世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件   作:赤坂緑語

13 / 85
タイトル通り、モルデモートさんと唯ちゃんの交流回です。


第13話:モルデモートさんとチョロ唯さんの件

 

 闇の中。

 

 どこまでも暗い、闇の中。

 

 赤い髪と赤い瞳を持つ少女――十六夜唯は、静謐な闇の中を漂っていた。

 

(あれ、私……なに、しているんだろ……?)

 

 思考が纏まらない。

 

 まるで夢の中にいるみたいだ。

 

(ま……いっか……ここは、どうせ夢の中、だし……)

 

 こんな非現実的な空間が現実のはずがない。

 

 唯は考えることを止めて、目を閉じた。

 

 闇の中はとても穏やかで、何もない空間だったが……それでも時折、何かが映った。

 

 それは、病院の景色だった。

 唯が良く知る病院。

 

 しかし、知っているはずの病院で繰り広げられているその光景は、あまりにも馬鹿げていて……彼女はここが夢の中だという確信を深めていく。

 

 御伽噺でもあるまいに、悪魔とエクソシストなんているはずがない、と。

 

 安寧に満ちた闇の中を漂いながら、唯は徐々に目覚める気力を失くしていく。

 

 場違いながら、ここは天国かとも思った。

 彼女の身体を蝕む苦痛もなければ、心をすり減らす罪悪感も、自身への嫌悪感もない。

 何より、この空間は一人なのに不思議と悲しくなかった。

 たくさんの人がいたはずの病院よりもずっと、気持ちが安らいだ。

 

 誰かに絶えず見守られているような感じがするのだ。

 じっと見つめてくるが、決して不快にはならない視線。

 

 お母さんのような、お姉さんのような、親友のような、妹のような――

 そのどれも唯は持ち合わせていないが、何となく居てくれたらこんな感じなんだろうな、と思った。

 

 だから、唯は目を閉じたまま安寧に身を委ねる。

 目覚めようと考えることすらしない。

 

 もう、ここでいい。

 

 ここにいられるなら、それで――

 

『――どうか、神様が君にもっと優しくなってくれますように』

「ッ⁉」

 

 突如、脳裏に声が響いて唯は慌てて飛び起きた。

 辺りを見渡すが、人影は見当たらない。

 しかし、幻聴だと笑い飛ばすには、あの声はあまりにも優しくて――

 

「えっ、なに、これ――」

 

 声の主を思い出そうと記憶を遡り始めた時、突如として彼女の胸元が熱くなった。

 慌てて手で原因を取り出す。

 砕けてしまっているものの、美しい輝きを放つ銀色の十字架だった。

 

 これを知っている。

 出会ったばかりの変な先輩が手渡してくれたもので――

 

「先、輩……?」

 

 ふと顔を上げた唯は、そこに映る景色に驚愕した。

 今思い出したばかりの先輩が――地藤優斗が首を絞められていたのだ。

 

「そ、そんな――⁉」

 

 唯は思わず口元を手で覆った。

 “死”が身近に溢れている病院が住まいの唯ではあるが、流石に知り合いが首を絞められて死ぬ光景は見たことがない。

 

「だ、誰か――!」

 

 思わず周囲を見渡して助けを呼ぼうとする唯だが、ここは闇の中。

 誰もいないし、何もない。

 青ざめた表情で唯が狼狽えている間にも、彼の苦しみは続いていく。

 

「ッ! やめて! 今すぐ先輩を離して――!」

 

 彼の首を絞めている誰かに向かって叫ぶ。

 だが、当然その声は届かなかった。

 しかし、それでも諦めるわけにはいかない。

 唯は声の限り叫び続ける。

 

――ゆ……、い……ちゃ……ん……

 

「ッ!」

 

 死の間際で喘いでいる彼の口から零れ落ちる自身の名前。

 唯は大きく目を見開き――

 

「やめてッ――!」

 

 衝動的に静止の言葉を投げかけていた。届くかどうかなど考えず、ただ己の本能に従って、これまでの人生で一番大きな声で。

 

「先輩を――離してッ!」

 

 闇の空間が胎動する。

 彼女の心からの声は表の世界にまで影響を及ぼす。

 少しだけ腕の力が弱まった。

 よし、このまま叫び続ければもしかしたら――

 

 ボキッ

 

「えっ……」

 

 微かな希望を頂いた次の瞬間、唯は目撃してしまった。

 地藤優斗の首がへし折れた瞬間を。

 目を見開いたまま人間が絶命する瞬間を。

 

「い、いやああああああああああああああ――!」

 

 唯は悲鳴を上げた。

 しかし、次の瞬間、もっと恐ろしいことが起きる。

 

「先、輩……?」

 

 唯の絶叫の余韻をかき消すように、"ありえないこと"が起こる。

 

「ひっ!」

 

 唯は息を呑む。

 背筋が冷え、膝が震えた。

 

 死んでいた筈の彼は蘇っていた。

 

 折れたはずの首が、何事もなかったかのように正しい位置に戻る。

 閉じたはずの瞳が、何事もなかったかのように開く。

 

 ――"死"を愚弄するかのように。

 ――"悪魔"のように。

 

『……唯……?』

 

 ふと、闇の中に声が反響する。

 それは、唯自身の声だった。

 しかし、彼女のそれよりかは幾分か尊大で、不思議とカリスマ性のようなものを纏っているようにも聞こえる。

 

「あ、貴女は誰……?」

『……』

 

 尊大な声は返答をしない。

 唯は途方に暮れつつも、唯一の突破口である声の主に向かって話し掛ける。

 

「お願い! 答えて! 私、ここから出たいの! 何とかして表の世界に出たいの!」

 

 この愚行を止めさせるために。

 

『……表に、出たいのか?』

 

 唯の望みを聞いた声の主は、どこか喜色混じりの声で尋ねる。

 まるで、少女の望みが知れたことが嬉しいと言わんばかりに。

 

『そうか、そうか。であれば今しばらく待っていてくれ』

 

 寛大に頷きながら――次いで、声の主は凶悪な声で言った。

 

『今から、コイツを殺すゆえ……!』

 

 そして、地獄が始まる。

 

 地藤優斗は――何度も殺された。

 突き刺され、焼かれ、引き裂かれ、砕かれ――

 

 それでも、蘇る。

 蘇るから、また殺される。

 その地獄が、何度も何度も繰り返される。

 

「やめ、て……」

 

 唯は、震えた声で懇願した。

 だが、終わらない。

 

「やめて……!」

 

 悪夢は続く。

 

「やめてって言っているでしょう――⁉」

 

 魂の底から叫ぶ。

 闇が、軋むように揺れる。

 唯は再び叫ぶ。

 魂の底から。

 奪われている自身の制御権を取り戻すように。

 

 彼女の絶叫を受け――闇の空間が歪んだ。

 

『ゆ、唯⁉』

 

 あの尊大な声の持ち主が焦るような声が響く。

 

「いいから、止めなさいって言っているでしょう⁉ それ以上やったら、()()()()()()!」

『ッ⁉』

 

 そして、ようやく悪魔の動きが止まった。

 それは、奇しくも現実世界で地藤優斗が唯と話すことを切り出したのと同じタイミングだった。

 

『……唯よ。攻撃は止めたぞ。……その、今からそっちに行って話がしたいのだが……良いか?』

「……どうぞ」

 

 こんな凶悪なことを嬉々として実行する者に会いたくなどなかったが、現状ではこの声の主だけがここから出られる唯一の突破口だ。

 不承不承頷く。

 

 彼女の同意を受け、闇が揺らめいた。

 何もなかったはずの空間に人影のシルエットが浮かび上がる。

 やがて、それは明確な形を持って唯の前に現れた。

 

 豪奢な黒いドレス。赤い髪。黄金の瞳、不敵な表情。

 そして――唯と全く同じ顔。

 

『会いたかった……会いたかったぞ! 唯!』

 

 喜色満面の笑みで、唯と同じ顔をした少女が両腕を広げる。

 彼女は心の底から唯とこうして話せることを喜んでいた。

 唯はそんな彼女を見て――

 

「なんてことするのよ! 貴女ッ!」

 

 何の躊躇もなく怒鳴りつけた。

 自分と同じ顔をしていたこともいい意味で遠慮を取り払ったのだろう。

 唯は、彼女らしからぬ鬼のような表情で謎の少女を睨みつける。

 

『ゆ、唯! お、怒っているのか……?』

「当たり前でしょう⁉」

『ひぃっ!』

 

 唯の目は怖かった。

 死の悪魔がビビり上がるくらいに、それはもう怖かった。

 

「目が覚めたら辺り一面真っ暗で、何も分かんないし! かと思えば先輩は殺されていて……でも復活するし! おまけに私と同じ顔の子が目の前にいるし! もうわけわかんないわよッ! 貴女、どうしてあんなことをしていたの⁉」

 

 怒涛の勢いで自身の内心を吐露し、唯はヒステリックにキレた。

 訳がわからないと。

 その姿を見たモルヴェリアは、しおらしく肩を落として弁明する。

 

『わ、ワシはただ……お主に喜んで欲しかっただけなのじゃ……』

「私があんなことで喜ぶはずがないでしょう⁉」

『そ、そうなのか⁉』

「そうよ!」

 

 唯は怒鳴った。

 そう――十六夜唯はこんなことでは喜ばない。

 

 原作のように危険から遠ざけようとした兄に避けられて傷ついていることもなければ、天羽に惹かれつつある兄に気が付いて嫉妬していることもない。

 己の出自への嫌悪感もなければ、起こしてしまった殺人への罪の意識もない。

 

 今の唯の精神状況は非常に健全であるが故に、倫理観に反する行いを認めなかった。

 

 唯の叱責を受け、モルヴェリアと名乗る少女は今にも泣きだしそうな表情を浮かべた。

 

『わ、分からぬ! どうすればお主は喜ぶ? ワシは何をすればいいのじゃ⁉』

「えっ……」

『教えてくれ! ワシは人間のことが分からんのだ!』

「……」

 

 必死に頼み込んでくるその姿を見て――

 唯は自身のガードが緩まったことを感じた。

 

 悪い人では……いや、悪い人だとは思う。

 絶対に、絶対に、ヤバい人だと思う。

 というか、そもそも“人”であるかも怪しい。

 今は色んなことがいっぺんに起きたせいで半ばスルーしているが、よくよく考えればこの黒い空間だって訳がわからない。

 

 自分の役に立ちたいって言われたところで、「じゃあここから私を出して金輪際関わらないでください」と言ってやりたいところだ……普段なら。

 

 だけど。

 

 自分の為にあたふたと動揺するその姿を見て、

 不器用なりに、歪んでいても頑張っているその姿を見て、

 孤独で愛に飢えていた唯が嫌いになれるはずもなかったのだ。

 

「……ごめんなさい。言い過ぎました。まずは、貴女のことを教えてくれませんか? 私は、十六夜唯といいます」

『むっ、自己紹介か。であれば、ワシも名乗ろう!』

 

 尊大な態度で腕を組み、彼女は堂々と名乗りを上げた。

 誇るべきその名を。

 

『悪魔四騎士が一人“死王女”。我が名は――モルヴェリア。好きに呼ぶが良い』

「では、モルヴェリアさん……と呼ばせてもらいます」

『そんなに堅苦しくなくて良いのだぞ?』

「いえ、でも、知り合ったばかりですから……」

 

 やたらと友好的で気さくなモルヴェリアだが、唯からすれば全く知らない人だし、何より彼女の全身からは人を従える強烈なカリスマのようなオーラが滲み出ていて……無意識のうちに敬語になっていた。

 

『そうか……確かにお主はワシを知らなかったのだな』

 

 どこか寂しそうは表情でモルヴェリアは言う。

 不思議そうに首を傾げる唯に、彼女は語る。

 

『……唯よ。ワシはずっとお主のことを見ておった。全てを失い、泥水を啜り、半ば絶望していた中でお主を見て……救われたのじゃ』

「救われたって……私、何もしていないですよ?」

『いいや、お主はその在り方だけでワシを救ってくれた』

 

 力強い口調でモルヴェリアは断言する。

 十六夜唯が、彼女の生きる糧であったと。

 だからこそ、こうして自分は復活できたのだと。

 

『だから、今度はワシがお主のことを救いたい』

 

 黄金の瞳が真っすぐ唯を見つめる。

 

『――望みを言え、十六夜唯。()()()()()()。お主の願いを、ワシが叶えよう』

 

 そして、モルヴェリアは悪魔としてはあり得ない言葉を口にした。

 対価なしで彼女の願いを叶えると。

 それは破格などと言うレベルではない。

 四騎士の力を対価もなしで振るえるなど……。

 

「私の、願い……」

 

 モルヴェリアの本当の凄さも、力の内容も知らない唯は純粋に自身の願いを考えた。

 悪魔に願いを告げる。

 対価はないと断言されたとはいえ、普通に考えれば危険極まりない行為だ。

 しかし、それでも唯はその願いを口にすることを抑えられない。

 

「た、例えばなんですけど……」

『うむ』

「その、病気が治って元気に学校に通う、とかできますか? 私、生まれた時から免疫が弱くて、色んな疾患があるんですけど……」

『可能じゃ。というか、()()()()()()()

「えっ」

 

 あっさりと。至極あっさりと悪魔は告げた。

 わざわざ叶えるまでもないと。

 

『ワシが憑依した時点で毒となっていたお主の魔力は円滑に循環し始めた。身体を蝕んでいた病も全てワシが“殺した”。お主の身体は完治しておる。それどころか、魔力で強化されている分、普通の人間よりも遥に頑丈じゃろうな』

「う、うそ……」

 

 積年の悲願があっさりと果たされていることを知り――唯は涙を流した。

 普通になりたかった。

 普通に走り回って、普通に学校に通って、普通に生きてみたかった。

 

 だから――

 

 たとえ、これがひと時の夢だとしても。

 こうやって夢を叶えてくれるのは嬉しかった。

 

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! モルヴェリアさん!」

『な、何故泣く⁉ 悲願ではなかったのか⁉』

「フフフ……人間は、嬉しい時でも、泣けるんですよ……?」

『そ、そうなのか……良く分からんな』

 

 悪魔は怪訝な表情で首を傾げつつ、しかしそれでも十六夜唯が心底喜んでいることは精神リンクを通じて伝わって来たので、相好を崩した。

 

『良し! 次じゃ! 次の願いはないのか? なんでもよいぞ!』

「……えっと、先に聞いておきたいのですが、願いって幾つまで叶えてもらえるんですか……?」

『? 回数制限はないが?』

 

 もちろん対価もなし。

 

 唯は心地よい闇の空間にいるにも関わらず、眩暈がした。

 何か、自分はとんでもない存在に気に入られてしまったようだ。

 

『さぁ、言え! 望みを言うのじゃ! ワシが全てを叶えよう! 気に食わぬ人間を殺すか? 気に食わぬ世界を滅ぼすか? 好きな願いを口にするのじゃ! この死王女に不可能はない!』

 

 上機嫌に笑いながら、物騒な願いばかりを口にするモルヴェリア。

 その姿を見て、唯は「あぁ、やっぱりこの人悪魔なんだな……」と遠い目になりつつ、他に願いはあっただろうかと思考する。

 

 願いなんて考えればキリがないが、どうせならこの人にしか頼めないようなことをお願いした方がいいだろう。

……回数制限はないと断言されているが、そんなに上手い話はないだろうと内心警戒していることもある。

 

「でしたら、教えてもらいたいことがあるのですが……あの外の状況って、どういうことなんですか?」

『あぁ、あれは下らん小娘のエクソシストと、醜悪な愚妹と契約した馬鹿な小僧が突っかかってきているだけじゃ。小僧の方は特に厄介じゃが……案ずるな。ワシの手に掛かればなんということもない』

「は、はぁ……」

 

 ぶっちゃけ、何も分からなかった。

 悪魔の存在を今知ったばかりの唯にとって、抽象的なモルヴェリアの説明だけでは全てを理解することは出来ない。

 

「あ、あの! 外の状況も含めて、悪魔とか、願いとか、モルヴェリアさんのこととか、この世界のことを全て教えてもらえませんか……?」

『むっ? ()()、か……』

 

 願いを言われたというのに、モルヴェリアは珍しく逡巡していた。

 

「だ、ダメですか……?」

『ダメではない! ダメではないのだが……世の中には知らなくて良いこともある。それを知ってしまうことになるが……良いのか?』

「……構いません。知らなければ、何も始まりませんから」

 

 十六夜唯の強い意志が込められた瞳を見て、モルヴェリアは頷いた。

 

『分かった。お主が望むのであれば、今から全てを見せよう。時間は掛かるが……なに、現実世界とは上手くズラして帳尻は合わせるようにしよう』

「ありがとうございます。モルヴェリアさん」

『ハハハ! 礼など要らぬ! では、良い旅を!』

 

 まるで子供のような笑顔に見送られ――

 

 そして、唯は全ての真実を知った。

 

 

♰♰♰♰♰ ♰♰♰✜♰♰♰ ♰♰♰♰♰

 

 

 

『正気か⁉』

 

 モルヴェリアによって全てを知った唯は現実世界の時間と合流し――

 そして、次の望みを口にした。

 

『ワシでなければお主を守ることは出来んのだぞ⁉』

「……分かっています」

 

 首肯する唯はモルヴェリアの言葉を正しく理解している。

 

「でも、これだけは譲れません。どうしても、私が――私自身が先輩と話をしたいんです」

『……だが!』

 

 唯の望みは、自身が表に出ることだった。

 表に出て――散々殺しつくした、地藤優斗と話し合いをすることだった。

 猛反対するモルヴェリアだが、唯の意思は揺らがなかった。

 頑とした態度で、おまけに“願い”として主張されてしまえばモルヴェリアは断れない。

 

『……アイツを殺したくなったらすぐに言え。お主もワシの権能は使えるが、ワシの方が戦い慣れておるからの』

「大丈夫ですよ。……仮に戦いになっても、大人しくしていてくださいね?」

『し、しかし……!』

「それが、私の願いですから」

『う、うぅむ……』

 

 困った様子で黙り込むモルヴェリアに苦笑し、何となく唯は彼女の頭を撫でた。

 

「心配してくれてありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから」

『……分かった。そこまで言うなら、ワシは黙って見ている。……気を付けてな』

「はい」

 

 唯は目を閉じた。

 次いで、水面を浮上していくような感覚に包まれる。

 

 次に唯がその赤い瞳を開いた時――

 そこは既に現実世界だった。

 

 何もかもが破壊され、もはや何階の何号室かも分からない病室の中、彼はそこに――唯の真正面に立っている。

 

「……」

 

 唯は気づかれないように深呼吸をした。

 これから彼女は責められるだろう。罵倒されるだろう。場合によっては、彼に攻撃されるだろう。

 モルヴェリアは全力で守ると言ってくれたが、それでも怖いものは怖い。

 だが、それでも唯は己自身の言葉で語ることを選んだ。

 

 既に彼女の願いは叶っている。

 だから――今度は罪を償う時だ。

 

 あれはモルヴェリアが勝手にやったこと――などと弁明するつもりはない。

 彼女と唯は今や一心同体であり、彼女の罪は唯の罪なのだ。

 それは嫌々背負った重荷ではない。

 唯は己の意思でそうすると決めた。

 

 だから、何を言われても、何をされても甘んじて受け入れよう。

 それが、唯にとっての償いだから――

 

「先輩……」

 

 

 

――そう、思っていたのだ。

 

 

 

 

「神様じゃなくて、悪魔が君に優しくなるとは、意外でさ」

 

 満面の笑みで放たれた特大の皮肉は、十六夜唯の頬を引き攣らせた。

 余裕の笑みを浮かべようとするが、ピクピクと震えて上手くいかない。

 

 十六夜唯は確信した。

 

 あぁ、この感じは。

 この微妙に梯子を外してきて、絶妙にこちらをイラつかせてくる感じは。

 

 間違いなく例の“先輩”だと。

 

 

 

 

 

 

 




次話は明日、2/14の22:00に公開します。
バレンタインデーに相応しい赤色の回です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。