犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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ブザーと共に幕が上がる
歓声と共に狼煙が烟る
タイトルコールは厳かに
チープな舞台に役者は集う


開戦の調べ

 重霊地空座町、その模造品(レプリカ)の上空。

 燦光する翠玉(エメラルド)が翳りを見せた。理由は明白だった。

 アメミトの視線の先には、転界結柱の一つが聳えている。そこに向かった友の命にエンドマークが打たれたのを、感じ取ったのだ。

「アメミト?」

 呼ばれて、アメミトはゆるゆると左側を向く。寄り添っていたハリベルの碧玉(グリーンジャスパー)が気遣わし気に揺れていた。

「ああ、大丈夫だ。大丈夫」

 アメミトは無理矢理口角を持ち上げる。トン、とハリベルの右肩に頭を預けて、側頭部を擦り付けるように押し付けた。

 結果だけ言えば、転界結柱を破壊するべく遣わされたバラガンの刺客は全滅した。

 フィンドールは力に驕り、その傲慢故に処刑鎌に斬り裂かれ。

 アビラマは岩よりも重い鋼の翼から揚力を奪われ、恐慌したまま逆さの断頭台にかけられ。

 クールホーンは何が起きたのかこそ不明だが、霊力の全てを枯れ果てされ。

 ポウは柱の破壊にこそ成功したものの、狛村左陣の卍解によって叩き潰され肉塊と化した。

「それが戦争というものだと理解していたし、覚悟もしていたさ。だが……うん、ごめん。さっき嘘吐いた。やっぱり辛い」

 アメミトの右手がハリベルに伸ばされる。ハリベルはそっとその手を取って、手の甲の側から自身の指をアメミトの指の間に挟み込んで優しく握った。

「……寂しい?」

「うん、寂しい。もう、シャルロッテの紅茶、飲めないんだ」

「それは……確かに寂しいな」

 ハリベルが空いている手をアメミトの背中に回す。後ろに控えるアパッチとスンスンは、敬愛すべき二人の周囲だけ原色に近い桃色の空気で満たされているような錯覚を覚え、片方は頭を抱え、片方は遠い眼をした。此処戦場やぞ。

 スタークの隣でその様子を遠巻きに見ていたリリネットは、ご馳走様、と溜息を吐いて視線をバラガンの方へ向けた。

「どーすんのおじいちゃん。従属官(フラシオン)四人の命と柱一本。随分高いお買い物になっちゃってるよ」

 リリネットとしては軽いパスのつもりだった。が、バラガンはどうやらそれを非難だと受け取ったらしい。いいや、神経を逆撫でたのはそれ以前か。

 バラガンが芥骨の玉座の左の肘掛けの端を、握力だけで破砕した。

 待機していた従属官(フラシオン)二人、ジオ=ウェガとニルゲ・パルドゥックが素早くバラガンの前に膝を着き、首を垂れる。

「申し訳ありません、バラガン様!奴等は我々がすぐに始末して参りますので、どうぞお座りになってお待ち下さい!」

「誰を始末するだと?」

 ジオの背後からかかる声。女の声だ。

 振り返った先に、隊長羽織を着た小柄な女と副官章を着けた恰幅の良い男が待ち構えている。二番隊隊長の砕蜂(ソイフォン)と、副隊長の大前田稀千代である。

「狛村達を始末するというのか。それとも、我々全員か。返答次第では、私がお前から始末するぞ」

 挑発とも取れる砕蜂の弁に、ジオは不遜に笑って返した。砕蜂は背後手に備えた斬魄刀を逆手で抜き放つ。

「まあ、返答せずとも、始末するがな」

 次の瞬間、瞬きすら追いつかない一瞬で砕蜂とジオの剣が激突した。

 その金属音を合図に、死神も破面(アランカル)も一同、一斉に動き出す。

 浮竹十四郎と京楽春水は、コヨーテ・スタークとリリネット・ジンジャーバックと向かい合い。

 日番谷冬獅郎と松本乱菊は、エミルー・アパッチとシィアン・スンスンに挟撃の陣を取られ。

 砕蜂と大前田稀千代は、ジオ=ウェガとニルゲ・パルドゥックとタイマンの形を取った。

 山本元柳斎の杖の先端が音を立てる。

「……さて、漸く本番かの」

 バラガンと元柳斎、老骨同士が睨み合う。元柳斎はもう一度、隊士達に送る合図として杖を足元に突いた。

「かかれ!!!全霊を賭して、ここで叩き潰せ!肉割かれようと、骨の一片まで鉄壁とせよ!!奴等に尸魂界の土を一歩たりとも、踏ませてはならぬ」

 それは命令にして宣誓である。春水はそれを聞き届けると被っている傘を少し下げた。

「……やれやれ、肩が凝るねえ。気合の入った山じいと居ると、こっちまでさ」

「そうだな。これが片付いたら、久し振りに二人で先生の肩でも揉んでやろうか」

 命の奪い合いの直前であるというのに、どこか穏やかな話を切り出した十四郎に春水は少し呆れた目を一瞬表したが、すぐに元の通りに戻って飄々と前方の敵を向いた。

 別の場所では、久方振りの実戦に緊張して痙攣に近い震えを起こしている稀千代に、砕蜂が軽口の混ざった悪態———逆だ、悪態の混ざった軽口を吐いていた。

「ガチガチだな。怖いか、久々の実戦が。情け無くて見るに堪えんな。良い機会だ。この際適当なところで何かのついでに死ね」

「はあ!?」

 流石にこれには聞き捨てならなかった稀千代は、強がりを全面に出して言い返す。

「何言ってんスか!怖くもねえし、ガチガチでもねえし!!つーか、絶対死なねえし!!」

「……そうか。じゃあ、死ぬな」

 一瞥もせずに帰ってきたのは、ある意味での信頼の言葉だった。然もありなん。信用と信頼が無ければ、それに足る実力が無いと見られていたならば、最初から砕蜂も稀千代を副官として任じてなどいない。

「言われなくても、そうしますよォ!!」

 稀千代は冷や汗を流しながらも、腹を括って宣言する。

 一見軽薄に見える上下関係だが、そこには確かに隠密機動である彼等なりの、影に隠された繋がりがあるのだ。

 他方、十番隊の二人。冬獅郎と乱菊はハリベル達と対峙する。

 斬魄刀に手をかけて警戒しつつ、冬獅郎は念の為乱菊に確認を取る。

「心に乱れは無えか」

「何の話です?」

 問い返されて、冬獅郎は目だけを乱菊に向けて答えを飲み込んだ。

 大丈夫、のはずだ。乱菊はきちんと腹を括っている。そう判断して、冬獅郎は最初の問い掛けを無かったことにした。

「行くぞ。気を抜くな、松本!」

「はい!」

 二人は同時に、斬魄刀を抜き放った。

 

「殺せ」

 老獪な声が静かに響く。

「1匹の蟻も生かして逃すな。貴様らに負けて戻る場所など無い」

 投げかけられた言葉は二番隊の二人と相対する従属官(フラシオン)の二人へのもの。

「儂を落胆させるなよ。敵の血で染まっておらん道など、この儂に歩かせるな」

 玉座に腰掛けたまま、バラガンは圧をかける。

「言え!貴様等は誰の部下だ!!」

 問われた二人の従属官(フラシオン)は、斬魄刀を構えて応える。

「「はい!我々は"大帝"バラガン・ルイゼンバーン陛下の従属官(フラシオン)!!あらゆる敵を粉砕し、必ずこの戦場を、奴等の血肉で染め上げてご覧に入れます!!」」

 その宣誓を持って、戦いの口火を切った。

 一方、スタークとリリネットは春水と十四郎という隊長羽織を纏う二人を前にして、どうしたものかと考える。

 そこに冷や水をかけたのは、春水の言葉だった。

「……その子……ここからどかしちゃ、もらえないかな?」

 春水は明らかにリリネットを指して言っていた。スタークは訝しげに首をほんの僅かに傾け、何故、と問う。

「その子がいたんじゃ、全力で戦えない。キミだってそうじゃないの?」

「ンだとォ!?ケンカなら言い値の五倍で買ってやるからな傘髭ェ!!」

「黙ってろリリネット」

 スタークは春水の発言に頭に来て、飛び出しかけたリリネットの首根っこを掴んで止める。

「……いいぜ。全力で戦ってくれなくても。俺も全力では戦わねえ」

「……どういう意味だ?」

 十四郎が言葉の真意を掴みかねて、愚直に問う。スタークは髪を掻き乱して溜息を吐いた。

「俺、向かねえんだよそういうの。性格的に。どうにか戦ってるフリだけして、他の連中の戦いが終わんのボンヤリ待てねえかなって思ってんだけど……どうもあっちの煽りカスは遊ぶ気満々っぽいんだよなあ……」

 これ見よがしにスタークは顔をハリベル達の方へ向けた。いつまでくっついてるつもりなんだろうな、あの付き合ってません詐欺は。そんなことを思いながら。

 何を言っているんだ、と十四郎が言いかけたのを春水が明るく同意を示して遮る。

「イヤいいよ!ボクもその方がいいな!痛いのイヤだしね!」

 ゆるゆるとした拍手をしながら春水は言う。しかし、突然ピタリと手を打つのを止めて、傘の下から鋭い眼と霊圧をスタークに向けた。

「……だけど今回は、そういう訳にもいかないんだよ。こっちはね」

「……そうかい……面倒臭えが、仕方ない」

 春水の本気を感じ取ったスタークは、斬魄刀に手をかける。

「どっちにしろ、アンタらを再起不能にしてこの戦いを生き残らないことには……あのアホ殴る機会も無くなるしな」

「さっきから気になっていたんだけど、キミあっちの娘と仲悪いのかい?」

「麻雀でお互い狙いでロンし合ったり、大富豪で八切りしまくったり、ツイスターで足引っ張り合ったり、番犬○おがおゲームで邪魔し合ったりする程度の仲だよ」

「それはかなり仲良くないかな!?」

 それはそう。あとそのアホに煽られて乗せられてるスタークもだいぶアホじゃない?というツッコミを、リリネットはそっと飲み込んだ。

 そして、当のハリベルはというと。

「ティーアッ」

「ん、何だ?」

 アメミトの右手がハリベルの3つに結えた髪の束の一つを手にして、指の間を滑らせる。俺たちは一体何を見せられているんだ、という冬獅郎の心中など知らぬ存ぜぬとばかりに、アメミトは燦光する翠玉を氷が溶けるように細めた。

「あの白くてちっちゃいの。どっちが相手する?」

「どっちが相手するも何も……お前、他に行きたいところあるだろ」

「ああ、バレてた?」

 クスクスとアメミトは蠱惑的に笑う。そして目線を転界結柱へ向け、小さく舌舐めずりをした。

「シャルロッテを討った奴を、葬りたくて」

「成る程……うん、いいぞ。行っておいで」

「本当か?ありがとう、ティア」

 ハリベルがアメミトの顔の左側、仮面紋(エスティグマ)のある頬を親指でなぞるように撫でる。

 なんだアレ。冬獅郎と乱菊は警戒を解くことこそ無いものの、とにかく困惑していた。何見せられてるんだ自分たちは。それに目敏く気付いたらしいアパッチは、蚊の鳴くような声で、ウチのバカップルがすみません、と謝罪する。緊張感は荼毘に付されていた。

「それじゃ、行ってくるよ」

「ん」

「それと……ティア、ちょっと顔」

「何だ?」

 ハリベルの手をやんわり振り解いて、アメミトは返すようにハリベルの立襟に覆われた左頬に手を伸ばす。キョトンとした顔のハリベルは言われるまま、アメミトの方へ顔を少し傾けた。

 不意に、布と仮面で二重に隔たれた右頬に、アメミトの唇が触れた。

「愛してるぞ。私なりにな」

 ほんの一瞬触れただけで、アメミトはダンスのステップを踏むように距離を離す。それからコートを翻して、転界結柱が聳える方角へと響転(ソニード)で飛んで行った。

 唖然として、目を丸くするハリベルは恐る恐る右頬に触れる。二、三往復程、目が泳いでから数秒して、噛み締めるようにじわじわと現実を受け入れると———。

「———ッシャアオラァッ!!!」

 そこらの男よりもよっぽど雄々しい、渾身のガッツポーズが飛び出た。

 何事、と冬獅郎がギョッとする。乱菊は目線だけで自分たちに挟撃の陣を取るアパッチに詰問した。つまりそういう事でいいのかと。アパッチも、目線だけでそれに肯定を示した。

 大体想像してる通りで合ってる。マジか。何故か通じ合ってしまった乱菊は、アパッチの眼が死んでいる事に気付いて、その苦労を察した。大変そう。

「あー、隊長。この二人はあたしがやります。隊長は奥の妙に色ボケてる十刃(エスパーダ)を」

 気を取り直し、乱菊は冬獅郎に宣言する。冬獅郎は若干戸惑いながら、しかしすぐに臨戦態勢へと切り替えた。

「……やれんのか」

「はい」

「……わかった。任せるぞ」

 そう言って、冬獅郎は瞬歩で挟撃を抜け出す。アパッチがそれを阻もうと身を翻したのを止めたのは、他ならぬハリベルだった。

「ステイだ。アパッチ」

「!」

 コキンッ、とハリベルは首の関節を鳴らす。背負った斬魄刀の鍔の円環の装飾に指を引っ掛け、一息に引き抜いた。遠心力で回転する斬魄刀は鎬を抜き出したフレーム状の刀身をしている。ハリベルは勢いそのままに指を放して、その場で空転する斬魄刀の柄を右手で掴んで肩に担いだ。

「来いよ、小さいの。今日の私はいつもより、ちょっとだけ凄いぞ」

 ハリベルは眼だけでもわかるほど得意げな顔をして左手を前に掲げ、人差し指で挑発のジェスチャーをする。

「まず、てめえのいつもを知らねえから比較しようが無えよ」

 とはいえ冬獅郎も安い挑発には乗らない。斬魄刀の鋒をハリベルに向け、冷静に、慎重に動きを観察していた。

 それを顔だけ後ろへ向けて見ていたアパッチは、理解はしたものの納得していない顔で舌打ちする。

あのクソガキ(ハリベル様)と相対して、万に一つも勝てる見込みがある訳ねえのはわかってんだけどなあ……やっぱ剣抜かせたのは素直にムカつく」

「落ち着きなさいな。なんかハリベル様、いつも以上に元気ですし、すぐに終わりますわ。それより……私達はこっちを片付けなければね」

「ん、ああ。そうだな……コイツ、一人でアタシらの相手するとか言ってやがったし……何より、アタシが個人的にコイツに聞いときてえ事もある」

 スンスンに宥められ、アパッチはガリガリと右手で側頭部を掻く。オレンジイエローとブルーのヘテロクロミアの視線が、乱菊へと鋭く向けられた。

「……聞きたい事?」

 怪訝な顔をして乱菊が繰り返す。アパッチは肩を竦めて、そうだよ、と返した。

「お前、市丸の幼馴染だろ?アイツから聞いてた。何で、お前のこと大事に思ってるっぽかったくせに、アイツお前のこと置いてったのかずっと不思議に思ってた」

 乱菊の目尻が一瞬痙攣のように動いた。アパッチはそれに敢えて気付かなかったフリをして、なあ、と重ねて問いかける。

「市丸がやりたい事について、お前何か、知らねえか」

 驚く程澄んだ眼で訊ねるアパッチに、乱菊は自分でも訳がわからない程の苛立ちを覚えた。

「そんなの……あたしの方こそ知りたいわよ……!」

 斬魄刀を握る手に必要以上の力が加わる。柄が軋む音を立てた。

「唸れ、灰猫!!」

 乱菊の斬魄刀の刀身が霞のように細かく散って舞い踊った。

 

 さて、ハリベル達と離れたアメミトは宣言通り、転界結柱を守護する死神達の下へと気安い居酒屋に入るように訪れていた。

「ご機嫌麗しゅう、死神諸君」

 両手を後ろ手で組み、燦光する翠玉(エメラルド)を嘲るように細めたアメミトは、舞台挨拶のような抑揚のある声でそう言った。

 最初に反応したのは左陣だった。狼面特有の爛々と鋭く光る眼を向けて、斬魄刀を構える。喉の奥から唸り声を鳴らし、牙を僅かに晒して威嚇した。

 次に動いたのは修兵で、こちらはすかさず解号を述べて始解———風死を両手に携え臨戦態勢を取る。そしてその視覚情報から、目の前にいる破面(アランカル)が以前、尸魂界(ソウルソサエティ)に乗り込み白哉を捩じ伏せた女だと気付いた。

 イヅルと鉄左衛門は同時に、最後に構えた。イヅルの頬には冷や汗が伝い落ち、鉄左衛門はサングラスの奥の眼に畏怖を宿す。

十刃(エスパーダ)か」

 低く重い声で左陣が言う。アメミトはそれに一旦パチクリと目を瞬かせて、ああ、と合点がいったように手を打った。

「成る程、どうやら以前の交渉の際に誤解をさせてしまったらしいな」

「誤解だと?」

「ああ、そうだとも。勘違いをさせてしまったのは私の言い方も、多少なりとも悪かっただろうな」

 アメミトは右手を胸に添え、左手を横に広げて、まるで演劇でも披露するかのように靴底をわざと鳴らした。

「それでは、改めて名乗らせて貰おう。私はアメミト・レシェフ。十刃(エスパーダ)にして求道者、ティア・ハリベルの従属官(フラシオン)であり、導き手だ」

 唄うように告げられた現実に、その場にいた全員が目を見開き息を飲む。

従属官(フラシオン)……だと……!?」

「ああ、そうだとも。ところで……一手まみえる前に一つ、聞いておきたいことがある」

 左陣が訝しげにアメミトを睨んだ。アメミトが両手を広げて眉尻を下げ、酷く底冷えのする声で問う事には。

「我が友、シャルロッテ・クールホーンを討ったのは……アンタ達の内、誰かな?」

 修兵とイヅル、鉄左衛門の背筋が凍りつく。鉄左衛門が吉良、とだけ叫んで、イヅルはその意図を汲み取り諸事情あって昏倒させていた綾瀬川弓親を肩に担いだ。

 左陣がそれを隠すように仁王立ちしたが、アメミトは目敏くその動きを燦光する翠玉(エメラルド)で捉える。そして、シニカルにほくそ笑んだ。

 

「 そ い つ か 」

 

 肉食獣(ジャッカル)が牙を向く。高い位置で二つに結えた金髪が揺れたと思うと、その姿が掻き消えた。響転(ソニード)だ、と気付いた時にはもう遅い。

 イヅルの進路を阻むように、アメミトが立ちはだかる。逆手でベルトの左側に刷いた二刀一対の斬魄刀の片割れを抜いて嘲笑った。一般的な浅打よりも幅の広い刀身が、白い光を反射する。霊圧が重力のように死神達の肩から背中にかけて乗し掛かった。

「シャルロッテの仇だ」

 左手を振り上げる。霊圧に当てられて、イヅルは脚が竦んで動け無い。アメミトの斬魄刀の鋒がイヅルに担がれた弓親の目と鼻の先まで迫り、そして。

「縛道の六十三、鎖条鎖縛」

 間一髪、アメミトの左腕を鎖が絡め取り、自由を奪った。

 アメミトは少しだけ、顔を鎖が伸びてきた方へ向ける。術者は鉄左衛門だった。

「一角、動けるか」

 鎖を保持する鉄左衛門は、重傷を負った斑目一角へ問う。一角は少しだけ驚いて、しかしすぐに取り繕い、おう、と返した。

「吉良に着いて、弓親諸共結界の端まで退がっとれ。外に十三番隊の虎徹三席を待機させちょる」

「なっ……」

「とっととその怪我だけでも治してこんかい。藍染と戦うんじゃ。猫の手も借りたいくらいじゃけえの」

 そんなことを言っている間にも、鉄左衛門の握る鎖が軋み、ひび割れる。アメミトが力任せに破ろうとしているからだ。一角はそれを見て、言い返すのを辞め大人しく鉄左衛門の指示に従う意向を見せる。

「俺にあんだけ説法垂れたんだ。死なないでくださいよ、射場さん」

「誰に口聞いとるんじゃ。阿呆」

 それだけ言い捨てて、一角はイヅルと共に後退した。

「おい、待たないか!」

 アメミトは二人を———より正確には、イヅルに担がれた弓親を逃すまいと空いた右手に虚閃(セロ)を構える。だが、死神達も愚鈍ではない。左陣がすかさず虚閃を留めた右手を直接、虚閃諸共左手で掴み取ってその場で暴発させてしまった。

「狛村隊長!!」

 修兵が思わず左陣の身を案じる。一瞬の後に、煙幕から飛び出した影は二つ。

 一つはアメミト。白いトレンチコート風の死覇装の右袖の裾が虚閃(セロ)の暴発のせいで焼け焦げた以外は、ほぼ無傷。

 対するもう一つは左陣。アメミトの虚閃を握り潰した左手の毛皮が所々、空気を詰めた袋が破裂したように裂けて血が滴っていた。

「……面倒な事だ」

 煤と灰を払うように右手をブラブラと振る。左手を縛っていた鎖はとっくに引き千切って、自由になっていた。

 アメミトは左の斬魄刀を逆手から順手に反転させ、ベルトの右側に佩いたもう片方の斬魄刀を抜く。

「私個人としては、アンタに恨みはないんだが……しかし、だ。どうしても邪魔をするというのなら…………喰い殺すぞォ!!!」

 爛々と輝く翠玉(エメラルド)が、殺意を宿して吼え立てた。




アメミトによるハリベルのメンタルドーピングの結果や如何に
あと狛村さんピンチ
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