機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
「テストゥド作戦参謀。後は頼むぞ」
参謀総長スサ・スクトゥムを始めとする参謀達が集まる部屋で、赤銅色の髪をした眼鏡の青年、スサは副官とも言える女性に声をかけた。
コウム・テストゥド。デスティニープランに基づいて抜擢された人物。
遺伝子操作でも直すことが出来なかった太れない体質から拒食症の人かと見間違うほど痩せこけ、目はギョロリと黒目が小さい。骸骨の人体標本に髪と目などの臓器、僅かに肉をつけたという印象だの女性だった。
「ハッ、後の事は滞りなく行います。ご武運を!」
上官に対しコウムは見事な敬礼で応える。その姿にスサは微笑むと背を向けてプラントに向かうシャトルへと足を進めた。
「……スクトゥム参謀総長」
スサが見えなくなるまで見送ったコウムは厳格な表情から一変、今にも泣きそうな不安な表情で見えなくなった上官を思い浮かべる。
作戦参謀に
学者を父に持つ彼女は幼少期から同世代はおろか、一回り以上ある者達とも議論が出来るほどの頭脳を持っていた。
しかしその日の食事にも事を欠く極貧な生活と遺伝子操作でも
お世辞にも綺麗と言えない容姿と卓越した頭脳。それが嫉妬と中傷を招く原因となった。
「なぜ私は生まれてきたの?」
そう自分の運命を呪う日々だった。永遠と思えた不幸な日が終わったのは突然のことだった。
ファウンデーション王国がユーラシア連邦から独立を宣言。宰相オルフェ・ラム・タオの主導の元で出自・経験に問わず有能な者が重職に抜擢されたのだ。その中には日々の苦しみを勉学で紛らわせていたコウムもいた。
作戦参謀に抜擢されたコウムだったが何の実績も経験のない若いコウムを疑問視する者ばかりだった。
やっぱり私には無理だ。
その思いを断ち切ったのは参謀総長、スサ・スクトゥムだった。
『タオ閣下のお考え、ひいては参謀総長の俺の意見に異を唱えるなら存分に聞くぞ? それとも拳・剣・銃……何でもいいぞ?』
スサの頭脳はもちろん実力を知っている者達は『……い、いえ。意見など……』と言うと『そう言えば実は急用を思い出したので!』と逃げるようにその場を後にした。
『口だけの愚か者が』
吐き捨てたスサはコウムに振り返る。
『コウム、お前もお前だ! お前はデスティニープランによって適性があると認められたのだ! もっと自信を持て!』
『し、しかし……私はやせ細っていて美しくなく……いえ、醜いですし……』
『フンッ、そんなことか』
スサは鼻で笑う。
『容姿など個人を見分けるための要素にすぎん。俺も他のブラックナイツと比べれば剣も銃もMSの腕も劣っていた。だからどうすればより認められるようになるか考えた結果。俺はあらゆる書物を読み、血肉に変えて今の地位に上り詰めた。そのコンプレックスを奮起する武器にするか。それとも押し潰されて腐った人生を歩むか。それはお前が決めろ!』
『……』
『お前を作戦参謀に抜擢した俺を『スサ・スクトゥムは人を見る目がなかった』と言われないようにしてくれ』
『……』
コウムは何も言えなかった。やせ細った体型も美しい容姿も個人を見分けるための要素に過ぎないと切り捨て、何の苦労もせずに今の地位に就いたと思っていたスサが実は陰で努力をしていたこと。そしてやせ細った体型を呪うのではなく奮起する武器にしろと言われたことに。
最後に、スサは言った。
『結果を出せ! お前の実力を見せつけろ! そうすればお前をバカにしていた愚か者は口を塞ぐしかなくなる!』
『……はい!』
力一杯の声で、コウムは答えた。
その後の彼女はスサの期待に応えるようにがむしゃらに働いた。そしてスサの右腕と言われるほど名実ともに作戦参謀に相応しい人物へと変わっていった。