犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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お前達に 明日は無い


蝙蝠、邂逅

 大魔神の鉄槌(グラン・ムエルテ・ディレクト)。片身変わりの仮面を出現させた泰虎が放ったのは、巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)の力を一つに合わせ叩きつける、ただそれだけの単純な技。しかし、性質の異なる力を二つ以上、複数組み合わせることがどれ程の効果を生むのか。(ホロウ)と死神という二つの異なる力を併せ持つ破面(アランカル)という種として、ノイトラはある程度の理解があった。

 だが、しかし。

「温ィな」

 左腕でそれを受け止めたノイトラは、数センチ足を砂に埋めた程度で少しも堪えていない様子を見せつける。所詮人間など、この程度だと嘲笑い、背中合わせの三日月を思わせる斬魄刀を振り上げて、縦一直線に泰虎をその仮面ごと斬り裂いた。

「生意気なんだよ、雑魚が」

 刀身に纏わり付いた血を払うように斬魄刀を振り下ろす。今度こそ力尽き地に伏した泰虎を見下して、ノイトラは唾を吐いた。

「人間風情が、虚の真似事なんざ百年早ェ」

 言い捨てたノイトラは今度こそ、テスラを伴ってその場を後にした。

 

 そして、停滞していた状況が、双方に痛みを伴って大きく動き出す。

 

 虚夜宮(ラスノーチェス)にいる全ての破面の脳内に伝播した光景。第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)アーロニーロ・アルルエリが、侵入者三名と後続で合流した死神の朽木ルキアと相討ちとなったのである。

 

 第三の宮では、アパッチに思い切り踏みつけられた足に湿布を当てるハリベルと、以前ハリベルが諦めて投げた知恵の輪に挑むアメミトがそれぞれ、碧玉と翠玉(エメラルド)を揺らした。

 小気味のいい音を立てて、知恵の輪が外れる。アメミトはバラした知恵の輪をベッドの上におざなりに置き去って立ち上がった。

「どうする、ティア。どうやら賊は私たちが思っていたよりも手練れそうだぞ」

 大袈裟に手を差し出し、芝居掛かった声音で問いかけるアメミトに、ハリベルは沈黙で返す。そして、一人宮を飛び出して行ったミラ・ローズを案じた。

 

 第二の宮では、第2十刃(セグンダ・エスパーダ)バラガンが不機嫌そうに椅子の肘掛けを壊れる程握り締め、テーブルの上に右腕を乱暴に乗せる。

「ガキが。つまらん死に方しおって……」

 その声音には憤慨と、僅かな憐憫があった。

 

 第七の宮にいる第7十刃(セプティマ・エスパーダ)ゾマリは、静かに瞑想をしていたかと思えば斬魄刀を手に立ち上がり、宮を後にする。

 

 第一の宮で寝ていた第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)スタークは、従属官(フラシオン)のリリネットのイタズラで喉奥を人差し指で突っつかれ、息苦しさと嘔吐感で微睡から完全覚醒した。勘弁してくれ、とぼやいて二度寝しようとしてリリネットに力尽くで叩き起こされ、腹の上に馬乗りになったリリネットの顔を見上げる。

「……アーロニーロ、やられたよ」

「……知ってるよ」

「……いーの?」

 問われて、目を伏せた。

「……どうしろっつうんだよ。俺に」

 あの翠玉(エメラルド)の眼をした彼女なら、何か答えを出せただろうか。スタークは考えて、しかしそれは無意味な思考だと左腕で眼を塞いだ。

 

 第八の宮では、同時進行で戦闘が行われていた。対応するのは第8十刃(オクターバ・エスパーダ)ザエルアポロ・グランツ。相対するのは死神、護廷十三隊六番隊副隊長、阿散井恋次。

 その最中、球体に近い体型の破面達が教育番組のマスコットのような口調でアーロニーロの死を伝達に来た。ザエルアポロはそれを受けて耳に仕込んだ伝令霊蟲を確認する。確かに、報告が入っていた。

「へえ、相討ちだってさ。死神くん」

 傷付き消耗し、片膝をついて息を上げる恋次に告げられた凶報。恋次はそれを誤報であれと願いながら、ザエルアポロを睨みつけた。

「……何の話だ……」

「だからさ、君の仲間が十刃(エスパーダ)の一人と相討ったって話!」

 小馬鹿にしたような態度でザエルアポロが心にもない賞賛を贈る。恋次はそれでも、まだ死んだと決まったわけではないと突っ撥ねる。ザエルアポロはそれをバッサリと切り捨て、希望的観測をへし折るべく続けた。

「"朽木"ってのは、君の仲間の名前だろ?」

 瞬間、蛇尾丸の蛇腹の刃がザエルアポロに振り抜かれる。その反応、行動、全てザエルアポロの予想通りだった。左手首で受け止めて、見せつけるように拮抗する。

「何度も言ってるだろ。始解ごときじゃ十刃に傷を負わせることなんか……」

 できない。そう言おうとしてしかし、ザエルアポロの細身が押し退けられた。

「……ゴチャゴチャうるせえぞ……退け……!」

「…………はっ」

 細かい瓦礫を払ってゆらりと立ち上がったザエルアポロの額からは、血が流れ出ていた。

 

 そして、一護とネルと共に織姫の下へ向かうミラ・ローズもまた、その報せを受け取る。同時に、一護も仲間である朽木ルキアの霊圧の異常を感じ取った。

「……アーロニーロ、逝ったのか……!?」

「……!……ルキア……!?」

 ネルを抱き締めるミラ・ローズの腕が強張る。ネルは不安そうに眉を下げ、二人の顔を順番に見上げた。そこへ。

「気付いたか」

 一護の背筋に冷たいものが走る。少しずつ、ゆっくり慎重に振り返った長い階段の先。その上にいたのは。

「力ばかりの餓鬼だと思っていたが、存外真面な感覚もあるらしいな」

 涙のような仮面紋の走る、異常なまでに肌の白い破面。その姿を認めたミラ・ローズは、全身から血の気が引くのを感じた。

「……久しぶりだ。死神」

 一護の脳裏に蘇る、辛酸の記憶。赤子の手を捻るように、一護を、そして仲間達を蹂躙した無機質な破面。

「……て……てめえは……ウルキオラ……!」

「俺の名を憶えているのか。お前に名乗った憶えは無いんだがな。そして……」

 無機質な破面、ウルキオラの視線が一護からミラ・ローズへ移る。ミラ・ローズは咄嗟にネルを庇うように左足を半歩退げ、半身の姿勢を取ってウルキオラの視線に向き合った。

「……ミラ・ローズ。貴様、何故此処にいる?何故そいつと共にいる?」

 威圧感を伴って階段を降りながら、ウルキオラが詰問する。ミラ・ローズは瞬きの間に渇きを訴え始めた喉と、震える膝を気持ちだけで抑え込み努めて平静に返答した。

「べ……別にいいだろ。面会希望者の案内ついでに、遊びに来た妹を迎えに来たんだ」

「えっ」

 思わずネルはミラ・ローズの顔を見上げる。方便だとしても、まさか破面として致命的に貧弱な自分が、強者の側である従属官の妹として扱われるとは思わなかったからだ。

「妹?そのゴミのような破面がか?霊圧は何一つ似通っていないようだが」

「うるせえな!藍染の腰巾着やってる二人も似たようなもんだろ!というか、ネルの悪口言ってんじゃねーよ。ぶっ飛ばすぞ!」

「……」

 言い返されてウルキオラは思わず沈黙する。それもその通りだな、という事実に基づく納得と、十刃である自分に従属官の身で噛み付く威勢の良さに対する驚きとで。

 その横で一護は、ペッシェとドンドチャッカを思い返して虚の兄弟事情をチラシの裏側に書き殴るような感覚で考える。

(虚って、兄弟姉妹の契りを交わすの、もしかしてそう珍しいことじゃねーのか)

 たまたま見つけて可愛かったから妹にした、と証言していたのを思い出し、一護は薄ら虚もかなりいい加減なのではと考え始め、すぐに頭を振って振り払った。そんな事考えている場合じゃない。

 何処となく空気が緩慢としたのを読み取って、呆れ果てたような、いっそのこと見下げ果てたような溜め息と共にウルキオラが階段を降り切った。

「まあ良い。朽木ルキアは死んだ」

 ウルキオラの断言に一護が目を見開く。

「正確には、第9十刃と相討った。全身を斬り刻まれ、槍で体を貫かれた。生きてはいまい」

「お、おいウルキオラ……!」

 ミラ・ローズが咎めるように名前を呼んだ。そこまで仔細に語る必要はないだろうと。

「適当なこと言うなよ……ルキアの霊圧が小さくなったのは今だ……戦ってもいねえてめえがそんな事……」

「認識同期。第9十刃の能力の一つであり、奴の役目の一つでもあった能力だ」

 一護の言葉を遮って、ウルキオラは告げる。第9十刃アーロニーロは、戦った敵のあらゆる情報を全ての同胞に、瞬時に伝えることができるのだと。

「……一護、アイツの言った通りだ」

 本来の立場としては彼らの同胞であり、地位としては第3従属官(トレス・フラシオン)であるミラ・ローズが肯定する。アーロニーロから伝達された情報は当然、一護と共にいると知られていないミラ・ローズにも伝わっていた。

 一護は歯を食い縛り、ウルキオラを意識的に無視して通り過ぎる。そうでなければ、身体が勝手にウルキオラに掴み掛かりそうだったからだ。置いてくな、とミラ・ローズがそれに続こうとする。

「何処へ行く」

 呼び止めたのはウルキオラの方だった。ミラ・ローズはつんのめるようにして立ち止まり、首だけで振り返る。対照的に一護は一瞥すらせず、ルキアを助けに行くのだと返した。

「死んだと言った筈だ」

「信じねえ」

「狷介だな。俺を殺して行かなくていいのか?」

 なんだ、とミラ・ローズはウルキオラの意図を図りかねる。まるで挑発しているかのような、一護に剣を抜かせようとしているような。密かに困惑するミラ・ローズを見上げるネルの表情は変わらず浮かない。

「……てめえと戦う理由は無え」

「……どういう意味だ」

「てめえは敵だが……てめえ自身はまだ誰も、俺の仲間を傷付けてねえからだ……!」

 その返答に、ウルキオラは静かに息を吐く。

「———そうか。虚圏(ウェコムンド)に井上織姫を連行したのが、俺だと言ってもか」

 次の瞬間、一護が斬月を抜いた。瞬歩で間合いを詰め、振り抜いた一撃はウルキオラの右手に防がれる。

「やっぱり井上は……自分の意志で虚圏に行ったんじゃなかったんだな……!」

「意外だな。助けに来た仲間といえど、少しは疑心が在ったらしい」

「わかってんのか!?てめえのせいで!井上は裏切り者呼ばわりされてんだぞ!」

「!」

 一護の言葉で、ミラ・ローズはハッとする。そうだ、織姫は死神の仲間だ。それをウルキオラとアメミトが連れてきた。他ならぬ、藍染の命令で。

「だろうな。そうなっていなければこちらの計算ミスということになる」

「てめえ……!」

「俺と戦う理由はできたか?」

 一護とウルキオラ、双方の霊圧が強まった。ミラ・ローズはネルを庇うように抱き抱え、姿勢を低くする。

「……ミラ・ローズ、ネル連れてもう少し離れててくれ」

「……大丈夫なのか、一護」

「ああ。どうやらこいつは……俺をこのまま通す気は無いらしいからな……」

 一護に言われた通り、ミラ・ローズはネルと共に後ろに退がった。一護の戦いだ。邪魔はしないし、そもそもできる筈もない。だが、一護が死ねばネルが悲しむ。それを避ける為にも、もしもの時は無理矢理にでも割って入って止めるしかない。ウルキオラが、止まってくれる保証は何一つ無いが。

「悪りィな……こっちも急いでんだ……」

 一護が斬月を構える。黒い霊圧が出刃包丁のような刀身から滲み出た。

「全力で、いくぜ」

 霊圧の余波で、風が舞う。そこから天井へ向かって飛び出した一護の姿は、コートのように変化した死覇装と鎖の付いた黒刀。

 卍解、天鎖斬月である。

 そして、もう一つ。ウルキオラが初めて目にするものがあった。

 仮面だ。はっきりとその姿を現した一護は、虚のような———否、虚の仮面そのものを被っていたのである。左半分に紅い放射状の紋様が走るシンプルな仮面からは、おどろおどろしい力が放出されていた。

 天鎖斬月の刀身に黒い霊圧を纏う。落下の勢いで振り下ろされた一撃がウルキオラを襲った。決して大柄では無いウルキオラの身体はそのまま後ろに突き飛ばされ、柱を次々にへし折っていく。

 受け身を取るように両足で柱を踏みつけ停止すると、ウルキオラは一護の姿を探して思考した。何だ、あの仮面は。何だ、あの霊圧は。アレではまるで破面のような。

「———終わりだ」

 床を抉り取る程の膨大な黒い霊圧が、一護の天鎖斬月の刀身から湧き出る。

「月牙天衝」

 放たれた黒い月牙天衝は真っ直ぐウルキオラへ向かった。ウルキオラは右手でそれを止めるが、その重さに孔のざわつきを覚え殆ど無意識に左手を出す。だが、しかし。

「……馬鹿な」

 黒い月牙天衝が、ウルキオラを飲み込んだ。

 発動限界が来た一護の仮面が割れて砕ける。床に落ちて粉々になって消えていく仮面を気に留めることをせず、一護は息を整えた。

「いちご〜〜〜〜〜!!!」

「……ネル」

 呼ばれて一護は振り返る。安心させようと口角をやんわり上げた、その瞬間。

「うわ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

「おべっ!!」

 超加速したネルが、一護の頭に飛びついた。その勢いのまま一護の身体は踵で地面を掘るように吹き飛んで、柱の一つに背中から激突する。

「い、一護ーーーー!!!」

 ミラ・ローズが悲鳴を上げたのも、致し方なかった。

「し……死んじゃうかと思ったっス、一護〜〜〜」

「ああ……今な」

「大丈夫か、一護。せめて止血とか……」

「いや、そんな大した傷じゃねえよ」

「一護!」

 ネルが一護の死覇装の襟を掴んだ。

「そんなボロボロの体でまた、あんなデタラメな力使って、ムチャっス!!ダメっス!!ネルもうすっごい心配だったっス!!もう……もうしちゃダメっスよ!!!」

 腹から声を出して言い切ったネルは、一護の胸に顔を押し付けて泣き喚く。一護は穏やかな声で謝罪の言葉を口にした。

「何はどうあれ、さっさとずらかった方がいいだろうな」

「ああ、同感だ。こんなトコでモタモタしてらんねえ」

 立てるか、と差し出されたミラ・ローズの手を借りて一護は立ち上がる。

「正直、今のでウルキオラがくたばってくれるとはアタシも到底思えない。起き上がる前に先へ……」

 言い終わるより早く、三人を物理的な重ささえ感じる重圧が襲った。発生源は、黒い月牙天衝で吹き飛ばされたウルキオラがいる筈の場所。振り返った一護は、目が乾くのではないかと思う程瞬きを忘れた。

「……やれやれ」

 その先には、服以外は殆ど無傷のウルキオラがいた。そんな馬鹿な、と一護は息を飲む。

「……両手を使っても止め切れんとはな……少し驚いた。今のが全力か?」

 一護は答えない。答えられない。ウルキオラはそれを肯定と捉えて右手の人差し指を向ける。残念だ、と落胆を口にして。

「……ッ、マズい!」

 ミラ・ローズは咄嗟にネルを抱き上げる。一護とミラ・ローズは同時に、ウルキオラが虚閃(セロ)を放とうとしていることを悟ってそれぞれの最善を取る為動き出した。

 ウルキオラの虚閃が、壁をぶち抜く。照射された光線から抜け出し、白い砂の上に転がり落ちた二つの影。

「ミラ・ローズ!ネル!無事か!?」

 死覇装の左半分が消し飛んだ一護が確認を取る。

「なんとか!ただ、ネルが余波で少しグロッキーかも!」

 腕の中でぐったりとしたネルに案ずるような視線を向けて、ミラ・ローズが応答した。兎に角離れる必要がある。一護とミラ・ローズは偽りの晴天の下、外と同じ白い砂漠の上を走り出した。

 その横に、嘲笑うかのようにウルキオラが追いつき並走する。ウルキオラは無表情のまま、一護を建物の一つへ向かって蹴飛ばした。建物の壁を突き破って、一護は蹲って咳き込む。その眼前に、ウルキオラ。

「虚閃を防御する瞬間、ミラ・ローズの虚閃に合わせて一瞬さっきの仮面を出したな。大した反応速度だ。だが、今回は一瞬で砕けた。次はもう出せまい」

 一護を見下ろすウルキオラは告げる。諦めろ、と。だが一護は斬月の黒い刀身を突き出し、ウルキオラの左胸を穿った。

「……誰が……諦めるかよ……てめえが十刃のトップだろ……だったらてめえを倒しゃこの戦い……勝ったも同然じゃねえか……!」

 強がりに近い一護の言葉に瞬き一つせぬまま、ウルキオラは斬月を掴む。

「……そうか、そいつは残念だったな」

 そのまま突き刺さった斬月の鋒を左にずらし、服の合わせ目を裂くように開いた。

 露出した左胸に刻まれた数字は、4。

第4十刃(クアトロ・エスパーダ)、ウルキオラ・シファー。十刃内での序列は、4番目だ」

 息を飲む一護に、ウルキオラは手刀を向ける。その瞬間。

「一護!!」

 ネルを抱えたミラ・ローズが背後から飛び込んで、ウルキオラに斬魄刀を片手で振り下ろした。半身で振り返ったウルキオラは、その一刀を左腕で受け止める。

 鍔迫り合う斬魄刀とウルキオラの左腕の接点を支点に、ミラ・ローズは身体を持ち上げてウルキオラの頭上を宙返りをするように飛び越えた。一護の隣に着地して、動けないネルをそっと床に寝かせる。

「……何のつもりだ」

「……一護は死なせない」

 立ち上がって一歩、一護を庇うような位置取りをしたミラ・ローズは、ウルキオラに斬魄刀を向けた。

「退け。お前がすべき事は此処には無い。さっさとハリベルの処へ戻れ」

「そんなこと、アンタが決める事じゃない。やりたい事もやるべき事も……アタシ自身で決める」

「利敵行為だという自覚はあるのか?」

「うるせえな。敵だからって、大切な人が信頼を寄せる相手を見殺しにしろなんて、従えるかよ」

「そんな甘い考えで、自分が不利益を被ることを受け入れるのか」

「損得勘定だけで生きてねえんだよ、こっちは!」

 斬魄刀を両手で構えたミラ・ローズが、ウルキオラに斬り掛かる。振り抜かれた一撃を、ウルキオラは右手で受け止めた。

「一護は、織姫の仲間で、ネルが信頼を寄せてる相手だ。少なくともアタシの手が届く先では、殺させないし死なせない!」

「……そうか」

 眉間に薄らと皺を刻んだウルキオラは、左手で腰に刺した斬魄刀の柄を逆手で握る。

「ならば、自分の愚かさを悔いて死ね」

 一瞬のことだった。逆手に抜き放たれたウルキオラの斬魄刀が、ミラ・ローズの左肩から右脇腹にかけて逆袈裟に斬り裂いた。

「ミラ・ローズ!!」

 一護が立ち上がろうと足に力を入れた瞬間、ウルキオラが崩れ落ちるミラ・ローズを右手だけで投げ捨て、目で追えない速度で納刀した左手の手刀を再び一護に向ける。

「……黒崎一護、お前が俺を斃す事は無い」

 例えウルキオラを斃したとしても、その上には更に三人、十刃がいる。

 そう言ってウルキオラは、立ち上がりかけた一護の胸の中心を手刀で貫いた。

「お前が千度立ち上がろうと———」

 突き刺した手刀を、力の差を思い知らせるかのように引き抜く。

「お前等の前に、勝利は無い」

 一護の意識は、そこで潰えた。




書いててびっくりするくらいミラ・ローズが勝手に動く
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