世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件 作:赤坂緑語
魔王城は、宇宙にある。
言葉自体は理解できるが、意味が分からない何かのスローガンみたいな文章を聞き、僕は深い溜息をついた。
「それまた随分と高いところに建てましたねぇ……」
「高ければ高いほどいいと思ってよ」
肩を竦めるベルファルド。
僕は思わず呟いた。
「バカと煙は高いところに上る、か」
「おいおい、随分な言いようじゃねェか、小僧」
「アンタの思いつきのせいで魔王城まで到達できない可能性があるんだから、皮肉の一つでも言いたくなるさ」
「だが、簡単に到達できないってことは、セキュリティーとして優れているって意味でもあるだろォ? 誰も宇宙に最重要拠点があるなんて思わねェだろうしな」
「……まぁ、確かにそれはそうだけど」
魔界には教会が送り込んだエクソシストのスパイたちが多数存在するはずだが、未だに魔王城の情報は上がってきていない。原作でも一切触れられていなかったところを見るに、ベルファルドの策略が上手い事当たったということなのだろう。
「宇宙にあるってことだけど、地球とは物理法則が違っていて、案外簡単に到達できるってことはない?」
「いや、ほぼ同じ物理法則だと思ってもらっていいぜェ。なんなら、地球よりももっと厳しいかもなァ。何重にも結界を張り巡らせているからよ。存在を察知されようもんなら、すぐにでも迎撃部隊が駆けつけるぜェ」
「……アンタ、魔王城を攻略させる気あったのか?」
「させる気がないからこういう仕掛けにしたんだよ」
全く、勇者を城の前まで到達させるつもりすらないとは。
とんだ魔王である。
まぁ、ある意味では誰よりも真面目に魔王をやっているとも言えるかもしれない。
ベルファルドはふざけた奴だが、根は真面目なのだ。認めたくはないけどね。
「それにしても宇宙か……今のままじゃ、到達は難しいだろうな」
僕はフェンラバによって食い破られてしまった片翼を見つめながら溜息をついた。
「優斗君、その翼は元に戻らないの……?」
璃奈が心配そうな眼で失われた片翼を見つめてくる。
僕は肩を竦めた。
「うん。残念ながら、再生はできそうにないね。飢狼フェンラバ……流石は四騎士と言ったところかな」
フェンラバに食われたものは修復できない。概念ごと噛みちぎられ、永遠に奴の内に留め置かれるのだ。再生能力が売りである僕にとって悪夢のような権能である。
ちなみに、全盛期の死王女様はそんな悪夢のような権能をバンバン指先から撃っていた。
彼女が調子を取り戻さないことを心の底から祈るばかりだ……。
「片翼のことは一旦置いておくとして、普通にやるとしても宇宙は無理じゃないか? どれほどバフを掛けてもロケット並みの推力を出せないよ。仮に大気圏を突破できたとしても、魔力が尽きてその先で戦うことができるか分からないし……」
「おいおい、それが俺様の四騎士たちを倒した奴の台詞かァ?」
ベルファルドがからかうようなことを言ってくる。僕は呆れながら言葉を返した。
「僕たちは頑丈さで四騎士に勝利したわけじゃないよ」
「ほう? じゃあ、どうやって勝利してきたんだァ?」
「そりゃあ、知恵を絞ったりして――あっ」
「気付いたか。その通り、フィジカルでどうにもならねーなら、知恵を絞るしかねェだろ?」
悔しいが、ベルファルドの言う通りだ。
僕たちの持ち味をすっかり忘れてしまっていた。
勝てないのであれば、勝てる方法を見出すしかない。
――まぁ、劇中でそんなカッコいい台詞を言ったことは一度もないのだが、気持ち的にはそんな感じだ。
僕は額に手を当て、考え始めた。
魔王城は宇宙にある。
ふざけたキーワードだが、今はそれについて真剣に考えるしかない。
宇宙……宇宙……星……光り輝く……璃奈……?
あー、ダメだ。思考が脱線していく。
リセットだ、リセット。
もう一度考え直そう。
そもそも、僕は宇宙について詳しくない。物理学とかそういう観点で突破しようとしても意味がないだろう。
だから考え方を変えないといけないんだ。
僕はいつもどうやって危機を乗り越えてきた?
どうやってうまいことやってきたんだ。
……なにかとせこい手口を用いてきたことしか思い出せないな。だけど、それが僕なんだから仕方がない。今回だって、なにかせこい手を――
「あっ」
唐突に閃いた。
「なぁ、ベルファルド」
「なんだ」
「毎度、毎度、宇宙にある魔王城まで昇るのって大変じゃないか?」
「まァ、大変だな」
「だよな。じゃあさ――裏口とかあるんじゃないか?」
ベルファルドはニヤリと笑った。
「あァ、あるぜェ」
僕は再び溜息をついた。
「あるんなら最初から教えなよ」
「最初から答えを全部教えるなんて、そんなのつまらねェだろォ? それに、教えたところで突破できるとは言ってねェぞ。最大の問題は、セキュリティーだ」
「セキュリティー?」
ベルファルドは心底腹立たしい笑みを浮かべながら肩を竦めた。
「裏口から誰でも入れたら意味がねェだろォ? だから強力な結界に、ありったけのトラップと、猟犬が仕掛けられてるのさァ」
「猟犬?」
「さっきまでテメェらが追いかけっこをしてたあの犬のことだよ」
「あぁ、フェンラバか……」
思わずうんざりしたような表情を浮かべたのは仕方がないことだろう。
「仮にテメェらが近づこうもんなら、仕込まれた召喚陣からフェンラバが飛び出してくると思いなァ」
「最悪のセキュリティーだな……」
「最高のセキュリティーと言えよ。実際、この話を聞くだけでどいつもこいつも近づく気すらなくすからなァ」
確かに認めるのは癪だが、ある意味で最高のセキュリティーだ。
近づいた瞬間にあの犬が召喚されて襲いに来るなんて、ゾッとする。
「じゃあ、その裏口を使うにはどうすればいいんだ?」
「前の俺様の肉体なら顔パスで入れたんだが、今はもう無理だろうなァ。あと入れる可能性があるとすれば、メフィラの側近と四騎士くらいのもんだ」
裏口はあるが、警備が厳重。
当然のようにショタベルファルドは出禁、と。
僕は少し考えてから、ベルファルドに尋ねた。
「じゃあつまり、四騎士がいれば入れるんだな?」
「理論上はそういうことになるなァ。――ちなみに念の為忠告しておくが、この間やったみたいにテメェが無理やり四騎士のふりをしても入れねェからな」
「分かってるよ」
紅の戦君と戦う際に披露した強引な四騎士への擬態のことを言っているのだろう。
僕だってあんな反則がポンポン使えるとは思っていない。
そもそも、城のセキュリティーというからには、以前から四騎士として登録されている悪魔しか入場できないと考えて間違いはないだろう。
なら――
「正当な四騎士がいればいいんでしょ?」
「……テメェ、何を考えてるんだァ?」
「“困ったときは人に頼れ”――僕が何度も痛い目に遭って学んだ大きな教訓だよ」
何でもかんでも自分一人で抱え込んで、挙げ句の果てに大惨事を引き起こす。
基本的にこれまでの僕の歩みはそんな感じだった。
それは璃奈だって同じだ。
だからこそ、同じことは繰り返さない。
「ベルファルド、お前の
♰♰♰♰♰ ♰♰♰✜♰♰♰ ♰♰♰♰♰
「――なぁ、唯」
「なんですか、兄さん」
十六夜兄妹は肩を並べて自宅までの道を歩いていた。
既に夜の帳は下りており、道はすっかり暗くなっている。
放課後、友達と遊んでいた唯とバイトを終えた蓮が合流し、一緒に帰っている最中だった。
蓮は何とはなしに夜空を見上げた。
雲一つない空に浮かぶ満月は妙に美しく、まるで夜空そのものを支配しているかのような存在感を放っている。
その蒼白い光を見た瞬間、不意にある夜の光景が脳裏をよぎった。
天羽璃奈と出会った夜だ。
あの日の月が満月だったかどうかまでは覚えていない。
だが、夜空から降り注ぐ月明かりがやけに眩しかったことだけは今でも鮮明に思い出せる。
人生が一変した夜だった。
平穏だった日常が崩れ去り、悪魔やエクソシストだのという訳の分からない騒動に巻き込まれ、地藤優斗と出会い、そして十六夜唯は騒動の果てに健康な身体を手に入れた。(おまけでとびきり我儘な王女様がついてきた件については、目を瞑ることとする)
思い返せば、あの日から十六夜蓮の人生はこれまでと比較にならないほどに慌ただしくなった。
怪我も増えたし、学校を休むことも多くなった。
だが、後悔はなかった。
あの出会いがなければ自分も妹も、今こうして笑ってはいられなかっただろうから。
だからこそだろうか。
月が美しい夜ほど、蓮はどこか胸騒ぎを覚える。
幸運と不運。
始まりと終わり。
人生を変えるような出来事は、いつもこんな夜に訪れる。
己の感覚がざわついているのを覚えた蓮は、隣を歩く妹へと視線を向けた。
「お前さ、優斗のこと、好きなのか?」
「――――――」
颯爽と歩いていた唯の足がぴたりと止まった。
美しい赤毛が夜風に揺れる。
ゆっくりと、どこかぎこちない動きで唯の首が回り、蓮を見つめた。
「……はい?」
首を傾げる動きがどこかロボットじみている。
兄の言葉がきちんと聞こえなかったのかもしれない。
蓮はもう一度問い掛けた。
「優斗のこと、好きなのか?」
「………………はぁ⁉」
バカほど大きな声が住宅街に響き渡った。
蓮は慌てて妹の口を手で塞ぐ。
「こ、こら! そんなに大きな声を出したら周りの迷惑になるだろ?」
「そ、そうでしたね。失礼しました」
唯は申し訳なさそうに口元を両手で押さえながら頭を下げて――
「――じゃないんですよッ! 急に何を言っているんですか! このバカ兄はッ!」
先程の大声をさらに上回る勢いで兄を怒鳴りつけた。
拡声器かと思うほどの声量に、蓮は思わず耳を押さえる。
彼の妹は昔から声が大きかった。
「こら! だから、周りに迷惑が――」
「音を殺す結界を張ったから問題ありませんっ!」
「えっ」
ぷんすか怒りながら周囲を指さす唯を見て、蓮も視線を巡らせた。
確かに二人の周囲を薄っすらとグレーの膜が覆っていた。
唯の言う通り、外部へ音が漏れていないのか、不気味なほど静かだ。
「いつの間に……」
「これくらい、私とモルヴェリアさんに掛かれば朝飯前です」
ふん、と胸を張りながら唯は腕を組む。
蓮は未だに駆け出しのエクソシストだが、それでも実戦経験はそれなりに積んできた。
そんな彼ですら一切気付けないまま結界を展開するその手際の良さ。
たまに忘れそうになるが、やはり彼女は四騎士・死王女をその身に宿した少女なのだ。
「そんなことよりも! いきなり何を言い出すのです! ふざけるのも大概にしてくださいっ!」
結界のことなどどうでもいいのか、唯は顔を真っ赤に染めながら怒りを露わにする。
蓮は妹と真正面から向き合いながら、ゆっくりと首を横に振った。
「いや、俺はふざけてなんかいない。真面目に聞いたんだ」
「ッ! きゅ、急になんだって言うんですか……」
真剣な蓮の視線を直視し、唯は思わずたじろぐ。
蓮は肝心な時になると及び腰になりがちな妹を見つめながら言った。
「前から気になっていたことではあったんだ。……お前は気付いていないのかもしれないが、優斗と話している時のお前は、とても楽しそうだったから」
「ッ!」
唯はさらに頬を赤く染めながら兄から視線を逸らした。
「べ、別に楽しくなんかありませんよ! 私はただ、あの人が気に食わないから、間違ったことを言っているのを正したかっただけで――」
ぶつぶつと言い訳を並べる唯を眺めながら、蓮は溜息をついた。
「なぁ、唯。そろそろ素直になったらどうだ? このままじゃ、一生曖昧なまま過ごすことになるぞ」
「勝手に私が素直になっていないと決め付けないでください! 私はいつだって自分に正直に生きています!」
顔を真っ赤にしている唯は、確かに自分の感情に正直に生きているのかもしれない。
しかし、その言動はいつまで経っても変わらない。
「じゃあ、素直な十六夜唯に尋ねるぞ。――優斗のことは好きじゃないのか?」
「……嫌いではないですよ」
しばし熟考した末、唯は絞り出すような声で答えた。
蓮は小さく笑みを浮かべる。
「なんだ、やっぱり好きなんじゃないか」
「違いますッ!」
唯は結界を貫通しそうなほどの大声で兄の言葉を否定した。
「どうしてすぐにそういう方面へ結び付けようとするのですか! 私は別にそういう意味で言ったわけじゃありません! だいたい、あんな先輩、適当で、嘘ばかりつくし、いっつも人のことを小馬鹿にしてくるし、肝心な時にしか駆けつけてくれないし、普段は全然頼りにならないし、天羽先輩のことしか見ていないし、全っ然、これっぽっちも、好きなんかじゃありませんよッ!」
蓮は賢い男なのである。
その代わり、大きく溜息をついた。
「そうか。唯がそう思うなら、それでもいいさ。だけどな……あんまり時間はないと思った方がいいかもしれないぞ」
「……どういう意味ですか?」
いつもと様子が違う兄を見て、唯は怪訝な表情を浮かべる。
蓮は月を見上げた。
恐ろしいほどに美しく、そしてどこか不吉な月を。
「上手く説明できないんだが……なんだか、
「嫌な予感、ですか……?」
最近気付いたことだが、唯は意外と勘が鈍い。
それは死王女が憑依していることと関係しているのかもしれなかった。
死王女――死を操る王女。
己が死ぬことはまずなく、傲慢で、超越的な存在。
そんな彼女を内側に宿しているからこそ、唯は感じ取れないのかもしれない。
蓮の胸をざわつかせる、嵐の前兆を。
「……何にだって終わりはある。いつまでもこうして、平和な日常を過ごしていられるわけじゃないんだ……」
「私たちの日常に平和な期間なんて、そんなにありましたっけ?」
「ぐっ……」
いい感じに締めようとした蓮は、妹の鋭い指摘に言葉を詰まらせた。
確かに振り返ってみると、ずっと何かしらの騒動に巻き込まれていた気がする。
今こそ平和だが、蓮もこの平穏が長く続くとは思っていなかった。
「兄さんが何に怯えているのかはよく分かりませんが……まぁ、真剣にアドバイスしてくれたことは分かりましたよ」
言葉に詰まった蓮を見つめながら、唯は真剣な瞳で語る。
「その……素直になれだの何だのと言われても、今更どうしろという感じではありますが……心の片隅に留めておくようにします」
「そうしてくれ。……自慢の妹が一生悩み続けるところなんて、見たくないからな」
「ふん。私を誰だと思っているのです? 決める時は、きちんと決めますよ」
胸を張る唯の姿は、その身に宿す悪魔のように、誇り高い女王そのものだった。
その姿を見て、蓮は不安が少し薄れていくのを感じた。
「余計なお節介だったらしいな」
「当然です。兄さんが私を心配しようだなんて、百年早いです」
ふん、と鼻を鳴らしながら唯は腰に手を当てる。
「私とモルヴェリアさんは死王女なんですよ? 私たちを脅かす存在がそう簡単に現れるはずがありません。厄介だった四騎士もこちらへ引き込んだことですし、もう私たちの天敵と呼べるような存在なんていませんよ」
自信満々な唯の姿を見て、蓮は不意に悪寒を覚えた。
なんだか、また急に嫌な予感がしてきた。
それも先程よりずっと具体的な、嫌な予感が。
「な、なぁ唯。その辺にしておかないか? なんだか、さっきより嫌な予感がしてきたんだが……」
「何を弱気になっているのです。先程も言ったじゃありませんか。私たちに恐れるものなど何もありません。兄さんは大船に乗ったつもりでいればいいのです。私とモルヴェリアさんは最強無敵! どこの誰が来ようとも、負けるはずがありません! だいたい、死を操る死王女に勝てる存在なんているはずが――」
「――おっ、みっけた! 久しぶりじゃーん、モルちゃん。うひひ、元気してる? 私は元気だよー」
陽気な声が背後から聞こえた。
音を遮断しているはずの結界を貫通し、その声は蓮と唯の元まで届いた。
「へっ……?」
唯はゆっくりと振り返る。
真っ暗な夜道を照らすような白髪。
どこを見ているのか分からない銀色の瞳。
人形のように整った顔に、張り付いたような笑顔。
「あなたは――」
唯が何者かと尋ねようとするが、それよりも先に彼女の内側にいる存在が悲鳴を上げた。
突如として十六夜唯の身体に黒い魔力がまとわりつく。
右目が黄金色へと変わり、左右で異なる瞳を持つ王女が顕現する。
普段は唯に身体の制御を一任している死王女モルヴェリアが、強引に表へ出てきたのだ。
彼女は己の武器である人差し指を持ち上げ、突然現れた白の女を指差しながら叫んだ。
『ユイ! まずいぞ! あやつだ! あの死神がやって来てしもうたッ‼』
「ど、どうしたんですかモルヴェリアさん! し、死神……?」
これまで見たことがないほど動揺しているモルヴェリア。
唯は怪訝な表情を浮かべながら白い少女へ視線を向けた。
白の女は楽しそうに笑う。
「死神だなんて酷いなー。あっ、でも死王女に死神って言われるなら悪い気もしないかもなぁ。だって、神様だから王女様より上ってことでしょー?」
『ッ! ほざくな下郎! 貴様なんぞ神でも何でもないわ! 暗殺者風情が図に乗るではない!』
「その暗殺者風情にやられたのは誰だったかなー?」
『お、おのれぇ……! あの時は油断しただけじゃッ!』
「やられたって、モルヴェリアさんが……⁉」
唯は驚愕した。
あの死王女が。
最強無敵の相棒が誰かに敗れたことなど、信じられなかったのだ。
『昔の話じゃ! それよりも貴様、何をしに来た……!』
「なにって、仕事だよー。私、仕事が好きなんだよねぇ。だって何でも許されるじゃん? これが天職ってやつなのかねぇ。あっ、でも今回は
『あ、相変わらず訳の分からないことばかり言いよってからに! おい、ユイ! こんな頭のおかしい女はさっさと消し飛ばすに限る! やるぞ!』
「い、いいんですか⁉」
「うひひ、私はいいよぉ。メル友には生きて連れて来いって言われたけど――やっぱりこっちの方が楽しいもん」
死王女は人差し指の先に魔力をかき集め、白い少女は剣を抜く。
今にも戦いが始まりそうな現場を見ながら、蓮は大きく――本当に大きく溜息をついた。
「だから言っただろ……」
フラグは立てないに越したことはない。
それが一級フラグ建築士たる十六夜唯であれば、なおさらである。
現実逃避するように月を見上げる。
その騒動を見下ろす月は、変わらず不気味なほど美しかった。