機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH 作:筆先文十郎
第5章-1.5 ウズメの矜持
地下格納庫の薄暗い照明の下で、ミレイユはグローリアサンライズを見上げていた。
「ミレイユ。……他にも、やらないといけないことがあるから、私は戻るわね」
「あぁ、ありがとう」
ミレイユに背を向け、ウズメは静かに歩き出す。その背中は次第に小さくなっていく火のようだった。
新しく生まれ変わった愛機との対面に興奮を隠しきれないミレイユは、その背中に気づく様子はなかった。
物陰に入ったことでミレイユの視界からゆっくりと消えていく。
──その瞬間だった。
「ッ!?」
ウズメの膝が、フッと力を失った。視界が揺れ、呼吸が浅くなる。
「っ……」
崩れ落ちるように身体が傾く。何とか制御しようとするウズメだが、回路が壊れたかのように身体は言う事を聞かず、みるみるうちに床に近づいていく。
(ぶつかる!)
手を入れて頭を守ることすら出来ないウズメは覚悟を決める。だが、いつまで待ってもその衝撃は来なかった。
「ウズメ! ちょっと、アンタ……!」
周囲には聞こえない小声で、しかししっかりと聞こえる口調で何者かがウズメを支えた。
エリカ・シモンズだった。
密かに見守っていたエリカはウズメがミレイユの視界から消えた瞬間、ウズメの異変に気付きすぐに彼女を支えたのだ。
「……、……」
ありがとう、エリカ。
ウズメは感謝の言葉を述べようとしたが、声にならない。
喉が乾き、頭が重い。身体が鉛のように沈む。
「……はぁ、アンタっていう女は」
エリカは深いため息をつくと、ゆっくりと地面に座らせる。
「私、貴女と再会した時『最悪命を落とすことになるのよ』って言ったけど。……アンタ、ほんとに自分を殺す気?」
尋ねるエリカは知っている。グローリアサンライズを完成させるためにウズメが数日間ほとんど寝ていないこと。食事をまともに取っていないこと。
そして──サンライズを仕上げるために、自分の限界を何度も踏み越えたことも。
自分の知っているウズメ・アマノという女なら絶対しない行動だった。
その問いにウズメはかすかに笑った。
その笑みは、涙のように弱々しかった。
「……ミレイユには、サンライズが……必要だったから」
エリカはため息をつき、ウズメの額に手を当てる。
熱い。
限界を超えているのは明らかだった。
「まったく……。アンタって女は、本当に……」
呆れたように言いながらも、その声は優しかった。
「少し休みなさい。サンライズの搬送などの事はは私がやっておくから」
「……ありがとう、……エリカ」
消え入りそうな声で、ウズメは目を閉じた。
そのまま、エリカの腕の中で静かに意識を手放した。
その寝顔は充足感に満ちた清々しいものだった。