機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
「カーチス、ステア……」
無断で艦外に出ていたガルガリンモビルスーツ部隊の一人、ヒューズ・レインは悲しみを押し殺しながら先の戦いで死んだ仲間の名前を呟いき、ガルガリンに向けて歩を進めていた。大きな袋を持って。
「お前らはまだ30にもなってないだろう。それなのに……お!?」
下を向いていた視線がまっすぐになった時、ヒューズが止まる。そこには胸元が大きく開き、うっとりするほどのくびれが見える腰回り、スラリと長い足を惜しげもなく見せるショートパンツのギャル風の女性が立っていた。
女性はヒューズと目が合うとゆっくりと見惚れる男の前に立ち、腰に手を回す。その時、美女の指先がヒューズの背中に軽く触れた。
(あ……)
微かに香る甘い匂いにヒューズの思考が停止する。
「ねぇ、お兄さん。私とこの後イ・イ・コ・ト、しない?」
「え? いい事って!?」
「……ふふ。そんなの、女の口から言わせないで」
女の顔が鼻の下を伸ばすヒューズの顔に近づく。
(おぉ!)
この後の展開に期待が膨らむヒューズはそっと目を閉じる。その時だった。
シュッ! ……グサッ!
「うわあっ!?」
「!」
ヒューズと女の間に何かが通過し、ヒューズは腰を抜かし、女はバックステップでそれを回避する。
二人が見ると、そこには木にナイフが刺さっていた。二人は投げられた方向を見る。そこには人形のように感情が読み取れない男が立っていた。
「イーサ! てめぇ、何をいきなり──」
バンッ!
ヒューズの言葉は一発の銃声でかき消される。
「!」
女は再びバックステップで後ろに跳ぶ。その後を追うように女の足があった場所に銃弾がめり込む。
「ちょっと、アンタ。何をしているの?」
イーサの後ろから拳銃を持ったクレアが現れる。
「い、いや……俺はナニをしようとしていたわけじゃ──」
「「お前じゃない!」」
イーサとクレアは同僚を一喝すると武器を構えながら女を見据える。
「あ、あの……失礼ですけど突然このようなことをされるのは失礼じゃなくて? 運よくかわせたものの、私のような一般人に当たっていたら貴方たち軍人は──」
「一般人? 次に攻撃に転じる動きで避けた女が?」
「……お前からは死臭がする。何百、何千と殺してきた者の臭いが!」
「……ふっ。そんな人智を超えた直感的なものに、私の変装が見破られるなんてね」
男を誘う女の顔から一変。謎の女、ソニファー・リーブランは策謀を巡らし数多の命を奪ってきた軍人の顔に変える。
「でももう目的は達成したわけだし、私は退くとしよう」
ソニファーはいつの間にか持っていた缶を叩きつけるように中間地点に投げるとすぐさまサングラスをかける。
閃光弾!
イーサとクレアは咄嗟に腕で視界を塞ぐ。次の瞬間
「「「ッッッッッッ!!??」」」
得体の知れない音に三人は言葉にもならない苦痛を漏らし、耳を抑えて膝から崩れ落ちる。
閃光弾と思ったそれは三半規管を大きく狂わす音響弾だった。
サングラスをしたソニファーは缶が破裂する瞬間、耳を抑えたので音響弾の影響を最小限に留めた。逆にクレアとイーサは目を抑えていたためソニファーが耳を塞いだことに気がつかず、音響弾をもろに食らってしまった。
「……こ、このブス……がッ!」
「……この僕が……こんな手に……ッ!」
音響弾に立つことも出来ず苦しみながらソニファーを睨み続けるクレアとイーサ。その二人を見下ろしながら、ソニファーは考える。
「う~ん、やはりこの二人は殺しておいた方が後々のためになるかしら?」
「……ッ!」
ソニファーは抱きついた時に抜き取っていたヒューズの拳銃を、クレアに向ける。
「それじゃあ、レディーファーストということで。さようなら」
(なんてね。ガルガリンは反ファウンデーションの重要な戦力。そんな貴重な捨て駒を殺すわけないじゃない)
そう思い指にかけた引き金を外そうとした直後、
「ッ!?」
横に跳んだ。
銃声と共にソニファーが立っていた場所を銃弾が通り過ぎた。
「新手?」
銃弾を見ると遠くから走りながら自身に照準を合わせる男の姿が見えた。
「ふぅ。クレア・バートンにイーサ・ゼイデューク。そしてドラント・ヒイラー。アイツはとんでもない部下をかかえているわね」
(ま、そもそも戦ってこちらがケガをするのも、ガルガリンの戦力が低下しファウンデーションに利になるのもこちらとしては不都合。冗談もこの辺が潮時か)
そんなことを考えながらソニファーは遠くから正確に自分を狙うヒイラーの銃弾を避けると、どこかへ消えていった。
「全員大丈夫か!?」
味方の救出を優先させたヒイラーがソニファーを追うことはなかった。
そして。ヒューズの背中に貼られた手紙をエリオスが見るのはこの一時間後のことだった。
ガルガリン ブリッチ
「……」
クレア達がソニファーと交戦した一時間後。艦長席でエリオスは
「手紙には何と?」
隣に立つプレスコットが尋ねる。
「……」
副官の問いに答えずエリオスは無言で手渡す。
「……なるほど」
(……これは言えないわけだ)
読み終えたプレスコットはエリオスに手紙を返す。
「艦長、副長。手紙には何と……ヒィ!」
ヤクザと間違えられるプレスコットの睨みに、興味津々で尋ねた操舵手ソル・フランクリンが腰を抜かし操舵席から落ちる。
「プレスコット、後を頼む」
頭を下げるプレスコットに背を向け、エリオスはブリッジを後にした。
ミレイユたちが集まったパイロット待機室は重苦しい空気に包まれていた。緊迫する世界情勢と先ほど行われたソニファー・リーブランによる襲撃事件。そして
カーチス・クラウドとステア・スノー。
数日前まで下らないことで笑っていた仲間が戦死したという事実を数日たった今でも完全に受け入れることが出来なかった。
その時、控え室の扉が開き、全員が固まる。青とピンクを基調にしたフリルたっぷりの可愛らしい服を着たヒューズ・レインが立っていたからだ。
「美少女戦士☆魔女っ娘キラックス! みんなに悪さする悪い魔物は私の美声で心を洗うがいいの! くらえ、フリーダムシンキング!」
「……」
全員が口をポカーンと開き、目を点にしてヒューズを見る。
「ははは……おい、ステア。お前、これやったら『絶対ウケる』って言っていたじゃねえか……ダダ滑りじゃねぇか!」
乾いた笑いと共に流れるように涙を流す。
「おい、カーチス。お前だけは爆笑するって言っていたよな。……笑えよ、笑えよ…………爆笑しろよ!!」
膝から崩れ落ちるヒューズの鳴き声が控室に木霊した。
その空気を打ち破る放送が流れたのはすぐのことだった。
〈ミレイユ・パットン少佐、ハボック・サニー中尉。すぐに副長室に来るように〉