よろしくお願いします
おはよう、お母さん、お父さん。
僕が朝起きた時まずすることは両親のお墓に手を合わせること。
もうかれこれ十年近くやっているこの墓参りは余程のことがない限り続けている。
ただ、それも今日でしばらく間が開くことになりそうだ。
「ジューク!そろそろ行くぞ!」
「うん!今行く!」
カイルに名前を呼ばれ、墓を後にする。
その敷地を出る前に一言。
「行ってきます、お母さん、お父さん。」
そう言って僕は走り出す。
多分、もう振り返らない。
「ジューク、ルミア知らねぇ?あいつどこにもいないんだけど。」
「ルミア?どうせ引きこもって研究でもしてるんじゃないのか?」
「今日出発だぜ?昨日あれだけ言っておいてまだ研究するとかルミアでもありえねぇだろ。」
突然だが、この世界には『色』というものが存在する。
物の色ではなく、『色』。
「うーん、とりあえず家に行ってからじゃないか?」
「ま、それもそうか。じゃ、競争な!」
「あっテメェ待てコラ!」
『色』は例外なく一人一つ持っており、髪色で判別することができる。
そして、各個人一人一人がその『色』に持つ、一番強い印象とか、イメージとかを具現化することが出来る。
「『赤炎・爆』!」
「あっカイルテメェ『色』使うな!ズリィだろうが!」
例えば、『赤』なら、今カイルが使ったように『炎』とか。
「『青氷』」
「冷た!!ルミアお前何も急に凍らせることねぇだろ!」
「人の家の前でそんな物騒な『色』使う方が悪いでしょ。」
「まぁ、確かにな。これはカイルが悪い。」
『青』なら、『氷』とか。
それらを利用して仕事をしたり、戦ったりしてこの世界は成り立っている。
「そろそろ行くんでしょ?準備は出来てるわよ。」
「じゃあ行こうぜ!馬車ももう来てる!」
「カイル、落ち着け。もう少し時間に余裕あるんだから走る必要ないだろ。ここで急いだって王都に行く時間は変わらないんだし。」
「でも早く行きたいだろ?」
「それは否定しない。」
「バカ共が…」
「ルミアは?」
「そりゃ、私だって行きたいけど、もう少し落ち着いたらどうなのよ…」
このバカで元気な奴がカイル、『色』は『赤』。
落ち着いてる奴はルミア。『色』は『青』。
そして僕がジューク。『色』は…
「ところでジューク、お前の『白』は使えるようになったのか?」
「いや、まだだな。正直試験がかなり不安だけどな…」
「お前これで受からなかったらどうするんだ?」
「ま、その時はギルドとかなんとかするさ。」
『白』。だが、普通なら十歳くらいには『色』の能力が使えるようになるものが僕はまだ使えていない。
そして僕たちがこれから向かうのは聖都の学校の入試試験。
ここ以外の学校が少ないことからも、この学校の重要さがわかるだろう。
「どんな試験なんかね。」
「毎年内容が違うらしいが、今年はどうなんだろうな。」
話しているうちに馬車に着く。
僕たちの村から数日に一回聖都に向けて出発してくれる馬車。
見送りは無い。
お世話になった人に話すことは昨日のうちに話した。
「さて、行こう。」
「あぁ。」
「そうね。」
僕たちは馬車に乗り込む。
未来を夢見て。
「ジューク、結局あの遺書の意味はわかったのか?」
「いや、もうかれこれ七年は経ったけどまだわからないんだよ。なんで僕の両親はあの学校に行け、って書いてたのか。」
僕たちがあの学校を選んだのには理由がある。
それが、七年前に亡くなった僕の両親。その遺書。
[聖都にある学園に通え。]
遺産の相続や親族へのメッセージ。
それに混じって入った自分への遺言。
いまだにその意図はわからない。
だが、道を示されたならそれに行くだけだ。
「ところで、カイルとルミアはこれで良かったの?」
「あぁ、俺も学校は行きたかったし、せっかくならお前と一緒のところがいいだろ。」
「私も。まぁ、あそこは研究施設も充実してるらしいし、せっかくならね。」
あぁ、知り合いがいるというのはありがたいな。
そう思いながら馬車は進む。
これより前の記憶は僕は思い出せない。
まぁ、そんなことはいい。
実際、僕が始まったのはここだから。
僕というキャンパスに、最初の色をつけ始めたのは、この時だから。