機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
オール基地 門前。
「もうアンタ達。見送りなんてしなくていいのに」
真っ白な化粧に、鼻だけ真っ赤に染めた道化のような顔。その奇抜な外見とは裏腹に、サルパ王国最強のエースパイロット──アンドレット・フォーチュナーは、見送りに来た二人の部下へ軽く手を振った。
小柄で気の利くケヴァンと、無口だが情に厚い大柄のアレックス。
二人は忙しい軍事訓練の最中にもかかわらず、上司の帰省を見送るために駆けつけていた。
「ま、私もアンタ達みたいな可愛い部下に見送られるのも悪い気はしないんだけどね」
アンドレットは冗談めかして笑う。
基地内は突然の
本来なら見送りどころではないはずだが、二人はどうしても顔を出したかったのだ。
「もう何年も両親に顔みせてなかったわけだし……突然の軍事訓練をサボる形になったけど。ま、いいわよね!」
「……ご両親に会う前に化粧は落として下さいよ、隊長」
「警察が絶対来ますから、隊長」
「わかってるわよ。アンタ達は本当に口うるさいんだから」
軽口を叩きながらも、アンドレットの表情にはどこか柔らかいものがあった。
平民出身でありながら努力と才能だけでエースに上り詰めた彼は部下からの信頼も厚い。
だからこそ、こうして見送りに来てくれるのだ。
「それじゃあ!」
ひらりと手を振り、アンドレットは基地を背に向け歩き出した。
二人の部下は、その背中が見えなくなるまで直立不動で見送った。
10分後。
「あ、そういえば!」
アンドレットは突然立ち止まり、手を叩いた。
「私、ロッカーに賞味期限切れ間近のお菓子置きっぱなしだった。どうしましょう?」
腕を組み真剣に考え込む。その姿はさっきまでのエースの風格とはまるで別人だった。
「賞味期限は美味しく食べられる期限。安全に食べられる期限を意味する消費期限と違って、数日放っておいても問題ない……けど」
そのお菓子は、ケヴァンが「隊長、甘いもの好きでしょう」と照れながら渡してくれたものだ。
忙しい訓練の合間に食べてほしい──そんな気持ちがこもっていた。
「……そうよね。せっかくの気持ちを無駄にするのは良くないわ」
アンドレットは小さく頷いた。
「一度帰るとしましょうか。お菓子は美味しいうちに食べないとね!」
軽い足取りで、再び基地へと向かって歩き出す。
その時、アンドレットはまだ知らなかった。
自分が基地を離れて戻るわずか20分の間に、オール基地へ向けて三つの影が静かに迫りつつあることを。
そして。忘れ物を思い出して戻るという何気ない行動が、この日の運命を大きく変えることになるとは、この時誰も知らなかった。