犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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希望が見えた
その足下に
艱難辛苦は
静かに口を
開いている


謀略、始動

 五人用の特注ベッドに寝転がって、金髪と碧玉の眼を持つ破面(アランカル)———第3十刃(トレス・エスパーダ)ティア・ハリベルは赤色の液体が封入された小さなアンプルを顔の上で揺らす。側面に焼き付けられたラベルには、狼の横顔を限界まで簡略化したマークが付いていた。頭を乗せた枕の横に、同じように赤い液体を封入したアンプルが六つ。それぞれに鹿と、ライオンと、蛇と、燕と、薔薇と、そしてジャッカルのラベルが焼き付けられていた。

 グリムジョーの独断専行から暫く経ち、虚夜宮(ラスノーチェス)は以前と同じ退廃的な静寂と喧騒を取り戻している。風の噂で、空席となった第6十刃(セスタ・エスパーダ)が補充されたとも聞いた。藍染は何かを画策しているようで、ウルキオラが呼び出されていたのをピカロ達と遊んだ帰りにミラ・ローズが目撃している。

 ハリベルが手にしたこの赤いアンプルは、そう遠くないうちに訪れるであろう大きな戦いへの備え。その一つだった。

「ティア、そろそろ行こう」

 テーブルに広げていたナンバープレースを片付けて、明るい金髪に燦光する翠玉(エメラルド)の眼をした破面———アメミトが椅子から立ち上がる。短い返事をして、ハリベルはアンプルを仕舞って起き上がった。

 第三の宮を出て広く長い廊下を二人横並びになって歩く。藍染が新たに破面を作る、と以前第8十刃(オクターバ・エスパーダ)ザエルアポロに聞かされ、アメミトらはようやっと実行されるそれの様子を見に行くつもりだった。藍染が十刃(エスパーダ)達に周知させた、ということはそれだけ特別な破面であるという査証であるので。

「ティア・ハリベルとアメミト・レシェフ、入るぞ」

「来たぞー、藍染」

 入室前のマナーとして一言かけると、扉が重く軋む音を立てながら一人でに開いた。既に幾人か、十刃は集まっているようで一斉に視線が二人に注がれる。

 脱力した立ち姿の第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)、コヨーテ・スターク。

 二人を幾つもの悪感情の篭った眼で睨む眼帯の第5十刃(クイント・エスパーダ)、ノイトラ・ジルガ。

 いつ瞬きをしているのかわからない、宗教家のような風貌と巨軀をした第7十刃(セプティマ・エスパーダ)、ゾマリ・ルルー。

 桃色の髪をした細身の第8十刃(オクターバ・エスパーダ)、ザエルアポロ・グランツ。

 第2(セグンダ)第4(クアトロ)第9(ヌベーノ)第10(ディエス)はまだ来ていない。最も、第2十刃(セグンダ・エスパーダ)バラガン・ルイゼンバーンに関しては、そもそも来る気があるかどうかすらかなり怪しいのだが。

 そしてその中に、見知らぬ顔が一人。

「あっれー?第3(トレス)って二人なの?それともどっちか従属官(フラシオン)?キミかな?それともキミ?」

 左側頭部に仮面の欠片を着けた、袖の長い死覇装の華奢で中性的な破面。破面はハリベルとアメミトを交互に見て、値踏みするようにその姿を観察した。

「……第3(トレス)は私だ。貴様はグリムジョーの後任か?」

 アメミトを庇うようにハリベルが一歩前に出る。睨むように碧玉が細められ、眉間に皺を寄せて殺気立つハリベルにその破面は戯けるようにクスクス笑った。離れて見ていたスタークは、何かあればすぐに止めに入れるよう足を半歩開いて構える。

「そうだよ。ボクが第6十刃のルピ。ルピ・アンテノールだよ。よろしくね、おねーさん」

「殺すぞ」

「ティア、ステイ」

 他人を小馬鹿にするような笑顔で、掌を覆い隠す長い袖を揺らす破面———新たな第6十刃ルピ・アンテノールの態度に、ハリベルは反射的に自身の斬魄刀に手をかけた。アメミトはこれは不味いと咄嗟にハリベルの肩を掴んで静止の声をかける。

「流石にグリムジョーの失態を受けての滑り込みで十刃になったばかりの赤ちゃんを、ティアみたいな天然物(大人)の破面が虐待するのは良くないぞ。態度が気に入らないのも確かに理解できるが、今は一旦抑えて抑えて」

「ちょっと?」

 ピキ、とルピの額に青筋が浮かんだ。そんなことは気にも留めず、ハリベルはルピを睨みつけて子供のように指差した。

「だって……コイツ、アメミトのこといやらしい目で見てる」

「いや、やらしい目で見られてるのはどっちかっていうとティアだよ。いいから落ち着きなって。一方的にボコボコにして、こっちが悪者ですみたいに泣かれても面倒だろ?」

「喧嘩なら買ってやるけどこのアマァ!!」

 確実にバカにされている。そう感じとったルピはそれはもう、盛大にブチ切れた。斬魄刀に手をかけて踏み込み、今にも二人に飛びかかろうとした、その時。

「はいはい、私闘は厳禁だって言われてんだろ。斬魄刀から手を離せ」

 響転(ソニード)でルピとハリベルの間に割り込んだスタークが、斬魄刀にかけられたルピの腕を掴んだ。濁った声を上げてスタークを睨むルピは、しかしその眼が静かに圧を放っているのを感じ取り思わず臆す。

 スタークは顔だけアメミト達の方へ向けて、溜め息混じりに注意をかけた。

「アメミトも、あんまり煽ってやんのはやめてやれ。お前だって必要以上にトラブルは起こしたくないだろ?」

「ふむ……それもその通りだ。留意しよう」

 軽く握った右手を口元に添え、アメミトはしたり顔で頷く。ハリベルはまだ少しばかり不服そうだが、許容範囲内だろう。部屋の中央にいる藍染は先程から沈黙を貫いている。この程度の言い争いであれば、自身が介入する程でもないとの判断か。

 二人連れ立って外周を取り囲う高台の方へ移動する。途中、グリムジョーが静かに腰掛けているのを見つけ、アイツも来ていたのか、とハリベルは一瞬隻腕になったグリムジョーに気を向けた。丁度良さげな位置に陣取り、横並びになって縁に腰掛けて部屋の中心へ目を向ける。距離の近さはいつも通り。

 そこには、ガラス板のように透明な箱の中に閉じ込められた何かがいた。白い布、もしくは包帯で雁字搦めに縛り上げられたそれは、霊圧からして大虚(メノスグランデ)、それも外見からすれば最上級大虚(ヴァストローデ)であると思われる。箱の正面に立つ藍染側には小さな窪みがあり、そこに鎮座しているものこそが崩玉である。

 そこから少ししない内に筒のように長い頭部をした第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)、アーロニーロ・アルルエリが入室し、これで残る十刃は来る気の無さそうなバラガンを除けば二人になった。

「ウルキオラ達遅くない?」

 アメミトは扉の方を向いて独りごつ。

「彼らはヤミーの腕の治療をしてから来るようだよ。すぐに来るから、心配しなくていい」

 藍染の回答にアメミトは、ああそう、と相槌を打ってすぐに顔を正面向けた。

 斯くして、藍染の言う通り最後の二人はそう時間をかけずに到着した。

「ウルキオラ、入ります」

 感情の乗らない男の声がする。誰の手にもよらず開かれた扉の向こうから姿を見せたのは、異常なまでに白い肌の第4十刃(クアトロ・エスパーダ)ウルキオラ・シファーと、一際大きな体格を持つ第10十刃(ディエス・エスパーダ)ヤミー・リヤルゴ。切断されていたヤミーの腕は藍染の言う通り治療済みで、縫合痕こそあるものの日常生活を送る分には問題はなく機能しているようだ。

「来たね、ウルキオラ。ヤミー」

 藍染は半身で振り返って二人を迎える。ウルキオラは一礼して、藍染の前で拘束された最上級大虚と思われる存在を一瞥した。より正確には、最上級大虚を閉じ込めるガラスのような箱の上に置かれた崩玉を。

「崩玉の覚醒状態は」

「五割だ。予定通りだよ」

 護廷十三隊にとっては、と藍染は皮肉げな笑みを浮かべて付け加える。

 崩玉の制作者、浦原喜助すら把握していない、崩玉の性質。それは封印を解かれその権能の覚醒途中である今の段階にあっても、護廷十三隊の隊長格に相当する霊圧と融合することで一時的に完全覚醒状態へ至るというもの。藍染はその性質を持って、より多くの破面を短期間で破面化してきた。

 藍染の霊圧が崩玉に目覚めを齎す。崩玉はそれに応え、箱の中に閉じ込められた大虚に干渉してその身を縛り上げる包帯ごと外殻を砕いた。ガラスのような箱は破られ、中から現れたのは王冠のような仮面の欠片を頭に乗せた少年の姿の破面。

「……名を訊かせてくれるかい。新たなる同胞よ」

 藍染が訊ねる。少年の破面はぼんやりとしたまま顔をあげ、ゆっくりと口を開いた。

「……ワンダーワイス。ワンダーワイス・マルジェラ」

 少年の破面———ワンダーワイスの掠れた声での返答に一定の満足を得たらしい藍染は、ウルキオラを振り返る。

「以前話した指令を、覚えているね」

「はい」

 藍染は一旦、部屋全体を見渡した。周囲の十刃達へ向けて視線を一周させると、微動だにしないウルキオラに目を戻す。

「決定権を与えよう。好きな者を連れて行くといい」

 信頼と寛容さを表明するような藍染の言葉に、ウルキオラは恭しく首を垂れた。

「了解しました」

 ウルキオラの返事に頼んだよ、と付け加えた藍染は、視線をアメミトの方へ向けてくる。アメミトは怪訝な顔をして、なんだよ、と燦光する翠玉を細めて顰めっ面を表した。

「アメミト。君もウルキオラを手伝ってあげてくれるかい?」

「は?なんでだよ、ヤダよ。私はアンタの家臣になった覚えはないんだが?」

 即答。ゾマリがアメミトを睨んだが、アメミトは一切意に介さない。藍染はある程度それも予想はしていたのか、緩く首を横に振るだけに留める。アメミトは基本的に、藍染の言うことを全く聞かない。なので、藍染は仕方なく回り道を要した。

「……ハリベル」

 視線を隣にずらして、藍染は言葉少なくハリベルに頼み込む。最古の最上級大虚たるアメミトを従えることができるのは現時点では、そしてこれから先もハリベルしかいない。

「それは、貴様にとって必要なことか?」

 ハリベルが端的に確認する。言外に、必要でないのなら聞き入れないと告げるに等しい。よって、藍染が返すべき答えは一つ。

「勿論だとも」

 肯定。ハリベルはそれを受けて少し考える。碧玉の目を伏せて仕方がないと言うように溜め息を吐き、機嫌の悪そうな態度を隠す気の無いアメミトに視線を向けた。

「……アメミト、行ってくれるか」

 何処に、とは敢えて言わない。若干不満そうにしたもののアメミトは数秒視線を迷わせてから、渋々ハリベルの言葉を受け入れる。

「ティアが言うなら……」

 この女、と誰かが呟いた気がした。多分大方、藍染への忠誠心で言えば十刃でも上位三名に入るゾマリである。次点でアメミトをあまり好意的に思っていないであろうノイトラか、ゾマリ同様忠誠心の高いウルキオラのどちらか。最も、そのどちらであっても、或いはいずれであってもアメミトとハリベルにとってはどうでもいいことなのだが。

「ああ、そうだ」

 全ての用は済んだと部屋を出ようとして、その去り際に藍染は外周を取り囲う高台を見上げる。その視線の先には、普段の彼を知る者からすれば不気味なほど静かに座し藍染を見下ろすグリムジョー。

「君も一緒に行くかい?グリムジョー」

 内心を見透かしたかのような藍染の問いに、グリムジョーは沈黙で返した。

 

 現世、空座町の外れ。

 破面の襲撃に備える四人の死神が斬魄刀との対話、刃禅を行っていた……のだが、そのうちの一人、綾瀬川弓親が突如発狂し、自身の斬魄刀を岩に打ち付け始めた。

「五月蝿い!!」

 発狂する弓親に、四人の一人である松本乱菊が靴を投げつける。後頭部に命中した靴は、数秒中を舞って地面に落下した。黙って静かに刃禅もできないのか、と言われた弓親は斬魄刀を握り締めて言い返す。

「だって!!藤孔雀の奴ムカつくんだもん!!」

 高飛車、傲慢、ナルシストなどの言葉を持って最悪と称した弓親に、乱菊はそっくりじゃないかと呆れた。その一方で、自身の斬魄刀である灰猫に対して我儘、気分屋、怠惰などと称して反りが合わないと断言する。弓親はそれに対してそっくりそのまま、先程の乱菊の言葉を返した。

「乱菊さんって写真に映った自分見て、アタシこんな顔じゃないって言うタイプだよね」

「なんだと弓親!もっかい言ってみろ!!」

 喧嘩を始めた二人。そう遠くない場所で同様に刃禅をしていた小柄な少年の姿の死神、日番谷冬獅郎は騒がしさにキレて二人に集中しろと怒鳴った。緊張感が来い。

「……ったく、落ち着いて剣との対話もできねえのか……」

 冬獅郎が呆れる側で黙々と刃禅に向かう一角は、ふと何かを感じ取ったのか晴れた空を横目で見上げる。平常通りに見える雲の流れに、微かな違和感。

「……来るのが、早え」

 その呟きが聞こえたのか、冬獅郎が何か言ったか、と訊ねた。しかし一角は何でもないと返し、刃禅に戻る。

 

 そして空に、亀裂が入った。

 

 死神達が一斉に空の亀裂を見上げる。それが黒腔(ガルガンダ)である、と悟ると、警戒を高めた。

 開かれた黒腔の奥から現れたのは、見覚えのある顔を含めた四人の成体破面。

 第6十刃、ルピ・アンテノール。

 第10十刃、ヤミー・リヤルゴ。

 元第6十刃、グリムジョー・ジャガージャック。

 そして、藍染によって作り出されたばかりの、ワンダーワイス・マルジェラ。

「そんな……早過ぎないか、いくら何でも!?」

「確かに早過ぎるが……理由を考えてる暇は無さそうだぜ」

 冬獅郎は素早く斬魄刀を構え、戦闘に備える。死神達を見下ろしたヤミーは、いい場所に出られたと歓喜していた。

「アレが6番さんが言ってた、尸魂界(ソウルソサエティ)からの援軍じゃないの?」

 ヤミーの隣でルピがグリムジョーへ顔を向ける。そして小馬鹿にしたように嘲笑うと、数字を剥奪されたことを強調した。グリムジョーはそっぽを向けたままルピの挑発とも言える煽りを意に介さず。

「あの中にはいねえよ。俺が殺りてえ奴はな」

 そう言って、一足先に黒腔から飛び出して行った。ヤミーの静止も届かずに。

「あの野郎……!」

「ほっときなよ」

 ルピは怒り始めるヤミーを嗜めるように後ろを向いた。所詮、十刃落ちのすることだと。

「何もできやしないよ」

 飛び出したグリムジョーの背中には、数字の刻印を焼き潰された後が痛々しく存在を主張していた。

「おい!行くぜ新入り。いつまでボヤッとしてんだ!」

 ヤミーがワンダーワイスを振り返る。ワンダーワイスは虚園(ウェコムンド)の常夜の空とは違う、現世の蒼穹に気を取られたまま、あーあーと意味のない声を発するだけだった。その様子に、ヤミーは舌打ちする。

「また変なのが入りやがったもんだぜ」

 元より個人主義の気が強い破面である以上、協力など端から期待していない。ヤミーは先手を取るべく黒腔から飛び降りた。

 

 一方、尸魂界から現世へ戻る人間の少女、井上織姫は穿界門を走り抜けていた。途中、二人の死神が織姫に追いつく。

「お供致します」

「え、ええ!?」

 驚いた織姫は、流石に遠慮しようとした。しかし、護衛だという死神の一人が尸魂界の客人の帰還において、地獄蝶を外した死神二名の護衛が義務付けられていると言われ、義務であるならばと承諾する。

 戻らねばならない。大切な人たちの元へ。この一ヶ月の間で、自身の力の使い方をできる限り習熟した今、以前よりも少なからずは彼らの役に立てるはずと信じて。

 そんな彼女を、嘲笑うように。

「なんだ、護衛は二人か」

「いや、十分だろ。普通ならな」

 虚空から聞こえてきた男女の声に、織姫は足を止めた。背後から空間に亀裂が入り、黒腔が開く。その中から出てきたのは以前現世に現れたウルキオラ・シファーと、織姫が知らない燦光する翠玉(エメラルド)の女破面。

「尸魂界も存外無能だな。最も警戒すべきは移動の瞬間だと知らんらしい」

 ウルキオラの蔑視に、翠玉の眼の女破面は肩をすくめて嘆息することで返答とする。

「前例が無かっただけかも知らんが、まあ、迂闊なのはその通りではあるな」

 護衛の死神の二人が抜刀する。破面達の霊圧から、二人共が(・・・・)十刃であると当たりをつけて織姫を守るように前へ出た。翠玉の眼の女破面からすれば、死神達の行動は蛮勇と呼ぶことすら不相応であるのだが。

「護衛が二人というのは拍子抜けだが……煩わしい拘流の動きが固定されていたのは、都合が良かった」

 地面に散らばる細い骨を踏み折って、ウルキオラが黒腔から一歩外に出る。

「話をするのに、時間を要するのは性に合わんからな」

「いや、お前のそれはどう見ても話をする態度ではないだろう」

「黙れアメミト」

 ウルキオラに横目で睨まれた翠玉の眼の女破面———アメミト・レシェフは舌を出して目線だけを明後日の方向へ向けた。

 構えを解かない死神に、戯けた態度のアメミトへの若干苛立ちを覚えたままのウルキオラが左手を向ける。アメミトはウルキオラが何をしようとしているのかを察して、これはマズイと咄嗟に静止の声を上げた。

「あ、こらウルキオラ!」

 残念ながら、一瞬遅かったそれは無意味に終わってしまうのだが。

 護衛の片割れの左半身が消し飛ぶ。織姫は心的ショックのあまり呼吸が止まるような感覚を覚え、しかし恐怖に震える心を律して双天帰盾を発動。治療を開始した。そして、もう一人の護衛の死神には逃げるよう訴える。

「いや、流石に今逃げられると困る。多分異常を察した死神が、私たちを相手取れる強い奴か大人数のどちらかを寄越すだろうからな」

 アメミトが腰に吊り下げる形で持つ二刀一対の内、左に佩いた斬魄刀を抜いた。織姫はそれを視界に捉え、咄嗟に待ったをかける。

「待って!話があるんでしょ!?」

「そうだ、女。お前に話がある」

 ウルキオラが言い終わるより先に、アメミトの斬撃がもう一人の護衛の死神の胴体を袈裟斬りにした。辛うじて背中の皮一枚で繋がり両断まではされていないものの、決定的に重傷であると判断した織姫がすかさず双天帰盾の範囲を広げ、二人同時に治療を行う。

「ほう、そこまで損傷していても回復できるのか」

 ウルキオラが感嘆した。アメミトも同様に織姫の力に目を見張る。

「これもう回復じゃなくて蘇生とかそういう域だろう。藍染が欲しがってる理由がこれか?」

 ウルキオラは更に一歩進んだ。緊張と恐怖で立ち竦みながらも、治療の手を止めない織姫は震える足を内心で叱責する。

「俺たちと来い、女」

 酷く短く、語調の強い命令の言葉。

「言葉は"はい"。それ以外を喋れば殺す」

 それは織姫自身ではなく、織姫が仲間と呼ぶ者達を指していた。ウルキオラは破面たちと戦う死神代行———黒崎一護を中心に現世の様子を織姫に見せつけるように映し出す。

「普通に脅しだな。もっと優しくいかないか?」

 すっかり怯えられているじゃないか、と茶化すアメミトをウルキオラは睨む。アメミトは音の外れた下手くそな口笛を吹いて、全てを誤魔化そうとした。最早アメミトが余計な口を挟むのは生理現象であると諦めたウルキオラは、織姫に一歩ずつ近付いて行く。

「何も問うな。何も語るな。あらゆる権利はお前に無い」

 淡々とした、しかし強制力のある言葉。

「これは交渉じゃない。命令だ」

 この場において捕食者はウルキオラとアメミトで、被食者は織姫だった。

 ガシ、とアメミトが金髪を掻き上げる。すっかり萎縮してしまった織姫を宥めるように、大袈裟に演技がかった身振りでウルキオラと織姫の間にしゃしゃり出た。

「悪いな、少女。さっき聞こえたと思うが、藍染はアンタの能力に興味があるらしい。無傷で連れ帰れって話だからできることなら大人しく着いてきて欲しいんだ」

 おい、というウルキオラの抗議の声は聞こえないフリをして、アメミトは斬魄刀を納刀して織姫に右手を伸ばす。

「ウルキオラは言い方キツいからな。代わりに私が繰り返すよ」

 護衛の死神を斬った時と変わらぬ調子で、燦光する翠玉を穏やかに瞬かせ、アメミトはしかし残酷に告げた。

「私たちと共に来るんだ、少女。そうすれば、アンタの仲間達の安全を保証しよう」

 それが、最終勧告だった。




やだ……ジャッカルが破面してる……
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