犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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犠牲無き世界など在りはしない
だからこそ私は
摘み取った命の道のりの全てを
この身に背負い
血の海に灰を浮かべた地獄の底で
前だけを見て進むのだ


皇鮫后

 硬いもの同士がぶつかり合った鈍い音がして、氷の破片が飛び散る。白い外殻に鎧われた右足の爪先から水を噴射して、勢いをつけたハリベルの踵が振り下ろされ、冬獅郎がそれを氷の翼で防いだからだ。ハリベルは短く舌打ちすると、左足で氷の翼を蹴って後ろに飛び退く。そこに冬獅郎が大気中の水分を凍らせて、波濤のように追い立てた。

 ハリベルが大剣の鋒を斜め上に向ける。持ち手側から伸びる二つの突起から水を噴射して、その推進力を利用して素早く飛び氷の波濤を避けた。

 ハリベルは仕返しだと言わんばかりに大剣に水を纏わせ、両手で持ち手を掴んで振り下ろす。纏った水は勢いに乗って斬撃として冬獅郎目掛けて疾駆した。冬獅郎は斬魄刀、氷輪丸を振い、水の斬撃を凍りつせて砕く。

「……舐めるなよ」

 飛び散った氷の破片が雨のように降る中で、冬獅郎は剣の鋒をハリベルに向けた。

「氷雪系の斬魄刀を持つ俺にとって、全ての水は武器にしかならねえ。たとえその水が、てめえの武器であってもだ。実際に、こうしててめえが攻めあぐねてるのがその証拠」

 俺の力がお前に届かなくても、お前の力もまた俺には届かない。冬獅郎はそう語る。それに対してハリベルが返したのは、たった一言。

「生意気」

 大剣に霊圧を溜め、軽く振り上げる。水飛沫が飛び散るように大剣から離れた霊圧の弾を、虚弾(バラ)だ、と判断した冬獅郎は氷の壁を作って防御した。

「本気で届かないと思っているのか。だったら、届かせてやろうじゃないか。今すぐに」

 かかって来いよ。そう言ってハリベルは左手で手招く。

「……てめえがそうやって、他人を挑発して自分のペースに乗せるのはもう解ってんだ。今更そんな挑発に乗って、間合いを詰めると思ってるのか?」

 冬獅郎は斬魄刀を振った。その軌跡から氷の竜が現れて、蛇のように長い身体をくねらせて宙を駆ける。

「それが舐めてるって言ってんだ!!」

 氷の竜の顎がハリベルに迫る。ハリベルは呆れ果てるような溜め息を吐いて、大剣を指先を軸に一回転させた。どんな指の力してるんだ、と突っ込んでくれる部下は、残念ながら現在意識不明の重体である。

「……バーカ。舐めてるのはお前の方だろ」

 一回転した大剣を構え直すと、その鋒を氷の竜に向ける。

灼海流(イルビエンド)

 ハリベルの大剣の鋒と氷の竜がぶつかり合う、その直前。間合い一歩分を空けて竜が溶かされ、水に還った。冬獅郎はまさか、と目を疑う。

「私の水がお前の武器にしかならない?なら、逆にこうは考えなかったのか?お前の氷も私の武器にしかならない(・・・・・・・・・・・・・・・・)と」

 ハリベルは左手の人差し指を自分のこめかみに突きつけ、舌を出した。

「力があり過ぎるのも困りものだな。子供的万能感が、お前の最大の敵だ」

 大剣を頭上に掲げて、氷の竜を溶かした水を集める。ハリベルは親指を下に向けて、不敵に笑った。

断瀑(カスケーダ)

 無造作に大剣が振り下ろされる。その鋒の動きに合わせて、膨大な量の水が滝のように冬獅郎の頭上から襲いかかった。

 圧倒的な水量が冬獅郎を飲み込む。最後の一滴が落ち切った後、そこにあったのは氷の盾。

「"敵の武器が己の武器になり得るなら……逆もまた然り"……解ってんだよ、そんなこと。てめえに言われるまでもねえ」

 その盾を自ら斬り、切れ間から冬獅郎の姿が見えた。冬獅郎は大気中の水分と合わせて、氷の盾で受け止めた水を利用して氷の杭を作り出す。

「群鳥氷柱!!!」

 冬獅郎の斬魄刀の一振りと同時に、無数の氷の杭がハリベル目掛けて飛んでいく。ハリベルは特に焦ること無く、灼海流(イルビエンド)でそれらを溶かして無力化した。

 その背後から、冷気。

 うざったそうに顔だけ振り返ったハリベルを、瞬歩で背後に回った冬獅郎の氷が飲み込んだ。だが、それも束の間。白い外殻に鎧われた右脚が氷を蹴破り、ハリベルは中から大剣を口で咥えた状態で、両手を外に開いて氷を力尽くで押し退けた。やってることが無茶苦茶である。

「……偉そうに御高説垂れてくれた礼に、こっちも一つ説いてやるよ」

 少々野蛮な方法で氷から脱したハリベルに、内心若干引きながら冬獅郎は斬魄刀を向けた。

「"最良の戦術を行うときこそが最大の危機"。戦いの鉄則ってやつだ」

「……ウザいな」

 ハリベルは大剣を右手で持ち直し、左手で頬に張り付いた氷を剥がす。

 アレを仕掛けるか。ハリベルが意識を集中させようとした、その時。

 

 何かが二人に、否。戦域にいる全員に圧を掛けた。

 

「!?」

「な、何だ……これは!?」

「霊圧……って感じじゃねえぞ……!?」

「……こりゃまた……」

「…………」

 死神達は皆一様に動揺する。感じたことがなかったからだ。こんな、火山の火口の中で煮え滾るマグマのような霊圧など。

「チッ……相も変わらず忌々しい姿と霊圧よ。のう……廃食の」

「……そんだけやべえ相手ってことかぁ……あの爺さん」

 十刃(エスパーダ)の男二人は、それが誰が齎したものなのか知っているが故に、片や忌まわしそうにその者が嫌っている呼び名を呼び。片やその者がそれを出さねばならぬ程の脅威であると理解して辟易した。

 そして、その者にとって極めて重要な存在である、ハリベルは。

「あれ……アメミトもう第二階層(セグンダ・エターバ)してる?待って待って、早いって。やるならやるって告知し……あぁあああ!!?」

 その者、最愛であるアメミトの方へ身体を半分向けたハリベルは、しかし何故か素っ頓狂な絶叫を上げた。

「二人の仇横取られてるー!!私が()りたかったのに!!」

 部下であり友でもある二人、アパッチとスンスンを焼いた元柳斎がその相手であったからだ。朱と黒、二色の炎が激突して燃え盛るのを見て、ズルい、と地団駄を踏む。十刃(エスパーダ)であることに誇りも拘りもまるで無いが、それはそれとしてヒトの上に立つ者としての責任と義務を捨てる気は、ハリベルには一切無かったので。

 ムス、と子供っぽく頬を空気で膨らませたハリベルは、いーもんね、と拗ねたように呟いて動揺したままの冬獅郎に剣を向ける。

「こいつボコボコにしたら、無理矢理加勢してやる。来るなって言ってもぜーったい聞いてやらない」

 大剣に水が集まる。ハリベルの動きに気付いた冬獅郎は、何かは知らんがさせるか、と踏み込んだ。

「遅いんだよ」

 あっかんべー、と左目の下瞼を引っ張り、舌を出したハリベルの大剣から、周囲の景色を埋め尽くす程の霧が広がった。

幻想瀑布(ニェブラ・コルティーナ)

 霧に紛れて、ハリベルの姿が冬獅郎の視界から消え失せた。

 

 紅い獣が、白い隊長羽織を羽織った老人に躍り掛かる。三段に連なったような形状の、錆びた血の色をした鉤爪が黒い灰の混ざった炎を纏って振り下ろされる。

炎灰嵐鬼流(ヤマ・コロシーヴァ)!!!」

 鋭く尖った犬歯———否、最早牙と呼べるものを剥き出しにして、紅い獣、アメミトは咆哮した。老人、元柳斎は既に、アメミトの鉤爪を覆うその炎に混ざった、黒い灰の怖ろしさを知っている。故に、炎が届かないギリギリの距離まで跳んで退がった。

 元柳斎は流刃若火の炎を錐の形に固めると、剣の一振りでバリスタの弾のように撃ち出す。アメミトはそれを蝕灰獣(コロシオルガニスモス)の混ざった黒い炎、炎灰嵐鬼流(ヤマ・コロシーヴァ)で迎え撃つ。鉤爪から放出された黒い炎が流刃若火の朱い炎と激突し、マーブル模様を描くように交わった。

「……何故、お主が藍染惣右介に与しておる」

 元柳斎が問う。アメミトは怪訝な顔をして眉を顰め、灰の剣閃(バラ・デ・セニーザ)を放った。

「与した覚えは無い。手を貸しているだけだ。そういう取引だ」

「では、問い直そう。何故、お主ともあろうものが藍染に手を貸す」

 元柳斎は灰の剣閃(バラ・デ・セニーザ)を斬り払い、大股で踏み込んで炎を纏った斬魄刀をアメミトに振り下ろす。アメミトは左の鉤爪で刃を受け止め、炎の熱に顔を顰めながら右手に虚閃(セロ)を構えた。

「それは、(ぎょく)のように美しい(らん)だった」

 寝言のように、アメミトがぽそりと呟く。

「……(らん)?」

 突拍子無く出てきたその聞き慣れないワードに、元柳斎は内心で首を捻る。卵、という字をそれ単独で"らん"と読むことは、おそらくそう滅多に無いことだからだ。

「それを見つけた時、私は生まれて初めて目を奪われ……いいや。目どころか、耳も、鼻も、舌も、指先も、脳に至るまで……感覚器官の全てを奪われた。私は、それを孵してみたいと思った」

 何処となくうっそりと微笑んで、アメミトの意識は一時、おそらく目の前の元柳斎を離れ、"(らん)"の記憶に潜って行く。

(らん)から何が孵るのかを見届ける。孵った何かをこの手で育み、導き、望む場所へ至らせる。それこそが私の望み。私の悲願」

 錆びた血の色の鉤爪が、元柳斎の斬魄刀を押し返した。空いた胴体へ向けて、アメミトの右手の虚閃(セロ)が放たれる。元柳斎はそれを炎を纏った斬撃で二つに裂いた。二つに分かれて明後日の方向へ飛んでいった虚閃(セロ)が、それぞれ異なる場所に建っていたビルを破壊する。

「……だが、その(らん)も、何もしなければ孵る事がないということも理解していた。私が見つけた時にはまだ、精を受けていなかったからだ。だから、見様見真似で精を授けた」

 血錆びの鉤爪に蝕灰獣(コロシオルガニスモス)を纏わせ、アメミトは元柳斎の炎を強引に突っ切って肉薄した。元柳斎はX字に振り抜かれる二つの鉤爪を、縛道の七三、倒山晶を周囲に張って止める。

 アメミトは思わず舌打ちした。蝕灰獣(コロシオルガニスモス)はおおよそ凡ゆるものの霊子結合を崩壊させるが、例外がある。鬼道だ。霊子の結合とは別の力で構築されているのか、或いはアメミト自身に何かしらの枷があるのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、鬼道だけは、崩壊させる事が出来なかった。

「……その"(らん)"とやらは、どうなった?」

 元柳斎は倒山晶の中から静かに問う。

「……じきに解る」

 アメミトはニヒルに笑んで、返した。

 

 冬獅郎の背後から、ハリベルが大剣の鋒から噴射した水の推進力を利用して、白い外殻に鎧われた両脚でドロップキックを放つ。空気を突き破るような音と共に迫るハリベルに対して、冬獅郎は身体を半身で振り返り氷の盾を作って防御姿勢を取った。

 だが、ハリベルの両脚が氷の盾に接触する直前、その姿が掻き消える。と、同時に、水の弾丸———否、砲弾が冬獅郎の背中に直撃した。ハリベルの戦雫(ラ・ゴーダ)である。

「グ……ッ、クソッ。また幻影かよ……!」

 辛うじて落下を踏み止まり、冬獅郎は頬を伝う脂汗を拭った。周囲には霧が薄らと広がっており、視界が悪い。

 しかも、なお悪夢なのは冬獅郎の目に、ハリベルの姿が冬獅郎を囲むように無数に映っていることだった。

 

【挿絵表示】

 

「プロジェクションマッピングって知ってるか?私もスンスンから教えて貰ったんだが」

 アイツなんであんなに現世に詳しいんだろうな。冬獅郎を囲むハリベルの一人が、クスクス笑いながら訊ねる。

「基本的には、壁や霧なんかに映写機を使って映像を投影する技術らしい。なんか現世では四、五十年前くらいからあったらしいぞ。知ってる?」

「……知らねえな」

 冬獅郎は吐き捨てた。氷の礫を剣の一振りで飛ばし、ハリベルの一人を穿つ。穿たれたハリベルの姿は揺らいで、霞のように掻き消えた。

 霧に紛れて上から大剣を振りかぶって躍り出た別のハリベルの胴体を、斬魄刀を振り上げて斬り裂く。だが、やはりハリベルの姿は煙のように揺らいで消えた。

 冬獅郎は歯噛みする。一尺先も見えないほど視認性が悪いのはもちろんだが、厄介なのはこの霧によって霊圧感知能力までも鈍らされていることだ。本体が何処にいるのか、冬獅郎は把握できずにいる。

 周囲のハリベル達が一斉に大剣を構えた。霊光が刀身の側面に集うのを見た冬獅郎は、虚閃(セロ)だ、と身構える。

 瞬間、霊光が黒く変色した。

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 解放した十刃(エスパーダ)だけの虚閃(セロ)黒虚閃(セロ・オスキュラス)。当然ながら、第3十刃(トレス・エスパーダ)の席に坐すハリベルもまた、それを行使する権利を持っていた。

 どれだ。何処から撃ってくる。冬獅郎は本体を探そうとして———瞬時に諦め、氷の壁を周囲に展開して防御姿勢を取った。どうせ霧に邪魔されて見つからないのだ。探すだけ無駄だ。ならば、全方位を守ればいい。あまりにも脳筋な思考だが、今この瞬間においては冬獅郎目線で、これが最善策だった。

 黒虚閃(セロ・オスキュラス)が放たれる。衝撃は右側から。氷の壁がひび割れた瞬間に、冬獅郎は瞬歩で黒虚閃(セロ・オスキュラス)の射線から大きく離れた。

「……姑息な戦い方しやがって」

 アパートの屋上の鉄柵の上に、息を切らしながら着地した冬獅郎は舌打ちする。直撃する事はなかったものの、氷の翼の左側が殆ど抉れるように砕けていた。

「姑息とは心外だな。命の取り合いやってる自覚はあるのか?」

 ハリベルが霧の中から姿を半分見せた。やれやれ、と露わになった左肩を竦めると、再び姿を消す。かと思えば、今度は別の場所に立つ電柱の上にしゃがみ込んでいた。

「戦いに負けた者がその後で殺されずに済む保証など無い。というか、殆どの場合は殺されてそのまま死ぬ。だから、生き残るには勝つしか無い。ついでに私にはまだやらなきゃならない事もやりたい事もあるから、死ねない」

「やらなきゃならない事とやりたい事……?」

 冬獅郎が繰り返す。ハリベルは三度霧に紛れて、今度は空中に大剣を固定してその下にぶら下がった。

「やりたい事は勿論、アメミトと結婚する事」

「こんの色ボケがよ……!」

 冬獅郎は思わず斬魄刀で鉄柵を叩いた。戦場にいる自覚あるのかコイツ。あと同性だろお前ら。喉まで出かかったそれらの文句を、冬獅郎は辛うじて抑え込む。

「やらなきゃならない事は、虚圏(ウェコムンド)の平和の為に秩序を敷く事。その為にも、死んでる場合じゃ……無いんだよ!」

 ハリベルの大剣から霧が更に噴き出す。最早濃霧と化した周囲の景色に、冬獅郎は神経を尖らせつつ背後の氷の華を確かめた。

「成る程な……だから、俺と同じこと待ってんだな。一撃必殺の技の為に、この戦域に水気が満ちるのを」

 欠けた氷の翼を元の形に修復する。仕方がない、と冬獅郎は大きく息を吐いた。

「てめえと同じ事を狙ってても埒があかねえ。卍解の状態で試した事は無えが、やってみるか」

 冬獅郎は少し頼りなさげに自分の斬魄刀を見つめる。何の話してんだコイツ、とハリベルは霧に隠れたまま首を傾げた。

「本当はな、水を待つ必要なんか無えんだ。俺の氷輪丸は、氷雪系最強」

 冬獅郎が斬魄刀を両手で構えたその時、空が俄かに暗くなった。同時に、ハリベルを隠していた霧が、上に吸い上げられていく。

「全ての水は俺の武器———全ての天は、俺の支配下だ」

 暗雲が、模造品(レプリカ)の空座町の空を覆い尽くした。

「は……!?なん……はぁ!?」

 霧を奪われた上に、その水気も含めた全てが空の雲に取り込まれたことに、ハリベルは唖然とする。

「"天相従臨"。氷輪丸の基本能力の一つだが、同時に最も強力な能力でもある」

 冬獅郎とて理解していた。自分の力が未熟であることなど。だからこそ、卍解というある種全ての枷を取り払った状態で、天相従臨を使うことは躊躇われた。御し切る自信が、まだ無かったからだ。

「……だが、後ろの氷華も半分程散っていることだ。その心配も杞憂に終わるだろうよ……名を、訊いておくぜ。十刃(エスパーダ)

 問われたハリベルは左手で髪を軽く掻き乱す。やれやれ、と溜め息を吐いて冬獅郎と目線を交わした。

第3十刃(トレス・エスパーダ)、そして求道者。ティア・ハリベル」

「……十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ」

 名乗りは上げた。これが恐らく最後。そうであれと内心懇願しながら、冬獅郎は剣を掲げる。

「……いくぜ。氷天百華葬」

 冬獅郎の頭上に巨大な青白い穴が開く。その穴から白い何かが溢れ出すのが見えた。少しずつ自重で落ちてくるそれが、雪だと悟ったハリベルは、灼海流(イルビエンド)で溶かしてしまおうと大剣を向ける。だが、大剣に雪の一粒が触れた瞬間。

 氷の華が、咲いた。

 何だ、と思う間も無く、次々と雪が降りかかった場所から氷の華が咲き乱れる。

「その雪に触れたものは、瞬時に華の様に凍りつく」

 冬獅郎が答えた。その言葉通り、絶え間無く降りかかりハリベルに触れた雪は、瞬く間にその身体を飲み込んでいく。

「百輪の華が咲き終える頃には、てめえの命は消えている」

 ハリベルを飲み込んだ氷の華は、葬送塔の様に模造品(レプリカ)の空座町に聳え立った。

「……悪いな。部下の仇は討たせてやれねえ」

 冬獅郎は氷の華の塔に背を向ける。背後の氷華の花弁が残り一枚になったところで、卍解を解いた。

 

 一方、アメミトと元柳斎は今尚紙一重の攻防を繰り返していた。

 アメミトの喰灰獣(コロシオルガニスモス)を纏った鉤爪の攻撃に、元柳斎は縛道の結界を脊髄反射レベルの速度で差し込んで凌ぎ切る。そして反撃に放った炎は、アメミトの灰の剣閃(バラ・デ・セニーザ)が八つ裂きにした。

「……どうやら、漸く一人落ちたの」

 元柳斎が呟く。アメミトはそれに一瞬眉を顰めたが、聳え立つ氷の華の塔を一瞥すると鼻で笑った。

「……何がおかしいやら。お主が目をかけておる娘が討たれたというのに」

「おかしいとも。アンタを相手していなければ、腹を抱えて笑っていたところだ」

 燦光する翠玉(エメラルド)が歪に煌めく。

「あんなもので、私のティアが死ぬものか」

 今に見ていろ。アメミトは氷の華の塔を指差して、うっそりと微笑んだ。

 

 卍解を解いた冬獅郎は、手近な民家の屋根の上に降り立って斬魄刀を突き立てた。すると緊張の糸が解けたのか、膝を着き大きく咳き込んで、全身から良くない汗を垂れ流す。

 十刃(エスパーダ)はまだ残っている。元柳斎と戦っている破面(アランカル)も厄介だ。何より、護廷十三隊の本命は藍染惣右介である。

 少しでも休んで、体力を戻さなければ。冬獅郎は呼吸を整えようと深呼吸を始めた。その時。

 

 氷の華の塔が、小刻みに揺れ始めた。

 

「…….は?」

 冬獅郎は思わず振り返る。塔の揺れは徐々に大きくなっていき、轟音が鳴り始めた。

 そして、遂には内側から亀裂が走る。馬鹿な、と冬獅郎が目を疑う内に、亀裂はどんどん広がっていって、そして。

 

 氷の華の塔の中で凍死した筈のハリベルが、内側から塔を蹴り壊して飛び出した。

 

 あり得ない。冬獅郎は目の前の光景が信じられなかった。しかし、現実にハリベルは氷の華の塔を脱出し、不敵に笑んで冬獅郎を見下ろしている。

「よっ。今のが最大火力ということで、いいんだな?」

 居酒屋の暖簾を潜るような気安い声に、冬獅郎の脳に絶望の文字が過った。

「流石に、折角の霧が全部雲に吸われるとは思ってなかったな。だが……それでも私を殺し切るには足りなかったらしい」

 ハリベルは身体に着いた氷の破片を払う。そして、中腹を破られた氷の華の塔を、左手の親指で指した。

「何はともあれ……こう言った方が今のお前には痛いかもな。ありがとう、こんなにも大量の水を私の為に用意してくれて」

 氷の華の塔が瞬く間に溶ける。灼海流(イルビエンド)だと判断するだけの余裕は、冬獅郎には無かった。

 ハリベルは大剣を掲げる。

「何だっけ。"全ての天は俺の支配下"?ならば私はこう返そうか」

 戦域を満たす水が、ハリベルの周囲で渦巻いた。

「私の支配圏は、天地を遍く飲む海だ」

 ハリベルは大剣を冬獅郎に向ける。それに従って、周囲で渦を巻いていた水が冬獅郎へ向かって奔る。

皇鮫大海嘯(コリエント・デル・オセアノ)

 奔る水が冬獅郎を取り囲む。螺子のように螺旋を描いた水は、徐々にその範囲を狭めていった。すっかり消耗し切った上に、最大の一撃を真っ向から破られたショックで心身共に折れてしまっていた冬獅郎は動けない。

縛潮(レモリーノ)……!!」

 遂に冬獅郎の全身を覆い隠した水が、その小柄な身体を圧し潰した。




煽りカスで足癖悪くてボケに全振りしてるハリベルとかいう十刃。何が酷いってハジケリスト気味なのに強いし頭キレるし器用
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