弄ぶのは 謀
その一つ、第五の塔に燦光する
アメミトは右の爪先で床を叩きながら何かを探っていた。
「……此処か」
まったく、世話の焼ける。そう言ってある地点で足を止めたアメミトは、徐に右手を上げる。そして、次元の壁を破り砕いて、その中に右手を突っ込んだ。
壁の向こうを弄って、探り当てた何かを掴む。上半身を捻って引っ張って、引き摺り出されたのは。
「やあ、ウルキオラ。気分はどうだ?」
「……たった今、不愉快になった」
グリムジョーによって、
ウルキオラは引き摺り出された直後こそ、まさか自力で脱出するより先に助けが来るとは想定していなかった為珍しく目を丸く見開いていたが、すぐに瞼が目を半分覆って眉間に皺が寄せた。
然もありなん。アメミトがウルキオラを引っ張り出す為に掴んでいたのは腕でなければ服の襟でもなく、頭の左側に被さった仮面から伸びた角だったのだから。ウルキオラでなくても不機嫌になる。人によっては火山の噴火もかくやの勢いで怒り散らすだろう。
「態々市丸を介してアンタを助けてやれと藍染に言われてな。仕方がないから来てやったぞ」
「こんな不敬を言いたくは無いが、明らかな人選ミスだろう」
「おっ、喧嘩か?」
放せ、とウルキオラは仮面の角を掴むアメミトの右手を振り払う。
「そもそも、何故市丸ギンを仲介役にする必要が……いや、お前達が藍染様の指示を訊かないからなのは理解している。理解した上で、何故その人選なんだ」
「エミルーと仲良いからじゃないか?市丸が来た時、エミルーうっきうきで折り畳みテーブルとティーセット用意し始めてたし」
「正気か」
マジレスだった。普段の行いを鑑みてた上で確かに、まともに考えれば市丸と自発的に仲良くしようとするものがそうそういるとも思えないのはアメミトも同意するところ。
だが人間、というか
ウルキオラはアメミトから視線を少しだけ外す。霊圧の動きを感知するに、今戦っているのはノイトラで、その相手はおそらく増援として
であるならば、とウルキオラは襟を正した。
今戦っている死神の他にも、隊長格の霊圧が三つある。藍染の目論見は成功したと言っていい。
「準備をしておけ、アメミト」
「何の」
アメミトは態とらしくすっとぼけた。この奇妙な眼をした女
「藍染様が現世に行く。
アメミトは肩を竦めて、やれやれと首を振った。
更木剣八は流石に目を見張った。霊圧が巻き起こした砂煙が晴れた先、地に堕ちた三日月の影を形成していたモノの正体を見たからだ。
節足動物を彷彿させる四つ腕。その腕に握られた巨大な四振りの処刑鎌。左右非対称に鋭く伸びた角。その姿はまるで、悪魔のよう。
「腕が……倍になりやがった……」
そんなのありか、と一護は驚嘆する。
「傷も……塞がってる……」
「嘘だろ……眼帯外した剣八がつけた傷だぞ……!?」
薄皮一枚がその痕跡を残すのみとなったノイトラの傷痕を見て、織姫は息を飲んだ。それを遅れて確認した一護が剣八を案じる一方、ミラ・ローズは逆に、
「どうだ。初めて見る
ノイトラが挑発的に口角を上げて、剣八を睨んだ。剣八はほんの僅かの時間呆けていたが、次の瞬間には。
「いい霊圧だ」
歯茎が晒される程唇を開き、口角を今日一番の高さまで吊り上げた。
「久し振りだぜ……霊圧で刃が研がれてくみてえな、こういう感覚はよ」
剣八は斬魄刀を掲げる。ノイトラは剣八のその反応に不服そうな顔をして、処刑鎌を握る手の一つを力ませた。
「だったら斬ってみろ!!その研がれた刃って奴でよ!!!」
吼えるノイトラが前傾姿勢で処刑鎌を突きつける。剣八は嬉々として真っ直ぐ、ノイトラに向かって突っ込み斬魄刀を振るった。
鋼同士がぶつかり合う、鈍く大きな音が響く。剣八の刃毀れした斬魄刀が、ノイトラの左腕に握られた処刑鎌の一つに受け止められていた。
「何だ。それが全力か?」
右腕の処刑鎌の一つが、剣八を逆袈裟に斬り裂く。その衝撃で剣八の決して軽くない身体が宙に浮き、そのまま砂地の上に背中から落下した。
「……随分と、軽い剣だったぜ。死神」
倒れた剣八に、一護と織姫は息を飲んだ。まさか、あの更木剣八が。そういう驚きだ。
「剣ちゃん」
そのすぐ側で、斜めに聳える柱の残骸の上で戦いを見ていたやちるは、ただ静かに剣八の名を呼んだ。
ノイトラは倒れたまま動かない剣八を見下ろして、落胆したように鼻で嗤う。これで終わりか、と。そして視線は、やちる達へ向けられた。残党処理だ、と自分に言い聞かせて。
ノイトラの足がやちるへ向けて進められる。織姫は咄嗟に駆け出して、同じくやちるの元へ向かった。
「待て!井上!!」
双天帰盾を受けていた一護は反射的に織姫を追いかけようと手を伸ばす。しかし、双天帰盾の内側に触れた瞬間、その手を弾き返された。
「一護!?」
大丈夫か、とミラ・ローズに案じられた一護は、動揺しながらも問題無いと返す。盾舜六花にこんな能力があっただろうか、と疑問を浮かべながら、一護は歯噛みしてミラ・ローズに頼み込んだ。
「病み上がりに悪りぃ。井上を頼めるか、ミラ・ローズ」
「任せとけ。死んでも守る」
「いや死ぬなよ」
軽口を叩き合って、ミラ・ローズが織姫を追いかける。その背中を見送って、一護は一先ず息を吐いた。
砂を擦るように歩を進めるノイトラが、やちるに迫る。織姫は盾舜六花が届く距離まで近付くと、やちるの前に三天結盾を展開した。
三角形の防御壁が紡がれる。ノイトラが処刑鎌を振り上げて、三天結盾ごとやちるを斬り捨てようとした、次の瞬間。
「うしろ、見た方がいいよ」
やちるが恐れの一つも感じない顔で、ノイトラの背後を指差した。すぐにノイトラは、背後から強烈な殺気が迫るのを感じ取る。
振り返ったその時点で、もう遅かった。
縦に一閃。ノイトラの右腕の一本が両断されて宙を舞う。追撃を受けないよう、ノイトラは大急ぎでその場を離れて身構えた。
回転しながら自由落下する腕に、刃が突き刺さる。串焼きでもするかのようにノイトラの腕を斬魄刀で貫通させて、倒れていたはずの剣八は首を鳴らした。
「……まずは一本だ」
斬魄刀を振り、遠心力で突き刺さったノイトラの腕を砂の上に放り投げる。
「気をつけてね。あたしに攻撃すると、剣ちゃんおこるから」
「怒ってねえだろ、馬鹿野郎」
怖い。織姫に追いついたミラ・ローズの率直な感想はそれだった。結構深めに斬られてたのに。なんならその前に左胸にクレーター作られてたのに。平気で動き回ってしっかりノイトラの腕一本斬り落としてるの怖い。こんなことを思ってはいるものの、かくいう彼女の同僚は過去にノイトラの土手っ腹に穴を空けている。
「……死んだフリかよ。小せえ野郎だ」
「うるせえな。考えてたんだよ。腕が4本もあったんじゃ、どれかに刀が防がれちまう。それじゃつまんねえ。防がれねえ為には、どうすりゃいいかってな。だがよ、考えてもサッパリ良い手が思いつかねえんだ」
剣八の草履が砂地を踏み締めて、ざらついた音を立てる。
「だから、一本ずつ全部斬り落とすことにした」
あまりにも愚直で力技な結論だった。問題なのは、それを実行可能な力が剣八に備わっているだけで。
「全部斬っちゃったら戦えないよ、剣ちゃん」
「何ィ!?……そうか。間違えた。一本残してやる」
いいんだそれで。織姫は思わず心の中で突っ込んだ。それに対してノイトラは、断面から血の滴る右腕の一つを一瞥してから嗤う。
「一本残してやるだァ?何だそりゃ。下らねえ」
本当に下らない。ノイトラにしてみればそれは、お前はその程度だという蔑みにしかならない。
「気にすんなよ。どうせてめえの斬る腕は、その一本で最後だ。いや、正確には」
斬られた右腕の断面から、何かが迫り出す。それは硬い外殻に覆われた、斬られたはずの右腕。折り畳まれた状態で生えた腕が伸ばされて、古い外殻の欠片が飛び散った。
「てめえは一本の腕も斬り落とすこと無く、この4本の腕に斬り殺されて終わる」
ノイトラが砂を蹴る。落ちていた処刑鎌を拾い上げ、剣八へ迫った。
「てめえが俺より弱えェからだ、死神!!!」
処刑鎌の乱撃が、台風のように剣八を襲う。剣八はそれらをどうにか捌き切っていたが、横薙ぎに振るわれた一撃で後ろに飛ばされ、柱に激突した。
「軽いんだよ!!ヒョイヒョイ飛ばされやがって!!攻撃が当てにくくてしょうがねえ!!それとも怖くて逃げてるだけか!あァ!?」
追い打ちをかけようとノイトラは駆ける。直進してきたノイトラに、瓦礫を突き破って剣八の蹴りが飛び出してきた。ノイトラは咄嗟に半身で避けるが、左から剣八に頭を掴まれて瓦礫の散乱した砂地に叩きつけられる。
振り下ろされた剣八の斬魄刀を、ノイトラは4本の処刑鎌の柄で受け止めた。
重い。上を獲られ、速度が乗っている分四つ腕のアドバンテージさえ凌駕される。ジワジワと、ノイトラが押され始めていた。
「……何だよ……こんなもんで終いか———」
剣八が残念そうに言いかけた、その時。
「待て、死神!油断すんな!!」
ミラ・ローズが叫んだ。何だよ、と剣八が思うよりも先に、衝撃が一つ。
「馬鹿が」
剣八の脇腹を隊長羽織ごと貫いたのは、ノイトラの腕。だが、四つ腕のどれかではない。どの腕も、剣八の斬魄刀を受け止めるのに使われている。では、この腕は何なのか。
「……言ったろ。てめえは一本の腕も斬り落とせやしねえ。ただ」
ノイトラが腕を引き抜いた。剣八がタタラを踏んで、よろつきながら後退した先に見えたノイトラの姿に、一護達は眼を疑う。
「俺のこの、
剣八が吐血する。ノイトラは新たに姿を見せた三本目の左腕に付いた血を払うと、手首の関節から処刑鎌を追加で取り出した。
「……終わりだぜ。死神」
貫かれた脇腹から夥しい量の血を流し、俯く剣八。だが、すぐにその口角は元の通りに吊り上がる。そして、口の中に残った血を撒き散らしながら、歓喜の笑い声を上げた。
「いいじゃねえか!!最高だ!!こうでなきゃいけねえ!!何が終わりだ!?俺にもようやく穴があいて、てめえと対等になったところだ!!」
何だこいつは。理解できないものを見る眼を向けるノイトラに、剣八は斬魄刀を構えて誘う。始めよう、と。
真一文字に振るわれた斬魄刀が柱を叩き斬る。ノイトラが剣八の一撃をしゃがんで回避したからだ。ノイトラは処刑鎌を振り上げて、剣八の左肩を裂く。剣八はそれが堪える様子も無く、斬魄刀を振り下ろした。
ノイトラは処刑鎌の柄で剣八の斬魄刀を受け止め、鞭のように右脚で蹴り飛ばす。距離を離して体勢を立て直し、狂戦士二人は改めてぶつかり合った。
処刑鎌の刃先が剣八の右頬を掠める。ほぼ同時に、ノイトラは剣八の斬魄刀の鋒を処刑鎌の柄で弾いて逸らした。
ノイトラは抉れて半壊した柱を駆け上がる。処刑鎌でその天面から少し下の側面までを斜めに切り取ると、剣八目掛けて落とした。剣八はそれを容易く真っ二つに叩き斬る。その先から、ノイトラが六本の処刑鎌を振り上げて襲いかかった。
何でだ。ノイトラは焦り始めていた。流れた血の量は剣八の方が多い。ノイトラの手数をものともせず、いくら斬られても剣八は斬り返してくる。
冗談じゃない。最強は俺だと、ノイトラは何度も頭の中で繰り返す。そこに紛れ込んでくる、忌まわしい女の声。
———あなたが、私より弱いからよ。
———軽いな。所詮その程度か。
———しょうもなさ過ぎるんだよ、貴様は。
沸き立つ不快感を振り切るように、ノイトラは吼えた。
「目障りなんだよ!!!さっさと死ね!!!」
剣八の首のすぐ横、肩との境が斬り裂かれる。剣八は砂を踏み締めて倒れるのを耐えると、たった今斬られた傷口を左手で撫でた。
「このまんまじゃァ、本当に死んじまうな……」
舌打ちして呟く。死ぬのは、剣八とて嫌だ。
少し考えて、観念したように剣八は俯く。
「久しぶりにやってみるか。"剣道"ってのをよ」
徐に顔を上げた剣八は、腹を決めた顔をしていた。
「…………何だと?」
「十三隊に入った頃、一時総隊長にハメられてやらされた事があってよ……性に合わねえし、剣の道だなんぞとぬかしやがるスカした名も気に喰わねえんで使わなかったんだが……一コだけ、納得した事があったんだよ」
剣八は胸元まで掲げた斬魄刀に視線を向ける。剣道をやらされた期間はたったの一日ではあったが、そのごく短期間であっても理解できた真理こそ。
「知ってるか?剣ってのは、片手で振るより両手で振った方が強えェんだとよ」
「……何言ってやがんだ、てめえ?」
馬鹿馬鹿しい、とノイトラが剣八を睨む。処刑鎌が軋んで高い音を立てた。
「そんなもん……分かり切ってんだろうが!!!」
そんなものは常識だ。そう吐き捨てるようにノイトラは六本の処刑鎌を構えて突撃する。
「……分かり切っちゃいねえさ……」
剣八は冷静に、斬魄刀の柄を両手で握る。その常識離れした握力が、尋常ならざる音を鳴らした。
「知らねえだろ?どのくらい強さが違うのか」
剣八が呼吸を整える。剣八の眼には、ノイトラが迫る動きがスローモーションに見えていた。ノイトラが間合いに入った、と認識した次の瞬間。
剣圧で舞い上がった大量の砂が落ちる。雨のように自由落下する砂の音を聞きながら、剣八は嘆息した。
「まだ生きてんのか」
その視線の先にいたのは、左側の手首を全て切断され、袈裟斬りにされた胴から大量出血して三本の右手と両膝を砂地に着く、ノイトラだった。
「呆れたぜ。頑丈な野郎だ」
剣八は斬魄刀を肩に担ぎ、踵を返す。剣八の中で、勝負はこれで着いていた。
「ま……待て!!」
「何だよ。うるせえな」
瀕死のノイトラに呼び止められ、剣八は億劫そうに顔だけ振り返る。
「どこへ行きやがる……!まだ終わってねえだろうが……!!」
「馬鹿が。終えだ、今ので。戦えなくなった野郎に、わざわざ止め刺す義理ァ無えんだよ」
「…………そうかよ……だったら尚更……まだ終わりじゃねえ……」
流血にも介さず、ノイトラは立ち上がった。
「俺はまだ……戦えるんだからよ……!」
裂傷を一本の右腕で抑え、残りの腕で処刑鎌を構える。剣八は一瞬、動きを止めた。
「……どうした……何とか言えよ……怖えェのか……!?言えよ……!」
息が乱れたまま、ノイトラは虚勢を張る。剣八は黙ってそれを聞いていた。
「俺が怖ェかよ!?死神!!!!」
吼えるノイトラに、剣八は面倒そうに舌打ちした。折角、次また戦えるように生かしたのに、勿体無いと頭の片隅で考えながら。
「しょうが無え。来いよ」
ノイトラが跳び上がる。二本の処刑鎌を振り下ろすノイトラに対し、剣八は防御を捨てて剣を振りかぶった。
ノイトラにとってはラストスパートであり、剣八とっては延長線になる勝負は、一瞬で決着した。
両手で振った斬撃の傷に交差するように、ノイトラの胸から脇腹が処刑鎌を握っていた右腕ごと斬られる。奇しくも、剣八が宣言した通り、一本だけを残して全ての腕が斬り落とされていた。
崩れ落ちるように膝をついたノイトラは、無意識に剣八の向こう側、瓦礫を背にして眠るネルへ眼を向けていた。
すると、意識を失っていたはずのネルの瞼が持ち上がる。
「……ノイ……トラ……?」
ぼんやりとした顔でネルの目がノイトラを認識すると、ネルは譫言のように呟いた。
その姿では覚えていないくせに、頭の片隅に過った文句は声には出さず、ノイトラは前のめりに倒れ、血溜まりに沈んだ。
剣八はそれを見下ろして、思うところはありながらも笑みを浮かべる。
「愉しかったぜ。ノイトラ」
剣八はそう言って、ボロ切れ同然になった隊長羽織と死覇装の上を諸共脱ぎ捨てた。そして、双天帰盾の中にいる一護に近付くと、双天帰盾を力尽くで踏み割った。無茶苦茶過ぎる。
剣八は文句を言おうとする一護の死覇装の襟首を掴むと、そのまま腕の力だけで放り投げた。一護の悲鳴がドップラー効果をかけながら響く。
「何すんだテメー!!」
空中で体勢を立て直して、一護は砂の上に両足で着地した。剣八は非難の声をものともせず、目線で一護の足元を示す。そこには、天鎖斬月が落ちていた。
「拾え、剣」
言われて一護は、剣八が狙ってこの位置に放り投げたのだと察する。言われた通りに天鎖斬月を拾い上げたのを確認した剣八は、織姫を連れてすぐに帰れと言った。お前の仕事は終わりだ、とも。
「こっから先は俺らでやる」
「な……何言ってんだよ!!ここまで来たんだ!俺も……」
「てめえは何だ?」
一緒に戦う。そう言いかけた一護の言葉を剣八は遮る。
「死神代行だろうが。あの街を護んのがてめえの役目だ。違うか?その女を助け出せりゃ満足だろうが。わかったらさっさと帰れ」
諭された一護は、剣八の背中を意外そうな顔で見つめた。小声で吐かれた、お前は十分楽しんだだろ、という言葉は少し、聞き取れなかったが。
「女ァ!俺の傷を治せ!!」
「は……はい!」
流石にノイトラにつけられた傷をそのままにしては剣八も厳しいと判断したらしい。呼びつけられた織姫は、一瞬虚取ってから剣八に駆け寄った。
油断していなかった、といえば嘘になる。
気がついたら、織姫の目の前に気怠そうな表情の髭面の
「悪いね。本トはこういう面倒なの、好きじゃねえんだけど。ちょっと借りるよ」
一護と剣八が斬魄刀を構えて
鋼のぶつかり合う音と、セラミックを叩いたような音が同時に響いた。そこにいたのは。
「貸し一つな。スターク」
右手に鎬の抜かれたフレーム状の、幅広の斬魄刀を逆手に持って剣八の斬魄刀を受け止めて、左掌で一護の黒刀を止める金髪の女
「……あ……ハリベル……様……」
眼を見開いたミラ・ローズが声を振るわせ呼んだ名前に、一護は身震いする。
「
碧玉を瞬かせ、
織姫を捕まえた
「お前この前人生ゲームやった時暴言吐いたからそれでチャラだろ」
「なんでだよ!?」
一護と剣八の剣を受け止めたまま、ハリベルは首だけでスタークを振り返った。
納得いかない顔のまま、ハリベルは正面を向き直す。目線は意識の無いネルを連れて行く為に抱き抱えるミラ・ローズへ。
「……一応、お前も連れ戻しに来たんだが……なんか、やめといた方がよさそうだな」
「おい」
スタークから文句の声が飛び出た。ハリベルは一護を蹴飛ばして、剣八の斬魄刀を弾き飛ばすと
「無理矢理連れて行くのは私の望むところでは無いし、何よりミラ・ローズ自身が納得のいくようにさせてやりたいからな。というか、多分もう駄目だろ。お前、死神と戦えないだろうし」
「えっ」
「敵だと思えないんだろう?何があったのかは無理に訊く気は無いが、一応どうしたいかだけここで言ってくれ」
「……アタシ、は……」
ミラ・ローズは目を落とす。死神と……より正確には一護の仲間と戦うのに抵抗があるのは、事実だ。さっきの戦いでも、
ハリベルはその様子を見て、仕方がないというように息を吐く。
「私のことは気にするな。大事なのはお前の気持ちだからな。藍染は私が黙らせるし、処罰の方は考えなくていい」
「お前それウルキオラに聞かれたら絶対睨まれるぞ」
「私より弱い奴に睨まれても怖くないかなあ」
「こいつ……」
ミラ・ローズは何だか迷っているのが馬鹿馬鹿しくなって、小さく噴き出した。
「……ハリベル様、ごめんなさい。アタシは……アタシの大切な人たちを助けたいし、守りたい。勿論ハリベル様達は大切です。でも……一護達も、大事な友人なんです」
「……そうか。ん、わかった」
ハリベルは斬魄刀を納刀すると、踵を返す。
「そう決めたなら、守り抜けよ。ミラ・ローズ」
「……はい!」
ミラ・ローズの返事の力強さに満足したハリベルは、
「……っ!待て!!」
一護が静止の声を掛けたときには、既にその姿はなかった。
「おかえり、織姫」
気付いた時には、織姫は大きな階段の前にいた。その上に、藍染と東仙、市丸がいる。
何処に連れて行かれるんだと思ってはいたが、まさかだった。
「どうした。随分と辛そうな顔をしているね」藍染が階段を降りてくる。織姫の目の前まで降りてくると、その口元に手を押せた。場所が場所ならセクハラである。
「笑いなさい。太陽が翳ると、皆が哀しむだろう。君は笑って、少しの間ここで待っているだけでいい」
階段の上に、
「我々が空座町を、滅して来るまで」
「空座町を……滅す……?」
唖然とする織姫から離れ、藍染は階段を昇り直す。
「そうだ。空座町を滅して、王鍵を創生する」
それが藍染の中間目的。藍染は東仙に指示を出し、天挺空羅を使わせた。
「聞こえるかい?侵入者諸君」
その声に、一護達と死神達に緊張が走り、警戒を露わにする。
「ここまで十刃を陥落させた君達に、敬意を表し先んじて伝えよう。これより我々は、現世へと侵攻を開始する」
「何だと……!?」
真っ先に反応したのは一護だった。別の場所では雨竜が何故今、と疑問を表し、ルキアは織姫の居場所を探る。
「井上織姫は第五の塔に置いておく。助けたければ奪い返しに来るが良い。彼女は最早、用済みだ」
「……は……!?」
ミラ・ローズは耳を疑った。織姫が用済みとは、どういう事だ。
藍染は滔々と述べる。人間に許された能力の領域を遥かに凌駕する"事象の拒絶"。その重要性を
そして、同時に尸魂界にとって新規戦力となるであろう死神代行を含む"旅禍"達を
藍染が話を区切ると同時に、隊長達が通行して来た
「護廷十三隊の素晴らしきは、十三人の隊長全てが主要戦力たり得る力を有しているという事だ」
藍染は
「だが今はその中から三人が離反し、四人が幽閉。
現世側の
「君達は、全てが終わった後でゆっくりとお相手しよう」
藍染がそう締め括って、天挺空羅が切れた。
藍染は黒腔から完全に現世へと身を晒す。その先で待ち構えていたのは。
「…….どうやら……間に合ったようじゃの」
山本元柳斎率いる、護廷十三隊の隊長格達だった。
藍染は元柳斎を見下ろして、何を以って間に合ったと口にしたのかと問う。
少し考えればわかる事だ。隊長が揃い踏みで現世に展開しているという事は、そこにあるのは空座町ではないという事。しかし、それは何ら障害たり得ない。
「スターク、バラガン、ハリベル。来るんだ」
藍染が呼びかけると同時、
左端の一つからは気怠そうに髪を掻くスタークと、その
中央からは右目に疵のある老人の姿の
そして右端からは、ハリベルがアメミトの肩を抱いて現れる。その後ろではもう完全に慣れ切ったアパッチとスンスンが控えていた。
「空座町が
藍染のその言葉に合わせて、ウルキオラが玉座の後ろから姿を見せる。不意に、織姫と目が合った。
ウルキオラは此方に向かってくる霊圧に、既に気付いている。
「来い。黒崎一護」
現世と
隙あらばイチャつく女達と突っ込む気も無くなった部下達
なおミラ・ローズお留守番ルートです