機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第4章-13 サルパ王国

 話はスサがシュラと共にジャガンナートと会うためプラントに向かう前にさかのぼる。

 

 

 

 サルパ王国。

 赤道連合の南に位置し、軍事力は連合内でも下から数えた方が早いほどの弱小国である。

 

 地理的にオーブ連合首長国と近く、侵攻の可能性こそ低いものの、大西洋連邦との戦争でその軍事力を世界に示した読めない強国が近くにあるという事実は、弱小国サルパにとって常に大きな不安材料となっていた。

 

 そんなサルパ王国が今以上に外部の後ろ盾を求めていた時代。まだファウンデーション王国がユーラシア連邦の一部だった頃、サルパ王家は当時のファウンデーション王──現女王アウラ・マハ・ハイバルの先々代にあたる王族と婚姻関係を結んだ。

 弱小国サルパにとって、これは外部勢力と繋がるための数少ない手段だった。

 

 その後、現女王アウラはハイバル家の遠縁にあたるカイドゥ家の出身で、C.E.72に先帝の養女として迎えられたため、サルパ王国との血のつながり自体は途絶えている。

 それでも、かつての婚姻で結ばれた王家同士の縁(・・・・・・)は外交上の重みを失わず、両国の友好関係は今も変わらず続いていた。

 むしろ、ファウンデーション王国の独立を快く思わないユーラシア連邦に目をつけられたくないという理由から多くの国々がファウンデーションと距離を置く中で、サルパ王国だけはその縁を手放さず数少ない友好国として関係を保ち続けていた。

 

 そんなサルパ王国をスサは訪れた。

 

 

 

 サルパ王国首都サルミア。

 内陸の丘の上にある古い城塞都市で石造りの素朴な街並み。

 ファウンデーション王国の首都イシュタリアの王宮とは違い、小さく質素な王宮。その一室にスサはサルパ王国の国王、ナハル・サミール三世と会っていた。

「サミール国王陛下。ご多忙の折、私のような者のためにお時間を割いていただき痛み入ります」

 スサは深く頭を下げるでもなく、しかし礼を欠くこともない絶妙な角度で軽く会釈した。

「スクトゥム参謀総長殿……今日はどのようなご用件で?」

 緊張した面持ちでナハルは尋ねる。

 部屋にはナハルとスサの二人しかいない。

 ナハルの命令で侍従も衛兵もすべて下がらせたため、密談のために用意された広くない室内は異様なほど静まり返っていた。

 ナハルは王としての威厳を保とうと背筋を伸ばして座ろうとしているが、肩はわずかに強張り、ひじ掛けを握る指先は力が入りすぎて白くなっていた。

 呼吸は浅く、喉の奥が乾いて張りつくような感覚が離れない。

 

 ファウンデーション王国の参謀総長スサ・スクトゥム。

 

 軍の頭脳であり、女王アウラの側近。

 友好国の重要人物が密使としてサルパ王国を訪ねたのだ。

 王が異常なほど喉の乾きを覚えるのは必然と言えた。

「陛下」

 スサは静かに口を開いた。

「まずは一つ、急を要する報せがございます」

「……きゅ、急を要する報せ、とは?」

 ナハルの喉がひくりと動く。

「……」

 しかしスサは話さない。ただ静かに、ナハルの反応を観察するかのように微動だにせず王を見つめていた。

 沈黙が部屋の空気をさらに重くする。

 外の気配が遠のき、ナハルは自分の心臓の鼓動や吐息がやけに大きく聞こえる気がした。

 ひじ掛けを握る指先が震え、白くなった指先がさらに白くなる。

「……実は」

 ナハルが緊張に耐え切れず何かを言おうとした瞬間、スサは止めていた口を開いた。

「ブルーコスモスの新盟主ミケール大佐が、軍事緩衝地帯に潜伏しているとの情報が入りました」

「ッ!?」

 神出鬼没で偽情報などあらゆる手段で世界に破壊と恐怖をまき散らしたミケールの所在を掴んだ。その情報にナハルは身体をピクリと震わせた。

 そんなナハルを尻目にスサは続ける。

「ファウンデーションはコンパスおよびユーラシア連邦と共同でミケールの捕縛作戦を実施する予定です。そのため、もし何かあればサルパ王国にも一定の協力をお願いしたいのですが?」

 ナハルは一瞬、言葉を失った。

 喉が乾き、舌が上顎に張りつく。それでも王としての体面だけは保とうと、かろうじて声を絞り出す。

「……も、もちろんです。あのミケールの逮捕に……協力できるのであれば……サルパとしても、出来る限りの支援を……」

「ありがとうございます、陛下」

 スサは静かに頭を下げた。だが、その口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。

 協力を得られた喜びではない。

 

 ファウンデーション王国とサルパ王国は対等の友好国(・・・・・・)である。

 

 その建前を守るため。そしてナハルにそう思わせるための外交上の礼儀としての笑みだった。

「……」

 再び不気味な沈黙をスサが守る。その沈黙をナハルが破ろうとした直前、スサは再び口を開く。先ほどよりもナハルに演技だと悟られないよう悲惨で、恐怖を孕ませながら。

「……あくまで確証のない情報としてお聞きください」

 そう前置きをした上で、スサは衝撃の事実を口にした。

「ミケール捕縛は建前で、コンパスとユーラシア連邦は裏で(・・)ファウンデーション(・・・・・・・・・)を滅ぼす(・・・・)計画を進めている(・・・・・・・・)、という噂がございます」

 ナハルは息を呑んだ。

「そ、そんな……!」

 ナハルが驚くのは無理もなかった。

 世界平和監視機構コンパスは、世界各地で過激化する独立運動やブルーコスモス残党の侵略行為に対処するために設立された組織だ。

 ファウンデーション王国に独立されたユーラシア連邦ならまだしも、コンパスが理念に反してファウンデーション王国を滅ぼそうとする理由が見当たらなかった。

 スサはナハルの動揺を汲み取ったかのようにわずかに声を落とした。

「もちろん確証はございません。しかし、陛下には知っておいていただく必要があると判断いたしました」

 スサはそこで一度言葉を切った。

 先ほどまでの態度とは違い、冷たく研ぎ澄まされた声色で続ける。

「……そして。もし仮に──ファウンデーションが攻撃を受けた場合ですが」

「ッ!?」

 ナハルの背筋が強張る。

 スサはゆっくりと、しかし断固たる覚悟を滲ませて告げた。

「詳細は申し上げられません。ただ──我々には反撃する準備(・・・・・・)がございます」

「……は、反撃する準備……?」

「はい。詳細は申し上げられませんが──ファウンデーション王国は決して易々と滅びる国ではない。その点だけ陛下にはご安心いただければ、と」

 そう言ってスサは深い礼をし、最低限の別れの挨拶をするとサルパ王国を後にした。

 

 その後ファウンデーション王国はコンパスとユーラシア連邦と協同でミケール捕縛を目的とした作戦を開始。

 そして──キラ・ヤマトのユーラシア連邦を攻撃。ユーラシア連邦は協定を破ったことを理由にファウンデーション王国に核ミサイルを発射した。

 

(やはり……本当だったのか……!コンパスとユーラシアはファウンデーションを滅ぼすつもりだった……!スクトゥム殿はそれを察知していたのだ……!)

 ナハルの中で疑念は完全に確信(・・)へと変わった。そして思い出す。

 

『詳細は申し上げられません。ただ──我々には反撃する準備(・・・・・・)がございます』

 

(スクトゥム殿はコンパスとユーラシアが裏で繋がっていることを予見していた。ということはそれを可能にする切り札が用意しているはず!)

 その切り札が何かはナハルにはわからない。しかしファウンデーション王国に逆らえばその切り札(・・・)がサルパ王国に向けられるかもしれない。

 その恐怖に囚われたナハルは密かに軍を動かせられるように臨戦態勢の準備を指示した。

 

 

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