世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件   作:赤坂緑語

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第90話:神話の戦い

 

 鏡のバルナハルト。

 

 本来であれば、その存在は成立し得ない、幻のようなものだった。

 何故なら、バルナハルト自身の容量があまりにも膨大で、再現しようとすれば鏡像の方が先に壊れてしまうからだ。

 仮にコピーできたとしても、その膨大な出力に耐えることはできないだろう。

 

 しかし、紅の戦君が現世に攻め込んでくることはほぼ既定路線だった。

 あの悪魔王ベルファルドが直々に手を貸している以上、疑う余地はない。

 姉である死王女がぬるま湯につかっていて使い物にならない今、どうにかしてバルナハルトに対抗できる“特攻持ち”の存在を用意する必要があった。

 

 そこで、メフィラは考えた。

 

 こちら側で出力をコントロールし、さらに再現する箇所を限定すれば、バルナハルトの力をコピーできるのではないか――と

 鏡の大公の“核”を手に入れたメフィラは、すぐに作業へ取り掛かった。

 幸いにも反転個体を作る素材には事欠かなかった。

 何故なら、鏡の大公は紅の戦君バルナハルト直属の部下であり、バルナハルトに関する情報を山ほど蓄えていたからだ。

 

 メフィラは最重要であるバルナハルトの“権能”の情報を真っ先に写し取り、反転個体の素材を構築。

 そして不要な情報を片っ端から削除・縮小していった。

 

 憤怒の感情――不要、削除

 使用しなくなった権能の情報――不要、削除

 現世への執着――不要、削除

 

 メフィラへの執着――不要、削除

 

 鏡の大公が持つ“反転”という性質のせいで、『性別』『体格』『性格』が反転してしまったのは予想外だったが、計画に支障をきたすほどではない。

 あまりにも巨大な容量に押しつぶされないよう、“契約”という名のプログラムで力に制限を掛けて自滅を防ぎ、同時にメフィラへの反逆も防止する。

 

「そうして、君が生まれたってわけ」

「……」

 

 メフィラにとって必要な要素だけを残し、それ以外の部分は全て反転させた対バルナハルト用の決戦兵器――“鏡のバルナハルト”は、自慢げに自身の出自を告げた創造主に対して一言。

 

「……取り敢えず一発殴らせろ、バカ」

 

 そう罵倒したという。

 

 

 

♰♰♰♰♰ ♰♰♰✜♰♰♰ ♰♰♰♰♰

 

 

 

 空から堕ちてくる星屑。

 膨大な数の攻撃に対応すべく、地上からも同じ数の星々が放たれる。

 

「「戦君の勲章は星屑のように(ウォー・バッチ・スターダスト)――‼」」

 

 紡がれた技名は同じ。

 生み出された権能の数も同じ。

 バルナハルトが増やせば、鏡のバルナハルトも同じだけ展開する。

 

 正しく鏡合わせ。

 膨大な質量が空中でぶつかり合い――爆ぜて消えた。

 

『小賢しい……!』

 

 抑えきれない怒気を言葉に乗せ、紅の戦君バルナハルトは再び夜空に星屑を展開する。

 その動きに合わせ、鏡のバルナハルトも淡々と同数の権能を展開した。

 

 “戦君の帝国領域”によって一度使用した技は使えないはずだが――バルナハルトだけは例外だ。

 それは彼にとって間違いない利点だったはずだが、鏡とはいえ、同じバルナハルトが現れた今、その優位性は消えつつある。

 彼女は、メフィラの意図した通り、対バルナハルト用の決戦兵器として申し分ない働きを見せていた。

 

『ならば……!』

 

 埒が明かない。

 そう判断したバルナハルトは、権能の弾幕を維持したまま宙を蹴り、凄まじい速度で鏡の自分へ距離を詰める。

 接近戦を避けるべく、鏡のバルナハルトはさらに弾幕を厚くするが、それは悪手だった。

 

 接近戦を嫌がるということは、接近戦が不得意であると自ら暴露したようなもの。

 バルナハルトはリスク覚悟で弾幕の中へ飛び込んだ。

 紅蓮の甲冑が降り注ぐ権能のダメージを最小限に抑え、力技で弾幕を突破したバルナハルトは右手を宙へ翳す。

 

戦君の剣(ウォー・ソード)――!』

 

 空間が歪み、その手に武骨な剣が握られる。

 バルナハルトは霧島レイや死王女と互角以上に斬り合う近接戦のスペシャリスト。

 この距離まで来れば、小柄な少女の姿をした偽物では太刀打ちできない――

 

戦君の剣(ウォー・ソード)

 

 召喚された剣を見た瞬間、鏡のバルナハルトの脳裏に電流が走る。

 次の瞬間、彼女の手にも同じ剣が握られていた。

 

 刃と刃が衝突する。

 同じ剣。

 同じ髪、同じ肌、同じ瞳。

 しかし、違う背丈。違う顔立ち。

 

 オリジナルと鏡像が正面から睨み合う。

 バルナハルトは、想定以上に反応が良い偽物に対して怒りを露わにした。

 

『くだらんッ! なんだ、この下劣なコピー品とも言えぬ愚物はッ! こんな小娘が、俺の力をコピーしているだと……⁉ 屈辱にも程があるッ!』

「……落ち着けよ、オリジナル。同じバルナハルト同士、仲良くしようぜ?」

『ほざけッ!』

 

 淡々と無表情のまま挑発する鏡の少女に怒気を溜めながら、バルナハルトは剣に力を込める。

 その瞬間、彼はある事実に気付き、口元に笑みを浮かべた。

 

『ほォ? やはり見た目通り、膂力は俺の方が上のようだな』

「ッ……!」

 

 メフィラが“権能”を優先してコピーした弊害が露呈する。

 近接戦のスペシャリストであるバルナハルトの“膂力”までは再現できていない。

 体格差もある以上、鏡の方が力で劣るのは当然だった。

 

『鏡は鏡らしく――』

「がっ⁉」

 

 己の有利を悟ったバルナハルトは剣に力を込め、隙を突いて少女の腹部と顔面へ強烈な拳を叩き込んだ。

 激痛で鏡のバルナハルトの動きが一瞬止まる。

 その隙を見逃す四騎士ではない。

 

『――無様に割れて散れ』

 

 己の偽物を両断すべく、戦君の剣が迫る。

 

(やばッ――!)

 

 鏡のバルナハルトは“不完全体”である。

 完全な模倣はできなかった“権能特化”の存在だ。

 それは創造主であるメフィラも理解している。

 そのうえで、少女をこの戦場に送り出した理由はただ一つ。

 

「それは、ダメだよ」

 

 ――少女を一人で戦わせるつもりなど、最初からなかっただ。

 

 銀と黒の粒子が煌めく。

 次の瞬間、バルナハルトと鏡の少女の間に、一人の少年が割り込んだ。

 黒刀を振り翳し、真正面からバルナハルトの攻撃を受け止める。

 

『――なんだ、貴様……』

「名乗るほどのものじゃないよッ!」

 

 バルナハルトの圧倒的な膂力を受け止めるだけで精一杯の地藤に、名乗る余裕などない。

 黒と銀の翼から魔力をジェットのように噴射し、強引に鍔迫り合いを成立させながら、刀へさらに力を込める。

 

『ふん。今さら小蠅が一匹増えた程度でどうともならんわッ!』

「二匹ならどうだ?」

『ッ!』

 

 銀色の霧が渦巻く。

 次の瞬間、バルナハルトの背後に刀を振りかぶる女剣士が出現した。

 

「斬霞刀・一の型『霧散残月』――!」

 

 一度使った技が無効化されることなど百も承知。

 それでも、この千載一遇の好機を逃すわけにはいかない。

 レイは全力で己の必殺を放った。

 

 銀光が閃く。

 退魔の力を秘めたエクソシスト渾身の一撃が、がら空きの首筋へ迫る――!

 

戦君の紅蓮甲冑(レッド・アーマー)

 

 バルナハルトが呟いたのは、己の甲冑の名。

 凄まじい防御力に加え、一度受けた攻撃に対して強い耐性を得る特性を持つ。

 その効果は鎧のある部分だけでなく、露出している皮膚にも及ぶ。 

 

 故に。

 

「なに――⁉」

 

 あらゆる悪魔を一刀両断してきた霧島レイ渾身の一撃は、既に耐性を得ていた甲冑によって大幅に威力を減衰され、露出した首筋に傷一つつけることすらできず、鉄を叩いたような音と共に止められた。

 さらに――

 

『いい加減に鬱陶しいぞ、吸血鬼』

「がっ……!」

 

 甲冑に包まれた腕がレイの首を掴み、黄金の瞳が彼女を射抜く。

 背後では権能の光が渦巻いていた。

 この距離で喰らえば、レイといえど復活に相当の時間を要する。

 

「させるかッ!」

 

 地藤は鏡の霧島レイから授かった黒刀を振り翳し、バルナハルトへ突っ込む。

 

『……貴様も、邪魔だな』

 

 低く呟き、バルナハルトは手に持っていた“戦君の剣(ウォー・ソード)”を無造作に地藤へ投げつけた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に刀で弾いた地藤だが――胴体ががら空きになる。

 その隙を逃さず、レイの首を掴んだまま距離を詰めたバルナハルトは、投擲で空いた手で地藤の首も掴んだ。

 

「ぐっ……!」

『……消えろ、蠅共』

 

 蠅の一匹。

 その正体が、自身が憎悪する地藤優斗だとは思いもしないバルナハルトは、ただ邪魔者を排除するために腕へ力を込める。

 鏡のバルナハルトが権能攻撃を放つが、二人の首を掴んだまま同数の権能を生み出し、迎撃していく。

 

「くそっ……!」

 

 鏡のバルナハルトが攻めあぐねる中、首を圧迫される地藤とレイの意識が薄れていく。

 このままでは二人とも一度死ぬ。

 原種の吸血鬼である二人は死んでも復活できるが――

 

『喜べ、吸血鬼共』

 

 バルナハルトの背後で黒い権能が渦巻く。

 それは槍の形をしていた。

 

()()()()の権能をくれてやる』

「「ッ……!」」

 

 気が遠くなるほどの戦いの記憶。

 数多の敵を葬り、その権能を簒奪してきたバルナハルトのストックには、当然のように“不死殺し”も含まれている。

 

 万力のような力で首を絞められながらも、地藤とレイは直感した。

 

 あの黒い槍に貫かれれば最後、自分たちは()()

 冥府へ連れていかれる。

 

 

 だが――冥府よりも深い愛を持つ彼女が、地藤優斗のピンチを黙って見過ごすはずがない。

 

 

穿光の砲陣(シルバー・バスティオン)――‼」

『ッ!』

 

 地上から翡翠色の奔流が放たれ、バルナハルトを撃ち抜いた。

 圧倒的な霊力を秘めた砲撃は、大出力にも関わらず恐ろしいほど正確で、四騎士の身体を揺らすほどの衝撃を与える。

 

 この程度で倒れるバルナハルトではない。

 だが、痛みと衝撃で地藤とレイの首を掴む手がわずかに緩む。

 解放された地藤とレイはすぐに攻撃へ移ろうとするが――呼吸器を圧迫されていた反動で身体の回復が追いつかず、数瞬だけ動きが止まってしまう。

 

 それは、致命的な隙だった。

 

『死ね』

「ッ! 霧島先輩――!」

 

 地藤は咄嗟にレイを片手で突き飛ばした。

 

「ユウ――ト」

 

 突き飛ばされたレイは振り返り、目を見開いて絶句した。

 地藤優斗の心臓に突き刺さった――黒い槍。

 不死殺しの槍。

 

「あっ――」

 

 惚けたような声を漏らし、地藤の身体は魂が抜けたようにふらりと傾き、そのまま地上へと落下していく。

 

「ユウト――!」

 

 血を吐くような絶叫が戦場に響く。

 レイは落下する地藤を追おうとする。

 だが。

 

『お前も死ね』

「ッ!」

 

 無慈悲な宣告と共に放たれた同種の黒い槍が迫り、レイは回避に専念するほかなくなる。

 普段のレイであれば、自身の被弾も恐れず地藤を助けに向かっただろう。

 しかし、地上から純白の翼が飛び上がるのを目にし、地藤は彼女に任せてバルナハルトへ向き直った。

 

 真紅の瞳に浮かぶ感情は、ありったけの憎悪。

 

「――貴様、楽に死ねると思うなッ!」

 

 刀を手に突っ込んでくるレイへ権能を放ちながらも、バルナハルトの注意は別のものに向いていた。

 先ほど銀色の少女が叫んでいた名前。

 そして今も、地上から純白の翼を持つ少女が叫び続けている名前。

 

 “優斗君――!”

 

『……()()()、だと?』

 

 バルナハルトは、自身が撃墜した少年を見下ろしながら、怪訝そうにその名を呟いた。

 

 

 

♰♰♰♰♰ ♰♰♰✜♰♰♰ ♰♰♰♰♰

 

 

 

 

 

「――ん」

 

 聞き慣れた声が聞こえる。

 

「――くん」

 

 美しい声。

 その声に名前を呼ばれることが、どれほど幸福なことか――僕は身をもって知っている。

 だから。

 

「――ゆうとくんッ!」

「ッ! はい!」

 

 その声で名前を呼ばれれば、目が覚めるのは自然な流れだった。

 大きな声で返事をしながら目を開くと、涙を浮かべた天使――恋人である天羽璃奈の顔が、ドアップで映り込んでいた。

 

「……璃奈?」

 

 首を傾げて尋ねると、璃奈はホッとしたように表情を緩めた。

 白魚のような指で目尻の涙をそっと掬い取る。

 

「よかった……無事だったんだね」

「うん。まぁ、なんとか」

 

 上体を起こしながら胸元へ視線を落とす。

 幸いにも、僕の心臓を貫いていた黒い槍はすでに消えていた。

 

 奴は“不死殺しの槍”だと言っていたけれど、僕は不死じゃない。

 ……いや、吸血鬼としては不死に分類されるのだろうけれど、“悪魔の屁理屈(ワンダー・トリック)”はそもそも“死亡したという事実そのものを書き換える”能力だ。

 だから、ああいう権能は効かないだろうと踏んでいたが――予想通りだったようだ。

 

 ……しかし、参ったな。

 この蘇生のために“悪魔の屁理屈(ワンダー・トリック)”を使ってしまった。

 バルナハルトの無茶苦茶な能力のせいで、もう使えない。

 あれが僕の生命線だというのに――。

 

「……ねぇ、優斗君」

 

 考え込んでいると、いつもより低い声で璃奈に名前を呼ばれた。

 経験で分かる。

 こういう時の彼女は、とても怒っている。

 

「な、なんでしょうか……?」

 

 恐る恐る向き直ると――

 

「……私が、何を言いたいか分かるよね?」

 

 泣きそうな顔で、泣きそうな声で尋ねられた。

 

「うん……ごめん。咄嗟の判断で、自分の命を危険に晒しちゃった」

 

 素直に謝り、頭を下げる。

 璃奈に『僕を信じてもいいんだよ』と言っておきながら、これだ。

 彼女は眉をひそめた。

 

「優斗君のことだから何か考えがあってのことだとは思うけれど、やっぱり私は心配だよ……。それも、あの女を庇って優斗君が撃墜されるなんて、とてもじゃないけど見ていられない」

「ごめん。あの場ではあれが最適だと思ったんだけど……」

 

 僕は自力で何とかできる手段が残っていたが、霧島先輩はあの“不死殺し”を喰らえば終わりだ。

 だから、あの場では僕が攻撃を引き受けるのが最適だと思った――が、そういう問題ではないのだろう。

 

「……死に慣れたせいで、ちょっと自分の命を軽く見るようになっちゃっているのかもしれない。気を付けるよ」

 

 これまで戦ってきた相手が格上ばかりで、死んでも特攻するゾンビアタックが定石になっていた。

 自分でも気付かなかったが、今後は気を付けなければならない。

 滅多にいないとは思うけれど、バルナハルトのように能力そのものを封じてくる相手と戦うことになったら、本当にコロッと死んでしまう。

 

 璃奈はじっと僕を見つめ、静かに頷いた。

 

「うん……私は、もう優斗君が死ぬところは、見たくないから……」

 

 切実な声で訴えられる。

 自分の彼女に涙ながらにお願いされて断れる彼氏がいるだろうか。

 いや、いない。

 

「分かった。もう無謀な真似はしないと誓うよ。……ただ、僕一人じゃ絶対に勝てないからさ、一緒に戦ってくれる? 璃奈」

「――うんっ! もちろんだよ!」

 

 やってしまったことは変えられない。

 僕の習慣もすぐには変えられない。

 ならせめて、次の一歩から変えていこう。

 

 僕はそっと笑顔を浮かべる璃奈の手を握った。

 璃奈もまた僕の手を握り返してくれた。

 

 そのまま二人の顔がそっと近づいて―― 

 

 

 

「あー、いいところで申し訳ないが……そろそろ、いいか?」

 

 

 非常に気まずそうな声。視線を向けると、大剣を肩に担いだ十六夜蓮が、何とも言えない表情で立っていた。

 急に恥ずかしくなって、慌てて璃奈から顔を離す。

 彼女は不満そうな表情をしていたが、生憎と衆目の前で堂々といちゃつけるほど僕の肝は据わっていない。

 

 僕は蓮に頭を下げた。

 

「あ、あぁ……ごめん。えっと、ここは? それから、その人たちは――」

 

 璃奈との会話に夢中で気付かなかったが、周囲を見渡すと僕は不思議な場所にいた。

 言うなれば、“砦の跡地”だろうか。

 中世世界にありそうな、戦で使われていた古びた砦。

 爆撃でも受けたかのようにボロボロで、砦の外壁はところどころ崩落し、向こう側の荒野が見える。

 

 そんな世界に、見覚えのない人たちがいた。

 

 ユリウスは原作キャラなので分かるが、他の面々には見覚えがない。

 ……いや、やっぱりあるかもしれない。“門”の破壊のために結成された教会のエクソシストたちだろうか。

 原作では鉄の大公の鉄棒で串刺しにされるシーンしかなかったので、いまいち自信がない。

 

「ここは僕が説明しましょう」

 

 一歩前に進み出たのはユリウスだった。

 

「僕も含め、我々は“教会”所属のエクソシストです。そちらの仏頂面の男性が長谷川さん、元気が良さそうなお嬢さんが八馬継さん、筋肉ムキムキのお兄さんが獅子頭さん。そして、この僕がユリウスです。以後、お見知りおきを」

 

 ニコリと性別を超越するような綺麗な笑みを浮かべながら、ユリウスは自己紹介をした。

 

「……よろしく頼む」

「よろ~」

「よぉ」

 

 軽く挨拶をしてくれる面々。やはり原作で全滅していたエクソシストたちらしい。

 妙にキャラが濃い造形だったのでファンの間では惜しまれていたが、この世界では生き残っているようで何よりだ。

 恐らく霧島先輩やユリウスたちが先行で駆けつけてくれたお陰だろう。

 

「えっと……地藤優斗といいます。実は霧島レイさんと同族の吸血鬼でして、今は天羽璃奈さんのもとでエクソシストになる修行をしています……」

 

 馬鹿正直に「元四騎士で悪魔王の娘メフィラの契約者です♡」などと言えば、この場で殺されるのは確実なので、こういう時のために考えていた設定を話す。

 ちなみに半分くらいは本当なので、我ながら数奇な人生だと思う。

 

「――ちなみに、私たちは師弟関係ですが、同時に恋人関係でもあります。そうだよね? 優斗君」

「う、うん。もちろん」

 

 僕の横で話を聞いていた璃奈が突然割り込んできて、僕の肩に腕を回しながらそんなことを言った。

 その眼は何故かユリウスたちを睨みつけている。

 ……なんで?

 

「お二人が甘い関係であることは先程のやり取りで十分に分かりましたよ。……地藤さんがエクソシストであったというのは、教会のエクソシストとして見過ごせないことですがね」

「エクソシストになる資格を有しているからといって、教会への報告義務はなかったはずよ」

「それはそうですが……私たちは仲間なのに、寂しいじゃないですか」

「仲間? 戦力になってから言って欲しいものね」

 

 バチバチ、と両者の視線の間で火花が散る幻を見た。

 ――が、不意にユリウスが視線を逸らす。

 

「反論したいところですが……Ms.天羽のご指摘は的を射ています。お恥ずかしながら、我々は神話のごとき異次元の戦いを前に、ここで息を潜めて隠れていただけでした」

 

 ユリウスは悔しげな表情を浮かべた。

 いや、彼だけではない。

 ここにいるエクソシストたちは皆、一様に悔しそうな――恥じ入るような表情をしていた。

 

「残念ながら、あんな超高度で滞空している悪魔を撃ち抜く能力を誰も有しておらず、降り注ぐ権能に対しても、皆の力を結集して一つの結界に立てこもらなければ生き残ることすらできない有様でして……正直、こうして面と向かってお話できていることすら、奇跡のように感じてしまいます」

 

 確かに、彼らには飛行能力がない。

 自分が飛べるようになったから失念していたが、人間は普通飛べないのだ。

 

「我らの頼みの綱は、同じく教会所属のMs.レイと――悔しいことに敵であるはずの死王女、そして新たに現れた謎の悪魔です。あちらをご覧ください」

 

 ユリウスが槍を持ち上げ、その穂先の方向へ視線を向ける。

 そこには噂の死王女と鏡のバルナハルトがいた。

 霧島先輩と共にバルナハルトへ猛攻を仕掛けている。

 

 人数もネームバリューも十分なはずだが――どうにも分が悪い。

 ユリウスも同じ意見なのか、深刻な表情で告げる。

 

「皆、全力でやっていますが、天秤はバルナハルトへ傾いています。やはりネックになっているのは、先程バルナハルトが発動した“戦君の帝国領域”なる術です。これのせいで死王女は技を制限され、無理やり魔力を放出して辛うじて権能を弾いている状態。Ms.レイも剣技で何とか捌いていますが、攻めに転じられていません」

 

 そんな状況でも生き残れている死王女や霧島先輩は流石だが……このままでは敗北は時間の問題だろう。

 

「地藤優斗さん」

 

 真剣な声に呼ばれて振り向く。

 ユリウスをはじめとしたエクソシストたちは己の武器を手に、縋るような眼で僕を見つめていた。

 

「何か、僕たちにできることはありませんか? エクソシストとして、悪魔から世界を救う手助けをさせていただけないでしょうか……?」

「……」

 

 戦いはすでに、唯人の介入を許さない領域に突入している。

 悪魔の最上位である四騎士同士の戦いに割って入るなど、エクソシスト側も最上位の人間を連れてくる必要があるだろう。

 

 だが、それでも彼らは戦いたいと言っている。

 あの神話のような戦いを目にして。

 降り注ぐ戦火から逃げ回るのに精いっぱいだと分かっているのに、それでも使命を果たしたいのだと。

 

 僕は目を閉じて考えをまとめ、再び目を開いて――

 

「一つ、手があります」

 

 思いついた無茶苦茶な作戦の説明を始めた。

 

 

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