不変は在り得ない
万物は須く
形あるものはいずれ朽ち
命あるものはいずれ死ぬ
その摂理こそ我が欠落
その無常こそ我が原型
フレームのように中をくり抜いた形の斬魄刀を肩に担ぐ。顔の下半分と胸元を仮面の欠片と外殻で覆った女
「……見た目的にも未成熟だし、発展途上なのは承知の上で……こんなものか」
その
「同じ死神でも、その力に差が有るのは想定した上で……こんなものが隊長の力か……」
ギチ、と斬魄刀を握る手が力んだ。
「こんな連中にやられるなんて……アパッチとスンスンが気の毒だ……」
終わらせる。そう一言だけ宣言して、ハリベルは斬魄刀を逆手に持ち直し、身体の前に掲げる。ハリベルを見上げる冬獅郎は、来る、と警戒を高めて身構えた。
「———討て、
解号と共に、ハリベルの背後を起点として二枚貝のように水が広がる。あっという間も無く水がハリベルを中に閉じ込めると、渦潮のように水が捩れて収縮した。
その水の壁を貫いた白い牙。それが縦に一閃され、裂かれた奥から白い鮫が現れた。
肩と四肢に必要最低限の装甲を纏い、細長く伸びた背鰭を揺らして、ハリベルは鮫の頭のような大剣を構えた。
冬獅郎は自身の斬魄刀、氷輪丸を構える。その刀身からは冷気が溢れ、冬獅郎はそれを使って保険をかけた。
次の瞬間。
冬獅郎が反応できない速度で、水の刃が冬獅郎の胴体を斜めに両断した。
愕然としたまま二つに分かれた身体に、冬獅郎は一瞬理解が遅れる。ハリベルは大剣を肩に担ぎ直して、それ見ろ、と鼻を鳴らした。
「……その程度だ、所詮は。氷の竜など、鮫の一撃で水底に沈む」
左手の中指を立て、ヤンチャな子供のように舌を出して、ハリベルは無惨な死体を野に晒す冬獅郎を見下ろした。そして、横目で総隊長たる山本元柳斎を一瞥すると、
「……
身体半分を元柳斎の方へ向けて、左手の人差し指で自分の方へ引き寄せるようなジェスチャーをしてみせた。元柳斎はハリベルを横目で睨むだけで、それ以上の反応はしない。
ハリベルは舌打ちして、肩に担いだ大剣を乱暴に振りかぶった。
「聞こえなかったのか、ジジイ。次だって言ってるだろ。耳も頭も耄碌してるのか?二人を丸焦げにしてくれやがった分、十倍で返させて貰うぞ」
ハリベルの剣に霊圧が集中する。溜めた霊圧を
左目の真横に斬魄刀の刃が見えた。完全に意識外の攻撃ではあったものの、反応は出来ていた。ただ、
金属同士がぶつかり合うような音がして、ハリベルの目尻に刃が食い込む。色の濃い金髪を数センチと、薄皮一枚を斬った刃はそれ以上進まず止まった。
「……痛ったいなぁ……!」
「……何で生きてるんだ。そのちみっこい軀、真っ二つにしてやった筈なんだが」
ハリベルは腑に落ちないと言いたい顔を隠さない。冬獅郎は霊子の足場を作って、鳥が木の枝に停まるようにその上に着地した。
「解放していきなり、あんなに攻撃の速度と射程が上がるとは思わなかった……念を入れといて良かったぜ」
そう返してすぐに、ハリベルが両断した方の冬獅郎の亡骸を中心に景色がひび割れた。そしてそれが、氷の膜に冬獅郎の姿を映し出しただけだと判明すると同時に砕け散った。
「こんな騙し討ち一回しか使えねえから、本当はギリギリまで使いたくはなかったんだけどな」
死神の力を見誤るな。冬獅郎は顔を伝う汗を左手の甲で拭い取る。ハリベルは目を閉じると、ゆっくりと深呼吸を二、三回繰り返した。
「……成る程……ところで話は270度変わるんだが」
「……普通は180度で済むんじゃねえのか」
予想外に頓狂なことを言われた冬獅郎は、思わずツッコミを入れた。ハリベルは薄らと血の滲む左目の辺り、正確には左の目尻の側の斬れた前髪を空いた右手で弄り始める。
「湯引きとたたき膾、どっちが良い?」
「…………は?」
いよいよ冬獅郎の脳は理解することを半分諦め始めた。一体急に何を言い出すんだ、この
「お前の調理法だ。せめてもの慈悲というやつ。好きな方選ばせてやるって言っているんだ」
「……所詮
「ははっ。所詮
乾いた笑いを吐き出して、ハリベルは大袈裟に右手を指揮者のように振り上げる。そして、形ばかり笑んでいた口元さえ表情を作ることを辞めた。
「よくも、アメミトが綺麗だと言ってくれた髪を斬ってくれたな。髪は女の命という言葉を知らんのか?」
煌めくことを辞めた
早鐘を打ち始めた心臓を誤魔化しながら、冬獅郎は斬魄刀を構える。
「……生憎、どっちも遠慮しとくぜ。戦場で敵の髪斬ったくらいで食用扱いされるなんざ、これきりにして欲しいもんだ」
「……そうか」
ハリベルは大剣を右手に持ち帰ると、左手で前髪を掻き上げた。
「じゃあ、活け造りにしちゃおっかなあ!!!!」
「結局食用じゃねえか!!」
残念なことに、真面目な気質の冬獅郎には耐えられなかった。如何せん、ハリベルに限らず
アメミトは困惑していた。最初の獲物は逃がされて、次の獲物もトドメを刺す寸前で妨害の憂き目に遭った。その怒りさえ一旦傍に置いておく程、どうしよう、と困っていた。
その原因は、目の前に在る。
坊主頭の死神、斑目一角の手にしていた薙刀の形の斬魄刀、鬼灯丸はその姿を大きく変えていた。両手に鉈のような形状の双剣を携え、背中には龍の彫物が彫られた巨大な扇形の刃を背負っている。
「龍紋鬼灯丸」
それが、一角の卍解の名である。
「…………何それ」
アメミトはただただ困惑して、怪訝な顔で小首を傾げた。だって、随分と自信満々で邪魔をしてきたと思ったら、さっきまで相手をしていた狛村左陣の卍解と比較してあまりにもチンケな霊圧だったからだ。
勿論、卍解する直前の一角と比較したならば、その霊圧は大きく増大しているのは間違いない。ただ、元の絶対量が小さければ当然、同じ倍率で増えていてもその増加量は少ない。まして、隊長格を一方的に蹂躙せしめる強さを見せつけたばかりのアメミトにしてみれば、一角の卍解は焼け石に水でしかなかった。
マジでどうしよう。弱すぎて。
まさかアメミト自身、こんな理由で途方に暮れるとは思いもしていなかった。殺意は完全に胸の隅っこに追いやられた。
そんなことは露知らず、一角は威風堂々龍紋鬼灯丸の双剣を繰り、自身を鼓舞するように演舞してみせる。
「どうしたよ、
「……そうだな。色んな意味で驚いているとも」
連獅子のように長く伸びたプラチナブロンドを払い、アメミトは溜め息を吐く。馬鹿にされた、と察知した一角は眉を顰めて、足を踏み鳴らして双剣を構えた。
「嗤ってられるのも今のうちだけだぜ。行くぞォ!!!」
一角が力強く宙を蹴り、アメミトに突撃した。
右の剣をアメミトに振り下ろす。アメミトは殆ど怯む様子も無く、左腕の生体装甲でそれを受け止めた。耐久性に難のある龍紋鬼灯丸の剣は、その衝撃でひび割れる。
これに、アメミトの方が驚いた。嘘だろ。流石に脆すぎる。胸の内で引いていると、入れ違うように一角が左の剣を横に薙ぎ払った。これもまたアメミトは右手で掴んで止める。指先に挟まれた刃に、弾丸を撃ち込まれたガラスのように穴が空いた。
いくら何でも、と困惑するアメミトを他所に、一角は背負った扇状の刃を盗み見てほくそ笑む。刃に彫り込まれた龍紋が、後脚の部分まで赤く染まって光っていた。
鬼灯丸が壊れていくにも関わらず、一角はアメミトを攻め立てる手を止めない。その全てをつまらなさそうに、或いは使われる斬魄刀の方を気の毒そうに思いながら、アメミトは両腕の
奇跡的に辛うじて砕けていないだけの、ひび割れた剣が突き出される。アメミトはそれを何も考えずに右手の甲で受け止めた。瞬間。
接触した地点から鬼灯丸の刀身に致命的なヒビが走った。それと同時に、アメミトの右手の甲に僅かながら骨にまで届く程の衝撃と、微かな痺れが走る。
アメミトは驚いた。きちんと文字通りの意味で。
手の甲を改めて小指から一本ずつ、右手の指を折り込む。ゆっくりと手を開き、アメミトは一角と自分の右手を交互に見た。
片方の砕けた双剣。息を切らし始めた一角。そして、龍紋が中程まで赤く染まった背中の刃。アメミトはほう、と嘆息した。
一角の霊圧が、俄かに強まっていたからだ。
「……その背中の無駄にデカい刃。彫物が妙な光り方をしているな」
「へっ。流石に気付くか」
一角は残された双剣の片割れを、左手の周囲を周るように一回転させる。
「龍紋が赤く染まる訳、知りてえか?」
「……勿論だとも」
「だったら……ダラダラ遊んでねえで、本気で掛かってこいよ」
一角が右手の人差し指で挑発した。アメミトは肩を竦めて、やれやれ、と鼻を鳴らす。
「私が本気出したら、アンタ冗談抜きで死ぬぞ?如何せん……何故か私は、アンタのそのハゲ頭が……気に食わんのでな!!」
アメミトの姿が消えた。
アメミトが一角の背後を取った。一角は振り返る勢いで左の剣を横薙ぎに振るう。アメミトの右の鉤爪と一角の剣がぶつかり合い、一角の剣が砕け散った。それと同時に、龍紋が龍の頭の目まで赤く染まる。
「さあ、どうする!?最早アンタが私に抗する術は、その背中の刃を残すのみだぞ!?」
燦光する
一撃、二撃、三撃。扇状の刃にひび割れが走る。アメミトの鉤爪による攻撃の余波が、一角の皮膚を裂く。龍紋の尾の近くの刃先に鋭角の切れ込みが生じるのと同時、遂に龍紋が全て赤く染め上がった。
「来た来た来たァ!!!」
興奮したように一角が吼える。その霊圧は、最初と比較しても見違える程強大になった。だが、アメミトはそれを全く脅威に思えなかった。これならまだ、左陣の方がよっぽど強い。
「……なんだ、こんなものか」
ちょっと期待して損した。そう呟いて、遠心力で勢いを増した一角の一撃にアメミトは左の鉤爪に集めた霊圧を合わせる。
「
左腕を振り上げた一閃。たったそれだけで、一角の龍紋鬼灯丸は完全に砕け散った。アメミトは、終わりだな、と告げて右手を構える。一角の心臓を狙っているのだ。
だが、誰がどう見ても絶体絶命の状況にも関わらず。
「……———
一角はほくそ笑んでいた。
「は?」
怪訝な顔をしてアメミトは眉を顰める。そして気付く。砕いた龍紋鬼灯丸の破片が、重力に逆らって周囲を漂っていることに。
「———これが龍紋鬼灯丸の真髄……臥龍、転生!!!」
霊圧が吹き荒れる。赤い龍が一角の周囲を取り巻いて、宙を漂う刃の破片達が一角の右手に握られた柄に集まっていく。
「……これは……!」
アメミトは目を見張った。一角の手に握られていたのは、巨大な分厚い刃のブロードアックス、或いは鉞。刀身に彫られた蟠を巻く龍の彫物は、真紅に染められている。
「こいつが、テメェを倒す為に鬼灯丸が考え抜いた形だ」
「……考え抜いた?」
「俺はずっと、こいつが寝坊助ののんびり屋だとばかり思ってた。が、どうやらこいつが本領を発揮すんのが遅えのは、それだけが理由じゃねえらしい」
一角は大きく息を吐く。
「龍紋鬼灯丸の龍紋が赤く染まるのは、衝撃を与えて枷を外すのが一つ。もう一つは……相手の力の解析の進み具合だ」
一角も、この卍解を会得したばかりの頃は知らなかった。龍紋鬼灯丸は、相手を叩き、叩かれる衝撃とそれに伴う霊圧から、その力を測って解析する。そして、龍紋が完全に染め上がった状態で一度破壊されることで、相手を倒すのに最も最適化した姿に再刃するのだと。
「それが龍紋鬼灯丸の能力。臥龍転生だ」
鬼灯丸の真価とは、無限の適応力である。
「……だとしたら、尚更それを出し渋ってチーノンに負けてるの。死ぬ程ダサくないか?」
「うるせえな。射場さんに説教されてから、ちっと考えたんだよ。俺の望みは、更木隊長の下で戦って死ぬことだ。けどよぉ……」
一角が巨大な鉞に造り直された龍紋鬼灯丸を、持て余したように振りかぶった。
「此処には、隊長がいねえ。あの人がいねえとこで負けるなんざ、そんなん死んでも死に切れねえってな」
そう言うと、一角は宙を蹴ってアメミトに突撃した。薙ぎ払うように振り抜かれた鉞を、アメミトは両手の鉤爪で受け止めて刃を上に滑らせる。
「死んでも死に切れない?アンタにそんなことを言う権利があるとでも思ったのか。霊圧は随分立派になったものだが、その程度では私に手傷を負わせるなど出来はしない」
アメミトは左の鉤爪で薙ぎ払い、一角はそれを後ろに跳んで間一髪胸を掠めるだけに留めた。アメミトは右掌に黒い霊光を構える。
「
本来は解放した
一角が背中からビルの壁に叩きつけられる。アメミトはそれを見て感嘆した。まだ息があることもさることながら、再刃する前はあれだけ脆かった龍紋鬼灯丸が、殆ど無傷で一角の右手に握られていたからだ。
「なかなかしぶといことで」
アメミトが揶揄った。一角は背中と痛みに呻きながら、霊子の足場を作って片膝をつく。肩で息をしながら、一角は渾身の一撃をアメミトに見舞う為にはどうすべきかを、普段そこまで使わない頭で考えた。
時間をかけるのは得策ではない。どうにも今の一角では、臥龍転生は自身の消耗が非常に激しい。ポウとの戦いで使わなかったのは、勿論一角の我儘が理由の大半を占めるが、少なからずこれを使えば勝っても負けても、戦線離脱を余儀なくされるであろうことが予測できたからだ。
(ただでさえあの女、得物の小回りが効いて手数が多い。そいつを掻い潜って叩っ斬るには……)
じっとアメミトを観察する一角。だが、当然ながらアメミトがそんな悠長なことを許すはずも無く。
「いつまで
間一髪、割り込ませた龍紋鬼灯丸の柄が鉤爪を受け止める。だが、肝心の一角自身が踏ん張りが効かず、そのままコンクリートの地面へと落下した。
落下の衝撃で細かな瓦礫と砂埃が舞う。アメミトは悠々と宙空から地面へと降り立ち、
「———貰ったァ!!!」
砂煙で姿を隠しながら、アメミトの背後に躍り出た一角が鉞を振りかぶって迫る。アメミトは素早く振り返り、左の鉤爪で鉞を弾き飛ばした。一角は弾き飛ばされた反動を利用して飛び上がり、鉞を頭上に振り上げる。
「ずえぇえええええりゃあぁああああああ!!!」
追撃に伸ばされたアメミトの右手を一角の左足が蹴って退ける。そのまま一角は、龍紋鬼灯丸を渾身の力を以って振り下ろした。
左手が間に合わない。だが、
表層が裂ける。これは許容範囲内。ちょっとやそっとで抜けるものではないとはいえ、正直な見解を言えばコレは、斬られることが仕事のようなものだ。
二層目が刃を受け止める。基本的に、大概の剣戟は此処で止まって、敵は絶望する。その強度故に、アメミトを斬る事は事実上不可能だと悟って。
だが、アメミトの想定は裏切られる。
ぷつり、二枚重ねの皮膚と、肉の繊維が裂ける感覚がした。一瞬理解が追いつかなかったものの、アメミトはその感覚が、自身の
「言っただろ。テメェを倒す為の形だって」
信じられない、と表情で雄弁に語るアメミトを見た一角が不敵に笑う。
「ぶつけ合った衝撃と、それに引っ付いてる霊圧からテメェの力を解析するっつったろ。霊圧からわかるのは、テメェのその爪の殺傷力だけじゃねえ。身体の硬さもだ」
アメミトは怪訝な顔をして、鉞の刃を挟む両手の力を強める。刃の側面が軋む音を立て、一角は冷や汗を隠しながら更に刃を押し込もうとした。
「こいつは、テメェの
それは則ち、"
事実、このまま鉞を振り抜けられれば、或いは一角は大金星を上げ得たことだろう。
「
アメミトの右掌で、
「……ははっ」
思わず乾いた笑いが溢れる。
「まさか……まさかまさかまさか!アンタみたいに軟弱な死神に私が斬られるとはな!なかなかどうして、面白いじゃないか!」
右手で額を抑えて、アメミトは感嘆した。一角は肩で息をしたまま、蹌踉めく足を叱責してアメミトを睨む。
「
ゆったりとした拍手を数回。アメミトは一角を見下して、両手の鉤爪を構えた。それと同時に、
一角は背筋が凍りつくような感覚を覚えた。あの灰は、何かが不味い。
「褒美をくれてやる。簡単に……死んでくれるなよ?」
黒い灰が鉤爪を覆う。アメミトが鋭く尖った犬歯を剥き出して嗤う。
「
宙を蹴る。四足獣のように低い姿勢で、アメミトが矢のように一角へ向かって駆けた。一角はどうにか立ち上がり、それを迎え撃とうとして———しかし、本能的な恐怖に背中を打たれ、右に跳び退こうとした。だが、その判断は瞬き一つ分、遅い。
肉を引き裂く音がした。鮮血が舞って、鉞の柄がへし折れる。宙を舞う血に黒い灰が混ざり込んだ瞬間、血がボロ炭のように砕けて、粒子になって解けた。
「一角!!!」
イヅルが張った結界の中で、治療を受けていた左陣が叫んだ。一角に治療担当として連れられた十三番隊の三席、虎徹清音がまだ完治していない、満足に動ける状態じゃないと左陣の死覇装の袖を引く。
「虎徹三席、ここを任せても?僕は斑目三席を」
「わかりました……!」
イヅルは清音に左陣を含む負傷者を任せ、一角の回収に向かう。瞬歩で落下する一角まで近付き、背中からその身体を抱き抱えた。
手近なビルの屋上に降り立ち、一角が受けた傷を盗み見たイヅルは息を飲み、小さな悲鳴を漏らす。
傷そのものは幸いにも浅く、主要な臓器には到達していない。ただ、傷口が異様な状態になっていた。
裂けた肉に黒い灰が纏わりついて、そこからじわじわと炭が砕けるように身体が崩れていっている。このまま放っておけば、一角の身体は黒い灰に蝕まれて崩壊してしまう。イヅルはそう直感した。
「
イヅルの頭上から、女の声がした。アメミトだ。
「死神も
黒い灰———
「呆けている場合ではないのではないかな?早くしないと……そのハゲ頭、霊子に還るぞ」
まあ、簡単にそれを許す訳もないのだが。そう言ってアメミトは右手を掲げ、
そこに、炎が駆け抜けた。
「!?」
イヅルは思わず顔を庇う。アメミトは構えていた
その炎の発生源は。
「……やはり、お主の相手は儂がせねばならなんだか」
流刃若火を抜き放ち、既に臨戦態勢に入った山本元柳斎である。
アメミトは顔を顰めた。次から次へと邪魔が入って、まるで気分よく戦えないからだ。
その時、アメミトの脳裏に過ぎる覚えの無い記憶。
誰かの大きな手が、自分に向かって伸ばされていた。体格が大きいこと以外は、影になって判別つかない。アメミトは思わず右手をこめかみに添える。
何だ、今のは。燦光する
「……気に食わない」
アメミトは元柳斎を睨んだ。理由はアメミト自身にも判らない。だが、
「アンタのことは何一つ知らないが、私はアンタが心の底から気に入らない」
ヘッドギアのように顔を覆う仮面が融ける。全身を鎧う
「どいつもこいつも、喰い殺してやる……!!」
厄災の嵐を統べる獣の皇が、姿を現した。
藍染が「アメミトはバラガンに勝てる」と評した理由
蝕灰獣の性質上掠っただけでも死ぬまでスリップダメージが入り続ける+バラガンの老いエリアをぶち抜けるだけの霊圧+老いの力はバラガン自身にも効くので迂闊に傷口に取り付いた蝕灰獣を老いさせられない(罷り間違って自爆する恐れがある)
上記のお陰で最低でも相討ちに持っていけるという
≪おまけ≫
アメミト・レシェフ:刀剣解放第二階層
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