犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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今回はポエムお休み
筆が乗ったので早めに完成しました
スーパーバカタレタイムをお楽しみください


三番目の厄災

 虚夜宮(ラスノーチェス)は、外観からも想定こそ可能ではあれ、内部はそれを大きく上回って広い。廊下ですら、複数の柱で天井を支えなければならないほどの道幅を備えていた。こんなものを作るために、一体どれだけの霊子と労働力を費やしたのかはあまり考えたくはない。

 藍染に先導され虚夜宮を進むハリベル達一行は、道中、退屈凌ぎに雑談に興じていた。話題は主に、藍染に挫かれたバラガン達がどういった状態でいるのか考えるのすら怖いとか、万が一の時にどうやって藍染を殺すかとか、それから———アメミトがバラガンに並ぶ古き(ホロウ)の一人であることを、なぜ黙っていたのか、とか。

「別に知らなくても何ら問題はないと思ってたんだ。事実、今まで知られなくともトラブルが起きた試しはないし、必要がないなら訊かれない限り自分から言わなくてもいいだろ」

 それがアメミトの言い分である。

「……私は教えて欲しかった。というか、お前よく考えたら自分のこと、考え方とか以外のこと……それこそ私と遭う前の昔の話とか全然喋らなかったな」

「必要なかったし……」

「どつき回すぞ」

「どうして……」

 アメミトはガックリと肩を落とした。ハリベルはそれを横目に見て、少し考えてから目線を前に戻す。

「……腰を落ち着けたら、話せ。理想以外の、お前のこと」

「何でちょっと機嫌悪いんだ。ははーん、お前もしかして私のことだいぶ好きか?なのに私が私のことを話してくれないから拗ねてるな?」

「そうだが?」

「お、おう……」

 間髪入れない、若干食い気味にさえ聞こえるような想定外に直球な返しを受けたアメミトは、驚きのあまり口籠もった。後ろでヒソヒソと、中級大虚(アジューカス)の三人が隠す気のない内緒話をしているのが聞こえてくる。

「アメミト様、意外とやり返されると弱いよな」

「あの胡散臭さの化身のような死神の話が本当なら、ハリベル様と出逢うまで随分長く独りだったようですし……」

「あー、好意に慣れてねえのか。納得した。そりゃストレートに好きって言われたらダメなわけだ」

 ねー、と三人は頷き合った。アメミトは複雑そうな顔をして、隣で笑いを堪えているハリベルの脇腹を肘で突っつく。

「ちょ、やめやめ。突くな」

「五月蝿い。笑ってんな馬鹿」

「好き放題言ってるのはあいつらだぞ」

「藍染もまあまあボロカス言われてるから僅かに愉快が勝ってる。百人中百人が胡散臭いと断言する男は違うな」

「ごめんホントこれ以上笑わせるな」

 女子校かな。先導する藍染は現世で見た女性だけの学舎に通う少女らを連想した。少女というには、見た目が少々年嵩ではあるが。

 そうこうしているうちに辿り着いたのは、大広間と思われる空間。そこには二人、藍染と同じ死神と思われる男が待ち構えていた。

「やあ。要、ギン。お待たせ」

 藍染が声をかける。バイザーを着けた褐色の皮膚の男が恭しく頭を下げ、狐と蛇が一緒くたになったような雰囲気の銀髪の男が、待ってへんよ、と訛りのある口調で返しながらひらりと手を振った。

「紹介しよう。彼らは私の腹心である東仙要と市丸ギン。要には虚園(ウェコムンド)統括官も勤めてもらっている」

 半身でアメミト達へ向いた藍染の紹介に、アメミトは冷ややかな視線を返す。死神が虚園を統率するのか、と言いたい気持ちを飲み込んで鼻を鳴らした。

「二人とも、以前バラガンが言っていた二人だ。アメミト・レシェフとティア・ハリベル。それから彼女達の同胞であるエミルー・アパッチ、フランチェスカ・ミラ・ローズ、シィアン・スンスンだ」

 身体を戻して藍染は死神の二人にアメミトらを紹介する。中級大虚の三人は、自分たちのことも把握されていたのか、眼中にないかと思っていた、と驚いた。

 アメミトが一歩前に出る。

「藍染、一応確認として訊いておくが、ティアの出した条件を忘れていないだろうな」

 鋭く細められた燦光する翠玉(エメラルド)に、剣呑な光がチラついた。勿論だとも、と返した藍染は中級大虚の三人を手招きする。恐る恐る中級大虚の三人は、最初に一歩踏み出したアパッチを皮切りにして前に出た。

「今から君たちを破面(アランカル)化する。強く願うといい。自分を縛り付ける仮面を破り捨て、魂の境界を越え、一つ上の次元へ至ることを」

 藍染が崩玉を掲げる。その輝きを改めて直視したミラ・ローズが生唾を飲み込んだ。

「大丈夫」

 トン、とミラ・ローズの背中を誰かが叩く。驚いて横を向くと、何故か後ろで見守っていたはずのアメミトがそこにいた。

「今まで積み重ねてきた自分自身を信じろ。私とティアがお前達を信頼してきた事実を信じろ。己の(欠落)を超えた魂の叫びを信じろ」

 翠玉が穏やかに瞬く。緊張と不安で強張っていた身体が、その言葉で溶き解された。その様子に安心したアメミトは一歩足を引いて、そっとミラ・ローズから離れる。

 崩玉が光を放った。三人は思わず目を閉じて、同時に強く渇望する。

 力を。敬愛する二人の役に立つ為の。理想を実現する為の。ずっと五人でこの先も、この虚園で生きていく為の力を。

 

 仮面の割れる音を、聞いた。

 

 ガラガラと、砕けた外殻が床に散らばる。その中心に、人の女の形をした者が三人座り込んでいた。一本角の仮面の欠片を頭部に残した少女のような姿をした者が、俯いていた顔を上げる。持ち上がった瞼の奥から覗く青とオレンジイエローのヘテロクロミアを瞬かせ、自分の姿を確かめると息を呑んだ。

「……人の、手だ」

 少女は自分の手を握って開いてを繰り返して、感嘆の息を吐く。その側で、褐色の肌をした健体の女の姿をした者が自分の顔に触れて形を確かめていた。

「本当に、破面になってる……」

 反対側では、長い髪をした細身の少女の姿をした者が脚をなぞって目を見開く。

「あ、あぁ……っ!脚が、ある……!人の脚が!!」

 後ろで見守っていたアメミトとハリベルは、互いに目を見合わせて頷き合った。成功してよかったな。ああ、よかった。と安堵し合って、アメミトはすぐにハッとする。そして、素早くピーコックグリーンのロングジャケットを脱いで———。

「見るな男ども!!」

 藍染目掛けて投網のようにぶん投げた。ふぐっ、と顔面にジャケットが直撃した藍染が呻き声を漏らす。

「藍染様!」

「あーれま。まあ常識的な対応やけども」

 東仙と市丸の対照的な反応に、一連の流れを見ていたハリベルはおや、と瞬きをした。それからすぐに頭を切り替えて、三人の服をどうしようかと考えることにする。

 藍染は一先ず三人に背中を向けて、東仙に今し方破面化した三人と、アメミトとハリベルの分の死覇装を手配するよう指示を出した。それに合わせて、市丸がどこからか持ってきた人一人覆えるサイズの布を三枚、三人には目を向けないようにしながらアメミトに手渡してくる。

「すまないな。それはそれとして見たら殺す」

「見いへんよ。あんまり興味あらへんしな」

「アンタそれでも男か?」

「男やけど!?」

「アメミトそれさっさと寄越してくれ。アパッチ達が寒そうだ」

 ハリベルに急かされて、アメミトは布をさっさと投げ渡した。おい投げるな、と文句を言いつつハリベルは受け取った布をアパッチ達に配る。急場凌ぎ的に布を纏った三人は、プルプルと膝を笑わせながらゆっくり慣れない二足歩行で立ち上がった。

「こ……っれ、歩き辛……っ!」

「バランス取れねえ……っ」

「あのすみませんこれどうやったら進みますの?」

 立ち上がるだけで四苦八苦する三人を見て、二人は思わず苦笑する。

「大変そうだなあ」

「私の時は元々二足歩行してたからな……アメミトの時はどうだったんだ?」

「私も最上級大虚(ヴァストローデ)の時点で二本足だったし……中級大虚の頃———は覚えてないな」

「お前本当に古くから生きてるんだな」

「別に自慢にもならないがな」

 そんな会話をしているうちに、準備が整ったらしく東仙が戻ってきた。移動するようで、なんとか歩けそうなミラ・ローズには頑張ってもらうことにしてアパッチの手をハリベルが、歩くどころか立つのも精一杯なスンスンの手をアメミトが引く。三人の斬魄刀は、アメミトが回収済みだ。

「大丈夫か、シィアン。ゆっくりでいいぞ」

「も、申し訳ありませんわ……」

 ぎこちなく脚を動かすスンスンを、アメミトは歩調を合わせつつ励ます。幸いスンスンは要領がいいので、少しして僅かにコツを掴んだのか支えこそ必要ではあるもののとりあえず歩けるようにはなっていた。

 たっぷり時間をかけて東仙に案内されたのは、壁一面の棚にに死覇装の生地が収められた、おそらく服飾室。中ではイマイチパッとしない印象の破面達が、縫製道具を用意して待っていた。ここでそれぞれの死覇装を仕立てるのか、とアメミトは納得を得た。

「全員に合わせて仕立てる故、採寸をしてから各々要望が有れば担当の破面達へ言ってくれ」

 東仙はそれだけ言って部屋を出る。女性しかいないので然もありなん。

「好きなようにしていいのか」

 東仙を見送ってからアメミトは担当の破面に訊ねた。破面は勿論です、と答えるとベースとなるデザインのパターンをいくつか提示してみせる。

「私、上は裾長いのがいいな」

「下は袴とパンツとスカートか」

「ワンピースタイプもありますのね」

「袖無い方が動きやすそう」

「布の帯とベルトどっちがいいかな……」

 あれがいい、これよくないか、と言い合いながら、死覇装のデザインの要望を粗方まとめ上げ担当の破面に提示した。それから待つこと数時間。用意された簡易更衣室で完成した死覇装にそれぞれ袖を通した。

 ジャッ、と更衣室のカーテンが一斉に開く。

「おー、皆いいじゃないか」

 見渡して、アメミトが真っ先に感嘆した。そんなアメミトは元々着ていたのと同じく裾の長いジャケットにトレンチコートのような前合わせをした白い死覇装を着ている。下は裾にスリットの入ったパンツスタイル。腰にはベルトを締め、バックルから端が遊帯に通されないまま垂れ下がっていた。二刀一対の斬魄刀は、ベルトに取り付けられた金具から紐で佩かれている。

「おい、ベルトちゃんと締めたらどうなんだ」

 ハリベルが眉を顰めて苦言を呈した。そんな彼女の死覇装は胸の上半分を覆うまでの丈しかなく、黒い布の帯で留めた袴も腰の左右が大きく開いている。斬魄刀は背中に、横向きで背負っていた。襟を立てて完全に閉ざし、顔の下半分を覆う仮面を隠している。

「オシャレだよ察しろ。カッコいいだろ」

「私はそんなだらしない巻き方よりキチンと真っ直ぐ締めてる方が好きだ」

「私はこっちの方がいいの!」

「隙あらばイチャつくのやめてくれませんか?」

「「イチャついてない!!」」

「仲良しだなあ」

 二の腕程の長さの半袖のジャケットと袴を着たアパッチが呆れていた。殆ど肌着のようなシャツとスカートを選んだミラ・ローズは、僅かに羨望を滲ませつつ苦笑して肩をすくめている。指先まで隠れるほどの長さの袖をしたワンピースとアオザイの折衷のような死覇装を着たスンスンは、簡易更衣室の骨組みに掴まって身体を支えていた。まだ自力だけで立ち上がるのは難しいらしい。

「はぁ……とりあえず全員着替え終わったし、さっきの広間に戻るか。藍染達も待ってるだろう」

 ベルトを正そうとするハリベルとの攻防を間一髪制したアメミトが切り出して、一行は来た道を戻って広間へ向かう。先ほどよりも歩くことに慣れたアパッチ達も、まだ覚束なさの残る足取りではあるもののなんとか自力で二人について行った。

 広間へ戻ると、やはり藍染らが一行を待っていた。藍染はそれぞれの死覇装に目を向けて頷くと、アメミトとハリベルに歩み寄る。

「とてもよく似合っているね。さて、早速だが一つ話がある」

「くだらない話だったら喰うぞ」

「コラ、アメミト」

 ベシッ、とアメミトの頭にハリベルの手刀が落とされた。それを藍染の後ろから見ていた市丸が、ぐふっ、と鼻から抜けるように堪え切れなかった笑い声を漏らす。

「丁度今、諸事情あって第3十刃(トレス・エスパーダ)の席が空いていてね。君たち二人のうちどちらかに就いてもらいたいと思っているんだ」

 それら全て気にしていない様子の藍染の告げた内容に、成る程、それで私たちを引き込みたがっていたのかとハリベルは納得を得た。十刃(エスパーダ)とは、藍染が殺戮能力と司る死の形を基準に定めた破面の上位十名に付けられた序列、その称号である。その三番目が、訳あって欠けているらしい。

「ふむ、そういうことなら……」

「ああ、それなら……」

 ハリベルとアメミトが殆ど同時に口を開く。そして、顔は正面を向いたまま人差し指を互いに向けて。

「アメミトが適任だな」

「ティアがその席に座るべきだろう」

「「……ん?」」

 互いを推薦する声が、ものの見事に被った。仲良しか、とアパッチが茶々を入れる。

「おい待て。どう考えてもアメミトが成るべきだろ。お前私より遥かに強いし」

「十刃とやらが厳密に何かはイマイチわからんが、口振としては人の上に立つ立場なのだろう?だったら強いだけの私よりも人をまとめる才のあるティアが適任だ」

「お前私の何を見てそう判断したんだ」

「性格」

「返答に困る。そもそも私はお前の理想に共感して協力する立場だぞ。今の私を作っているのはお前の言葉だ。その私がお前より上にいってどうする」

「ごめん思ってたより重い暴露持ち出されてびっくりしてるんだけど。もしかしてティア、私のこと好きすぎか?」

「そうだが?」

「お、おう……」

 アメミトが思わずたじろいだ。二人の会話を聞いていたアパッチ達は、スン、と感情の抜け落ちた表情で肩をすくめる。

「同じ流れでイチャついてるのさっきも見たな」

「そうだな」

「アレで別に付き合ってませんはなんか、納得いきませんわ」

 皆仲良しさんやねえ、と言いかけた市丸は、空気を読んで舌の上まで乗りかかっていた言葉を飲み込んだ。互いに第3十刃の席を押し付け合うアメミトとハリベルに、そんなに十刃になりたくないのだろうかという疑惑すら湧く。扱いが最早罰ゲームのそれ。

「もー、いっそじゃんけんで決めちゃえばいいんじゃないですか?埒があきませんよ」

 呆れ果てた様子のアパッチの鶴の一声で、二人はそれだ、と同時に呟いた。それでいいのか、とツッコみたい気持ちを抑えてアパッチは代わりに溜め息を吐く。

 二人は互いに一歩下がって距離を空けた。ハリベルは腕を引っ張って伸ばし、アメミトは手首と足首を解すように手足をプラプラと振った。じゃんけんにあんまり関係なさそうな準備運動って三界共通なんだな、と藍染はどうでもいい気付きを得る。

 二人揃って大きく深呼吸をした。たかだかじゃんけんになんでそこまで気迫が篭っているんだ、と口を挟む者はいない。ツッコむのが面倒臭いともいう。翠玉と碧玉が無駄に力を宿して瞬いた。素早く両手で握り拳を作って鼻っ柱の前に繋げるように構え、

「「最初は最下級大虚(ギリアン)!!」」

「それ最下級大虚のポーズなん?」

 市丸は耐え切れなかった。

 

 

 細長いテーブルを囲うように、計十席と一席の椅子が並ぶ大部屋。そこに、白で統一された死覇装に身を包んだ九人の成体の破面が集まり、それぞれの席に着いていた。

 カツン、と靴底が床を鳴らす音がする。破面達が一斉に音の方へ向けば、そこには藍染、東仙、そして市丸の三人が部屋に入ってきていた。藍染は当然のように上座の席に腰を下ろし、十刃達を一瞥する。

「よく集まってくれたね、十刃諸君。空席だった第3(トレス)の席が、漸く埋まったよ」

 空気がひりついた。藍染はそれを気にも留めず、入りたまえ、と部屋の外で待つ者に呼びかける。

 藍染に呼ばれて入ってきたのは、それぞれ明度の異なる金髪をした二人の女破面。ハリベルとアメミトである。

 二人の姿を認めた、異様に襟の大きな死覇装を着た眼帯の破面が露骨に顔を顰めた。アメミトがそれに気付いて燦光する翠玉で睨みつけると、ハリベルが肘で小突いて諌める。

「じゃんけんで負けて第3十刃に就くことになった、ティア・ハリベルだ。こっちは従属官(フラシオン)代表のアメミト」

第3従属官(トレス・フラシオン)を代表して、アメミト・レシェフという。特例で今後、十刃会議では私もティアに同席するから、ヨロ」

 ひらり、とアメミトが右手を緩く振った。空色の髪を掻き上げたガラの悪そうな破面が、じゃんけん?と困惑したように呟く。

「空いた席に座るといい。アメミトはすまないが立ったままでいいかな?希望があれば、後日椅子を新たに用意するが」

「ああ、別に構わない。椅子も用意しなくていいぞ。流石に従属官が十刃と同じように座ってるのは体裁としてアレだしな」

「そうかい。ではそういうことにしておこう」

 言い終えて、もう終わったかとハリベルが確認を取る。大丈夫、とアメミトが応えると空いている席、眼帯の破面と筒のように長細い頭の破面の間に着席した。

「それでは、今後について話し合おう」

 先ずは紅茶でも淹れようか。

 藍染の一言で、東仙がアメミトも含めた人数分の紅茶のカップを用意した。

 

 恙無く会議が終了し、藍染らが部屋を出る。十刃も、数人が最早用はないと言うように足早に席を立った。そんな中で、藍染から後で他三人の従属官も一緒に部屋まで来るようにと言われていたハリベルとアメミトは、席を立って外で待っているであろうアパッチ達の下へ向かおうとする。その時。

「おい、クソメス共」

 三日月を背中合わせに繋げたような刀身の巨大な斬魄刀が、二人の行手を阻んだ。

「……何か用か。なるべく手短にしてくれ」

 横目でハリベルが一瞥した先、眼帯の破面が斬魄刀の主である。ハリベルの半歩後ろで、アメミトは斬魄刀の柄に逆手で手をかけた。

「いいか、テメェらはたまたま第3の席が空いていたからそこに納められたに過ぎねえ。メスがオスより上になるなんざ、俺は認めねえ」

「え、僻み?」

 眼帯の破面の難癖に、ハリベルはキョトンとした顔をして素で煽りを返す。ブフッ、と斬魄刀に手をかけていたアメミトは笑いを堪え切れずに噴き出した。

「ん……っ、くふふっ。これは傑作だな。自分の力量不足を棚に上げて性差を理由にディスっておいて、ものの見事にやり返されるとは……くっふふふっ」

 嘲笑うアメミト。本気で首を傾げるハリベル。そんな二人の態度に神経を逆撫でられた眼帯の破面は、自身の頭蓋の周りに張り巡らされた血管が千切れる音を聞いた。

「ブチ殺す!!!!」

 眼帯の破面が斬魄刀を横薙ぎに振り抜く。二人は同時に後ろへ跳んで、間一髪回避に成功した。危ないな、とハリベルは余裕そうに呟いて部屋の調度品を気にかける。それが余計に眼帯の破面の逆鱗に触れた。

「舐めやがって、クソメスがぁ!!」

 眼帯の破面が口を開く。伸ばした舌先に虚閃(セロ)の光が収束した。その舌にある十刃に刻まれる一桁の数字は、5。

「なんだ、第5(クイント)か」

 そう言ってアメミトは二刀を逆手で抜く。くるりと手の中で柄を百八十度回転させ順手に持ち直すと、腰を落として構えた。

「死ねや!!」

 眼帯の破面の虚閃が放たれる。アメミトは素早くハリベルの前に出て、虚閃に向かって二刀を上から振り下ろした。

 虚閃と二刀がぶつかり合う。アメミトは涼しい顔をしてほくそ笑み、斬魄刀に霊圧をまとわせて虚閃を斬り裂いた。

「軽いな。所詮その程度か」

「めっちゃ煽るじゃん」

「いやティアが言うかそれ」

「え?」

 トン、と右手の斬魄刀の峰を肩に乗せ、アメミトは嘲った。眼帯の破面は怒りに震え歯を砕けん勢いで食い縛る。

「たかが従属官が……メスが調子に乗るなァ!!!!」

 眼帯の破面が響転(ソニード)で距離を詰めた。アメミトは再び二刀を構え、ハリベルも背中の斬魄刀を抜く。仲良く同時に霊圧を斬魄刀に圧縮して、眼帯の破面へ向けて放った。

波蒼砲(オーラ・アズール)

灰の剣閃(バラ・デ・セニーザ)

 最上級大虚級二人の、割と本気の一撃が眼帯の破面に直撃する。その衝撃で吹き飛ばされた眼帯の破面は壁を突き破り、虚夜宮の外に放り出された。

「あ、やっべ。壁壊しちゃった」

「後でついでに藍染に謝っておこう。とりあえず今は後々変にウザ絡みされないように叩き潰しておかないと……」

「それもそうだな。……遅くなる言い訳、考えておかないと」

 話し合いは二十秒足らずで終わらせて、二人は壁に空いた穴から虚夜宮の外に出る。

 思ったより遠くまで飛んだようで、少し響転で走った先に眼帯の破面はいた。怒髪天を突く勢いで猛り狂った眼帯の破面は、斬魄刀をめちゃくちゃに振り回す。

「めっちゃ怒っててワロタ」

「我慢しろ」

「どっちが相手する?」

「従属官に負けたら面白い顔してくれそうだからアメミト、行け」

「ティアいつの間に愉悦部になったの?」

 しょうがないなあ、とスキップをするようにアメミトが前に出た。会話が聞こえていたようで、眼帯の破面はますます怒りを燃やしているらしい。

「俺が……このノイトラ・ジルガが!!十刃最強だ!!舐め腐るなよクソメス共がァ!!!!」

 眼帯の破面———ノイトラ・ジルガが咆哮する。アメミトは特に怯むこともなく、鼻で笑って二刀の刀身を重ねて構えた。

「第3従属官アメミト・レシェフ。一応殺すつもりこそないが折角だ。アンタに真の暴力を見せてやろう」

 ゴッ、とノイトラとアメミトの霊圧が高まる。平然と観戦の構えを取るハリベル以外、周囲の虚達は恐れを成して逃げ出した。

 ノイトラが、アメミトが、自身の力を起こす言霊と、名を告げる。

「祈れ、聖哭蟷蜋(サンタテレサ)!!」

「風化しろ、灰嵐犴皇(セニーザ・チャカール)

 二人の破面の斬魄刀が、解き放たれた。




次回、ジャッカル大暴れ
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