機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

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第5章-2 ハイジャック ミレニアム

 夜。オーブ オノゴロ島。

「……」

 海中から潜水用の装備に身を包んだ者がいた。その人物は狙いを定めてライトアップされた巨艦、ミレニアムの点検用ハッチ横に向けてワイヤーを射出。固定されたのを確認した後、すかさず昇降機で昇っていく。その者に続くように同じような恰好をした者たちが次々とワイヤーを射出しミレニアムに乗り込んでいく。

 それからミレニアムに『有毒ガスが発生』という緊急警報が鳴り響くのは間もなくのことだった。

 

 

 

 同時刻。大西洋連邦。

「……ガルガリン、修理完了。それなのにオーブを離れる気配なし、か」

 ディガー・グレイブは、情報部から上がってきた最新報告を見て眉をひそめた。

 大西洋連邦の大統領フォスターが『コンパスとは関わらない』と宣言した以上、もはや何の関係のないオーブにガルガリンが滞在している事実は大西洋連邦の外交方針と完全に矛盾する。

「ガルガリンはコンパスの一員として活動してきた艦だ。そんな艦がオーブに滞在すれば──『大西洋連邦はコンパスを支持している』と世間に誤解される」

 それは今回の騒動の原因となった人物、キラ・ヤマトに味方する勢力だと世界中に宣言するのと同じだった。

「それに……」

 グレイブの脳裏に一人の男が浮かぶ。ガルガリン艦長、エリオス・テイラーだ。

 エリオスは基本的に命令に従う男である。しかし自身の判断によっては独断行動を取る危険性を孕んでいる男でもあった。

 国の方針に従いコンパスとは関係のないことを強調したいグレイブにとって、ガルガリンは政治的・外交的に問題を引き起こしかねない、一刻も早く異動や更迭などの人事処分を行う必要がある爆弾でしかなかった。

 グレイブはすぐさま通信を開く。

〈……お待たせしましました、グレイブ中将。エリオス・テイラーです〉

 モニターには顔も見たくない部下、軍人らしい真剣な表情の奥にわずかな疲労と警戒が滲ませたエリオス・テイラーの顔が映し出された。

 そんなエリオスに、グレイブは冷たい声で命令を発した。

「ガルガリン、至急帰国せよ。修理は完了していると聞いている。オーブ滞在の正当性はもうないはずだ!」

 

 

 

 ガルガリン ブリッジ。

〈ガルガリン、至急帰国せよ。修理は完了していると聞いている。オーブ滞在の正当性はもうないはずだ!〉

「……」

 エリオスは黙ってその命令を聞く。

 ガルガリン入港時、大西洋連邦はコンパス加盟国だった。つまり同じコンパスのオーブに入港し修理をするのは何の問題もない。

 しかし大西洋連邦大統領フォスターが「コンパスとは関わらない」と宣言した以上、大西洋連邦所属であるガルガリンがオーブに滞在する理由は消滅する。

 修理が終わっているのならば尚更だった。

「……」

 エリオスは帽子を被りなおすと、淡々とした声で返答した。

「中将、現在オーブ周辺の情勢が不安定です。帰国の安全が保障できない今はガルガリンは帰国できません」

〈……〉

 グレイブの眉をひそめた。

〈テイラー、何か隠しているのではないか? 修理は終わっている。それでも帰国しない理由があるとでも?〉

 ブリッジの空気が張り詰める。

「……」

 エリオスは沈黙した。

 その沈黙が、グレイブの疑念をさらに強めた。

〈命令に従えないなら軍法会議にかける。これは最後通告だ〉

「……中将」

 エリオスが何かを言おうとした、その時だった。

「艦長、大変です! ミレニアムが……! ミレニアムが何者かにハイジャックされました!」

 ルクス・グラントの突然の報告にブリッジ全体が凍り付く。そんな中でエリオスの目が鋭く光る。

「ガルガリン、戦闘配置。全員、第一種警戒態勢に入れ!」

〈お、おい!? テイラー、貴様!〉

「申し訳ございません、中将。緊急事態が発生しました。これで失礼します」

〈テイラー! 何を勝手な──〉

 グレイブの言葉を遮るように通信を切ったエリオスはモニターを見る。

 そこにはハイジャックされたミレニアムを止めようと攻撃を加えるオーブ艦隊とモビルスーツ部隊の姿があった。しかしオーブ軍の攻撃はミレニアム付近で水しぶきを上げるだけで一発も当たらなかった(・・・・・・・・・・)

「か、艦長……」

「うろたえるな」

 悲鳴に近い声を上げる部下に、エリオスは静かに言い放つ。

「これよりミレニアムを奪還する。ガルガリン全速発進!」

 

 

 

 ミレニアム ブリッジ

(よし! 後は……)

 ミレニアムのハイジャックの成功しアレクセイ・コノエから艦長席に座るよう促された女テロリストことマリュー・ラミアスはコノエ以下ミレニアム乗員を監視下(・・・)に置くとミレニアムを発進させる。

 ミレニアムがテロリストに(・・・・・・)占拠された(・・・・・)ことを知ったオーブ艦隊がミレニアムを止めようと攻撃を開始する。しかしその攻撃は最初から(・・・・)狙っていない(・・・・・・)かのようにミレニアムに当たるか当たらないかのスレスレで外れていく。

 オーブ艦隊の猛攻をかいくぐったミレニアムが宇宙に上がろうとした直前。ミレニアムのモニターにガルガリン艦長、エリオス・テイラーの顔が映る。

「……ッ!」

 

 味方なら心強いが敵に回れば厄介。

 

 そう思う男の顔に女テロリストの顔に緊張が走る。

〈こちらはコンパス所属(・・・・・・)ガルガリン。テロリストに告ぐ。ただちに降伏してオーブに帰還せよ。これは最終勧告である。これに従わない場合、我が艦はミレニアムに攻撃を加える!〉

「えぇ!?」

 静まる艦橋で、恐怖で顔をひきつらせたアーサーが声を上げる。

〈繰り返す。こちらはコンパス所属(・・・・・・)ガルガリン。テロリストに告ぐ。ただちに降伏してオーブに帰還せよ。これは最終勧告である。これに従わない場合、我が艦はミレニアムに攻撃を加える!〉

 強気な発言と裏腹に笑顔でウィンクをするエリオスの意図を察した女テロリストは副長席に座るコノエを見る。女テロリストと同じようにエリオスの意図を理解したのだろう、微笑みながらコクリと頷く。

 コノエと同じ気持ちだと理解した女テロリストは毅然(きぜん)とした態度で言い返す。

「ガルガリン艦長、エリオス・テイラーに告ぐ。こちらはミレニアム艦長、アレクセイ・コノエ以下ミレニアムの乗員を人質にとっている。もしこちらに攻撃を加えるというのなら彼らの命の保障はない!」

〈な、何だとっ!?〉

 再び「えぇ!?」と驚くアーサーをよそに、棒読みで驚くエリオスに女テロリストは畳みかけるように続ける。

「ミレニアムの乗員の命の保障はガルガリンの行動、すなわちガルガリンがファウンデーション軍に攻撃をするミレニアムの援護をするかによって決まる。さぁ、答えを聞きましょう!」

〈し、仕方がない……〉

 エリオスは苦虫を噛み殺したような表情を浮かべ、微笑みながら答えた。

〈コノエ艦長以下ミレニアムの乗員を見捨てることは出来ん……。よかろう……これよりガルガリンはミレニアムの援護に回ります!〉

 そう言ってビシッと敬礼するエリオスに、その様子を見ていた青年テロリスト──キラ・ヤマトは微笑むながら敬礼をした。

「ありがとうございます、テイラー艦長」

 エリオスは笑顔で敬礼をして青年に応えた。

 そして宇宙に上がるミレニアムに追従するように適度な距離を保ちながらガルガリンも宇宙へと上昇していった。

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