世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件 作:赤坂緑語
飢狼フェンラバ。
原作“十六夜のエクソシスト”を知っている者であれば、この名を聞いてまずそう思うだろう。
「ああ、アイツね。――逃げなきゃ」と。
死王女、紅の戦君、支配の悪魔王と続いて、最後に姿を現す四騎士。
“飢え” をその身に宿す獣。
それがフェンラバである。
その能力は極めて単純明快で、とにかく “食らう” ことに特化している。
肉、果物、野菜、剣、銃、毒、鉄、果ては空間。
ありとあらゆるものを顎に挟み込み、噛み砕き、飲み込む。
ある意味では死王女の能力に似ているとも言えるが、彼女が自らの力を完璧に制御し、自在に応用して見せるのに対し、フェンラバには制御などという概念はまったく存在しない。
ただ己の飢えを満たすため、本能の赴くままに暴れ回るだけの獣なのである。
圧倒的な攻撃力を持つ狼。それだけならまだ対処する術があったかもしれないが――この獣の厄介な点は、攻撃力だけではなく生命力も凄まじいところだ。
死王女も紅の戦君も並外れて頑強ではあるが、悪魔としての核を破壊されれば消滅する。
だがフェンラバは違う。
フェンラバ――“飢え” という存在は、決して消えることがない。
仮に一時的に満たされたとしても、それは束の間に過ぎない。
既に概念の領域にまで昇華したこの獣を、完全に止める術はない。
死ぬことも叶わず、永遠に飢えに苛まれ続ける――ある意味では、それ自体が途方もない拷問とも言える。
そう聞けば同情したくなる気持ちも湧いてくるかもしれない。
だが、その瞳を見れば、そんな感慨は一瞬で消え失せるだろう。
ただひたすらに食らうことだけを求める、獣の眼差しがそこにはあった。
「璃奈……」
僕は獣から視線を逸らすまいと最大限に気を張りながら、隣に佇む璃奈に低く囁いた。
「逃げるよ!」
こんな相手に、まともに立ち向かう余裕などあるはずもない。
僕は翼を大きくはためかせ、竜巻を生み出してフェンラバの視界を塞ぐ。
その隙に璃奈を伴って一気に空へと舞い上がった。
そのまま遠くへ離れようと飛ぶが――
「優斗君! 追いつかれるよ!」
目くらましなど、わずか一秒で打ち破られていた。
フェンラバはすでに駆け出していた。
奴の厄介な点、その三。
狼でありながら、空を自在に飛べることだ。
四騎士クラスともなれば飛行能力は備えていて当然ではあるが――
「速っ⁉」
問題はその速度だった。
虚空を強く蹴るたびに加速し、ぐんぐんと距離を詰めてくる。
初速が速いだけではない。加速力がまるで違う。
純粋な速さで言えば、四騎士の中でも最速かもしれない。
「優斗君、迎撃を……!」
「いや、奴に攻撃は通用しない! 全部食われて終わるだけだ! 今はただ、全速力で飛んで!」
僕は璃奈に指示を飛ばし、自らも翼をいっぱいに広げて加速する。
璃奈も力強く頷き、精一杯速度を上げてついてきてくれる。
だがこのままでは、いずれ追いつかれるのは時間の問題だ。
大きくて、速くて、強い。
まさに三拍子揃った脅威。
隙など見当たらない。
ならば、打てる手はひとつしかない。
「璃奈! さっきの都市のビル街に向かうよ!」
「えっ?」
「あそこで、奴を撒く!」
他に方法はない。
璃奈は一瞬首を傾げたが、すぐに覚悟を決めたらしく、何も問わず僕の決断に従ってきてくれる。
彼女の信頼に応えるためにも、ここで何としてでも成功させなければならない。
「優斗君っ!」
「っ!」
作戦を頭に描きながら飛んでいた僕は、璃奈の叫び声に反射的に身を躱した。
次の瞬間、僕がいた空間を巨大な顎がまるで紙のように噛み砕いた。
追いつかれるまでが、あまりにも早すぎる。
「このっ……!」
迎撃はしないと決めていたが、ここまで間近に迫られれば話は別だ。黙って食われるつもりはない。僕は銀と黒の翼を振るい、渦巻くような魔力の刃を生み出し、フェンラバへと叩きつけた。
だが――
『■■■■■ッ――!』
刃は触れた瞬間、跡形もなく消え去った。
微塵も効いていない。かすり傷一つつけることすら叶わず、放った攻撃はあっという間に飲み込まれてしまった。
琥珀色の瞳が僕を睨みつけてくる。
フェンラバは巨体からは想像もつかぬ速さで旋回し、後ろ脚で一撃を叩き込んできた。
「優斗君っ!」
咄嗟に両腕を交差させて受け止めると、鈍く重い衝撃が全身を貫いた。
バキッ、と嫌な音が響く。
恐らく腕の骨が折れた。体勢を崩したまま勢いよく吹き飛ばされ、僕はレプリカの町並みをなぎ倒し、地面に深くめり込んだ。
「っ! くそ……!」
折れた両腕を吸血鬼の再生力で急速に繋ぎ直し、痛みを噛み締めながら立ち上がる。
見上げた空では、璃奈が一対一でフェンラバと対峙していた。
僕が託した刀を一閃させ、並外れた剣才を駆使して巨獣の攻撃をかわし、隙を突いては反撃しようと奮闘している。
だが相手は、四騎士随一の生命力を誇るフェンラバだ。
いかに璃奈の剣さばきが華麗で的確でも、フィジカル的な差は埋めようがない。
フェンラバは大きく口を開け、璃奈めがけてまっすぐに突進した。
彼女は身を翻して躱そうとしたが、一歩及ばない。肩に牙が掠め、布ごと皮膚が裂かれる。
「っ……!」
痛みと衝撃で体勢が崩れ、璃奈は空中でふらついた。その隙を逃さず、フェンラバは再び獲物に食らいつかんと大きく口を開く。
「璃奈……!」
天羽璃奈が、狼の牙に飲み込まれる。
四騎士の獣風情に食われてしまう。
そんなこと、許せるはずがない。
それだけは何があっても避けなければならない。
だが、僕は今地面にいる。
今から空へ飛び上がったところで、間に合うはずがない。
「“
ならば、別の手段を用いるまでのこと。
「“地藤優斗は天羽璃奈の心臓を預かっている。故に、天羽璃奈は地藤優斗の所有物も同然だ。所有物は、主のそばにいなければならない――!”」
理屈も何もあったものではない、ただの暴論だ。
だが、濃厚な魔力が満ちる魔界では、そんな屁理屈さえも現実を捻じ曲げる力となる。
牙が迫る寸前、璃奈の姿が掻き消えた。
まるで霧のように、ふわりと。
「あ、れ……?」
僕の腕の中に白い霧が渦巻く。
戸惑うようなかわいらしい声が響いた次の瞬間、彼女は確かに僕の腕の中にいた。
「ゆ、優斗君……?」
「やぁ、さっきぶりだね」
崩れ落ちそうな体をそっと抱きしめる。
多大な魔力を消費したせいで頭がくらくらする。けれど、璃奈が無事でいるのなら、それで十分だ。
「怪我は大丈夫?」
「うん。悪魔の力を得たおかげで、傷の治りが早いみたい」
心配しながら尋ねると、璃奈はあっという間に塞がった陶磁器のような白い肌を指し示し、微笑んだ。
僕は安堵して息を吐き、空を見上げる。
気づかれていないことを願ったが――白い毛並みを風になびかせた狼は、あっという間に僕たちを見つけ、力強い足を踏ん張った。
「優斗君っ!」
「飛ぶよ!」
「うん!」
僕は璃奈に合図を送り、二人揃って翼を広げて上空へ舞い上がった。
当然、凄まじい加速力で上空からフェンラバが迫ってくる。
このままでは先ほどの繰り返しだ。
いや、僕たちの動きを覚えられている分、これまで以上に状況は厳しいと言っていい。
「璃奈! 町の中を進もう! 地の利は僕たちにある!」
高く上がってはまた追いつかれるだけだ。ならば、こちらが有利な状況を作るしかない。
璃奈はすぐに頷き、翼を広げて低空を滑るように飛ぶ。高度を取らず、建物のすぐそばを進む。
僕はさらに追加で指示を飛ばした。
「通学路のルートで行こう!」
「うんっ!」
見慣れた道を滑るように移動する。
後ろからフェンラバが建物をなぎ倒しながら迫ってくるが、細かく入り組んだ道は僕たちの方が熟知している。
言葉を交わすこともなく右へ左へと進路を変え、ジグザグに飛びながら学校を目指す。
フェンラバの加速力は凄まじいが、それは直線に限った話。
あの巨体では方向を変えるたびに勢いが削がれる。
僕たちは小柄な体格を活かし、その隙を突いて距離を稼ぐ。
最初は奇妙に思ったこのレプリカの町も、見慣れた景色であることが今は大きな武器になっている。
何が役に立つか分からないものだ。
やがて僕たちは聖西学園に到着する。
勢いを緩めず校舎へ突入する。遅れてフェンラバが巨体のまま正面から突っ込んできて――校舎に引っ掛かった。
「ハハハハハ! 引っ掛かったな!」
残念ながら、この学校にはあれほど大きな狼のための扉などない。
どれほどの力を持っていても、体が収まらない場所では自由に動けない。抜け出すまでには、少しばかり時間がかかるはず。
――チャンスだ。
「璃奈! 一気に加速するよ!」
「了解!」
璃奈が力強く頷く。
僕たちは校舎を抜けると翼を広げて上昇し、全速力で飛び出した。
背後で校舎が崩れ落ちるのが見える。
レプリカとはいえ、母校が壊れるのは心が痛むが…… 今は仕方がない。
振り返るのをやめ、ひたすら前へ飛ぶ。
校舎で足止めできたのは、ほんのわずかな時間に過ぎない。
フェンラバの力をもってすればすぐに追いつかれることは分かっている。
だが、この時間を活かしてビル街にたどり着ければ――僕の作戦が実を結ぶ。
「っ! 優斗君! 来てるよ……!」
速度を落とさぬまま器用に背後をうかがった璃奈が、警告の声を上げた。
振り向くまでもない。
怒りに燃えた狼が、四足で宙を駆けてきているのだ。
「あと、ちょっとだから頑張って……!」
情けない話だが、後はもう気合いで頑張るしかない状況だ。
“
璃奈は苦しそうな表情ながらも、力強く頷いた。
僕たちは翼をいっぱいに広げ、限界を超えて加速する。
背後から巨体が虚空を踏みしめる重い足音が迫ってくるが、振り返っている暇はない。
早く。ただひたすらに早く……!
『■■■■■ッ――‼』
ようやくビル群が見えてきた、その瞬間。
凄まじい殺気が全身を刺した。
咄嗟に隣を飛ぶ璃奈を腕に抱き寄せ、振り返る。
フェンラバが大きく口を開き、まさに僕たちを食らおうとしていた。
「このっ……!」
咄嗟に翼を盾のように構える。他に術を展開する余裕などなかった。
その盾に、フェンラバが食らいついた。
「ぐぅ……‼」
その翼は魔力で編まれたもので、生まれつきのものではない。だが “
だが、痛みに耐えている場合ではない。
僕はもう一方の翼を振り、フェンラバの顔面へと叩きつけた。
だがフェンラバは噛みついたまま唸り声を上げ、黄金の瞳がギロリと僕を睨みつける。
そのまま顎に力を込め、首を振り――僕の翼を食い破った。
「がああああああ――!」
「優斗君……!」
思わず絶叫する。璃奈の声が遠くに響く中、フェンラバは噛み砕いた翼を離し、後ろ足で強烈な一撃を放ってきた。
残った片翼で受け止める。
だが勢いを抑えることなどできず、僕たちは凄まじい力で弾き飛ばされた。
弾丸のように飛ばされた先にはビルが立ち並んでいた。
そのまま三棟を貫き、四棟目の奥深くまで突っ込んで、ようやく止まった。
「優斗君、大丈夫……⁉」
「…… まぁ、なんとか」
僕は璃奈を守るようにかばっていた残りの翼をゆっくりと畳む。
顔面蒼白の璃奈が、僕の上から身を乗り出すように覗き込んでくる。
僕は笑って頷きながら、傷ついた翼の痛みをこらえる。
彼女の腕に支えられながら立ち上がると、視線の先にはっきりとその姿が見えた。
飢えた獣がまっすぐにこちらへ突き進んでくる。
黄金の瞳には僕たち以外何も映っていない。
牙は剥き出しになり、涎が滴り落ち、巨体は獲物を捉えようと全身で獲物を狙う気配に満ちている。
「優斗君、来るよ……!」
「うん」
僕を庇うように一歩前に出て、刀の柄に手をかけ抜く璃奈。
その凛々しい横顔に頷きながら、僕は笑った。
「
この場所。
鏡のように光を反射するガラス張りのビルが立ち並ぶこの一画に来ることが、全ての鍵だった。
「“
迫り来る巨体を正面に据え、僕は一歩も引かずに言葉を紡ぎ始める。
「“地藤優斗は原種の吸血鬼である。故に、吸血鬼としてのあらゆる特性をその身に宿している”」
一語一語、確かに言霊を刻む。
「“さらに、天羽璃奈は原種の吸血鬼である地藤優斗の所有物である。即ち、彼女は地藤優斗の眷属に等しい存在だ”」
屁理屈で、世界を騙す。
「“故に、地藤優斗と天羽璃奈はこの場から消える。なぜなら――
そして、僕たちは消えた。
『■■■⁉』
突進してきたフェンラバは、その場で急停止した。
先ほどまで獲物がいたはずの場所には、ただガラスの壁が並んでいるだけ。
血走った瞳をあちこちに動かし、僕たちの存在を探そうとしているが――無駄だ。
そこに僕たちはいない。
仮にいたとしても、奴には見えない。
ガラスに映るのはただ、苛立つ獣の姿だけ。
フェンラバは鼻を鳴らし、四足を踏んで匂いを辿ろうとするが――それも無駄だ。
僕たちは単に隠れているのではない。
この鏡張りのビル群の中で、存在そのものを隠蔽しているからだ。
『■■■■■ッ――‼』
獲物を見失った苛立ちと怒りが、轟音となって迸る。
耳が裂けるかと思うほどの咆哮。
その衝撃で周囲の鏡やガラスが一斉にひび割れ、無数の破片が宙に舞い散る。
だがガラスが割れても、姿が見つかるわけではない。
割れていない鏡はまだ無数に残っている。そしてその一枚一枚に、僕たちの姿は決して現れない。
フェンラバは前足でガラス壁を殴りつけ、次々とビルを破壊し始める。
手当たり次第に暴れ回り、瓦礫を撒き散らしながら辺りを壊していく。
僕と璃奈は崩れ落ちる壁の陰で息をひそめ、その様子を見守っている。
このまま諦めて立ち去ってくれればありがたいが――あの怒りようでは、そう簡単にはいきそうにない。
魔界とはいえ、僕の魔力は無限ではない。
“
僕の魔力が尽きるか、それともフェンラバの怒りが収まるか。
まさに張り詰めた糸の上での睨み合いが続いていた、その時だった。
ガラス張りのビルが立ち並ぶ世界の上空を、一羽の黒い鴉がすっと横切った。
艶やかな翼を大きく広げ、猛スピードで駆け抜けていく。
手当たり次第に建物をなぎ倒し、怒りをぶつけていたフェンラバは、不意に動きを止めて顔を上げた。
そして、舞い飛ぶ一羽の鳥をじっと捉える。
鼻をヒクヒクと動かし、黄金の瞳が鋭く細まる。
次の瞬間――フェンラバは虚空を強く蹴り、一気に飛び出した。
そのまま一直線に鴉を追う。
鴉は速度を緩めることなく、はるか彼方へと飛び去っていく。
飢えた巨獣は、その後を追うようにして消えていった。
「…… 行った、かな?」
「うん……」
僕たちは周囲の気配を丹念に探り、何度も確かめ合った末、ようやく安堵の息をついた。
“
「あれは……ベルファルドに助けられたのかな?」
「多分、そうだと思う」
もう姿が見えなくなった鴉と狼の方角を見つめながら推測を口にすると、璃奈は同意するように頷いた。
「勝手に逃げたのかと思っていたけれど、意外と根性があったんだね」
『――おいおい、助けてやったのに随分な言い方じゃねェか、小僧』
珍しく感心するようなことを言った瞬間、どこからともなく聞き覚えのある声が響いた。
僕と璃奈は同時に、うんざりとした表情になる。
「…… ベルファルド。お前、生きてたのか」
『あァ。さっきのは俺様の匂いをつけたただの使い魔だからなァ。今頃、フェンラバの餌になってるんじゃねェか?』
「かわいそうに……」
鴉には同情するが、悪魔王らしいといえば悪魔王らしい手段だ。
使い魔はただの使い魔。
囮は囮。
ドライに割り切っているのだろう。
「――で、肝心のアンタはどこにいるんだ?」
『どこだと思う?』
「謎かけをしている暇はない。いいからさっさと出てこい。さもないと、フェンラバを呼び戻すぞ」
『それで困るのはテメェらじゃねェのかァ?』
「僕は嫌がらせのためなら命を懸けられる男だ」
『……メフィラかよ』
「なん、だと……?」
僕がメフィラに似ているだなんて――。
思わず璃奈の方を見る。助けを求めるような気持ちで。
璃奈は言葉を飲み込み、苦しそうに視線を逸らした。
僕は何故か込み上げてきたものを抑えるように、そっと目元を拭った
「それで、本当にどこにいるんだ。いい加減出てこないと、怒るぞ」
『小僧の “怒る” は洒落にならなさそうだから、素直に出てやるよ』
宣言通り、幼い姿のベルファルドがするりと現れた。
――璃奈の影の中から。
璃奈は目を見開き、慌てて刀を抜いた。
「いつの間に……!」
「お嬢ちゃんの影には一度入っていたからなァ。二度目も手慣れたもんだぜ」
璃奈は眉をひそめ、これ以上ないほど嫌悪を込めて言い放つ。
「もう二度と入らないで」
ベルファルドはわざとらしく肩をすくめた。
肯定も否定もしていないところを見るに、『極力入らないようにするけど、緊急事態になったら失礼するぜェ』といったところだろうか。
つくづく、抜け目がない奴である。
「はぁ……僕からも言っておく。璃奈の影には入るな」
「小僧の影だったらいいのかァ?」
「それも嫌だけど…… 璃奈に入られるよりはマシだ。本当にやむを得ない時だけなら、許す」
残念ながら、ベルファルドにいなくなられては困るのは僕たちも同じなのだ。
僕は手を軽く叩いて気持ちを切り替えると、ベルファルドを真っ直ぐに見て言った。
「――で、肝心な時は彼女の影に隠れていたくせに、最後だけいいとこ取りする元悪魔王さんは、有益な情報を持ってきてくれるんだよね?」
「…… テメェ、本当に性格悪いなァ」
「アンタよりはマシだと思っているけど」
「その勘違いがいつまでも続くといいんだがなァ」
勘違いなんかじゃない。
元悪魔王より性格が悪いだなんて、そっちこそひどい冗談だ。
「それで、どうなんだ。約束通り、メフィラの居場所を教えてくれるんだろう?」
「急かすな。ちゃんと話すって。何が知りたかったんだっけ」
「メフィラの居場所だ」
「あァ、そうだったな。俺が最後に確認した時は “魔王城” にいた。移動していたら別だが」
「魔王城、か……」
実を言うと、僕はその場所がどこにあるのか知らない。
何故なら、僕の知っている物語に魔界など登場しないからだ。
敵はいつも現世に攻めてくる。迎え撃つのが常だった。
だからこちらから魔界へ踏み込むなんて、そもそも想定外の行動なのだ。
「その魔王城は、どこにあるんだ?」
ベルファルドはニヤリと笑い、華奢な指で空高くを指示した。
「あそこだ」
「…… ビルの上しか見えないけど」
「さらにもっと上だ。空の上に浮かんでいる」
「空の、上……」
僕は高層ビルの上を越え、青く澄んだ空を見上げる。
首を傾げながら尋ねる。
「具体的にはどれくらい先なの?」
「そうだな。テメェらの言う大気圏を突き抜けた、その先だ」
「ふむふむ、大気圏の先か…… って、
「あァ」
ベルファルドは平然とまた肩をすくめた。
「魔王城は、宇宙にあるぜェ」
なんじゃそりゃ。
僕のツッコミは宙に消えていった。