機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
プラント スサが与えられた一室。
「……ふ、所詮は弱小国か」
スサは手にした書類に火をかける。
書類には昨夜、サルパ王国のオール基地に所属不明の部隊が強襲。司令官ザハールを始めとする指揮官・パイロットが多数死亡。燃料施設や軍艦などが破壊されて基地は半壊。オーブ侵攻は不可能になった事が記されてあった。
「まあいい。サルパは捨て駒。役に立てばそれでいいし、そもそも期待などしていない」
オール基地を襲撃した部隊は何者なのか。友好国であるサルパ王国にどれほどの被害が出たのか。
スサにとってそれはどうでもいいことだった。
(プラント同様。最後は我がファウンデーションに使われる道具に過ぎないのだから)
ふと時計を見たスサは呟く。
「始まるな。世界を変える福音が」
スサが呟いた数分後。
ユーラシア連邦 モスクワ。
「クロエ! 気をつけていってらっしゃい」
「うん、ママ! 行ってきます!」
防寒具に身を包んだ少女クロエは、いつもと変わらない朝の寒さを頬に感じながら元気よく家を飛び出した。
雪は静かに降り続き、モスクワの街を白く染めている。
昨日と同じ。平和で、ありふれた冬の朝だった。
「あれ?」
家を出てしばらくして、クロエは違和感に足を止めた。
両手をそっと差し出し、手袋の上に積もった雪に触れた瞬間──雪はまるで熱湯に落とされた氷のように、一瞬で消えたのだ。
生まれてから13年。
雪国で育った彼女にとって、雪が触れた瞬間に消えるなどあり得ない現象だった。
(どうしてだろう?)
手袋は厚手の毛糸で、雪が乗ればしばらく形を保つはずだ。それがまるで熱湯に落とした氷のように一瞬で消えた。
クロエは違和感に眉をひそめ、ふと空を見上げた。
その瞬間──世界が終わった。
言葉を発する暇もなく、クロエの身体は火だるまとなった。
熱い、と感じる前に。
逃げなきゃ、と考える前に。
何が起きたの、と状況把握をする前に。
クロエの神経は焼き切れ、脳が処理を始める前に機能を失い、彼女は自分が死んだことを認識する間もなく焼死した。
クロエだけではない。
「で、この課題なんだけど──」
「だからそれは──」
カフェで大学の課題に頭を悩ませていた学生たち。
温かいコーヒーを片手に談笑していた来客たち。
店員の笑顔。
流れる音楽。
そのすべてが、一瞬で炎に包まれた。
「はぁ~、仕事行きたくねぇ~。何か巨大な兵器か何かが飛んできてさぁ、何もかも無くなってしまわないかな。ま、そんなことあるわけ──」
と愚痴をこぼしながら会社へ向かう途中の会社員。
信号待ちの人々。
バス停で談笑する老人たち。
犬の散歩をする女性。
通学途中の子どもたち。
誰一人として、自分の死を理解することはなかった。
空から降り注いだ一条の光は、大地を焼き切り、街を灼熱の地獄へと変えた。
建物は影を残して溶け落ち、車は瞬時に黒焦げとなり、人々は火だるまになったまま倒れた。
痛み。
恐怖。
事実認識。
それらを感じることすら許されない降り注いだ光──レクイエムの熱線は、人間の神経伝達速度よりも速く、脳が『痛い』と理解する前に焼き切る。
だから彼らは──死んだことを理解する前に死んだ。
昨日と変わらない、ごくありふれた日常。
その日常は、一瞬で地獄と化した。
モスクワは誰も叫ぶことなく、誰も逃げることなく、誰も抗うことなく、
ただ
焼き尽くされた。