機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

62 / 62
第4章-28 サルパの英雄

 オール基地の中心で、ソニファーはサルパ軍の惨状を見渡しながら眉をひそめた。

 予想だにしなかった奇襲に、サルパ軍は完全に混乱している。

 基地の防衛ラインは崩壊寸前。通信は乱れ、指揮系統はほぼ死んでいた。

 司令官ザハールをはじめとする多数の指揮官が戦死。MSや軍艦、戦車は大きく損耗し、燃料施設をはじめとする重要施設は炎上している。

 

 サルパ軍のオーブ侵攻は不可能。

 

 ブルーコスモスとしての目的は、ほぼ達成された。

 だが、ソニファーの胸にはひとつだけ拭えない懸念が残っていた。

「……あの部隊」

 鋭い視線の先にあったもの。それは右往左往するサルパ兵の中で唯一統制を保っているMS部隊、ケヴァン率いるMS部隊だった。

「この混乱の中で、周囲の混乱に流されず隊列を維持できるのは見事なものだ」

 指揮官としての全てを叩きこんだフォイア、グレーニ、ジャンヌに勝るとも劣らない指揮能力を見せる敵を評価した後、すぐに冷徹な思考に切り替える。

「敵に三機だけだと知られたら、混乱が収まる」

 現在サルパ軍は突然の奇襲に混乱の極みにある。指揮系統の乱れと真偽が交錯する情報にサルパ軍は統制が取れていない。

 しかし奇襲した敵がたった三機と知れば敵は冷静さを取り戻し、恐怖は怒りに変わる。

 そうなれば、追撃を受ける可能性が高い。

 本来なら、今すぐにでも撤退したい。だが視線の先にいるケヴァンの部隊が健在な限り、撤退路は安全とは言えない。

(もうひと押し……混乱を深める必要がある)

 ソニファーは自分の焦りを理性で押しつぶした。

 残るランサーダートは一本。

 無駄撃ちはできない。

 だが、ケヴァンを落とせば安全に撤退出来るだけの混乱をサルパ軍に与えることが出来る。

 ソニファーは照準をケヴァン機に合わせた。

「殺すには惜しいが……ここで死んでもらう」

 ソニファーは一切の感情を捨てランサーダートを放った。

 暗闇を裂き、鋼鉄の槍が一直線に指揮官機を示す角がある機体へ迫る。

 僚機の間をすり抜ける白い軌跡に、ケヴァンは気づいた。

 だが、回避も防御も間に合わない。

(これで終わり。あとは撤退するだけ)

 そうソニファーが思った瞬間だった。

「……え?」

 視界の端で、光が走った。

「何……?」

 白い残光。銀色の刃。そして、鋭い金属音。

 ケヴァン機を貫くはずだったランサーダートが、二つに割れて空中で弾け飛んだ。

 ソニファーは息を呑む。

「ストライク……? 違う、あれは……」

 ケヴァン機を守るように立つ赤と白い機体。

 その姿は、まるで戦場に差し込んだ光のようだった。

 その瞬間、ソニファーは悟った。

(計画外の存在が現れた……!)

 撤退は正しい判断だった。

 だが──それを許さない強敵が、目の前に現れた。

 

 

「た、隊長!? ……どうしてここに!?」

 尊敬する上司、赤と白で構成されたアンドレット専用のストライクが目の前にいることに、ケヴァンは喜びと戸惑いを隠せなかった。

 〈おしゃべりは後よ〉

 軍服姿のアンドレットはランサーダートを叩き折った対艦刀を地面に突き刺すと、大量のグレネード弾を周囲の被害を顧みず、ランサーダートが放たれた方向に投げ飛ばした。

 

 

 

「クッ!」

 逃げ場なくばら撒かれたグレネード弾に、ソニファーは表情を歪ませた。

 ミラージュコロイドと圧倒的強度を持たせるVPS装甲は併用できない。

 VPS装甲が展開出来ない状態で、自機に迫る大量のグレネード弾を被弾するのは死に直結する。ミラージュコロイドによる敵への心理的圧迫や安全な撤退手段を捨ててでも。

 ソニファーは断腸の思いでVPS装甲を展開させた。

 機体の光学迷彩が霧散し、黒と青の装甲が露わになる。

 色を取り戻した装甲はグレネード弾がもたらす爆発と爆風、破片から機体を守る。

 ソニファーは歯を食いしばる。

「こいつは……エースだ!」

 

 

 

「……! 少佐が!」

 順調に重要施設の狙撃を行っていたシースは、突然の爆発に視線を移す。そこには敵を前にミラージュコロイドを解除するソニファーのブリッツがあった。

 ブリッツの視線の先にはソニファーを危機的状況に追い込んだアンドレットのストライク。

「あいつは、生かしておくわけにはいかない!」

 シースは予定を変更し、アンドレットのストライクに照準を合わせた。

 

 

 

「ふふ、なんて綺麗な機体なのかしら。まるで美しい天使が地に落ちたみたい。ああ……手に入れたいと思うと同じくらい、壊したくなるほど♪」

 アンドレットはうっとりとした表情でソニファーのブリッツを見る。

「ケヴァン。貴方はあの機体を相手なさい。出来れば生け捕りで──ッ!」

 部下に命令する途中、アンドレットは機体を半身ずらした。

 次の瞬間。ストライクが立っていた位置を、遠距離から放たれたアストラル砲の砲弾が通り過ぎた。

「あらあら。あそこに鬱陶(うっとう)しいハエがいるみたいね」

 そう言ってアンドレットは格納庫から無断で拝借したロングライフルを先ほど砲弾が放たれた方向に構える。

「私、遠距離攻撃(こういうの)得意じゃないんだけど」

 そう言ってアンドレットは照準を合わせることなく、瞬時にロングライフルの引き金を引いた。

 

 

 

「避けた!? 俺の狙撃を!?」

 回避したストライクに動揺しつつもすぐに移動しようとアストラル砲を上げるバスター。その直後だった。

 アストラル砲の砲身にオール基地から放たれたロングライフルが命中する。

「ウワァッ!?」

 その衝撃と爆発にバスターは姿勢を崩した。

 

 

 

〈隊長!〉

 別の方向からの襲撃を警戒し別の個所を守っていたアレックスが部隊を引き連れ、アンドレットの前に姿を現す。

「あら、アレックス。いい所に」

 ケヴァンと同じく信頼する部下の登場に、アレックスは笑みをこぼす。

「アレックス。あそこに遠距離特化の機体がいるわ。貴方の部隊はそいつを潰してちょうだい」

〈隊長は?〉

 尋ねる部下に、アンドレットはすぐには答えず視線を移す。

「私はアレを相手にするわ」

 突き刺した対艦刀を抜くと、アンドレットは破壊の限りを尽くすソドのソードカラミティに愛機を走らせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。