犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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原作合流前最後の、短いお話三つ


激動までのエトセトラ

 虚夜宮(ラスノーチェス)には、十刃(エスパーダ)従属官(フラシオン)以外の数字持ち(ヌメロス)が利用する食堂がある。というよりも、藍染が作らせたと言った方が正しい。

 最も、(ホロウ)の生態としての捕食行為以外、食事に対して興味を持たない者が大半の為、利用者として破面(アランカル)がいることは少ない。

 そんな半ば存在意義を失いかかっている食堂に、アパッチは来ていた。目的は、併設されている調理場から紅茶の葉を譲ってもらう事。殆どルーティンとなった目覚めの紅茶が、今日丁度切れてしまっていた。

「えーっと、飲み物関係はこっちの棚だっけ……」

 調理場の奥まったエリアの棚を一つ開ける。瞬間、アパッチは眩暈がしたような気がした。紅茶の葉一つとっても種類がやたら多いのだ。

 最初に藍染から貰ったやつってどれだっけ、と缶を一つ一つ確認しながら探していく。半分を過ぎて少しした辺りで、漸くお目当てのものを発見できた。

「あったあった。これこれ」

 第三の宮にあるものと同じ缶を手に取って、アパッチはホッと胸を撫で下ろす。その時。

「なーにしとるん?」

「ほぎゃああああああ!!!??」

 背後から声をかけられ、アパッチは危うく紅茶の缶を取り落としそうになった。真っ青になりながら自由落下する缶をどうにか掴み、冷や汗をかきながら安堵の息を溢す。

「なんや、そないに驚かんでええやん」

「い、市丸……サン」

 アパッチが恐る恐る振り返った先にいたのは、藍染の直属の部下のような立ち位置の死神、市丸ギン。市丸は笑っているんだかいないんだか読み取り辛い顔をして、ひらりとアパッチに対して手を振った。

「あー、畏まらんでええよ。キミ、ご主人以外に対してはそういうの得意とちゃうやろ?」

「それ、は……まあ……あとハリベル様は主人じゃなくて同志だぞ」

 バツの悪い顔をしてアパッチは口籠もりながらしっかり訂正を入れる。自分達にとって地位に基づく上下関係は形式上だけのものであって、本質的には対等だと。

「で、こないなとこで何しとるん?」

「その言葉、そのままそっくり返していいか……?」

 アパッチは紅茶の缶を抱えたまま半歩後ずさった。市丸は、そないに怖がらんで、と薄ら笑いを浮かべる。

「干し柿食べよう思ってたんやけど、部屋に置いてる煎茶切らしてもうててなあ。取りに行くついでに、誰かおったらお裾分けしたろか思って」

「干し柿?」

「これや」

 市丸がシンクの上に乗せていたザルから何かを手に取った。白く粉の吹いた深い飴色の萎びた果物は、一見すると本当に食べられるのだろうかとアパッチは困惑する。

「渋柿の皮剥いて干すとな、水分と一緒に渋いのが抜けて甘くなるんよ。日持ちもするし、何よりボクこれ小さい頃から好きでなあ」

 そう言って市丸は手にした干し柿をアパッチに差し出した。目を泳がせながらアパッチが受け取ると、満足そうに鼻を鳴らす。

 アパッチは干し柿を隈なく眺めて、何度見ても甘いものの見た目ではないなと思いつつ、一思いに齧り付いた。

「!!」

 ふにゃ、とした柔らかい食感。ねっとりとした舌触り。濃厚だがしつこさのない甘味。アパッチはこんなに美味しい物が存在したなんて、と(ホロウ)生で一番の衝撃を受けた。

 ピーッ、とホイッスルのような音が鳴る。いつの間にか市丸が調理場のコンロで薬缶を火にかけて湯を沸かしていたらしい。濃い緑色の茶葉を茶漉しにスプーン三杯、急須にセットしてからお湯を注いだ。

「干し柿には紅茶より煎茶の方が合うからなあ。ほれ、キミの分」

「あ、ども」

 普段アパッチらが使っているティーカップとはまた形の違う、取手のない筒状の陶器。二人分用意されたそれにに急須の中身が注がれる。紅茶とはまた違う華やかな香りと、透き通る萌葱色の茶にアパッチは目を輝かせた。

「熱いから気い付けや」

「ん」

 市丸から煎茶の入った陶器、湯呑みを受け取ったアパッチはうっかり落とさないよう両手でしっかり持って、ズズ、と啜る。渋味の後に甘さが余韻として残るその味に、パチパチと瞬きを数度繰り返した。

「ん……まぁ……」

「気に入ってくれたみたいで何よりやわ。よかったら好きなだけ食べや」

「ありがと」

 お許しが出たので、アパッチは遠慮なくザルいっぱいに積まれた干し柿に手を伸ばす。美味い、美味いとふわふわの笑顔で堪能する姿に、市丸は糸のような目を僅かに開き、郷愁に満ちた顔をした。

「ボクの幼馴染も、干し柿が好きでなあ。毎年三番隊でぎょーさん作った干し柿を持ってったったらえらい喜んで……」

「へぇー、一回会ってみてえな。そいつ尸魂界(ソウルソサエティ)にいんの?」

「……そうやね」

 市丸の顔が僅かに俯く。その返答が一瞬詰まった事に気付かないほど、アパッチは鈍感でも馬鹿でもない。

「その娘も、ボクと同じ死神や。護廷十三隊の十番隊、その副隊長。ボクが、置いてきた」

「……なんで藍染に着いてきたんだ?」

 アパッチは、何故幼馴染を置いて来た、とは言わず、できる限り言葉を選んで違う形に直して問いかける。

「藍染はんに世話んなったんが一つ。もう一つは……やりたい事があるから、やね」

 一瞬、市丸が言い淀んだ風に感じた。湯呑みの中の煎茶の水面に映る表情は、波紋に揺れて不明瞭に崩れる。

「やりたい事?」

 問いを重ねた。純真(無垢)な光を放つ青とオレンジイエローのヘテロクロミアに射られた市丸は、アパッチから目を逸らす。

「……秘密や。ええ男には隠し事があるもんなんやで」

「えっ、現在進行形で幼馴染泣かせてる人がいい男って、なんの冗談?」

「言葉の匕首の切れ味良過ぎへん?」

 ぶはっ、と市丸は噴き出した。ひとしきり笑ってから仕切り直すように一度咳き込んで、煎茶を啜る。

「そうやなあ……女の子泣かせてもうてたら、ええ男とは呼ばれへんか」

 干し柿を一つ、口にした。

 暫く此処に置いとくから、好きな時に好きなだけ取ってってええよ。そう言われたのでアパッチは早速、第三の宮で悲鳴と煽りと歓声飛び交う強制鳴き麻雀を楽しんでいるであろう第3十刃(トレス・エスパーダ)とその従属官達へ、人数分の干し柿とそもそもの当初の目的であった紅茶の茶葉缶を持って帰路に着いた。

 その道中、アパッチは物憂げにふと天井を仰ぐ。

「アイツ、なんで嘘ついたんだろ」

 そんな呟きを残して。

 

 

 

 ミラ・ローズは度々通っている場所がある。

 虚園(ウェコムンド)の白い砂漠において珍しく、石英の木の数が目に見えて多いその一帯が目的地。そこには、ある特殊な破面がいた。

「あー!ミラ・ローズ来たー!」

「遊んで遊んでー!」

「鬼ごっこしよ!」

「あーもう、遊ぶから落ち着けって!」

 真っ白なローブのような服を着た小さな子供や小動物の破面達。彼ら彼女らにまとわり付かれたミラ・ローズは引き倒されないように気を付けながら、宥めすかして落ち着けようと試みる。ミラ・ローズの目的は、この子供の破面達であった。

 彼らはピカロ。個にして群、百を超える少年少女の集団を一つの個体であるとして成立させた特異な破面である。同時に、チルッチと同じ十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)の破面でもあった。

 彼らとミラ・ローズが出会ったのは割と偶然。獅子の形質を持つ虚であるミラ・ローズは時折無性に咆えたくなる時がある。とはいえ、虚夜宮で吼えれば他の十刃やその従属官、数字持ちなどから顰蹙を買うだろう。自分だけならまだしも、それで(組織内の地位の上では)上官であるハリベルや同僚であるアメミトらに迷惑をかけるのは不本意である。

 よって、事前に断りを入れた上で一人で虚夜宮を抜け出して、誰もいない砂漠の中で雄叫びを上げて精神を落ち着かせていた。

 そしてピカロ達のうち何人かが、その雄叫びを聞きつけて現れたのである。

 ミラ・ローズの前に現れたピカロは、彼らをメノスの森に隔離していたヌルガンガの目を掻い潜って脱走した個体であった。ピカロらは雄叫びを終えたミラ・ローズに飛びかかり、あっという間に砂地の上に転がすと瞬く間に自分達の差し当たっての縄張りとなるメノスの森へ連行していったのである。人はそれを世間一般的に、拉致と呼ぶ。

 連行されてからも、ミラ・ローズは散々な目に合った。まず百人以上の子供の破面に取り囲まれた時点で悲鳴を上げ、更にその周囲を闊歩する最下級大虚(ギリアン)の姿を認めると連れてこられた場所がメノスの森であると気付き、喉が裂ける勢いでハリベル達に届くわけもない助けを求める声を上げた。

 それからピカロ達に追いかけっこだのかくれんぼだのを強要され、挙げ句の果てには帰刃(レスレクシオン)した上で割と本気の殺し合いごっこを強いられたミラ・ローズは、ボロボロにされたもののどうにか満足いくまで付き合った。遊びが終わりに差し掛かったあたりはもう殆ど第3従属官(トレス・フラシオン)の意地で動いていたのである。

 そしたらどうだろう、ピカロ達は何故かミラ・ローズを大変気に入り、これからも一緒に遊ぶようおねだりをしてきたのだ。

 そんなわけで、十刃落ちとはいえ子供の姿をして、子供そのものの精神構造をしたピカロ達のお願いを無碍にも出来ないミラ・ローズは、こうして時々ピカロ達と石英の木の広場で待ち合わせるようになったのである。

「ミラ・ローズ、かたぐるま!」

「はいはい、しっかり捕まっとけよ」

 おかっぱ頭の少女のピカロに強請られて、ミラ・ローズは登りやすいように膝をついてしゃがんだ。おかっぱ頭の少女のピカロはミラ・ローズの背中をよじ登り、両肩に足をかけて頭をしっかり掴む。姿勢が安定したことを確認すると、ミラ・ローズは合図をしてゆっくり立ち上がった。

「きゃー!たかーい!」

「このままちょっと走るぞー」

「うん!」

 ザッ、とミラ・ローズは肩車をしたまま走り出す。きゃっきゃと笑うピカロに釣られて、他のピカロ達が並走を始めた。暫く走り回っておかっぱ頭の少女ピカロが満足すると、ゆっくりしゃがんで降ろしてやる。

「ミラ・ローズ!次ぼくー!」

「あ、ずるいわたしも!」

「ぼくも〜」

「わかったわかった!順番な!」

 はい整列!とミラ・ローズはピカロ達を並ばせた。お行儀よく並んだピカロ達を順番に肩車して走り回る。列に並んだ個体が全員満足する頃には、ミラ・ローズはすっかりクタクタになってしまっていた。

「あ〜……疲れた……」

 両手を後ろについて座り込む。ピカロ達は未だ元気いっぱいの様子で、飛んだり跳ねたり遊び回っていた。ミラ・ローズにしてみれば、帰刃して殺し合いごっこを始めなければもはや何でもいい。

 疲れた身体を休めていると、ふと遊び回るピカロ達から少し離れて、一人のピカロが座ってそれを眺めているのを見つけた。ミラ・ローズは不思議に思ってピカロ達の遊びの邪魔にならないよう迂回し、ピカロに近付く。

「どうしたんだ?」

 出来るだけ子供であるピカロを怖がらせない為、威圧感のないように声をかける。ピカロはハッとしてミラ・ローズの顔を見上げた。

 そのピカロの姿は、栗色の猫っ毛にオレンジブラウンの眼をした少年だった。ピカロはもじもじと恥じるように身体を揺らして、口をまごつかせる。

「ボク……体を動かすより……絵を描く方が、好きなの」

「そうなのか?」

 眼を泳がせながら告白するピカロ。ミラ・ローズはなるべく優しく相槌を打って、言葉の続きを待った。

「でも…….みんなは走ったり戦ったりの方が好きだから、お絵描きしたいって言えなくて……」

「そっか……どんな絵を描くんだ?」

「えっとね……」

 ピカロは指で砂をなぞる。白い砂に彫られた線が描いたのは、仮面をつけた犬や鳥、それから最下級大虚。

「へえ、上手なんだな」

「ほんとう?えへへ……嬉しい」

 ミラ・ローズに褒められて、ピカロは頬を赤らめて照れた。そこでふと、ミラ・ローズは思い至る。

 ピカロは個にして群。百以上の子供や小動物の破面全てが"ピカロ"という個体である。しかしながら、この絵を描くのが好きな栗色の猫っ毛のピカロのように、それぞれが異なる姿や性格をしていることもまた事実。なのに、全員を機械的に一緒くたにしてピカロと呼ぶのは如何なものだろうかと。

「呼び名くらいは要るかもなあ……」

 何せピカロ、と呼ぶだけでざっくり百人が振り返るのだ。特定の一人を指して呼ぶことが困難であることは、コミニュケーションの観点から問題があると考える。

 栗色の猫っ毛のピカロを見つめた。飴玉のように丸いオレンジブラウンの眼が瞬く。

「アート……は直球すぎるな。絵……画家……芸術……うーんん」

 ミラ・ローズは腕を組んでうんうん唸った。絵を描くのが好きなピカロに最適な呼び名を考えるために頭がぐるぐる回る。

「ドロウ……ピクト……ブロー……あっ」

 天啓が降りた。ミラ・ローズはピカロの猫っ毛特有の柔らかい頭を撫でて。

「アンタがよければ、になるんだけど。芸術家(ブローチャ)って呼ばせてもらっていいか?」

「……ブローチャ?それ……ボク?」

「おう」

「ブローチャ……ブローチャ……芸術家(ブローチャ)……ふふっ、嬉しいなあ」

 与えられた名を反芻したピカロ———ピカロ・芸術家(ブローチャ)ははにかんだ。喜んでもらえてよかった、とミラ・ローズは胸を撫で下ろす。

「あー!ずるいぞー!」

「わたしたちも名前欲しい!」

「えっ!?」

 遊んでいたピカロ達がわらわらと集まってきた。芸術家(ブローチャ)を羨んで、自分達もとミラ・ローズに名付けをせがむ。

 結局、ピカロ達のおねだり攻撃に屈したミラ・ローズは百人以上のピカロ達一人一人に、知恵熱が出るほど頭を酷使しながら呼び名を与えていった。

 ミラ・ローズは知らない。三界において名前が持つ力を。

 ミラ・ローズは知らない。名付けという行為が何を意味するのかを。

 ミラ・ローズは知らない。ピカロ達に与えた名が、後に何を齎すのかを。

 まだ、知らない。

 

 

 

「本当に十刃になる気はないのかい?アメミト」

 そう問われたアメミトは、食いしばった歯を剥き出して露骨に嫌そうな顔をした。問いかけた側の藍染はそこまで嫌がらなくても、と肩をすくめる。

 燦光する翠玉(エメラルド)がわかりやすく不愉快を訴えた。アメミトはベルトに繋ぐ形で佩いた二刀一対の斬魄刀の片方に手をかける。

「前にも言っただろう。私にはティアのように人の上に立つ才が無い。十刃に求められる神性(カリスマ)を私は持ち得ない。あと純粋に、ティアの側を離れたくない。わかったらいい加減諦めろチョロ毛野郎」

「そこまで言うかい?」

 やや早口で捲し立てられた藍染はやれやれと首を横に振った。

「十刃に神性なんてものは必要ないよ。序列を決めるのは殺戮能力であり、霊圧のみだ」

「それはアンタの基準だ。私の基準はそうじゃない。どれだけ強くとも、畏敬が無ければ十刃として成立し得ない。そして私には、強さしかない」

「十刃は私の組織だ。ならば基準を決めるのは私であって然るべきだろう。君ならば可能な筈だよアメミト」

 藍染の口元が弧を描く。アメミトの眉間に寄った皺が深まった。そこから続く文句に予想はついている。だからこそ嫌なのだ。

「バラガンを討ち取り、第2十刃(セグンダ・エスパーダ)の席を奪い取ることがね」

 その言葉に、アメミトは額に手を当てて天井を仰ぐ。その心境は当然、ふざけんな、いい加減にしろこの野郎、以外にない。

 藍染はこうして度々、アメミトを唆そうとした。その度にアメミトは頑として首を横に振り、第3従属官であり続けることを主張した。果たして、二人のこのやり取りはずっと、ウザ絡みしてきたノイトラを返り討ちにした時から平行線を辿っている。

「この話何回したかなあ!私は十刃にならないしなれないし、なる意味がない!私はティアの従属官でなければならないんだ!!」

「私は自分より劣る者の下に甘んじることの合理性を感じないのだけどね」

「ティアを愚弄するなら今ここで殺すぞ」

「何だ、わかっているじゃないか君も」

「よし殺す」

 アメミトが斬魄刀を抜いた。霊圧を刀身に圧縮し、灰の剣閃(バラ・デ・セニーザ)を放とうとして———。

「縛道の六十三、鎖条鎖縛」

 詠唱破棄された藍染の鬼道により、太い鎖で拘束された。

「グッ!!」

 アメミトの身体が床に転がる。燦光する翠玉が下から藍染を睨め上げた。藍染はアメミトを見下ろして、聞き分けのない子供に言い聞かせるように説く。

「君は理想を追うと言っていたが、その割には自分から何をしようとはしていないね?虚園の始まりから生き続け、並の最上級大虚(ヴァストローデ)ですら赤子の手を捻る様に叩き潰す程の力を持ちながら、自らの手でそれを実現しようとしていない。なら一体、君は何がしたいのかな?」

「こん……の……っ、厨二病末期患者が……人の気も知らないで…….!」

 ギチ、とアメミトは鎖を引き千切ろうと足掻いた。パキ、と音を立て、腕力と霊圧の二重負荷のかかった鎖がひび割れる。

「君は一体何処でそんな程度の低い罵倒を覚えてくるのかな」

「さあ、何処だろうな……!ちなみに、煽りカス度合いは私よりシィアンの方が上だぞ……!」

「汚点だね」

 大きな破壊音を響かせて、アメミトが鎖を引き千切った。藍染は平然として、詠唱破棄した六十番台ならこの程度か、と呟く。

「そろそろ、動こうと思っているんだ」

 片膝を立てて睨み上げるアメミトに、藍染は告げた。アメミトは燦光する翠玉を見開いて、息を飲む。そしてはたと、藍染の最終目標をよく知らないことを思い出した。

「アンタ、そもそも何する気だ」

 険しい顔をして問い質す。藍染は不遜な態度を崩さないままアメミトにこう返した。

「アメミトは、霊王を知っているかな?」

「ああ、知っている。今の三界の形を作ったヤバい奴だろ」

 何を常識的なことを、とアメミトが怪訝そうに吐き捨てた。虚園においてそれを常識として知っているのは、アメミトやバラガンの様な最古級の虚だけであると知らないらしいことに、藍染は流石に苦笑する。

「私は、その霊王を地に引き摺り下ろす」

 その答えに、アメミトは信じられないものを見る目を向けた。

「正気か?」

「当然正気だとも」

 確認した上で、藍染は態度を変えない。よって残念なことにアメミトは、それが本気であることを悟った。

「私が天に立つ」

 自身を見下ろしそう宣言した藍染に、アメミトは露骨にゲンナリとした顔をする。たかだか死神に過ぎない身の上で、またそんな、大それた事を言うものだと。

「正気でそこまでイカれてるのは引く」

「君の掲げる理想も似た様なものだよ」

 互いに要約すると、お前ねーわ、と吐き捨て合って、ハリベルがアメミトを迎えにくるまで二人は黙したまま睨み合った。




原作再履修期間に入らねばねば
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