世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件 作:赤坂緑語
世の中には、“おっかない人”がいるものである。
すぐ怒鳴る人。かっとなって手が出る人。人を騙そうとする人。
ただ、そういった人々はまだ何とかなると僕は思っている。
怒鳴る人は感情の制御が上手くできていないから隙だらけだし、手が出る人には正当防衛が通じる。
人を騙そうとする人は、こちらも罪悪感を持たず逆に騙し返してやればいい。
ただ、そんな風に考えている僕にも、本当にどうしようもないほど“おっかない人”がいる。
それは、怒鳴らず、かっとならず、騙そうともせず、ただ自然体でいる人だ。
それでいて、何を考えているのか分からず、こちらが困惑している間に一撃を放ってくる天災のような存在――それが僕の考える“おっかない人”である。
そして、その最たる例こそが、目の前にいる彼女だった。
慈悲ネリア。
先ほど自己紹介してくれた彼女の正体は、“教会”のエクソシストの元帥である。
元帥と言われても立ち位置が分かりづらいかもしれないが、もっとも分かりやすい例を挙げるなら、悪魔たちにおける“悪魔四騎士”の位置にいるのが彼女だ。
これだけで、どれほど途轍もない存在なのか分かるだろう。
教会が誇るエクソシストの最高戦力、『元帥』。
最年少でその地位まで辿り着いた彼女の才覚は、この世界でもトップクラスだ。
その凄まじさは自然災害に匹敵するほど恐ろしく――それこそ、悪魔四騎士とも対等に渡り合う人類の最終兵器である。
流石に誇張しすぎだと思われるかもしれないが、目の前の彼女が
そう。彼女はこの学園にいる死王女の宿敵にして、天敵なのだ。
その事実を知っている僕からすれば、彼女がニコニコと目の前に立っているだけで、口から泡を吹いて気絶しそうになるほど恐ろしい。
ぶっちゃけ、恐怖で膝が震えそうだが……それでも確認しなければならないことはある。
たとえば、どうして僕の前に現れたのか、とか。
どうして僕を呼び出したのか、とか。
霧島先輩やユリウスが約束を破ったとは考えにくいが、どこかから僕の情報が“教会”に流れていたとしても不思議ではない。
もし、彼女が僕の正体に気付いているのなら……戦うことになるかもしれない。
心の内で静かに覚悟を決めながら、僕は口を開いた。
「えっと、僕を手紙で呼び出したのは慈悲ネリアさん……なんですよね?」
「そだよ! いい手紙だったでしょ? 日本のアニメを見て勉強したんだ。本当は突撃してさっさと話をしたかったんだけど、君は
いや、貴女の方が変だし、絶対にヤバい人だと思います――普段の僕ならそう返していたが、彼女には言葉を返すという行為自体がリスクになり得る。
故に、僕は無言で頷くに留めた。
怖い。怖すぎる。僕の一番の武器である口が上手く回らないくらいに……!
「あれ? どうしたの。汗かいてるよ? あっ、もしかして緊張してるー? 全く。私と会うから緊張するのは分かるけど、肩の力を抜けって言ったでしょ! リラックスしなきゃいいパンチも打てないぞ! 私と一緒にプロボクサーを目指すんだろ⁉ ロッキーみたいになるって誓ったじゃないか!」
勝手に意味の分からないことで盛り上がる慈悲ネリアは、するりと距離を詰め――避ける間もなく、いつの間にか僕の肩に腕を回して馴れ馴れしく肩を組んでいた。
「何の話ですか⁉ 生憎と、ボクサーになるつもりはありません……!」
「えっ、じゃあ君は何になるんだい?」
「えっと……主夫ですッ!」
「――うひひ、潔いねぇ。うん、うん。男子たるもの、自分に正直でいなくちゃねぇ。悪くないぞぉ!」
「ちょっと、いい加減、放してください……!」
何とか拘束から抜け出そうとするが、何故か上手く力を逃がされて彼女の腕から抜けられない。
やっぱり怖い。この人怖いよ……!
このまま彼女に首根っこを掴まれたままプロボクサーになる未来が見えかけたその時――
「ちょっと待ちなさいッ!」
頼りになる凛とした声が屋上に響いた。
視線を向けると、貯水槽の上から跳躍した璃奈が(何故か)空中で華麗に一回転し、そのまま僕の前に着地した。
そして慈悲ネリアを鋭く睨みつけ、口を開いた。
「気持ちを押し殺すのはとても苦しいこと。だから、告白までなら許してあげようと思っていたのだけれど……これは話が違うわ」
愛と正義の戦士、天羽璃奈は慈悲ネリアに人差し指を突き付けて断言した。
「さっさと優斗君を放しなさいッ! さもなければ、貴女を敵と見なすわ」
「うひひ、本妻の登場じゃーん。いいね、私はこういうシチュエーション嫌いじゃないぞぉ。で、お嬢さん。私を敵と見なしたらどうするつもりなんだい?」
「――もちろん、実力行使よ」
紫の瞳が絶対零度の光を宿し、璃奈の周囲の空気がピンと張り詰める。
悪魔も裸足で逃げ出すであろう殺気を前にして、慈悲ネリアは変わらず陽気な笑みを浮かべていた。
「いいねぇ。やっぱり、人間は闘争してなんぼだよね。食料も、男も、殴り合って制するのさ。パンとお菓子だけじゃあ、文明は発展しない。そうは思わないかい? 優斗君」
「んー! んー!」
耳元で囁かれるが、万力のような力で肩から首まで締め上げられているせいで何も返せない。
璃奈の視線がさらに鋭さを増し、緊迫した空気が屋上に満ちる中――
「なーんてね。うひひ、喧嘩はまた今度にしよう。今日は仕事の話をしに来たんだからさ。仕事は大事だよね? グローブと同じくらい」
不意に、慈悲ネリアは僕の拘束を解いた。
「優斗君ッ!」
戦闘態勢を解いた璃奈はすぐに僕へ駆け寄り、そのまま抱き寄せて後方へ跳躍し、慈悲ネリアから距離を取った。
「大丈夫……?」
「まぁ、なんとか……」
異様な力で絞められていたが、芸術的な力加減と技術のお陰で肉体的な損傷は全くない。強いて言えば、精神的にはかなり疲れた……。
ホッと安堵の息をついた璃奈は、僕を抱きしめたまま、笑顔のまま固まっている慈悲ネリアを鋭く睨みつけた。
「――で、貴女何者? この学校の制服を着ているけれど、一度も顔を見たことがないわ。新入生の子かしら?」
しれっとこの学校の全員の顔を覚えていると話す璃奈に戦慄している僕を尻目に、慈悲ネリアは答えた。
「私? 私は教会のエクソシストだよ。しかも元帥! うひひ、カッコいいだろ?」
「……はっ?」
璃奈は滅多に見せない間抜けな表情を浮かべた。
足のつま先から頭のてっぺんまで視線を動かし、
「元、帥……?」
信じられない、といった様子で今聞いた言葉をオウム返しのように繰り返した。
エクソシスト業界に詳しい璃奈は当然のように教会の元帥についても知っている。
ただ、彼らは秘匿された存在なので、人物像や能力などは一切外部に知らされていない。
故に、目の前の少女が元帥だとしても何ら不思議ではないのだが――
「その、本当に……?」
璃奈はこれまで死王女、血の大公、鏡の大公、紅の戦君と名だたる強者たちと相対してきた。彼らは悪魔の中でもトップオブトップの存在であり、良くも悪くも強大な存在感があった。
だが、慈悲ネリアにはそういった迫力というか――覇気のようなものがない。
微塵も感じられない。
教会の元帥がエクソシストのトップオブトップであり、真正面から悪魔四騎士と張り合える存在であることを知っている璃奈からすれば、目の前の少女は迫力不足に見えているのだろう。
「えぇ? 疑ってるのー? 酷いなぁ。教会の人間だったら首にしてるところだよ。首、首。ネック、OK? っていうか、よく見れば君の首、綺麗だね。首を洗って待ってろっていうけど、本当に洗ってくれているとはありがたいなぁ。うひひ、世の中首が汚い奴が多すぎ」
相変わらず連想ゲームのように訳の分からないことをつらつらと述べる慈悲ネリアのことは一旦置いておくとして。
本当にエクソシストの元帥かどうかを疑う璃奈の気持ちはよく分かる。
分かるのだが……慈悲ネリアにおいては、そういった固定観念は致命傷になり得る。
彼女は、脅威を感じさせない自然体であるからこそ恐ろしいのだから。
「と、ところで。“教会”とか、“エクソシスト”とか言われてもよく分からないのですが……そんな人が僕に何のご用ですか?」
二人の間に不穏な空気が生まれる前に会話へ割り込む。
慈悲ネリアはキョトンとした表情を浮かべてから、こてんと首を傾げた。
「えっ? 君、悪魔の契約者でしょ。そういうの、知ってるんじゃないの?」
ゾッと背筋に氷を突っ込まれたような悪寒が走る。
内臓が熱くなり、頭が冷えていく。
璃奈の表情も引き攣ったのが見えた。
「……人に向かって悪魔だなんて、ちょっと失礼じゃないですか?」
「んん? あぁ、話を引き延ばそうとしてんの? それやめてほしいなぁ。私、話が長いの好きじゃない」
銀色の瞳が細められる。
自分の話は長いくせに、人の話を聞くのは嫌――そんな我儘を普段なら皮肉のひとつも飛ばしているところだが、言動が端的になって安定し始めたネリアは逆に危険だ。
僕はすぐに頭を下げた。
「すいません。確かに、僕は悪魔の関係者です。騙そうとしてすいませんでした」
「おー、急に素直ジャン。うん、いいよぉ。許してあげる。私は慈悲深いんだ。うひひ、私の一族はみんな慈悲深いぞぉ。優しいからモテるんだ!」
よく言うぜ。
心の中で毒づきながら、試しに聞いてみた。
「ところで、どうして僕のことが分かったんですか?」
基本的に慈悲ネリアは嘘をつかない。
聞かれたことには正直に答えるという義務を自分自身に課している節がある。
――とはいえ、正直に答えたところで解読不能な言葉になることが多々あるのだが。
「私、そういうのが視えるんだ。うひひ、凄いだろぉ。でも、視えるっていいことばかりじゃないんだけどネ」
慈悲ネリアの話を聞いた僕は、内心で舌打ちをした。
彼女の能力は原作でも全てが明かされていたわけではない。
故に、こちらから申告しなければバレないと高を括っていたが――やはり、このレベル帯ともなると見るだけで容易に看破してくるらしい。
「それで、僕を悪魔の関係者だと知った上で、どうして接触をしてきたんですか? ……まさか、殺しに来たんですか?」
とは言いつつ、それはないだろうと半ば確信していた。
慈悲ネリアは仕事に関しては真面目だ。
ポリシーもなく、ただ淡々と任務を遂行するキリングマシーン。
だから、殺すつもりなら僕はとっくに殺されているだろう。
「いや、君のことは
殺気もなくさらりと放たれる物騒な発言。
反射的に銃を取り出しそうになる璃奈の腕を掴んで無理やり静止させる。
「優斗君……?」
「璃奈、抑えて。……この人は、まずい」
困惑と怒りを抱いている彼女に対し、僕は微かに首を振った。
璃奈の表情がハッとなる。
恐らく気付いてくれたのだろう。
僕の目が、恐ろしいほどに真剣であることに。
そんな僕たちを前に、慈悲ネリアは楽しそうに笑った。
「私は別にいいよぉ。正当防衛が成り立つからさ。うひひ、正当防衛ってズルい言葉だよねぇ。後出しなら何してもいいんだからさ。じゃんけんなんて後出しが一番強いんだから、反則は禁止するべきだよねぇ。ちなみに私はチョキが好き」
相変わらず言っていることは無茶苦茶で間違いだらけだが……慈悲ネリアがあわよくば僕を始末したいという考えを持っていることはよく分かった。
やはり、恐ろしい少女だ。
ちなみに僕はグーが好き。
「おっと、また話が逸れちゃった。流石にそろそろ仕事の話をしようか。でも私、説明が苦手なんだよね。しゃーねぇ。アイツに頼むかぁ。うひひ、怒るかな? 怒るだろうなぁ。そのまま私に襲い掛かってきて欲しいなぁ。正当防衛でぶっ殺せるから」
物騒なことをぶつぶつと呟きながら、彼女は指を鳴らした。
その動作が権能発動の起点となっている性格の悪い女を知っている僕と璃奈は思わず身構えるが、幸いにもそれは攻撃ではなかった。
高らかに響いた指の音に引かれ、白い鳥が舞い降りる。
「鳩……?」
璃奈の呟きの通り、それは白い鳩だった。
平和の象徴たる鳩はそのまま慈悲ネリアの左肩に着地した。
「これ、私のペットのにゃん吉。よろぴこね」
鳩になんちゅう名前をつけてんだ。
心なしか、彼女の肩に止まっている鳩も不満そうな顔をしている気がする。
「腹減ったら食っていいよ。良いものを食べさせてるから美味しいと思う。うひひ、私も焼き鳥にして食べるの楽しみにしてるんだぁ」
鳩の顔が青褪めたように見えた。
思わず同情する。
こんな、何を言っているのか分からないパワハラ気質の狂人上司のもとで働くのは、さぞかし大変だろう。
「ほら、にゃん吉。通信だ。アイツと繋いで。あぁ、もちろん原初の共通言語でね。アイツはどうせ日本語喋れないから。うひひ、五秒以内に出来なきゃ、殺す」
怖すぎだろ。
鳩は青褪めながらバタバタと羽を動かし――唐突に、動きを止めた。
そして、
『……貴様、無断で日本に向かったかと思えば、説明もなしに突然の通信とはな。相変わらず、礼儀というものを持ち合わせていないらしい』
鳩の口から突然、男性の声が聞こえてきた。
低く、血の底から響いてくるような声。
その声を聞いた僕は、思わずその場で白目を剥いた。
「おっかない人の次は、怖い人とはね……」
「優斗君?」
「いや、なんでもない」
取り敢えず、鳩の向こうにいる人物の素性については考えないようにしよう。
一日で
「うひひ、礼儀はあるよぉ。お前には見せないだけ」
『なるほど。敬意を払うべき相手も知らぬとは、脳みそもないらしい』
どういう原理かは分からないが、鳩越しに日本語で“通信”をする二人。
繋がって早々に口喧嘩をし始めるあたり、その仲の良さが伺えるが、こちらとしてはわけの分からない状況に置いてけぼりを食らっている最中だ。
僕はおずおずと口を開いた。
「あ、あのぉ……」
『むっ、そこに人がいるのか。貴様、秘術の秘匿という鉄則まで忘却したのか? ほとほと呆れ果てる』
「うひひ、この子はパンピーじゃないよぉ。私が見つけた逸材だ」
『逸材……? エクソシストの素質を持っているということか?』
心なしか、通話越しの声が弾んだ気がした。
原作からそうだったが、相変わらず“教会”はエクソシストの人材不足に苦しんでいるらしい。
「エクソシストの素質もありそうだけど、私が見た感じ、悪魔の才能の方がありそうだねぇ」
『……どういう意味だ?』
「うひひ、ビックリするなよォ? ――この子、
『なんだとッ⁉』
鳩から驚愕に満ち溢れた大声が響いた。
だが、驚いているのは彼だけではない。
僕と璃奈もまた、驚愕していた。
通常、どの悪魔と契約しているかなど、読み取れるものではない。
個々の契約内容なのだから、こちらから自己申告しない限り分かるはずがないのだ。
「生まれつき、そういうの分かるんだぁ。縁というか、繋がりが糸みたいに見えるんだよねぇ。うひひ、だから世界中が糸だらけなんだぁ。目に見えるものほとんど糸! 鬱陶しくてしょうがないよ。あーあ、全員死んでくれないかなぁ」
笑いながら種明かしをする慈悲ネリア。
原作では最後までただただ理不尽な存在として君臨していた少女だったが、まさかこんな能力が隠されていたとは思わなかった。
それにしても、
さらりと言っているが――きっと、彼女に視えている世界は壮絶なものなのだろう。
飽くまでも推測だが、彼女の性格が歪んだのも、原作で裏ボスになったのも、この生まれ持った特性が根本的な原因なのかもしれない。
『あの悪魔が人間と契約を交わすとは信じられん……しかし、もしそうだとすれば、貴様が日本に赴いた理由もよく分かる。でかしたぞ、慈悲ネリア』
「うひひ、珍しく褒められたなぁ。嬉しいけど、やっぱり嫌かも。お前は私にもっと敵意剥き出しで来いよ。正当防衛でぶっ殺せないだろぉ?」
『……貴様を少しでも褒めた俺がバカだった』
鳩の向こうから深いため息が聞こえた。
どうやら、原作同様にこの生真面目な元帥様は苦労しているらしい。
『――ところで、そこにいる少年、名前は?』
「……」
『隠しても無駄だぞ。慈悲ネリアが勝手に喋るだろうからな』
それは確かにそうだ。
僕はチラリと璃奈に視線を送り、彼女が静かに頷いたのを確認してから名乗った。
「……地藤優斗、です」
『地藤優斗。覚えておこう。さて、教会のエクソシストとして確認を取っておくが……悪魔と契約することは大罪にあたる。それは知っているな』
「はい」
頷く。
知っていて、僕は契約したのだ。
“教会”を敵に回すことも覚悟したうえで。
だから、ここから戦いになったとしても、僕は受け入れて戦う。
それだけのことだ。
『声が明瞭で、意思が籠っている返事……ふむ、あまり邪悪な気は感じないな。地藤優斗はどうだ、慈悲ネリア』
「いい子だよォ。あんまり殺したくないタイプの人間だ」
『……貴様が殺したくないとは、珍しいな』
「うん。私たちが先に出会っていれば、いいエクソシストになっていたかもねぇ。――あっ、でもやっぱりそれは無理だったかも」
何故か突然、慈悲ネリアは僕にぐっと近づいてきた。
「ちょ、ちょっと――」
反射的に抗議しようとする璃奈を片腕で抑えながら、じっと僕の瞳を覗き込んでくる。
彼女の瞳は銀色で、不思議な色合いをしていた。
透き通っているようで、そうではない重厚な色。
彼女はすっと目を細めてから、言った。
「――うん。君、やっぱり怖いね。真正面からちょっかいを出さなくてよかったぁ」
「えっ……」
いや、怖いのはあなたの方なんですが……と喉まで出かかった言葉を、ぐっと飲み込む。
慈悲ネリアは再び僕から離れると、鳩の向こうの人物に向かって話しかけた。
「まぁ、いいや。とにかく、優斗君は悪い子じゃないよぉ。なのに、メフィラと契約している。いいね! いい感じだよ! うひひ、気味が悪いくらい都合がいい」
『……あぁ、貴様の言う通りだな。気味が悪いくらいに都合がいい』
「すいません。あの、何の話をしているんですか……? だいたい、どうしてアイツの名前が出るんです……?」
『慈悲ネリアはふざけた奴だが、こういうことに関しては恐ろしいほどに狙いを外したことがない。状況も切迫していることだし、我々としても決断せざるを得ないようだ』
「だから、何の話を――」
『地藤優斗』
教会が誇るエクソシストたちの頂点、元帥。
その気になれば一国を沈められる戦力の長である彼は、威厳のある低い声で言った。
『我々“教会”と取引をしないか?』