座らせた後、自身もコーヒーを持って着席する。
「しかしそんなこともすぐに出来なくて申し訳ない」
「い、いえ……艦長がお忙しいのはわかっていますので」
ミレイユは静かに首を横に振る。
艦長であるエリオスが忙しいのはわかっていた。
成果や被害報告、乗員の生存者リストの提出、本国からの追加質問など大西洋連邦本国への報告からオーブ政府への正式な寄港許可申請、入港する際の武装・安全管理の最終確認など艦長自身が判断しなければならないことが山積みだった。
ミレイユ自身、愛機であるサンライズの損傷報告や武装解除の立ち合い、戦闘報告書の作成などエリオスほどではないにしろやることは多くあった。
特に整備班への引継ぎに関しては、責任者であるウズメがオーブに到着してすぐに置手紙を残して姿を消したため現場は混乱。普段以上に時間を使うこととなった。
「……」
エリオスはすぐに話そうとせず淹れたコーヒーの匂いを堪能した後、唇を濡らす程度に口に含む。
「まずは……パットン少佐は命の恩人だ。
「あ、頭を上げてください! 艦長!」
コーヒーを机に置き、帽子を脱いで頭を下げるエリオスにミレイユは慌てる。
「私は当たり前のことをしたまでです! それにヒイラー大尉を始めとするパイロットが私が戻るまでガルガリンを守っていたからであり私のしたことなんて微々たるもの。ですから頭を上げて下さい!」
「……そう言ってもらえると助かる」
エリオスは顔を上げる。そして、エリオスの顔が引き締まる。話したかった本題に移るかのような緊張感に、ミレイユは姿勢を正す。
「パットン少佐。君はあの戦場で何を見た? そしてなぜ核が来ることを知っていた?」
「!」
ミレイユは薄々気づいていた。冷静沈着な艦長ならそのことについて聞いてくるだろうと。
「私自身、よくわからないのですが……」
ミレイユは少しだけ悩んだ後、エルドアでの戦いのことを思い出しながら話す。
「艦長からヤマト隊長を止めるように命令を受けた後。私は全力で追いつこうとしましたが、敵の妨害もあってヤマト隊長の暴走を止めることは出来ませんでした。その後クライン総裁の撃墜許可を受け、ファウンデーション軍がヤマト隊長を攻撃する所をただ呆然と見ていました……」
「……」
戦場で呆然としていたことに恥ずかしさを覚えたのか、ミレイユは無意識に顔を逸らし言葉を詰まらせる。
そんなミレイユに対し、エリオスはとがめる素振りもなく次の言葉を待つ。そのことに安堵したミレイユはエリオスにとって聞き逃せない真実を口にする。
「その後。私はファウンデーション軍の攻撃を受けました」
「何だと!?」
エリオスは思わず立ち上がる。
「ファウンデーション軍の攻撃を受けただと!? それは本当か!?」
協同作戦を行う相手を攻撃する。それはあってはないことだった。
「はい。誤認の可能性を考え、私は自分がコンパスのミレイユ・パットンだと伝えました。そうしたら敵はこう返したのです。『ハハッ! そんなの知ってるわよ!』と」
「……!」
エリオスの目が大きく見開かれた。
驚愕を通り越した理解し難いファウンデーションの兵士、リデラード・トラドールの行動に。
味方と知った上で攻撃する──それは誤認ではなく確信犯だ。
エリオスは立ち上がった姿勢のまま固まり、言葉を失っていた。
その瞳には理解を拒むような色が浮かんでいる。
そんな艦長の反応を前に、ミレイユは恐る恐る続けた。
「信じてもらえないかと思うのですが……それも通信越しではなく、直接脳に話しかける感じで」
「ッ!?」
脳に話しかける。
戦場に似つかわしくない超能力に、エリオスは一瞬めまいを起こした。
軍人としての経験が「あり得ない!」と叫ぶ一方で、エリオス・テイラーという男の直感が「本当にあり得ないか?」と反論する。
視界が揺らぎ、エリオスはフラつくようにソファへ腰を落とした。まるで足元の現実が崩れたかのように。
ミレイユは艦長の反応に戸惑いながらも続ける。
「敵の攻撃で意識が途切れかける直前に、敵は
「……」
「その後私は気を失うもすぐに意識を取り戻し敵の攻撃を回避した後、急いでガルガリンに戻り艦長に『核が来る!』と伝えた……これが真相です」
「……」
ミレイユが語り終えた瞬間、艦長室に深い沈黙が落ちた。
エリオスはしばらく動けなかった。
怒り、驚愕……それらを
「……なるほど」
エリオスは口を開く。低く、押し殺した声はまるで触れてはならない場所に踏み込むような慎重さを孕んでいた。
「ファウンデーション軍はパットン少佐が
エリオスは思考を整理するため一度目を閉じて数十秒、そして開く。
「パットン少佐。君の言葉を疑うことはしない。君という人間を私はよく知っている。にわかに信じがたいが、それは事実なのだろう」
「……」
ミレイユは何も言わずエリオスの言葉を待つ。
「問題は……その兵士がなぜ
その言葉に、ミレイユはハッと息を呑む。
ユーラシア連邦側から核ミサイルが発射されたのはミレイユは知っていた。しかしそのミサイルがどこに落ちるかは撃った者以外誰にもわからない。
ユーラシアの人間ではない、ファウンデーションの人間が
「……」
何かを言おうとするミレイユに、エリオスは釘を刺す。
「パットン少佐。……この件は謎が多い。だから他言無用で頼む」
「……わ、わかりました」
ミレイユは立ち上がり敬礼すると艦長室を後にした。
食器を片付け、エリオスは熟考する。
「パットン少佐の情報だけで推測するならば……ファウンデーションは協同作戦を行う
エリオスは自分の意見を否定する。
「それならなぜファウンデーションはユーラシアから放たれた核ミサイルがどこに落ちるか知っていた? ……もしかしてユーラシアとファウンデーションはコンパス殲滅という目的で裏で繋がっていたのか? いや……」
エリオスは再び否定する。
「そもそもがユーラシアが核ミサイルを発射したのはヤマト准将がユーラシアを攻撃したことが原因だ……だとすると
オーブかプラント、もしくはその両方が大西洋連邦に隠れて今回の事件を画策していた。
それは同志と思っていたキラやマリュー、コノエを疑うということだった。
疑いたくなどない。
だが、状況は残酷にも疑わざるを得ない現実を突きつけてくる。
信じたい。だが、信じるだけでは部下を守れない。
疑いたくない。だが、疑わなければ真実にたどり着けない可能性がある。
その矛盾にエリオスは唇を噛む。相反する感情が胸の奥を
そして誰にも頼れない現実が、静かに彼の肩にのしかかった。
「しかし私の双肩にはこの
頭を抱えたエリオスは独り、迷宮に閉じ込められた。