機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
ガルガリン パイロット待機室。
「少佐、こちらにはいませんでした」
「私もです」
「本当にどこに行ったのでしょうか?」
戻ってきた部下からの報告に、ミレイユは重い溜息と共に頭を抑えた。
緊急で会議を開こうと考えたミレイユは、艦内待機しているはずの全パイロットに召集をかけた。しかしヒューズ・レインのみ連絡がつかなかった。
「……ヒューズ。まさか……」
ヒューズが無断で出た理由を思い当たるミレイユ。
ミレイユが知るヒューズ・レインという男はセクハラやエロトークをすることから女性陣から良い印象を持たれていないが、男女問わず年下の面倒を見る兄貴分のような側面を持っていた。
カーチス・クラウドとステア・スノーという年下の後輩パイロットを失った彼が何をするため外に出たのか。その理由に心辺りがあった。
しかし、どんな事情があろうと外出禁止令を破っていいはずがなかった。ましてや現在コンパスの活動は凍結しオーブと大西洋連邦の関係は冷え込んでいる。
先のキラ・ヤマトによる対ブルーコスモスで協力関係だったユーラシア連邦の攻撃。
キラがそのようなことをしない、と言い切れるほどキラを信頼している者達と違い、大西洋連邦のフォスター大統領を始め多くの者はオーブかプラント、もしくはその両方が大西洋連邦に隠して何らかの目的のためにキラに攻撃させたと思っている。
コンパスの一員としてキラたちと行動してきたガルガリンのメンバーも疑ってしまうのだから無理はなかった。
情報流出などの観点からエリオスが不要な外出を禁じる命令を出すのは必然と言えた。
「……少佐」
戻ってきたヒイラーが袖で汗を拭ってから報告する。
「……ヒューズがガルガリンに出たという情報を得ました。外出しようとするヒューズを止めようとした警備兵に『悪いな。パットン隊長の極秘命令なんだ。ちょっと外でやることがあってな』と言って外に出たと」
「……ヒューズめ!」
外出禁止令を破るという艦の秩序を破り自身を危険な目に晒す行為をした上、自分の名前を抜け出すため理由に使われ軽い怒りに襲われる。だがすぐに冷静な面持ちで目の前の部下達に命令を下す。
「わかった。私とハボックはガルガリンで待機。ヒイラーとクレア、イーサはヒューズを探してきてくれ」
「ハッ!」
「わっかりました!」
「了解しました」
三人はミレイユに敬礼をすると待機室を後にした。
椅子に座るミレイユと共に部屋に残ったハボックはジッと座っていた。
「……」
「……」
待機室に沈黙が木霊する。
「……あの」
沈黙に耐えられなかったハボックが不安を紛らわせるために話題を振る。
「少佐は何故強いのですか?」
抽象的な質問だとハボックは思った。こう尋ねられても困るだろうという思いはあった。しかし聞かずにはいられなかった。例え理由が分からなくても。
「私は強くはないよ」
ハボックの質問に気分を害する様子もなく、ミレイユは首を軽く横に振る。
「私は強くはない……いや、強くなってはならないと思っているんだ」
「……」
予想外の回答に意表を突かれたハボックはミレイユの顔をジッと見る。ハボックの反応にミレイユは「誤解をするな」と言って続ける。
「我々は強くならなければならない。強くなければ守りたいものを守れないからな。だけど……」
一度言葉を切ってから、ミレイユは口を開く。
「強くなりすぎれば人は慢心する。……他人の痛みに鈍感になる。強すぎた力は他者を平気で傷つける。自分でも知らない内に……ってこれでは答えになってないか?」
申し訳なさそうに頬をかきながら目線を逸らすミレイユにハボックは優しく首を横に振る。
「いえ、充分です」
ハボックは理解した。未だに尊敬している上司、リムバス・シュタイナーがなぜ死神と呼ばれるミレイユと付き合っていたのか。
そして何故自分がリムバスと同じくらいミレイユを隊長として尊敬しているのかを。
(隊長大好きのクレアではないが。俺も命を懸けよう。シュタイナー隊長の愛した女性を守るため、そして他者を守るために強さを求めながら強さを恐れる優しさを持つこの
僅かに口角を上げながら、ハボックは心の中で誓った。