機動戦士ガンダムSEED FREEDOM AMBUSH   作:筆先文十郎

73 / 73
第5章-3 崩れた前提

「やはりな」

 モニターに映るミレニアムにスサはほくそ笑んでいた。

 キラ・ヤマトを始めとする主要メンバーを失ったコンパスの生き残りが、プラントやオーブがレクイエムの発射の標的とならないようにテロリストにハイジャックされたと(よそお)う。

「そして奴らの目的は……レクイエムの破壊。しかしそれは不可能だ」

 月にはジャガンナートの艦隊、そしてスサ自身と彼の愛機ガネーシャ、随伴機のスレイヴがいる。さらにはその前にファウンデーション軍が展開予定だ。

 これらの戦力を単騎で突破しレクイエムを破壊する。

「ミレニアム単騎でファウンデーション軍とジャガンナート艦隊。そしてこのスサ・スクトゥムを突破しレクイエムを破壊する。これは蟻が噛みついて戦車を破壊しようとするようなもの」

 それでもやらなくてはならない。

 スサは同情した。キラ・ヤマトやシン・アスカなど優秀なパイロットを失い、質量ともに劣る状態で。死は確実と知りながらも単騎で挑まなければならないミレニアムに。

 

 オーブの首都オロファトはレクイエムの照射によって焦土と化し、全世界がファウンデーションにひれ伏す。

 

 その光景を想像し、微笑んだスサがその時を今か今かと待ち望んでいた時だった。

〈ファウンデーション、聞こえているかい?〉

「……ッ!?」

〈こちらはミレニアム、キラ・ヤマト〉

 モニターに映った青年。すでに殺害した人物の姿にスサは愕然とする。キラの背後には艦橋らしき背景があり、艦長席にはマリュー・ラミアスの姿もあった。

「ど、どういうことだ!?」

 自国を犠牲にしてでも排除しようとした計画の最大の懸念の登場に、スサの思考が一瞬止まり、勝者の笑みが音もなく崩れ落ちた。

(あいつら!!)

 スサの脳裏にシュラたちが浮かぶ。彼らは言っていた。キラ・ヤマトを始めとするコンパスの主要メンバーは全員殺害した、と。

 そんなスサを(あお)るようにキラは続ける。

〈残念だったね。僕はまだ生きている。自分の国民を犠牲にしてまで殺そうとしたのにね〉

 スサの表情が憤怒(ふんぬ)(ゆが)む。

(キラ・ヤマトを始めとするコンパスの面々が生きていることを知っていれば! バルトフェルドなんかに暗殺部隊(グラス)を差し向けなかったものを!)

 そんなスサの苛立ちをさらに煽るようにキラは続ける。

〈君たちは人類を導く者なんかじゃない。ただの殺戮者だ! 僕たちは真実を知っている。証拠もある。世界中にそのことを訴える!〉

 その言葉にスサは焦った。

 ファウンデーションはコンパスやユーラシア連邦によって愛する国土と守るべき国民を殺された被害国。その大義名分がキラによって崩されたことに。

〈君たちの負けだ! アコードか何か知らないが、虐殺者の企みは絶対に潰す!〉

「言わせておけば! ……ハッ!?」

 今すぐモニターの青年を殺したい衝動を、参謀としての本能が止める。

(なぜキラ・ヤマトはこの時点で自分たちが生きていることを明かした?)

 ファウンデーションは放送されるまでキラたちは死んだと思っていた。もしレクイエムを破壊するなら生きていることを隠しておく方が得策だ。生きていると知れば敵戦力の増大を警戒し、こちらは守りを強化するのだから。

(キラ・ヤマトが顔を出すメリットは何だ? 奴にとって避けなければならないことは何だ?)

「……そういう事か!」

 キラの考えを読んだスサは声を上げる。

 キラの生存はファウンデーションにとって誤算だった。一連の計画は自分達にキラが殺害されるという前提で計画されていたからだ。その人物が生きている。自分達の弱点を握っているという最悪の形で。

 ファウンデーションは一刻も早くキラを殺害しようと殺気立つ。

 そしてキラが現時点で避けたいこと。それは自分達が帰る場所であり守りたい安寧の大地。オーブを守ること。

 自分に矛先を向けさせることでオーブを焼くはずだったレクイエムの照準を変えさせる。

 その事に気がついたスサはアルテミス要塞に連絡を繋ごうとする。しかしそれは……。

「……遅かった」

 スサは表情を歪ませる。モニターにはミレニアムに照準を変えたレクイエムが発射された映像が映し出されていた。

 レクイエムの巨大な光の柱が海中に激突した所で映像が乱れてレクイエムがミレニアムに命中したかどうかは視認できない。電子パルスの影響でミレニアムが撃沈できたかどうかも確認できない。しかしスサは生き延びているという判断で考えを(めぐ)らせる。

 自分とオルフェを中心に何度も考え抜かれ用意されたエルドアという必殺の舞台から生き延びた。

「ゴキブリ並みの生命力を持つ奴らなら、レクイエムを回避したと考えた方がいい」

 

 キラたちが生きていたと判明した以上、一秒の遅れが致命的な敗因を生む可能性が高い。

 

 スサは急いで考えをまとめる。

「キラ・ヤマトの挑発に激怒した母上がレクイエムの目標をオーブ首都からミレニアムに変更するように命令を変える。奴らはその賭けに勝ったということだ」

 オルフェならキラ・ヤマトの生存と挑発に激高しつつも当初の予定通りオーブにレクイエムを発射していただろう。

 オーブを撃てば各国への見せしめの他に、デスティニープランに反抗する最大勢力であるオーブ連合首長国を物理的に消滅させ、自分達の理想に大きく近づく。

 そのオーブの代表首長にして反ディスティニープランの象徴にして指導者カガリ・ユラ・アスハを殺すことが出来る。

 

 中立国である自国の国営企業が、地球連合軍の新型モビルスーツを秘密裏に開発しているという噂の真偽を確かめるため単身ヘリオポリスに潜入する。

 父親であるウズミ・ナラ・アスハに「お前は世の中を知らん」と叱咤されたことに反発し、世界の現実を知るためにオーブを飛び出しレジスタンス『明けの砂漠』に参加した。

 スカイグラスパーやストライクルージュに搭乗し戦闘に参加。共に戦う味方を鼓舞した。

 

 カガリの行動を分析すれば、国の存亡がかかった時に彼女が安全な場所に隠れるという選択は考えられなかった。

「つまりカガリ・ユラ・アスハは必ず前線に出る。レクイエムが発射されれば確実に死ぬ位置に」

 オーブにレクイエムが発射され、カガリが死亡すれば反ファウンデーション勢力は分断、孤立されファウンデーションに降伏、もしくは各個撃破される。

「そして。キラ・ヤマトが生きているということは奴を救うために現れたアスラン・ザラも生きているということ。……カガリ・ユラ・アスハはキラ・ヤマトの姉でありアスラン・ザラの恋人という噂がある。その噂が本当なら、あのシュラと互角に戦う最強の不安要素……アスラン・ザラを精神的に殺害することが出来た」

 カガリの死により、アスランの精神は徹底的に破壊される。怒りで冷静さを失うのであれば自分達の有利な場所にアスランを誘い出して仕留めることが出来る。

 絶望に打ちひしがれて戦意を喪失するなばら、戦うことなく自分達にとって最大の脅威が排除されることなる。

 そしてキラ・ヤマトを始めとする者たち帰るべき場所が破壊されたことによる絶望。

 オーブという戦力と物資を供給する存在がなくなれば、いくらキラ・ヤマトたちが一騎当千の戦力であっても戦えない。

 

 アウラの『キラを今すぐ殺したい』という個人的な執着と傲慢に駆られず、冷徹に軍事作戦としてオーブを討っていれば、ファウンデーションの勝利はほぼ確実に決まっていた。

 

 しかし現実はオーブに反撃の大義名分と時間を与えてしまった。

 そのことに苛立とうする自身を、スサは頭を激しく振って無理やりかき消す。

「起きてしまったことを考えても仕方がない!」

 スサは必死に考える。この後キラたちが何を狙っているか。そして自分達が有しているカードは何なのかを。

「キラ・ヤマトが生きているとすれば……奴らはレクイエムの破壊とラクス・クラインの奪還を考えるはず!」

 スサは急いでアルテミス要塞にいるオルフェに連絡を取る。

 スサ同様レクイエムの破壊とラクスの奪還を狙っていると考えていたオルフェは自身がミレニアムを迎え撃ち、アウラの護衛とラクス奪還阻止のためシュラとイングリットを守りにつかせることをスサに伝えた。

 オルフェの対応に満足したスサはすぐに通信を切った。

 この時。スサは必要はないだろうと考えて言わなかった。

 徹底的に身体検査をし、ラクスが外部と連絡を取る、もしくは外部からラクスがここにいると伝わるような物を取り上げることを。

 

 オルフェ達ならば言わなくても分かっているだろう。

 

 その油断と過信が後の悲劇を生むとは、参謀総長スサ・スクトゥムは気づいていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。