機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
「リムバス。私はコンパスに参加する」
「……そうか」
ベッドの横たわる裸の恋人の言葉を聞いて一瞬驚く男だったがすぐに冷静になる。隣に立つ白髪が目立つ黒髪の女性は心から決めたら動かないことを知っていたからだ。
「理由を聞いてもいいか?」
リムバスの問いに女性、ミレイユ・パットンは一切の曇りもない目で答える。
「先日お亡くなりなったハーベスト閣下の『先の大戦で失ったものを取り戻しかつ二度と悲劇を生み出さない最善の方法は他の組織と歩み寄り理解して共に歩き出すことだ!』というお言葉を思い出したんだ」
「……」
「私も士官学校時代より前だった親友だったルオルカを始め志半ばで死んだセレーナ 、同期や戦友、部下……助けようとした民間人、生きてほしかった……助けたかった人を助けることが出来なかった。あの悲しみや苦しみを他の人に味わってほしくない。だから私は参加しようと思う」
「……そうか」
彼女の気持ちを理解した男に彼女を止める言葉も術もみつからかった。
「わかった。俺もコンパスに参加しよう。お前を一人にすると変に考え込むからな」
「リムバス……」
自分についてくると言った恋人の言葉に涙が出そうになるのを我慢し、ミレイユは裸の恋人に背を向けた。
数日後。
「シュタイナー隊長。中佐がコンパスへ志願されたというのは本当ですか?」
開口一番。率直に聞く副官、ドラント・ヒイラーにリムバスは面食らう。
「相変わらずお前は前置きとかそういうの無しで聞いてくるなぁ」
「回りくどい聞き方は時間の無駄ですので」
真顔で上司に言う部下にリムバスは「ムダがないというか面白みがないというか」と独り言を漏らしてから答える。
「あぁ、コンパスに志願した。意外か?」
「パットン少佐と恋仲ということを考えれば。情にもろい所が玉にキズの隊長ならあり得る話だと思っておりました。というより実力があり容姿端麗、理想より現実主義、そして世渡り上手の隊長なら何かしらの理由がないとコンパスに志願すると思えなかったので。というか上層部が止めるでしょう」
「……」
ズケズケと言う部下にリムバスは思わず額を抑える。
「しかし。一緒に居れば死ぬ者が後を絶たないことから『死神』と噂されるパットン少佐と共に、となると。少々めんどくさいことになりますね」
「何が言いたい?」
凍てつくような声でリムバスは副官をジッと見る。普通の者なら『まずいことを言った!』と思い萎縮するだろう。しかしヒイラーは「言葉足らずでした」と冷静に続ける。
「我が軍にはパットン少佐の真価を理解しない者が大半ですから、少佐を怖がって志願者はいなくなるという意味で『めんどくさいことに』と言いました。パットン少佐の周囲の人間が死ぬのは少佐が激戦区に飛ばされるから。むしろその中で生き残っているのですから少佐の実力は本物。少佐の周囲にいる者は実力がないか運がないかの二つに一つ」
「じゃあお前はコンパスに志願するか? 例えミレイユの部下になったとしても」
「はい」
一点の曇りもなく、ヒイラーは言った。
「俺は実力があり運もある方なので。パットン少佐の近くでその技術や考え方を学び己の糧にしたいです。そして……隊長が恋人の少佐のためにコンパスに志願するように、俺も隊長のことが好きですから」
「お前なぁ……」
淡々と言う副官に、嬉しさ交じりの困惑でリムバスは額を抑えた。
「おっと! 何カッコつけちゃってんですか、ヒイラー大尉」
リムバスとヒイラーが振り返る。そこには同隊の男性士官、ヒューズ・レインとハボック・サニーが立っていた。
「どうかしたか、ヒューズ?」
「どうもこうもないですよ、隊長」
そう言ってヒューズは上官のリムバスの肩に手を回す。
「今さっきヒイラー大尉は『隊長が好きだから』という理由でコンパスに志願する隊長と共に志願するって言ってましたけど、隊長が好きなのはヒイラー大尉だけじゃないんですよ」
「ヒューズ……」
自分を慕う部下の言葉にリムバスは微笑みを浮かべる。
「隊長が『ついて来るな』と言っても追ってきますよ──」
「隊長以上のいい女が現れるまでは」
「おい、ハボック! 人がカッコつけている時に余計なこと言うんじゃねぇ!」
「で、本音は?」
「……」
リムバスに肩を回しながら考え込むヒューズに、リムバスは「ついて来るな」って言った方がいいのか? と複雑な顔をした。
死神ミレイユがコンパスに志願する。
彼女と共に戦場を出れば命を落とすという噂に多くの者が恐れおののき、命令を受けても何らかの理由をつけて拒否する者が後を絶たなかった。しかし違う反応を示す者も中にはいた。
「えぇ! あのミレイユ・パットンがコンパスに志願する!?」
「……バートン中尉。声が大きいです」
豊満なバストがなければ子どもが軍服を着て忍び込んだと間違えられそうな童顔の女性、クレア・バートンは、人形のように表情を動かさない男性の平均値を下回る身長の男、イーサ・ゼイデュークの言葉に驚きの声を上げる。
「だってあのミレイユ・パットンだよ!? あの大西洋連邦で撃破数トップテン入りを果たしている上に士官学校時代から自分の立場が悪くなろうとも決して自分を曲げない伝説を作り続けるミレイユ・パットンだよ!? それでいてカッコ美しい! 私にとってミレイユ様は女神よ女神! そんな人の下で働けるならコンパスでもボールペンでもどこだって行くわよ!」
「……」
今まで「コンパス? あの文房具の?」と興味すら持っていなかった女の豹変に、イーサは無表情でため息をつく。
「で、アンタはどうするの?」
「……僕、ですか?」
無表情のままイーサは数秒考えて……言った。
「……どうせ僕は既に死んでいる身。この命が世界平和に貢献できるのであれば。志願しない理由はないですよ」
「……アンタ、一度脱走してから変わったわね。前は何で軍人を志してかつ軍人になれたのか不思議なくらいに覚悟が決まってない甘ちゃんだったのに。脱走から戻ってからはまるで過去にとんでもない組織に所属していた精鋭部隊の一員みたいに」
何か後ろめたいものを持っているかのような発言をする仲間に、クレアは不思議そうに呟いた。