向き合った時
自分を覆う
分厚い殻を
破り棄てる
鹿の姿をした
それぞれ明度の異なる金髪をした
一人は、獅子の姿をした中級大虚のフランチェスカ・ミラ・ローズ。元は別で中級大虚同士の群れを作り最低限の捕食だけして生きていたのを、群れを形成していた他の
もう一人は蛇の姿をした此方も中級大虚、シィアン・スンスン。砂の中に埋まって化石のように眠っていたのをアメミトが見つけた。最初は虚として生きることそのものに辟易した様子を見せていたが、アメミトお得意の演説で揺れていたところに、ハリベルの実体験を伴う後押しで一行へ加わることを決めた。
尚、アメミトとハリベルは始め、三人に対して敬語や敬称は不要だと言ったのだが、三人はそれに対し対等ではあれ恩義と敬意を蔑ろにしていい理由にはならないと三人がかりで(主に口がひたすら回り続けるアメミトを)押し切って、なんとか敬語と敬称を使うことを許されている。
さて、そうして少し賑やかになった集団において、アパッチが困っていることは一つである。
この集団、天然ボケか確信犯しかいない。
前者は言わずもがな(と言うと大変失礼があるが)ハリベルとミラ・ローズ。この二人は方向は違えど少しばかり抜けたところがあった。
後者は
そんなアパッチはというと、どちらにも振り切れない所謂、普通の人である。すっとぼけるには機敏に聡く、人を意図して振り回すには頭の回転が鈍い、そんな常人であった。なので、往々にして四人総出で振り回されて精神的にヘトヘトになるのが常であった。
くぁ、とアパッチは欠伸を一つする。諸事情あって、五人でギュウギュウに身体を引っ付け合って眠るようになってから随分経った。一足先に目を覚まし、軽く身体を伸ばしてから周囲に危険がないかざっと見回した。
「おーい、そろそろ全員起きませんかー」
アパッチは角の先端で、スンスンの長い胴体に巻き取られたハリベルとアメミトの頭を突っ突いて起床を促した。二人とも短く呻いて、先に重い瞼を持ち上げたのは寝起きの良いアメミトである。
「んー……おはよ、エミルー」
「おはようございます、アメミト様」
「ゔぅあ……もうそんな時間か……」
「ハリベル様もおはようございます」
「ゔゔぅ〜〜〜……」
「低血圧な奴いるな」
「虚に血圧とかあるんですか」
アメミトに続いてハリベルも起き上がったが、此方は寝起きが悪く子供のようにぐずっていた。左手で眉間をグニグニと揉んで気を紛らわせようとしているが、あまり効果はなさそうである。ハリベルの呻き声に釣られたミラ・ローズとスンスンも目を覚ました。
「んぐ……あれ、もう起きてる……ハリベル様、しんどいなら水飲んできたらどうですか?」
「水何処だよ。この辺に水辺ねぇよ」
「ふぁ……その辺の小さい
「控えめに言ってグロ映像だろ」
「ゔぅ……そうする……」
よろよろと若干不安を感じる足取りで、ハリベルは水分を得るための獲物を探しに周囲を彷徨き始めた。大丈夫かな、とアパッチが不安気に見守る横で、アメミトはピーコックグリーンのロングジャケットをバサバサと払う。寝ている間に風などでジャケットの隙間に入り込んだ砂を取り除いたのだ。粗方砂を払い終えると、最後にもう一度大きくジャケットを振ってから袖を通した。
「今日どうします?」
ミラ・ローズが前脚で顔を洗いながらアメミトに問いかけた。アメミトはジャケットの襟を整えながら考える。
「そうだな……できればもう一人くらい同志が欲しいと思っているのだが……ん?」
アメミトの
大気中の霊子が震えた。アメミトが視線を向けたその先に、大虚の集団が此方へ向かって歩いてくるのが見える。それが何者であるのかを、哀しいことに全員が知っていた。
「チッ……暫く見ていないから諦めたものと思っていたぞ、骸骨ジジイ」
その集団が目と鼻の先まで来た瞬間、アメミトは集団を率いる
「諦める? それは貴様らの方ではないか。いい加減我が配下に降れ、アメミト」
集団のリーダーと思われる、黒尽くめの骸骨の姿をした最上級大虚がアメミトを見下ろしてそう告げる。その少し後ろに、五人ほどの中級大虚が控えていた。
この最上級大虚こそ、アメミトらの理想において大敵たる虚園の王、バラガン・ルイゼンバーンその人であった。
アメミトは刀の柄を握り込む。燦光する
「何度も言ったはずだ。断る。お前の進む道の先に、私の理想は無い。である以上、私がお前の下に付く理由はない。去れ。二度と私たちの前に現れるな」
普段の朗々とした長い演説のような語り口は形を潜め、アメミトは珍しく端的に言葉を紡ぐ。ビリ、とアメミトの霊圧が強まってバラガンが率いている中級大虚も含めた全員の身体に重くのし掛かった。
そこに呑気な足取りで近付いてくる、もう一人の最上級大虚。
「ゔぅ……やっと頭がスッキリしてきた……今日は一段と酷……あ?」
ガシガシと金髪を手櫛で漉きながら、ハリベルが戻ってきた。ようやくまともに動き始めた頭で状況を一瞬で把握したハリベルは、露骨に嫌そうな顔をしてゲェ、と呟く。
「久しぶりに見たくない顔を見てしまったな……
「全くだな。しかも私が最上級大虚だった頃から無駄に持久力と瞬発のあるストーカーなんだぞこの骸骨ジジイ」
「ストーカーの修飾語に瞬発力なんて言葉が付くことあるんだ……」
骸骨そのものの筈のバラガンの眉が顰められたような気配がした。配下の中級大虚達がアメミトとハリベルに対して口々に、バラガンを侮辱するなと詰り始める。二人は対して脅威に感じていないのかそれを全く意に介しておらず、それが却って彼らの神経を逆撫でた。
「それはお前も災難だったな……訴えたら高額で勝てるんじゃないか?」
「虚園に裁判所は無いし通貨の概念も存在しませんハリベル様」
「ストーカーの上未成年淫行か……スリーアウトチェンジだな」
「虚に未成年もクソも無いだろそもそも。あったらチェンジどころかコールドゲームだわ」
「御自身の姿を一度鏡でご覧になってから口を開いて欲しいものですわね」
「スンスン流石に言葉のナイフ切れ味良過ぎない?」
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものである。三人どころか五人で集まったこの一団は、普段から一人が口を開けば延々会話が続くことが多かった。つまりはバラガンを前にしてもいつも通りを保っているということなのだが、それに苛立ったバラガンの配下の、狸の姿をした中級大虚が一人前に躍り出る。牙を剥き出して威嚇した狸の中級大虚は、アメミトへ向かって吼えた。
「バラガン様の御前で非礼を尽くしやがって。弁えろ廃食の———!!」
狸が言い切るより早く、アメミトの燦光する翠玉がより鋭い光を放つ。かと思えば、瞬きするよりも早くアメミトが二刀を抜き放ち、狸の中級大虚の身体を斬り刻んでいた。あーあ、とミラ・ローズが本心から憐れむように声を漏らし、スンスンは呆れ果てたように尻尾の先をゆったりと揺らす。
「おいバラガン。私に接触するつもりなら周知しておけよ」
右手側の刀の峰を肩に乗せ、アメミトはバラガンとその配下たちを睨んだ。
「私はその名が好きではなくてな。無遠慮にその名を呼んだ者は、ただの一人の例外もなくぶっ殺してるって」
顔に付いた返り血を拭ったアメミトが言う。ミラ・ローズがアパッチに、そうなの? と小声で問いかけた。
「あたしが助けられた時は、廃食って呼んだ奴は上から降ってきたハリベル様にぶった斬られてたから……」
「そっかぁ……」
「ところでこれ普通に宣戦布告みたいになっていませんこと?」
「一応先に地雷踏んだのはあっちだし……」
ヒソヒソと話し合うアパッチ達には気にも留めず、アメミトとバラガンは剣呑な空気を纏ったまま睨み合う。一触即発の中でハリベルは、未だ引き摺る低血圧の症状に顔を顰めながらバラガンの配下の中級大虚達の動きを注視し、いつでも動けるよう左脚を半歩引いた姿勢で緩く構えた。
沈黙を破り、先に口を開いたのはバラガンだった。
「もう一度訊こう。我が軍門に降れ、アメミト。そしてハリベルよ」
「何度でも言う。断る!!」
「貴様の下に付くくらいなら自決した方がマシだ。とっとと消えろ」
ズシ……ッ、と最上級大虚級の霊圧が三人分、同時に強まる。ハリベルが砂地を踏み締めて腰を落とし、臨戦態勢を取った。バラガンは控えていたサーベルタイガーの姿の中級大虚に背負わせていた戦斧を手に取る。アメミトは二刀を前に突き出し、その刃先を重ね合わせるようにして構えた。
「風化しろ———」
アメミトの霊圧がより一層膨れ上がる。戦いになる、と確信したアパッチ達は邪魔にならぬようその場を離れようとした。その時。
「———バラガン陛下!! 恐れながら申し上げます! 至急虚夜宮へお戻りください!! バラガン陛下!!」
猛スピードで飛来した鷲の姿の中級大虚が、酷く慌てた様子でバラガンを呼び止めた。バラガンは緩慢な様子で鷲の中級大虚を見上げると、戦斧を砂地に突き立てる。
「何があった。アビラマ」
バラガンが問う。アビラマと呼ばれた鷲の中級大虚は砂地に降り立ち首を垂れると、それに答えた。
「はい。侵入者が三人。いずれも死覇装を纏い斬魄刀を所持していることから、死神と思われます。相当な手練れのようで、アーロニーロらが迎撃に出ておりますが状況は芳しくなく……故に、不肖アビラマが陛下に御帰還いただくため参上した次第です」
「……死神風情が、儂の虚園で勝手な真似などさせるものか」
戦斧を持て余したように振り、その剣圧で砂塵が舞った。バラガンはサーベルタイガーの中級大虚に戦斧を再び背負わせると、黒い外套を翻してアメミト達に背を向ける。
「急用ができた。貴様らを叩き伏せて我が手中に収めるのは、またの機会としよう」
「二度と姿を見せるなストーカー骸骨ジジイ」
戦意の萎えたアメミトは二刀を鞘に収めた。朝から最悪だ、ツいてないと戻ってきたアパッチら共々、一同が口々に言い合っているとバラガンの配下の中級大虚の一人がハリベルを見ていることにミラ・ローズが気付いた。
シュモクザメの姿をしたその中級大虚は、ようやく平時の調子に回復したハリベルに近付き、その鰭で無遠慮に触れようとする。が、
「セクハラで訴えて勝つぞ。クズが」
一瞥すらもされないまま、ハリベルの右手が中級大虚の顔を仮面ごと切り裂いた。
「ぎ、ゃあああああ!!!??!?!」
悲鳴を上げて、中級大虚が痛みに悶え砂地に転がる。その様子にアメミトは肩をすくめて呆れ果てたように溜息を吐いた。アパッチも同様に溜息を吐いて、
「だから、虚園に裁判所はありませんってば」
と指摘した。
バラガンとの邂逅から暫く。あれから同志足り得そうな大虚はいないか、虚園中を歩き回ったがなかなかアメミトのお眼鏡に適う平穏主義者は見つからない。大抵の者は、刹那主義であったり破滅思考であったり、或いは諦念に支配された者達ばかり。アメミトお得意の演説も、特に響いた様子もなかった。果たしてこれはもしかすると、自分がチョロかっただけなのでは、という疑念すらハリベルの内心に湧きつつある。スンスンも似たような懸念を覚え始めたようで、二人で共感と共に首を捻り合った。
そんなわけで、俄かに一行の間でこのままバラガンの下へ超特急で向かい、電撃作戦でその牙城を突き崩してしまうべきではという案が持ち上がり始めた頃のこと。
「あれ、ハリベル様。額のとこ、どうしたんですか?」
「えっ?」
ミラ・ローズに指摘され、ハリベルは左手で仮面の額部分を指先でなぞった。そして、右目の上辺りに昨日までは無かった細長い凹みの感触を感じ、これのことかと合点する。
「あまり変に触らない方がよろしいのでは? ヒビ割れのようにも見えますし……というかヒビ割れでは?」
「え、嘘。いつ付いたんだ」
「寝惚けてどっかぶつけたんじゃないですか? 右手とか。ほら、ハリベル様もアメミト様も寝相死ぬ程悪いですし」
「おっと私に飛び火した」
「あんまり寝相悪すぎてわけわからんとこまで転がってるならまだしも、結構な頻度であたし達蹴られたり殴られたりしてましたし……」
「それは言ってくれよ、治すから」
「言っても寝相なんてそうそう治るものでもないでしょう……だから全員で身動き取れないくらいくっついて寝るようにしたんですから」
「あれってそういう理由だったのか!?」
それなりの付き合いの中今になって判明した事情にアメミトとハリベルは衝撃を受けた。そこまでするほど酷かったのか、自分達の寝相は、と少し落ち込む。
「とにかく、下手に弄らず暫くそっとしておきましょうよ。霊子吸ってるうちに修復されるかもしれませんし」
「ううん……そういうものだろうか……」
考え込むハリベルの背中をアメミトが気にするなという意図でもって軽く叩いた。
「いずれにせよ能動的な対処法もないのだから致し方ないさ。それよりも……どうやら、招かれざる客が来たようだぞ」
アメミトの燦光する翠玉がスッと細められた。その言葉に四人は警戒の色を乗せた表情で視線の先を確かめる。
果たして来訪者はそこにいた。
「ようやっと会えたなぁ……ティア・ハリベルゥウウウウウ!!!!」
重量感のある足音と共に砂が舞う。割れた仮面のシュモクザメが、狂った殺意を剥き出して吠え立てた。
「御指名らしいぞ、ティア」
「チェンジで」
「キャバクラじゃないんですから……」
間髪入れずに切り捨てたハリベルは、面倒臭そうに前髪を掻き上げた。
「というか、アイツ誰だっけ?」
「あー……あの仮面は多分バラガンの配下にいた奴ですね。ほら、ハリベル様にセクハラしようとして顔面仮面ごと叩っ斬られた」
「アイツか。態々御礼参りとは御苦労なことだな。しかしタイミングの悪い……」
右手の剣を払うように振って、ハリベルは一歩前に出る。シュモクザメの破面擬きはガチガチと歯を鳴らし、今にも飛び掛からんとしていた。邪魔をするべきではないとアメミトは中級大虚の三人を退がらせる。
「チェンジとは言ったが、どうせ退かないだろう。来い、相手をしてやる」
左手の人差し指と中指を立てて招くようなジェスチャーで挑発した。
破面擬きが弾丸のように飛び出す。刃の様に硬質化した鰭を振りかぶり、叩きつける様に殴りつけた。ハリベルは砂地に剣先を向け、高圧水流を最大出力で噴射し上に回避する。
「逃げ……ルなぁ!!!!」
「避けるに決まってるだろ!!」
初撃を躱された破面擬きは上へ逃げたハリベルを見上げ、口を開く。霊圧を集中させ、解き放とうとしているそれが
「こん……っの」
ダンッ、と砂を舞い上げ着地する。そこを狙って鰭を構えた破面擬きが猛スピードで突っ込んでくるのをハリベルは剣を構えて迎え撃とうと構えた。
鈍い音を響かせて、鰭と剣がぶつかり合う。ハリベルは空いた左手で細い虚閃を放って牽制し、一度距離を取った。
不意打ちに近い虚閃の直撃を喰らった破面擬きが仰け反る。タタラを踏んで数歩程して踏み止まると、後方へ退がったハリベルへ向かって吠えた。
「たかが最上級大虚がァ!! 仮面を破り破面とナッたオレに敵ウと思うなァ!!!!」
「中途半端に割れてる奴に言われてもな。身内に完全な破面がいるし」
繰り返すに三度、鰭と剣のぶつかり合いの衝撃で砂が飛び散る。流石に一撃が重くハリベルはどう突破するか頭を悩ませた。頭のてっぺんから顎の付け根にかけて振動が伝う。
(というか、さっきから……虚閃を避けた時からこっち、眉間辺りを中心に鈍い痛みがあるんだが……?)
どこか掠めたわけでもなし、何に由来する痛みなのかもわからぬそれに気を散らしていたのが災いした。
「隙を見せタなァ!!!!」
「あ、やべっ」
ハリベルの剣が破面擬きの鰭に力任せに弾かれる。咄嗟にハリベルは後ろに跳んで続いて飛んでくる反対の鰭の直撃を避けようとした。
ガァンッ、と破面擬きの鰭がハリベルの額を打つ。そこは丁度右目の上辺り、ミラ・ローズに指摘された仮面のヒビ割れのあるところだった。
「ぅ……っぐ、痛……っ!」
辛うじて膝をつくことは免れたが、ハリベルは左手で鰭の一撃を受けた額を覆う。仮面の下の皮膚が裂けたらしく、薄ら血が流れているのを認識した。
「ハリベル様!!」
「あの野郎よくも……!!」
少し離れた場所で戦いを見守っていたアパッチとミラ・ローズが熱り勇んで飛び出そうとするのを、アメミトが刀を出して静止する。
「逸るな。まだ、終わってないし、ティアは終わらない」
「でも、アメミト様……ハリベル様が……」
「大丈夫」
鋭い光を放っていたアメミトの翠玉が、フッと和らいだ。
「ティアは勝つ。絶対に」
だから、慌てず騒がず、信じて見ていろと、アメミトは諭した。二人は渋々踏み出しかけた前脚をそっと元の位置に戻し、言われた通りに静観の構えを取る。飛び出しかけはしなかったものの、スンスンもまた不安げな面持ちでハリベルの戦いを見ていた。
ハリベルが迫り来る破面擬きの腕を掴んで、右手の剣を横薙ぎに振り抜いた。破面擬きの脇腹に刃が食い込んだものの、余程硬いのか、刃の中心線より深く進まない。破面擬きはハリベルに掴まれた腕を振り解き、食い込んだ剣を力任せに外してハリベルの胴を乱暴に蹴飛ばした。
「ガッ……!!」
ハリベルの身体が勢いよく砂地の上を転がる。移動エネルギーが尽きた辺りで止まったハリベルは、右手の剣を支えにする様に突き立て肩で息をしながら立ち上がった。膝が震えて、上手く歩ける自信がない。
「こいつ……ッ……?」
破面擬きを睨んだ瞬間、左手に違和感を覚える。恐る恐る、視線を自身の左腕に向けた。
「……!?」
左腕を覆う白い外殻に、無数のヒビ割れが走っていた。いいや、左腕のみならず。
胴体も、両脚も、右腕の剣さえも。ヒビ割れ今にも崩れ落ちそうになっていた。
破面擬きがハリベルの姿を見て、ゲラゲラと下卑た声で嗤う。己の勝利を確信して、勝ち誇った様に嘲ることには。
「無様だナぁ、ハリベルゥ!! 所詮は一匹デは何もデキないメスの虚!! 大人しク、陛下に従エばコンな醜態も晒すことハなかッタだろう!!」
鰭が振り下ろされる。ヒビ割れ今にも砕け散りそうな剣でどうにか受け止めたハリベルは、受け止めた鰭の衝撃と眉間の辺りから主張する鈍い頭痛に同時に見舞われ、思わず顔を顰めた。
(私は、犠牲になるのだろうか)
ふと、そんなことを考える。
かつてアメミトは言った。犠牲とは、誰の糧にもならない死を指すのだと。ハリベルがここで死んだとして、この破面擬きはハリベルを果たして喰うのだろうか。自分はこのクズの糧にされてしまうのだろうか。
(コイツの糧になるくらいなら、犠牲になる方が百倍マシか)
仮面の下で思わず口角を上げた。ここで自分が犠牲になったとしても、アメミトがいる。中級大虚の三人を守って、ハリベルがいなくともアメミトは理想の為に進み続けるだろう。アメミトの理想が叶う瞬間に居合わせることができないのは、残念だが———。
そこまで考えて、しかしそれに否を唱える声が、ハリベル自身の内側からした。
(嫌だ。アメミト達を遺して死ぬなんて。嫌だ。アメミトの理想が成就する時を見られないなんて。嫌だ。アメミトの理想の先で、私がアメミトの隣にいないなんて———!!!!)
剣が砕け始める。それと同時に、ハリベルの霊圧が加速度的に膨れ上がっていく。ヒビ割れた外殻が、少しずつ剥がれ落ちていった。異様な気配を察知した破面擬きは一瞬怯んで、焦って離れようとしたが———しかし。
———ザンッ!!
破面擬きの身体が逆袈裟に斬り裂かれ、血が噴水の様に噴き出した。斬り裂いたのは、今にも砕け散りそうになっていたハリベルの右手の剣———ではなく。
「———……あ?」
思わず呆けた声を漏らしたハリベルの右手には外殻と一体化していた剣の姿は失われ、代わりにフレームの様に内側をくり抜かれた奇妙な形の短い刀が握られていた。それは破面の持つ虚としての力の核を封じ込めたもの———即ち、斬魄刀である。
顔の下半分を覆う仮面と、首と胸元を辛うじて覆う部分を残して、ガラガラと砂の上に剥がれ落ちた仮面と外殻の欠片が散らばった。ハリベルの身体は下腹部の孔を除けば、鮫のような外郭に覆われた人型から、仮面の隙間から覗いていた目元と同じ褐色の皮膚をした、人間と殆ど見分けのつかない姿に変化している。
「そうだ、それでいい」
静かに見守っていたアメミトが微笑んだ。
「私に私の理想があるように、アンタにもアンタの
アメミトは歓喜した。同志が、ハリベルが自分と同じ境地に辿り着いたことに。自らの力のみによる完全な破面化という、ある種の奇跡に微笑まれたことに。
「やっちまえ、ティア」
それはアメミトからハリベルへの、最上級の激励であった。
ハリベルは斬魄刀を刺突の構えに取る。斬り裂かれた破面擬きは情けない悲鳴を上げて、命乞いのような無意味な声を搾り出した。
自分でも驚くほど、さっきまでの鈍い痛みはどこへ消えたのかと思うほど頭が冴えている。あれだけ苦戦を強いられた筈の破面擬きが、子羊か何かのようにか弱く見えた。
奇妙な形の刀身の使い方も、誰に言われずとも理解できる。フレームの内側に霊圧が収束、圧縮されるのがわかる。
「
圧縮した霊圧を斬魄刀に乗せて放たれた突きが、破面擬きの身体を、生命を貫いた。
仲良し金髪ヴァストローデ(相互感情重め)