機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第4章-30 怪物対英雄 後編

「おりゃおりゃおりゃあぁぁぁっっっ!!」

 怒号とともに、ソードカラミティナイトの二刀が嵐のように振り回される。

 斬撃の軌道は荒々しく、しかし速い。

 高出力スラスターが空気を裂き、残像が視界を乱す。

「……」

 アンドレットは一切の感情を見せず、その斬撃を冷静に回避する。

(この機体が生み出す残像は厄介ね。まず残像(これ)を封じれるなら封じとかないと後々面倒ね)

 残像のメカニズムを解明する必要があると判断したアンドレットは、二頭の龍と形容できるソードカラミティの猛攻を最小限のダメージで耐える。多少の回避を犠牲にした結果、アンドレットは気づく。

(直線加速の瞬間に影が伸びる……それが残像の正体……なら、その動きをさせなければいい)

 

 残像は「直線加速+姿勢安定+最大出力」。これらが融合的に発揮されることで発生される。

 

 アンドレットは即座に察した。そしてソードカラミティナイトの胸部に一瞬視線を走らせる。

 

(腕部から伸びる二振りの長剣。あれも脅威だけど物理的衝撃をほぼ無効化するSP装甲。あの長剣だけで戦うなんて愚の骨頂。敵もそれは理解しているはず)

 アンドレットは猛攻に対処しながらソードカラミティの胸部を見る。

(胸部のスキュラ……SP装甲はビーム兵器に関しては物理的衝撃ほどの防御力は発揮されない。あれを至近距離で撃たれたら即死。だから敵は必ずどこかにスキュラに頼るはず。正面から踏み込むのは危険ね。残像も脅威だけどアレを至近距離で当てられたらストライクでも無事じゃすまない……この男の武装そのものが踏み込みの判断を狂わせる)

 

 スキュラの警戒が、アンドレットの戦術選択をわずかに制限する。

 しかしアンドレットは即座に判断を切り替えた。

「ならば──こう戦うしかないわね」

 

 残像もスキュラも封じる。

 

 アンドレットは即座にその対処法を実行した。ソードカラミティの攻撃を回避しつつも間合いを詰め続けソドに十分な直線加速をさせる距離を与えず、スラスターを最大出力に持ち込ませない。ソードカラミティの姿勢が安定しないよう回避と常に角度を変えた攻撃を仕掛ける。

 アンドレットの読みは的中した。

 残像を発生させる環境が完全に消え、ソードカラミティの影は伸びなくなった。

「くっ! 何だコイツは!?」

 思い通りの戦いをさせないストライクに、ソドの攻撃のテンポが乱される。それをアンドレットは見逃さなかった。

(ここ!)

 嵐のような斬撃の中でわずかに見えた隙。その隙を見つけた瞬間、アンドレットは前に出た。

「ハッ!」

 刃と刃が触れた瞬間。アンドレットは力を使わず、慣性を逃がす角度で受け流す。

「チッ!」

 自分の攻撃の間隙を見抜かれたことにソドは舌打ちをする。

「これで終わりよ!」

 ヴァルキュリア・ゲイボルグの鋭い一閃がソードカラミティナイトの胴へ走る。

「クッ!?」

 ソドは反射で身を捻り、ギリギリで直撃を避ける。しかしTP装甲の表面に細く鋭い傷が刻まれた。

「チッ。強いな、コイツ!」

 言葉とは裏腹にソドは微笑む。

 久々に対峙する強敵に、心から戦闘を楽しむソドの心が震えた。

(こいつはどんな奴なんだ?)

 一定の距離を取った後、目の前の敵に興味を持ったソドは通信を繋いだ。

「おい、そこのお前! 俺はブルーコスモスのソド・パーンだ! お前は何者だ?」

 

 

 

〈おい、そこのお前! 俺はブルーコスモスのソド・パーンだ! お前は何者だ?〉

「……」

 突然の敵からの通信に、アンドレットは怪訝(けげん)な表情を浮かべる。

(どういうつもり?)

 理解できなかったものの、アンドレットは返信することにした。

「私はサルパ軍オール基地所属MS部隊中隊長、アンドレット・フォーチュナー少佐よ」

 アンドレットは返答しながら、ソードカラミティナイトを観察する。

 機体の姿勢・スラスターの癖・二刀の重心……目の前の敵を倒すための更なる詳細な情報を集めていた。

「で。貴方は何の用があってこんなバカげた真似を?」

〈はぁ? サルパ王国(お前ら)がファウンデーションに同調してオーブに攻め込もうとしているからだろうが!〉

「サルパが? オーブに侵攻?」

 アンドレットの声には、理解不能な事態に対する静かな困惑が滲んでいた。

 サルパ王国は弱小国。

 オーブは中立を掲げつつも、地球連合やザフトと戦えるほどの軍事力を持つ強国。

 そんな相手にサルパが攻め込むなど、常識的にあり得ない。

 もしオーブと戦えば、国力・軍事力ともに大きく劣るサルパが数日で全面降伏するのは考えるまでもなかった。

(意味がわからない。……もしかして。私を混乱させるための虚言?)

 そんな考えがアンドレットの脳裏に浮かぶ。しかし本能がそれを否定する。

(この男の太刀筋……荒々しいけれど、嘘や搦め手に秀でたタイプじゃない。太刀を交えた時に感じた真っ直ぐさ。この男は嘘をつける性格じゃない)

 ソドの言葉は乱暴だが、嘘などは一切感じられなかった。

(この男は本心からそう思って言っている。それが事実かどうかは別にして)

「……まあいいわ」

 思考を切り捨てるように、アンドレットは短く言い放つ。

「貴方がサルパを脅かす敵であることには違いない。サルパがオーブに攻め込むとかいう話は──貴方達を排除してから確認させてもらうわ」

 

 もう話すことはない。

 

 これ以上の会話はしないと言わんばかりに、アンドレットはヴァルキュリア・ゲイボルグを構え直すと、雷光のように踏み込んだ。

 

 

 

「ふぅ、厳しいな」

 ソニファーは息を吐く。

 完全包囲されることを防ぐため、ソニファーは敵が包囲出来る(・・・・・)と誤認する位置取りを取るように気を配りながら、遮蔽物や地形を利用して砲撃を利用して砲撃をやり過ごしていた。

 一直線に退路に向かえば背後から狙われる。背後からの攻撃は回避が難しい。

 その事を理解しているソニファーは今すぐにでも逃げ出したい衝動を押し殺した。

(敵は包囲して確実にブリッツを捕縛、もしくは破壊しようとしている。しかし敵に包囲させようと仕向ければ動きが単調化する。射線が集中するため互いの射線が干渉し、それを避けるために射撃を躊躇する……結果として読みやすくなる)

 遮蔽物の影を滑るように移動し、砲撃の角度が変わる瞬間に身を翻す。

 敵が包囲を狭めるたびに、その包囲の穴へと移動する。

「ソドが突破口を広げるか。私が殺されるのが先か……我慢比べだな」

 そう言ってソニファーはルナクローを飛ばし、隙を見せた敵機のコクピットを貫いた。

 

 

 

 シースはヴェルデ・スティレットナイフを抜いてアレックスのダガーと近接戦を繰り広げていた。

 ミドルスナイプで数機の撃墜には成功したものの多勢に無勢。敵の射程内まで接近を許してしまった。

 各所が被弾し、このままでは撃墜される。そう判断したシースは隊長機であるアレックスに狙いを定めた。

 アレックスと接近戦を繰り広げることで敵機の集中砲火を抑制する目的だった。

 しかしシースはアレックスを撃墜することは出来ない。アレックスを撃墜すれば敵機が容赦なくバスターに銃弾を浴びせることは火を見るよりも明らかだったからだ。

 機体性能ははるかに上とはいえ、得意ではない接近戦で手加減しないといけないシースに、機体性能は劣るものの殺す気でかかるアレックス。

 互いの刃が火花を散らすたびに、シースの機体はじわじわと追い詰められていった。

 

 

 

「もう少しで倒せるわね」

 上下左右。異なる方向から繰り出される二つの攻撃をギリギリで回避、剣で受け流しながらアンドレットは反撃。徐々にダメージを積み重ねていた。

 アンドレットはサルパ最強のエースパイロットと言っても過言でない実力を持っていた。苦手だという遠距離射撃ですら、外れたとはいえほぼ照準を合わせずにバスターのアストラル砲の砲身に当てたことからその実力は窺い知れる。

 中でも近距離は最も得意とする戦い方だった。初めての戦場ではビームサーベルで5機の敵モビルスーツを撃破したのを皮切りに今まで撃破した7割が近距離によるものだった。

 一度に複数の敵を相手にして生き残っていたアンドレットに、単騎でここまで一歩も引かずに剣を交えてくる敵は始めてだった。

「今まで戦った中でも五本の指に入る強敵。だが、もうわかったわ」

 今までかすっていたソードカラミティの双剣はストライクに当たらなくなっていた。

 アンドレットが才能や努力・経験の他に近距離戦で圧倒的強さを発揮する理由。それはギリギリまで攻撃を見ることが出来る動体視力と相手のリズムを読む感覚だった。

 優れた動体視力によって最小限の動きで回避。最小限の動きで回避することで素早いカウンターを繰り出す。

 相手のリズムを読むことで攻撃のタイミングや防御の仕方、どのように回避するかなど相手の動きを予想することが出来る。

 最小限の回避からのカウンターと相手のリズムを読むことでの先読み。それがアンドレットの強さの秘密だった。

 ストライクのカウンターでソードカラミティは徐々に削られ、リズムを読まれたことで今まで回避出来ていた攻撃も徐々に当たり、その傷も深くなっていく。

 大きく払われたグラムブレイカーを後ろに飛んで回避すると、アンドレットはヴァルキュリア・ゲイボルグを振りかぶる。

「これで終わりよ、ソド・パーン」

 愛するサルパを傷つけた侵略者であり、同時に今まで出会った敵の中で『最強』の男。

 その敵に憎しみと怒り、そして戦士としての敬意を込めて──アンドレットはヴァルキュリア・ゲイボルグを構えた。

 

 この一撃で終わらせる。反撃も二撃目もいらない。

 

 回避も許さず、グラムブレイカーで防御してもそれごとソドを真っ二つにする。

 そんな全振りの必殺を、アンドレットはソードカラミティの脳天めがけて叩き込んだ。

 

 

 

 徐々に自身の機体が削られる中

「……」

 ソドは考えていた。

(ソニファーは何とか時間を稼いでいるが……そろそろ限界だ。俺らを見捨てるという選択肢が最初からないシースはおそらく基地の外で敵部隊と交戦しているはず。俺達がここで生きるか、それとも死ぬかは俺の活躍にかかっている)

「しかし」

 ソドは呟く。

「……コイツ。アンドレット・フォーチュナーを倒して、果たして敵は止まるのか? 隙は生まれるのか?」

 ソドは素早く左右を見る。アンドレットの邪魔にならないように距離を取りつつも銃を構え、いつでも撃てるように引き金に指をかけるMS達がいた。

(あいつらはコイツ(ストライク)の邪魔にならないように距離を取っている。しかし俺が逃げたりコイツを殺せば迷うことなく引き金を引くはず。一斉に撃たれたら俺でも全て回避・防御することは不可能だ。もし俺まで絶体絶命の状態に追い込まれたら──俺だけなくソニファーもシースも死ぬ!)

「そもそもどうしてこうなった?」

 ふとソドは呟く。なぜ奇襲に成功したはずの自分達が窮地に(おちい)っているのかを。

(そうだ! コイツが現れてからだ! コイツがブリッツのミラージュコロイドを大量のグレネード弾を飛ばすことで強制的に解除し、バスターのアストラル砲を発射不可能にさせたからだ! たった一機で戦況を変えるほどのパイロットだ! だったらその求心力もメチャクチャ高いはず!)

「だったら……。コイツがサルパ軍に絶大な人気があることに賭けるしかないな!」

 

 

 

「……え?」

 目の前の敵の力量は把握した。後は全てを攻撃に振った、防御も回避も許さない一撃を放つだけ。そう考えヴァルキュリア・ゲイボルグを振り下ろしたアンドレットは恐怖で一瞬固まった。モニター越しで目の前のソードカラミティが笑ったように見えたからだ。

(な、何を考えているの私……機体が笑うわけないじゃない……しっかりしなさい、アンドレット・フォーチュナー!)

 あり得ない事象に自身に喝を入れるアンドレット。

 結論から言えばソードカラミティは笑っていない。満面の笑みを浮かべていたのは「コイツがサルパ軍に絶大な人気があることに賭けるしかないな!」と呟いたパイロットのソドだった。

 笑ったように見えたのは錯覚だと処理したアンドレットは迷うことなくヴァルキュリア・ゲイボルグを振り下ろす。

 前に出て双剣を大きく振り払ったソードカラミティは前後左右に避けることも振り下ろされる剣を受け止めることも出来ない。

 

 斬った! 

 

 そう確信したアンドレットは異変を感じる。

 宙に舞う、風圧が強ければ強いほど遠ざかってしまう羽毛を切るかのような手ごたえのなさを感じたからだ。

 ソードカラミティの脳天に落ちる一刀によって機体は分断される。

 その未来は落雷のような一撃に合わせてソードカラミティが空中で前宙したことで外れた。

(あ、ありえない!)

 アンドレットは驚きを隠せなかった。

 ソードカラミティはグラムブレイカーという二つの長剣を大きく振り払っている状態。つまり重心が前に流れ前傾姿勢で体勢が崩れている。また剣の慣性で機体が前に引っ張られている。普通のモビルスーツなら空中で前方一回転は絶対に出来ない。仮に出来たとしても転倒する。

 しかし目の前の機体は剣を大きく払った慣性と前傾姿勢の重心移動を利用し、スラスターなしで前方回転に移行した。

 モビルスーツは重量が数十トンあり、姿勢制御なしで空中で一回転することは本来できない。

 普通のパイロットなら即死する。

 高G耐性が常軌を逸し、反射速度がずば抜けている超人的な肉体を持つソドだからこそ出来る技だった。

 アンドレットの必殺の軌道は、ソドの前宙によってわずかに外側へ逸らされていた。

 斬ったのは地面。それも長い刃渡りを持つヴァルキュリア・ゲイボルグが半分埋まるほど。

「まずい!」

 今まで見たこともない回避で必殺の一撃を防がれたことへの動揺を一瞬で断ち切り、アンドレットは自身の危機を感じ取る。

 反撃など後のことを考えない、全てを決めるつもりで放たれた一振り。それ故にその隙は致命的だった。

 アンドレットはスラスターで無理やりソードカラミティと距離を取る。しかしそれは完全にソードカラミティの間合いに出るまでにはいかない。

 空中で一回転した勢いのまま、グラムブレイカーを振り下ろそうとする。

「クッ!」

 グラムブレイカーが完全に振り下ろされる前に少しでもソードカラミティから距離を取ろうと、アンドレットは自身の相棒とも言えるヴァルキュリア・ゲイボルグを手放す。

(敵は遠心力を利用してあの二本の長剣をストライク()に叩きこむはず!)

 

 グラムブレイカーは実体剣でありながら絶大な破壊力をもたらす。

 

 それは直接刃を交わしたアンドレットには理解していた。

 物理的衝撃には無敵とも言える防御力を誇るSP装甲であっても真正面から受けるのは危険だと脳内のサイレンが最大出力するほどに。

「え?」

 グラムブレイカーの衝撃に備えて身構えていたアンドレットは目の前の光景に固まる。振り下ろされると思った二本のグラムブレイカーが回転の遠心力ではるか上空に飛んだのだ。

「……は?」

 何が起きたか分からず。並みのパイロットでは目に捉えることは出来ないほど高速で飛んでいったグラムブレイカーを見続けてしまうアンドレット。その思考の隙が致命傷になるとはアンドレットは気がつかなかった。

〈目の良さが命取りだ!〉

 その声にアンドレットは自分が致命的なミスをしてしまったことを悟る。

 もしアンドレットが並みの目の良さだったら。高速で遠くに飛んだグラムブレイカーを見ることが出来ず、すぐにソードカラミティに意識を向けてこの後に対処していただろう。

 しかしアンドレットは目が良かった。目が良かったからこそ高速で飛んでいくグラムブレイカーを目で追えてしまった。目で追ってしまったことで何故グラムブレイカーを自分に落とさず飛ばしたのかを考えてしまう。

 気づけば間合いに入ったソードカラミティがストライクの両肩を掴んでいた。次の瞬間

 

 ギギギッ……バキィッ!! 

 

 ストライクの肩部フレームが悲鳴を上げた。

 アンドレット専用機として剣技のために可動域を広げるため軽量化された肩関節は、本来なら柔軟にしなるはずの多軸構造が、グラムブレイカーを軽々と扱うソードカラミティの怪力によって許容範囲外の角度へ強引にねじ曲げられる。

 その瞬間、肩の内部で複数のアクチュエーターが同時に破断した。

 

 肩を動かすための駆動装置が破損し、正常に動作できないことを知らせる『肩部アクチュエーター故障』。

 肩関節が可動範囲を超える角度まで強制的に(ねじ)られ、構造限界を突破した『回転限界値オーバー』。

 安全装置が作動し、腕の駆動システムが完全停止。腕が動かなくなる『腕部駆動系シャットダウン』。

 

 それらを知らせる赤い警告がモニターを埋め尽くす。

「っ──!」

 アンドレットが操縦桿を引くが、ストライクの両腕はまったく反応しない。

 まるで人間の肩が外れたように、両腕はぶらりと力なく垂れ下がった。

 関節ロックは外れ、駆動系は自動停止し、内部の回転軸は完全に破損している。

 アンドレットは自分の腕ではない他人の腕がそこにぶら下がっているような、不気味な感覚だけを味わった。

「うそ……肩が……! 腕が動かない……!」

 ストライクガンダムACは剣技に優れるアンドレットに合わせて多少の防御力を失うことよりも機動性に重きが置かれた。肩関節が軽量化され、可動域が広い構造になっている。

 そのため、通常のMSより肩が壊れやすい。

 ソドが肩を掴んで強引に捻ったことで、ストライクの肩関節は脱臼に相当する損傷を受け、両腕は完全に死んだ。

 ストライクの両肩を掴んだソードカラミティは、そのまま力任せに機体を押し倒した。

「くっ──!?」

 アンドレットの視界が大きく揺れ、ストライクは地面に背中から叩きつけられる。

 そんなストライクをソードカラミティはその上に馬乗りになるように覆いかぶさった。

 両腕を失ったストライクは抵抗できない。

 せめてもの抵抗に頭部に2門内蔵されているイーゲルシュテルンを放つが

 

 ガンッ! 

 

 馬乗りになる間にソードカラミティが装着した、腰部サイドアーマー内に格納された対MS用メリケンサック《ブレイカーナックル》に挟み込むように殴られたことで砲門が破壊される。

〈まだまだだ!〉

 ソドはそのままストライクを殴り続ける。

「クッ、クソッ!?」

 SP装甲は物理攻撃に対して絶大な防御力を誇る。しかし伝わる衝撃だけは無効化できない。内部に蓄積されたダメージは装甲の内部に、そしてパイロットのアンドレットを(むしば)んでいく。

 アンドレットは操縦桿を必死に動かすが、肩を破壊されたストライクの腕は動かず、ただ殴られ続けるしかなかった。そして

 

 ガンッ!! 

 

 ソードカラミティの右ストレートによってストライクの頭部装甲に大きなヒビが入った。その瞬間──赤白の装甲色が一気に灰色へと変わる。

 エネルギーが尽き、PS装甲が完全に停止したのだ。

〈終わりだ、アンドレット・フォーチュナー〉

 ソードカラミティはゆっくりと立ち上がり、対装甲用コンバットナイフ《ミスティルテイン》を抜いた。

 PS装甲を失ったストライクは、ただの金属の塊に過ぎない。

 コクピットを避けながら、ソードカラミティは灰色となったストライクへ容赦なくナイフを突き立てていく。

「グゥッ!? ……私が、サルパの英雄と呼ばれた私が……接近戦で…………」

 何も出来ない状況に絶望しながら、アンドレットは自らの敗因を悟った。

(……私は勘違いしていた。腕部に装着された二振りの長剣と荒々しい動き。そして刀を交えた時に感じた、嘘偽りない感触からソド・パーンという男は『直情的なパワータイプ』と思った。

 そして──PS装甲に有効打を与えられるのは胸部スキュラだけ。

 だからこの男は必ずどこかでスキュラを撃つはずだと、私は当然の前提(・・・・・)として読み込んでいた。

 その警戒が、私の踏み込みを鈍らせ、正面からの攻めを制限し、戦術判断をわずかに遅らせた。

 

 だが本当は違った。

 

 この男は最初からスキュラを使う気などまったくなかった。私がスキュラを警戒する(・・・・・・・・・)と読んだ上で、その読みを逆手に取って戦っていた。

 そして──私の全てを賭けた一撃を羽のように一回転して無効化する技術と、強烈なGを受けながらすぐさま動ける耐久力。そして馬乗りになってボコボコに殴る暴力性。

 私が優れた剣技とスピードを最大の武器とする先手必勝の剣士なら。この男はスキュラ(ビーム)に頼らず長剣・拳を使い分ける、力こそ正義のパワー型と、後の先を取ることに長けた究極の技巧派。両方を兼ね備える接近戦のスペシャリスト)

「……こんな怪物に……どうやって勝て、と…………?」

 自身が最も得意とする接近戦で敗れ、抵抗の意思を失い放心するアンドレットは、破壊されるストライクを衝撃を食らいながらただ見ることしか出来なかった。

 

 

 

〈投降しろ! そうすれば命を奪うことはしない!〉

 生け捕りにしろという命令を受けたケヴァンは他の機体と連携して尻もちをつくブリッツに銃口を向けていた。

〈投降しろ! そうすれば命を奪うことはしない!〉

 ケヴァンが投降をうながす。

「……」

 ソニファーは考え、あきらめが入った微笑を浮かべる。

(どうやらソドが突破口を開く前に私が死ぬ方が早かったようだ)

 

 ブルーコスモスの新盟主ミケールの懐刀であり、エルドアで敗れたブルーコスモスの残党をまとめ上げる智将ソニファー・リーブラン。

 

 自身が生きたまま捕まればブルーコスモスの名誉は地に落ち、ソニファー・リーブランがかつて大西洋連邦で活躍したハーベスト家きっての才女、セレーナ・ハーベストだったと誰もが知ることになる。

 その事実はソニファーにとって避けなければならなかった。

 ソニファーは自爆コードに手を伸ばす。その時だった。

〈全員、これを見ろ!〉

 

 

 

「仕方がない」

 投稿する素振りのないソニファーに、ケヴァンは撃墜するべく銃を向ける。その時だった。

〈全員、これを見ろ!〉

「ん? なん──!?」

 振り返り目に入った光景を見て、ケヴァンは呼吸を忘れてしまった。

 そこには両腕がブラリと下がり、フェイズシフトダウンとなったボロボロのストライクの頭部を掴んで無理やり立たせ、コクピット部分にナイフをあてがうソードカラミティの姿があった。

 自分達が束になっても勝てなかった相手。サルパの英雄の異名を持つサルパ王国最強のエースパイロットがボロボロにされる。

 ケヴァンはもちろん、サルパ兵誰もが信じられず固まるしかなかった。

〈こいつの命が惜しければ全員武器を捨てブリッツとバスターから離れろ! ……言う通りにしなければ……分かるよな?〉

「う、うぅ……」

 傷だらけの身体でアンドレットは手を伸ばし、声をオープンにする。

〈全員……よく聞け! この者は……この者達は……我が愛するサルパを守る盾となり剣となるこの基地を破壊し、守り手となる同胞を多数殺した侵略者だ! この者達を許すな! 撃て! 地に落ちた英雄、アンドレット・フォーチュナーと共に!! ……え?〉

 アンドレットは言葉を失う。ケヴァン機を始めとするMSが次々と武器を捨ててブリッツから距離を置き始めたのだ。

〈何を……何をしている!? 撃つんだ! この地に落ちた英雄、アンドレット・フォーチュナーごと! なぜ撃たない!?〉

 その言葉を聞いた瞬間、ケヴァンは叫んだ。

「ふざけんじゃねぞ! アンドレット・フォーチュナー!」

「──!?」

 初めて聞く腹心の怒声を受け、アンドレットは言葉を失う。そんなアンドレットにケヴァンは続ける。

「アンタの言う通り、俺達はそいつが憎い。俺達の国を破壊し、仲間を殺しまくったんだからな! でもそれ以上に俺達はアンタに死んでほしくないんだよ!」

〈そ、そうだ!〉

 別の兵士がアンドレットに訴えかける。

〈アンタがいなかったら。今頃基地はもっと被害が出てもっと多くの仲間が死んでいたはずだ。その最悪を止めてくれたアンタを、どうして見捨てることが出来るんだよ!?〉

〈少佐。貴方は生きてもらわないと困る。貴方は安全な所で撃つしか出来ない臆病者にも『貴方達のおかげで安心して戦えるわ』と言ってくれた。……それがどんなに嬉しかったか、救われたか……アンタは考えたことがあるのかよ!?〉

〈ぼ、僕なんて二年前に敵に包囲されて『……もう死ぬんだ』と完全に諦めた時、単騎で敵陣に突撃するという危険を冒してまで僕を救ってくれた! そんな命の恩人を、殺せるわけがないじゃないですか!!〉

〈アンタは地に落ちていない。俺達の希望でありこの国を愛する、サルパの英雄だ!〉

 

〈そうだ!〉、〈私も思います!〉、〈自分も!〉

 

 サルパ兵が次々とアンドレットに「貴方はサルパの英雄だ」と訴える。

「みんな……!」

 アンドレットは絶望した。愛するサルパに破壊をもたらした侵略者を撃たないサルパ兵の姿に。しかしそれ以上にアンドレットの心は温かくなった。

 自分が思っている以上に、自分は必要とされている存在なのだと。

 それに気づいた瞬間。安堵によって緊張の糸が切れ、アンドレットは気絶した。

 気を失った主に寄り添うかのように、ストライクガンダムACの目の光が消えた。

 

 アンドレット・フォーチュナーの命と引き換えに三人の命を保証する。

 

 それは基地の外で戦っていたアレックス達にも伝わり、バスターと戦っていたサルパ兵も武器を下ろした。

 オーブに向けて出陣する予定だったオール基地は侵攻部隊を滅茶苦茶にされ、再編を余儀なくされた。もはやサルパはオーブに攻め込むどころではなかった。

 

 

 愛機と共に潜水艦に搭乗したシースは呟く。

「……ふう。まさかあの状況から生き残れるとは」

 ソニファーは苦々しい表情で爪を噛む。

「……まさかあのような弱小国にあれほどのパイロットがいたとは」

「……」

 腕を組んだソドはポツリと言った。

「何か俺、味方を救ったヒーローというより……悪役じゃね?」




エルドア攻防戦でキラ殺害の切り札ソド・パーン。
そのソドが強いことを証明したくてアンドレットというキャラを作ったのですが。
アンドレットが強いことを証明し、そのアンドレットをソドがどう倒すかに苦労し投稿が遅くなりました。ごめんなさい。
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