機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
「……」
ディガー・グレイブは、自室の重厚な椅子に腰掛けながら、ガルガリンから上がってきた最新の報告書を無言で読み進めていた。
薄暗い室内には、ページをめくる音だけが乾いた響きを立てる。
そこにはカイドリアを襲撃したブルーコスモスのガッシュ・モント隊を撃破した戦果、捕虜となったシクソンの証言を基にミケール捜索に向かったイルザでの騒乱、そしてエルドアでの激戦の詳細が記されていた。
「……」
読み終えたグレイブは、報告書を指先で弾くようにして机へ投げ捨てた。
紙束が机の上で跳ね、散らばる。
「……ふん」
鼻で笑うような、しかしどこか満足げな吐息が漏れる。
カイドリアでのガッシュ・モント隊撃破。
イルザでの不可解な犯罪多発への迅速な対応。
エルドアでのブルーコスモス伏兵の撃退。
どれも大西洋連邦軍としては誇るべき戦果。
だが、グレイブにとっては
「チッ……」
その口元は、怒りとも苛立ちともつかぬ歪みを見せた。
「余計な戦果を挙げおって……。あの艦が活躍すればするほど、ワシの苛立ちが増していく。戦果などどうでもいい。むしろ邪魔だ」
彼が本当に望んでいるのは、ガルガリンの弱体化。
そして、自分を小僧扱いしてきた亡きショドー・ハーベストを慕う一派の影響力を削ぐこと。
報告書の後半に記された二つの名前に目を落とした瞬間、グレイブの目が細く光った。
カーチス・クラウド戦死。
ステア・スノー戦死。
「……ふむ。二人死んだか」
その声には哀悼の色など一切ない。
むしろ、抑えきれない喜悦が
「いいぞ……もっとだ。もっと削れていけ。だが沈むなよ? 全滅されては困るからな」
ガルガリンが完全に沈めば、責任追及の矛先が自分に向く可能性がある。
さらに言えばエリオス・テイラーをはじめとする乗員たちが
それはグレイブにとって最悪だった。
ショドーの存在を消し去りたいグレイブにとって、ショドー派と言えるメンバーで構成されるガルガリンが成果を上げるのはもちろん、名誉の戦死を遂げて英雄視されることは避けなければならなかった。
だからこそ、彼の望みはただ一つ。
「生かさず殺さず……大きな成果を上げることなく、じわじわと弱っていくガルガリン。これが最も都合がいい」
グレイブは椅子に深く腰掛け、背もたれに体重を預けながら薄く笑った。
「……エリオス・テイラー。そしてショドー・ハーベストを思い出させる女、ミレイユ・パットン。そしてガルガリン、お前らはもっと苦しめ。もっと失え。そして──失敗しろ」
その笑みは戦場で散った兵士たちの死よりも冷たく、底知れぬ悪意だけが静かに室内に満ちていった。