機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第4章-19 悲しみに沈む者

 ガルガリン パイロット待機室。

「……」

 誰もいない待機室の中央で、ヒューズ・レインは立ち尽くしていた。

 普段なら女性クルーを見つければ軽口を叩き、セクハラまがいの冗談で場を凍らせる──そんな残念な二枚目(・・・・・・)の彼が、今はただ静かに部屋の空気を見つめている。

「……嘘みたいだ。あいつらがいなくなったなんて」

 

 カーチス・クラウド。

 ステア・スノー。

 

 エルドアでの戦いでブルーコスモスの伏兵部隊との交戦で散った年下のパイロット。

 ヒューズは目を閉じる。

 まぶたの裏に、つい昨日のことのように二人の姿が浮かんだ。

 ──イルザからファウンデーションへ向かう前。

 休みなしの強行軍に愚痴をこぼした自分の言葉を、ミレイユへの批難と受け取ったクレアが今にも殺す勢いでナイフを抜いたあの瞬間。

『狂気の笑みを浮かべながら近づくな、クレア!』

 と必死に止めた自分。

 その直後、カーチスが茶化すように言った。

『これは罰としてレイン中尉には今放送されている『美少女戦士☆魔女っ娘キラックス !』のコスプレをして必殺技の『フリーダムシンキング 』をするしかないですね』

 あの時のカーチスの悪戯っぽい笑顔。

 ステアが肩を震わせながら笑い、

『フフフ、大丈夫ですよ。皆にウケますから!』

 と続けた。

 さらにカーチスが追い打ちをかける。

『ククク、大丈夫ですって中尉。もしウケなかったら僕は大爆笑してあげますから!』

「……」

 ヒューズは唇を噛んだ。

 あの時の自分は、顔を真っ赤にして怒鳴り返した。

『お、おい! なんで34のおっさんがそんなことしないといけねぇんだ!』

 今思えば、あれはただの馬鹿騒ぎだった。

 だが──その馬鹿騒ぎを一緒にしていた二人は、もういない。

「カーチス……ステア……」

 目の奥が熱くなる。

 涙が零れそうになり、ヒューズは袖で乱暴に拭った。鼻をすすり、深く息を吸う。

「……くそ」

 彼は小さく呟き、待機室を後にした。

 廊下に出ると、艦内はいつもより静かに感じた。艦全体が重苦しい空気に包まれている。

 だがヒューズは歩みを止めなかった。迷うことなく艦の出口に向かう。

「レイン中尉」

 振り返るとそこには若い警備兵が立っていた。

「外出は禁止されています。艦長命令です」

 ヒューズは一瞬だけ目を伏せ、次の瞬間にはいつもの軽薄な笑みを浮かべていた。

「悪いな。パットン隊長の極秘命令なんだ。ちょっと外でやることがあってな」

「パットン隊長の……?」

「そういうことだ。上には黙っててくれよ?」

 軽く肩を叩き、ヒューズはそのまま歩き出す。

「し、しかし!」

「最近ストレス溜まってんじゃないか、ヘイル。これで見逃してくれよ」

 そう言って若い水着女性が表紙の本を周囲に人がいないことを確認してから手渡す。

「も、もう……しょうがないですねぇ~」

 若い警備兵は困惑しつつも、それ以上は追及しなかった。

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