機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
ブルーコスモス秘密基地
「……」
白髪混じりの短髪に無精髭、作業着は油まみれ。
決して大柄ではないが、頭の天辺から踵まで一本の鉄柱が通っているのではと思えるほど背筋がピンと伸びている。
その男は、オール基地から戻ってきた三機のガンダムを鋭い視線で見据えていた。
ハーラン・コロナード。
C.E.73年10月3日に発生したザフト脱走兵によるコロニー落とし事件──ブレイク・ザ・ワールドで家族を奪われた憎悪から、ブルーコスモス入りした過去を持つ男である。
今年で64歳。だがその背筋の張りと歩くたびに床を震わせるような存在感は、年齢という概念をどこかへ置き忘れたかのような力強さを宿していた。
多くのパイロットが愛機を相棒だと思うように、彼にとって整備する機体一つ一つが息子や娘のような存在だった。
「……」
彼は思う。
(ワシが整備を始めて40年。多くの
「傷は戦場の勲章だ。直せばいい。帰ってきたなら……それで十分だ」
コロナ―ドは目を閉じる。
「よく戻って来てくれた!」という喜びと「こんなにも傷ついて!」という悲しみを漂わせて。
「だが!」
哀愁漂う雰囲気から一変。白髪が怒りで赤くなったと錯覚するほどコロナ―ドの身体から怒気があふれ出る。
「
コロナ―ドはソードカラミティナイトを凝視する。
アンドレットの必殺の一撃を回避する際、前傾姿勢で両腕を大きく広げた状態から前宙という無理な体勢からの無茶な動きによって機体の各処に微細な亀裂や衝撃による歪みなど様々な問題が発生した。
前宙以外にも滅茶苦茶な動きによって大小の部品が摩耗し、寿命が一気に削られた。
表面だけ見れば小破の中でも軽い部類に入る損傷。しかし内部に目を向ければ重症としか言いようがなかった。
(……ワシの子どもを、このような姿にして……!)
コロナ―ドは歯を食いしばる。
その時だった。
「よお、爺さん。俺の相棒は全快にしてくれたかい?」
にこやかな笑顔でソドが話しかける。その笑顔がコロナ―ドの癇に障った。
「このクソガキが!!」
ハンガー全体が震えるほどの怒声が響き渡る。
「じ、爺さん! 何をそんなに怒ってんだよ!?」
怒られた理由がわからず、スパナとドライバーを持って追いかけるコロナ―ドに、ソドは背を向けて逃げ出す。
「ワシの子どもをこんな風にしよって! その腐った性根を叩き直してやる!」
「いや、爺さんの持っているものって叩き直す道具じゃなくね? っていうか爺さん人間だからモビルスーツは子どもじゃないだろ?」
「お前の頭に脳ミソは入ってないのか!?」
「いったい何でそんなに怒ってんだよ!?」
64歳という高齢を感じさせない、鬼気迫る整備主任の男に。ソドは訳も分からず逃げるしかなかった。
「ソド。あいつは比喩とか知らないのか? というか、あの空気を読まない性格はどうにかならないのか?」
「まぁ、そのおかげで我々にとばっちりがいかなくて助かっているのですが」
ブルーコスモス最強と呼ばれる怪物、ソド・パーンを追い回すベテラン整備士ハーラン・コロナード。
その姿を二人に気づかれないように、ソニファーとシースは静かに見ていた。
「俺の薄っぺらい辞書に『逃げる』という文字はない! ましてや、惚れた女を見捨てて逃げるという選択肢はな!」
逃げてね?