機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
オーブ首都オロファト 行政府。
「……」
「アスハ代表」
この後どうするべきかを思案するカガリが振り返ると、そこには一枚の紙を持ったサイ・アーガイルが立っていた。
サイという男はノックなく入室するような無礼な男ではない。
カガリは適当に返事をしたことに気がつかないほど考え込んだ自分に恥ずかしさを覚え「す、すまない」と少しだけ大きな声で紙を受け取る。
差し出された内容。それはガルガリン艦長エリオス・テイラーがガルガリンの修理のためオーブ滞在の延長を申請するものだった。
「……」
カガリが真剣に目を通すのを、サイは眉をわずかに寄せて見ていた。
(……代表はどういう決断を下すのか?)
先日行われたカガリたちコンパス参加国代表による緊急会議での言い争いが原因で、オーブと大西洋連邦は完全に距離を置く状態になっている。
同じコンパスならまだしも、関係性がなくなった大西洋連邦の軍艦がなぜオーブにいる!?
そう言った声が軍部や官僚、さらには民間からも拭きあがっていた。
「中立を揺るがすオーブの理念に反している!」、「大西洋連邦の恥知らずが!」、「さっさと出ていけ!」などと言う不安と怒りが入り混じった不満が日増しに強まっている。
その声はもちろんカガリの耳にも届いている。
「……」
読み終えたカガリが目と鼻の間を指先でつまむ。そのタイミングを見計らってサイは自分の意見を述べる。
「代表。世論を考えれば一刻も早くガルガリンを出航させるのが妥当だと考えます。しかしまだ修理が完了していない
言いながら、サイは胸の奥に重いものが沈むのを感じていた。
ガルガリンの滞在延長を許せば世論の怒りは激しさを増し、最悪暴動に繋がるかもしれない。
だが延長を跳ねのければ、今度は大西洋連邦との関係が決定的にこじれ、最悪、一戦交える事態すら想定しなければならない。
問題を提起しながら解決策を提示できず、最終判断をカガリに委ねるしかない自分に、サイは深い無力感を覚えた。
「……わかった、許可しよう。ガルガリンにはそう伝えてくれ」
カガリは目を閉じて数十秒の沈黙ののち、ゆっくりと言葉を紡いだ。
その声音には決断の重さと、わずかな迷いが滲んでいた。
「現在、関係がこじれているとはいえ……大西洋連邦は、もとは同じ志を持った国だ。
ガルガリンは今、航行に必要な最低限の安全基準すら満たしていない。
このまま出航させれば、乗員の命に関わる。……それだけは避けたい」
カガリは自分に言い聞かせるように続ける。
「修理にはオーブの設備が必要だ。……そう考えれば、艦の修理が終わるまで猶予を与えるのは……間違ってはいないはずだ」
カガリの考えに考え抜いた決断に、サイは反論するつもりはなかった。しかし聞かずにはいられなかった。
「……本当に、よろしいのでしょうか?」
サイの言葉に一瞬迷った後、カガリは続けた。
「私はキラやラミアス艦長たちから、エリオス・テイラーという男が冷静で状況を客観視できる、信頼できる指揮官だと聞いている。オーブが今、ガルガリンの出航を強く望んでいることは誰よりも理解しているはずだ」
カガリは一度言葉を切り、わずかに視線を落とす。
「そんな男がただ
そして、カガリは自分の胸の奥にある確信を静かに言葉にする。
「私は……ガルガリンが最終的にオーブに利をもたらすと感じている。確証はないが……」
「……自分はアスハ代表の判断を信じます」
カガリの決断は、政治的にも軍事的にも
世論も官僚も軍も反対している中で、カガリは迷いながらも滞在を許可すると言い切った。
そう言い切った理由。それは自身が信頼するキラたちがエリオスという男を信じていたからだ。
キラたちが信頼に値する人物と評価したから自身もエリオスを信じる。そして数々の困難を乗り越えたカガリの『オーブに利をもたらす』という説明できない直感。
(この決断は世論の反発を招くだろう。軍も官僚も反対し、代表は孤立する。代表が思考の末の決断だと理解せず……でも、自分は知っている。代表が苦しみぬいた末に下した決断だということを!だったら自分がその判断を支えないと!)
サイは静かな覚悟を決め、部屋を後にした。