機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第4章-10 月が潜む鏡

 エルドアでの戦いが終わった翌日。

 ディガー・グレイブが常駐する基地の一角を、一人の女性が静かに歩いていた。その整った顔立ちとグラマラスな体型、そして光沢を帯びた赤い髪。そして背筋の通った、まるでモデルのように洗練された姿勢が男性だけでなく女性の視線すら奪っていく。

 ミランダ・シェイド。

 情報部に所属する中佐である。

 ミランダは無言でカードを通し、重厚な扉を開けた。

 情報部の部屋は外界から完全に隔絶された無機質な空間。窓はなく、光は冷たく、空気は乾いている。

 機密保持のために徹底的に作られた密室だ。

(久しぶりに入るが……相変わらず陰気な部屋だ)

 自嘲気味に思いながら、自分の席へ向かう。

 椅子に腰を下ろした瞬間、背筋にひやりとした緊張が走る。

 ここは感情を置き去りにしなければならない場所だ。

 冷たさを感じさせる椅子がそう言っている感じを覚え、ミランダは「そんなことはない……」と小さく苦笑した。

「中佐」

 掴みようのない、どこにでもいそうな顔立ちの男がミランダに資料を手渡す。

 情報部の人間は、意図的に印象の薄い顔(・・・・・・)をしている者が多い。

(もう少し心を裸に出来ないものだろうか……)

「ありがとう」

 この情報部で最も心を裸してはいけない自分が何を言っているんだ、と自虐しつつもそれを一片も出さず、部下に礼を述べると提出された紙に目を通していた。

 その内容は昨日起きたエルドアでの戦いのことだった。

 コンパス、ファウンデーション、ユーラシアの三勢力がエルドアに潜伏するブルーコスモスを排除するために動いたこと。

 キラ・ヤマトが協力関係にあるユーラシアを攻撃したこと。

 その報復として、ユーラシアがファウンデーションとエルドアに核を撃ち込んだこと。

 そして──ガルガリンがブルーコスモスの伏兵部隊の攻撃を受けながらも核が落ちる前に戦場を離脱し、ミレニアムと共に現在オーブへ向かっていること。

 その一文を見た瞬間、ミランダの指がわずかに震えた。

「……よかった」

 ミランダは誰にも聞かれない声で安堵の声を漏らした。

(ん?)

 その安堵は情報部に求められる冷静さが容易く打ち消す。

(ガルガリンの詳細に気を取られて見過ごしていたが……なぜキラ・ヤマトはユーラシアを攻撃した?)

 ミランダの頭にキラが密かにブルーコスモスと密約を結んでいた、ファウンデーションに恨みを持つ組織がキラと協力してユーラシアに核ミサイルを撃たせたなど、何十通りのあらゆる可能性が現れては消える。

(……まあいい。私は情報部。『どこで何が起きたか?』、『どこで誰が何をした、もしくはしようとしているのか?』が重要であって『何の目的で行動をしたか?』を考えるのは私の仕事ではない)

 そう考えてミランダはとある男に思考を移す。

(エリオス・テイラー。彼も今回の件に違和感を覚えているはず。彼は与えられた命令を着実にこなす模範的な軍人ではあるが、正義感が強い。もしエルドアでの戦いに本当に黒幕がいて、その黒幕が大西洋連邦に仇成す存在と判断すれば……その黒幕に牙を向ける。例え軍に背き、軍法会議にかけられ最悪──死に向かうと分かっていても)

 そして一人の男が脳裏をかすめる。

(ディガー・グレイブ。あの男は今は亡きショドー・ハーベストに並々ならぬ敵意を覚え、関係する人物をことごとく貶める、もしくは存在を消さなければ気がすまない人物。義理の孫であり出世頭と言えるエリオス・テイラーが何かしでかせば嬉々として追及するだろう)

「……手を打つ必要があるな」

(清掃員でも情報部中佐でもなく……別の顔(・・・)で)

 ミランダは矢継ぎ早に部下に命令を出し、自分自身がしなければならない仕事を瞬く間に終わらせると情報部を後にした。




噓月は次の話で出ると思います。
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